舞台裏の出演者達   作:とうゆき

22 / 43
戦勝祭の道化師

その外見、変幻自在

その言動、縦横無尽

その信念、未来不変

配点(変態)

 

 

 

 ノブゴロドにおける柴田勢との一戦を終えた春日山宮殿の一室では有志による戦勝会が開かれていた。

 各々が持ち込んだ食べ物や酒を味わい、戦功を自慢し合う。互いに生き延びた事を喜び、次の戦いへの英気を養うのだ。

 そんな戦勝会も半ばを過ぎた頃、一種のレクリエーションが始められた。

 愛の紋章が付いたヘルメットを被った青年が壇上に登り、

 

「今日はぼぉくに会いに来てくれてありがとうだにゃん♪ 愛を込めて精一杯演技するにゃん♪」

 

 言って、両手を合わせてハートマークを作る。

 

「菜園で栽培したウコギをあげるにゃん♪」

 

 異様な光景だったが、会場の熱気と酒気で気分が高揚していた学生達は口々に歓声をあげる。

 

「はい、お題は『語尾がにゃん♪な』『直江・兼続』でした~」

 

    ●

 

 荒川・長実は道化師(スコモローフ)の字名を戴く春日山宮殿の生徒である。

 祖先にスプリガンのような変身能力を備えた異族がおり、長実は不完全ながらその力を受け継いだ変態野郎(シェイプシフター)である。

 その為、変身能力を生かして上杉・景勝の影武者を務める筈だったのだが、景勝本人がそんな危険な事はさせられないと言うので仕方なく宮廷道化師をやっている。

 

 重責を背負う王を笑わせ、心を少しでも軽くする。また無知無能を装って愚痴を聞き、ある時は進言する。それが道化師の役目だ。

 直接命を守る影武者とは違うが、道化師も重要な仕事だと長実は誇りを持っている。

 

 それは別として今回のようなイベントで物真似を披露する事も多い。

 景勝に四六時中くっつくのは逆効果だし、折角の能力なので有効活用したいという思いもある。

 

    ●

 

 マイクを握る司会の前には二つの箱が置かれており、司会はそれぞれの箱に手を突っ込み、無造作に引き抜く。

 

「えー、次のお題は『腐ってる』『テュレンヌ』」

「どういう人物かあまり知らないんだけど、動画とかあるかにゃん♪」

「通神帯に幾つかアップされてた」

「声ならこういうのもあるぞ」

「Loup de debutの初回盤じゃないか。よくこんなの持ってたな」

「リヴォニア関係で欧州に行った時にちょろっとな。しかもサイン入りだぜ?」

「……胸部装甲が凄いな」

 

 皆で表示枠を出し合いつつ一時的に鑑賞会。

 

「なるほど! じゃあ頑張ってみるにゃん♪」

 

 長実の全身から白い煙が噴き出し、彼の姿を完全に覆い隠す。

 皆が期待に目を輝かせる中、突き出されたしなやかな腕が煙を振り払う。

 現れたのは六護式仏蘭西の制服を着た長身の女性。

 優雅に一礼すれば双丘が激しく揺れ、主に男性陣がどよめく。

 

「やはりエクシヴとのカップリングで王道はコルベールですわね。しかし俺様気質なリュリに責められたりダガンに器具を突っ込まれて大事なものを奪われるエクシヴ、更に「素顔を見せるのはお前だけ」という鉄仮面との関係も捨てきれませんわ」

 

 両頬に手を当ててくねくねするテュレンヌに周囲はおお! と感嘆の声を漏らす。男は耳を塞ぎつつ目を凝らし、女はメモ帳を用意しているという違いはあるが。

 

「政治関係ではリオンヌやポンポンヌも捨てがたいわね」

「襲名者が現れるまでテュレンヌ大元帥も結構人気だったけど、今後どうなるのかしらねー」

「テュレンヌ、大コンデやモンテクッコリとの絡みが基本かしら」

「マウリッツとの禁忌な関係もイケるわよ」

「そこでアンヌ×人狼女王に発想が飛ばないからからあなた達は駄目なのよ!」

 

 やいのやいの。

 

「おい、女衆が急に元気になったぞ」

「バーバ・ヤーガどもが」

「や、やめてやれよ! 泣いてる清野・長範だっているんだぞ!」

 

    ●

 

「では次ー『やたら饒舌で変質的な』『ウオルター・ローリー』」

 

 この時期の露西亜と英国は交流があり、長実もどういう人物か知っているが、

 

「……喋っているところを見た事がないのですけど。あと、カップリング的にはスペンサーは外せないですわね」

「ノリだ。そこはノリで行け」

「何となくハットン大法官と似てそう。何となくだけど」

 

 難題ではあるが、道化師の誇りにかけてやり遂げなくてはならない。

 まずテンションを上げる為にワインを一気飲み。煙を放ちながら意識を集中。

 彼の衣装は重力刀など地味に小物が多く、似せようと思うなら脳内でしっかり思い描く必要がある。

 

「金髪巨乳と一口に言っても奥が深い。髪の長さに拘る者もいれば胸の形や張りに拘る者もいる。自分の好みとしては巨乳のカテゴリーに入りながらも近親者に劣っているのが好みだ」

 

 渾身の演技に笑う者半分、居た堪れない目の者半分。

 微妙な結果になってしまったが、お題からして色物だったのだと長実は自分を納得させる。

 

「次行こう、次!」

 

    ●

 

『ツンデレな』『巴御前』

 

 そこにいるのは頭から二本の角を生やした女武者だ。

 極東の鎧を着、右手で持った薙刀を肩にかける。更に空いた左手には生首を保持していた。

 

「勘違いするな、首級を挙げたくなっただけだ。別に恩返しとかそういうのでないからな」

 

 言って、ぷいっとそっぽを向く。

 

「この前エロゲやったわ。「夜でも将軍源義仲」ってやつ。病弱枠の山吹御前が可愛い」

「フラグ管理が面倒だけど頼朝達と和解して生存ルートもあるんだよな「俺達の源平合戦はこれからだ!」的な」

「ちなみに長実、バストは何センチくらいを想定してる?」

「教えてやらないんだからな!」

 

    ●

 

『覗きをする』『インノケンティウス』

 

 豪奢な衣装を纏い、その場で周囲をきょろきょろと伺いつつ、忍び足の動作をする。

 顔には、教皇総長本人なら決して浮かべないような下品な笑みが。

 そして両手の手首を立てて顔を僅かに傾ける。それは壁に顔を押し当てる仕草であり、

 

「いい眺めだなぁ、おい」

 

 更に撮影用の表示枠も出す。

 

「まったく、けしからん」

 

 演技の一環として頬を上気させて鼻息も荒げてみる。

 

「うわぁ……」

「行方不明でよかったなぁ」

「これが独奏旧派と露西亜協奏派の宗教戦争の発端になるとは今の俺達には知る由もないのだった」

 

    ●

 

『TSした』『葵・トーリ』

 

「模倣じゃなくて創造のレベルだな、おい」

 

 長実は腕を組んで頭を捻る。

 武蔵の総長兼生徒会長は有名人だし、先の三国会議で直に見た記憶もあるのでただ真似するだけなら問題ないが、TSとなると……

 ……そういえば。

 長実が演技研究の為に交流を持っている「山と猛る」から聞いた話では女装すると姉と似ているらしい。

 ならばと外見や衣装は彼女を基本にして髪型はショートカット、鎖などの小道具を残しつつ変態。

 どことなく担任の先生と似てしまった。胸以外。

 

「おまちどう! 生子って呼んでね」

「おおー!」

 

 沸き立つ面々。あまり経験のない試みだったが上手くいったようでなによりだ。

 

「脱ーげ、脱ーげ!」

「いきなりね、お前等! でもR元服展開は勘弁ね。だけどちょっとサービスしてあげる!」

 

 壇上から降り、適当に近くにいた男に近付いて二つのショックアブソーバーを頭に乗せる。

 

「はい、ミッキョーマウス」

「ああ、温かくて柔らかい……でも何だろう、涙が止まらない……」

「義経よりはマシなんじゃね?」

「性転換物のモデルは荒川に頼めば良かったのね!」

 

    ●

 

『盗んだ機馬で走り出す』『鮭延・秀綱』

 

「おいおいおい! お前等私に容赦ないなー! 見せてやるよ、芸人の意地!」

 

 最上・義光の走狗である鮭延は記憶にあるし、機馬は川中島で嫌というほど見ている。

 

「ヒャッハー! 聖譜に縛られた人生なんてごめんですモン! 鮭延は自由に生きますモン!」

 

 流体光を纏った転輪とライトが会場内を照らし、重低音が過激な音楽となって響く。

 全部演出である。光や音を操るのは悪戯好きな妖精の基本技能なのだ。金属の質感が上手く再現出来なかった機馬を誤魔化す意味もある。

 

 燃料タンクに乗せた尾びれを支点にし、胸びれをハンドルに宛がう。

 更にどこかの五大頂のようなサングラスをオプションで装備。

 

 シートではなく燃料タンクに乗っているのは些細な拘りだ。

 普段二十センチ程の鮭延ではシートに届かないのだ。

 自分の変態は盛る事は出来ても削る事は出来ないので機馬を鮭延サイズにするのは不可能。走狗の鮭延はサイズを大きくする事も出来るが、それは妥協のように感じられた。

 

「ついでに次ぎのお題をよこすモン!」

「あ、はい」

 

 司会が取り出した紙を一瞥し、

 

「ヒャッハー! 自由への疾走だモン!」

 

 エンジンを吹かし、開け放たれていた扉から会場外に飛び出す。

 

「シュールだなぁ」

「見せてもらったぜ、お前の拘りを」

「で、次のお題は何だったんだ?」

 

    ●

 

『淫乱な』『マルファ・ボレツカヤ』

 

「元副長か」

「有明が賑やかになるなぁ」

「誰だよこれ書いたの。今回はナイスだったけど、もし野郎だったら大量破壊兵器になってたぞ」

「大罪武装ってやつか」

 

 と、鮭延が出ていった扉から人影が現れる。

 虎皮のマフラーを巻いた魔神族の女だ。女はドンチャン騒ぎをしていた一団を睥睨し、

 

「――お前達、何をやっている?」

 

 呆れ混じりの声だったが、テンションにアッパーが入っている面々は気にしない。

 

「おお、流石長実。そっくりだ」

「冷たい視線が堪らないな」

「オパーイも再現率高いな」

 

 言いつつ一人が胸を揉みしだく。

 

「――っ!」

「あ、ずるいぞ」

「私も私も」

 

 ボルテージ最高潮に達していた彼等は女に殺到する。

 

    ●

 

「……」

 

 長実は制服をはだけさせ骨馬に騎乗して会場に戻る。

 機馬でかっ飛ばすのが意外に楽しかった上に骨馬のディテールに拘って遅くなってしまった。

 

「……」

 

 しかし会場に帰還すると同時に言葉を失う。

 会場は局地的な嵐に見舞われたかのような惨状だった。

 戦勝祭参加者は誰もが地面に倒れ伏し、立っているのは顔を真赤にし、影虎を広げたマルファ・ボレツカヤのみ。

 それだけで長実は大体の事情を察した。

 

「……ドッペルゲンガーに出会うと死ぬという話があるな。露西亜では馴染みの薄い存在ではあるがな」

「言いたい事はそれだけか?」

「…………さようなら同志」

 

 直後、千を超える打撃が長実の身を容易く吹き飛ばして意識を刈り取った。

 

 

 

 「憤怒の閃撃がなくて本当に幸いだった」

 後日、保健室で目覚めた長実はしみじみと語った。

 また、一連の国辱動画が通神帯に流出して一騒動起きたりもしたが、各国からは概ね好意的に受け入れられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

名:荒川・長実

属:春日山宮殿

役:道化師

種:近接模倣師

特:原形不明




カンティニ「何か寒気が……」
一部で囁かれる尼子勝久=金髪巨乳説の真相や以下に!? いや、酔った自分が勝手に言ってるだけだけどね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。