舞台裏の出演者達   作:とうゆき

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激戦地の隔絶者

変人と常人

両者を隔てるのは

配点(価値観)

 

 

 

 

 軍勢が衝突し、銃声や破砕音、怒号に彩られる戦場を男は駆けていた。

 男はM.H.R.R.戦士団に所属し、対六護式仏蘭西戦の真っただ中。

 戦闘の序盤、機動殻を纏って突撃したものの敵武神によって砕かれ、一時的な退却を余儀なくされた。

 

 装備と水分の補給の行うが、新たな機動殻はないので防御力は格段に落ちてしまった。

 それでも構わない。十全な状態でなければ戦いに臨めないなど甘えだ。

 それに仏蘭西の新戦術で臆した新人も多い。彼等の士気を上げる為にも毅然としていなければ。

 

 と、戦場が生む熱風に乗って何かが顔にかかった。

 指で掬って口に含んでみると独特の酸味があり、崩れかけた固形物もある。

 それが何なのか、男には覚えがあった。これは朝食で食べた――

 

「……」

 

 上空を見れば自軍のガレー船の船首にM.H.R.R.の女子制服を着た長寿族の女性の姿が見える。

 羽柴十本槍の九番、竹中・半兵衛。

 彼女は舳先で跪いて、

 

「げ……」

 

 隣で同じように顔にかかっていた同僚が表情をしかめ、腕で顔を拭う。

 

「……」

 

 男はもう一度指で掬って舐める。不思議と勇気が湧いてきた。

 

「おい、何を恍惚とした顔をしてやがる……!」

 

 同僚は嫌そうな顔をしているが、彼は独逸生まれの旧派だ。

 一方の男は極東人である。

 神道において金山彦神などはイザナミの吐瀉物から生まれた神であり、故にえろえろは忌避するものではない。

 むしろ男の独自解釈では歓迎すべきものでさえある。

 

「分からないか? そりゃ、醜男のえろえろは嫌かもしれない。しかし、見目麗しい御仁の体や唇を通ったものなら……」

「分からないし、何が悲しくて戦場でこんな話をしなくちゃならないんだ」

「……」

 

 確かに、と男は納得する。

 これはお互いの価値観に関わる問答だ。もっと落ち着いた場所ですべきだろう。

 戦場で話すなら士気を維持する意味も兼ねて生き延びた後の事を話すのが建設的だ。

 

「夕食はドリア食べるか」

「ゲロ飯の話をするんじゃねー!」


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