血は混じり
身は流され
心はどこへ向かう
配点(自分探し)
アンジェ・ミューラーは紙袋を抱えて居住区を歩く。中身はパンにジャム、ベーコンなど夕食用に購入したものだ。
自炊も出来るが、武蔵に移住して間もないアンジェは買って済ませる事が多かった。
通路を進む足を止めて横町長屋の一つに入る。
同居人は留守のようだ。現在補修中の武蔵はバイトを大勢募集しており、同居人も参加している。
四畳の相部屋は英国にいた頃と比べると手狭だが、あまり物を持たない主義なので気にならない。
幼い頃から引っ越しの連続だったので自然とそうなったのだ。
ベッドに腰かけて一息つく。
移住や転校に伴う処々の手続きを終え、慌ただしさが過ぎると今度は色々と考える時間が多くなる。
何もかも不確かで寄る辺のない女。それがアンジェの自己評価だ。
父方の祖父が独逸人、祖母が仏蘭西人、母方の祖父が英国人で祖母が極東人。
幼少期は仏蘭西で過ごしていたが、ユグノー戦争の勃発で独逸に移住。しかし今度は獅子王グスタフ・アドルフの進攻に晒された。西班牙や瑞西を転々としつつ最終的に英国に移住した。
その過程で教譜も旧派から改派に改宗している。
英国にはしばらく落ち着く事が出来た。教導院で友人も出来たし、フランシス・ドレイクの艦隊に配備されて将来的にも安定かと思われた。
しかし、アンジェは常に満たされなさを感じていた。
自分の行動に確信が持てない。国の為とか教譜の為とか、そういう考えが全く理解出来ないのだ。
胸を張って母国と呼べる国はない。けれどなまじ生活した記憶があるせいで敵対するのは気が進まない。
教譜についても同様。武蔵への移住に際して禁教税が勿体ないから神道に改宗しようと思った程だ。
鬱屈する彼女に転機が訪れたのは三河争乱の時だ。
武蔵が提示した末世の解決という世界共通の利益。それなら自分に確信が持てるのではないかとアンジェは考えたのだ。
それはまさしく光明であり、武蔵が英国に来たのは天啓のように感じられた。
これまで世話になった義理を果たす為にアルマダ海戦に参戦。
それが終わってからIZUMOで停泊中の武蔵に向かった。
家族は反対したが、何とか説き伏せた。アンジェが普段から悩みを抱えている事は見抜かれていたようだった。
悩みの解決か身の安全かで家族間も紛糾したようだったが、最終的にはアンジェの意思を尊重する結果になった。
身勝手な真似にも関わらずいつ帰ってきても良いと言われたのが有り難かった。
この行動が正しかったのかどうかは分からない。
それでも正しくあろうとする姿勢だけは忘れないようにと誓い、アンジェはベッドに横になった。
名:アンジェ・ミューラー
属:武蔵アリアダスト学院
役:渉外委員
種:全方位航海士
特:絶賛迷走中
夢境の襲撃者に続く夢ネタ。
夢の中の設定では三浦按針のあやかりだった。