欺き
掻い潜り
命を狙う
配点(暗殺)
「なるほど」
薄暗い個室。
椅子に体重を預けつつ伝纂器(PC)で武蔵の生徒会HP「生徒会だぎゃあああ!」を見ながら男は呟く。
そこには総長兼生徒会長葵・トーリによるエロゲ雑感が載せられている。レビューをチェックして彼の嗜好を確認していたのだ。
ホライゾン・アリアダストの処刑を巡る一連の事件で葵・トーリは武蔵の流体燃料を学生に供給するという驚愕の芸当を披露した。
だがこの伝播の術式は芸能神の力を利用したものであり、悲しみの感情を持てば絶命するという致命的な弱点を抱えていた。
故に松平と敵対する歴史を持つ国は泣きゲー、鬱ゲーによる暗殺を試みた。
当然武蔵側もそれを察知して毒見役が検分を行っており、日夜熾烈な戦いが繰り広げられている。
この攻防を馬鹿らしいと評する口さがない輩もいるが心外の極みだ。
三国志に語られる諸葛亮や曹丕は文章や絵で相手を殺した。
歴史再現でも連載五行詩や舞劇をバッドエンドにして武将を悶死させた例もある。
文章と絵に音声を複合させたエロゲを暗殺に使う事は歴史に裏打ちされた伝統的手法なのだ。
幾つかの戦いを経て武蔵の戦力が明らかになり、同盟を結んだ国が増えた現状、小国にとってあからさまなエロゲを送る事は危険になった。
一般ルートで販売し、葵・トーリが買う事を期待するという消極的な方針に移行した国も少なくない。
かくいう男の属する国もそんな中の一つだ。
生徒会の依頼でエロゲで学ぶ極東戦国武将シリーズをリリース。
公式サイトの紹介や体験版の展開は主人公の立身出世物に思わせ、後半には嫡男が戦死して狂乱したり、身内を次々に失って本人も病死したり、精神を病んで人形に話しかけたりする等のバッドエンドにして暗殺を狙ったが失敗。
一般ユーザーによってサークルのブログが炎上するだけに終わってしまった。
調べてみると良い所までは行ったようなのだが毒見役に弾かれてしまったらしい。
この毒見役だが、各国に恐れられていたのは半竜や忍者よりズドン巫女の方であった。
彼女の選定眼は驚異の一言で、一部で絵露芸大明神と崇められる葵・トーリより上だとも言われている。
その猛威はエロゲ業界全体に向けられ、容赦のない評価に膝をつくエロゲ製作者も多い。
エロゲ暗殺者にとっていかにして彼女を欺くかが大きな課題になっている。
姉系や金髪巨乳系にして他の人間が毒見を担当するように仕向ける、発生させるのが面倒なイベントに鬱要素を盛り込むなどの思考錯誤が行われているが未だ成功例はない。
嘆かせ、泣かせる内容では排除され、無難な内容では殺せないジレンマ。
だからといって諦める訳にはいかない。
矜持がある。失敗したまま引き下がる訳にはいかない。
……必ずやズドン巫女を出し抜いて見せる!
当初の目的から些か外れているような気がしないでもないが男は決意を新たにした。
絵露芸大明神様は商売繁盛(エロゲ限定)のご利益があります。