舞台裏の出演者達   作:とうゆき

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語り場の鬼武者

嬉しくもあり寂しくもあり

どちらにせよ親の特権

配点(世代交代)

 

 

 

 

 この日、義姫は義姉である最上・義光を尋ねて山形城まで来ていた。

 屋上で菓子を乗せた膳を挟んで座布団に座り、互いの近況を報告し合う。

 穏やかな時間が過ぎていったが、不意に義光の耳がぴくりと震えて目を細めた。

 

「……客が来たようだのう」

 

 義光と義姫が昇降機に視線を送ると、頭の左右から二本の角を生やした鬼が現れた。

 二メートルを超える巨躯に極東の制服を着た姿は立っているだけで威圧感がある。

 腰にさしている刀は一般的には大太刀に分類されるが男と比べると小振りにさえ見える。

 それでいて顔つきは温和だった。

 

「おや、義重殿」

「御両人、久方振り」

 

 佐竹・義重。佐竹教導院総長兼生徒会長。源氏を祖とする鬼型長寿族だが平氏を担当した巨人族の血も引く。

 その節操のなさを清武田の源・義経にからかわれた事もあるらしい。

 

「煎餅でも食うかえ?」

「頂こう」

 

 小さく会釈し、義重も座布団に腰かける。

 ……やはり大きい。

 もちろん身長の事だ。胡坐をかいた状態でも常人並の背丈がある。

 

「教導院をほったらかして遊行?」

「近々総長と生徒会長の座を義宣に譲ろうと考えている。今はそれの準備期間だ」

「まだまだ現役だろうに」

「当主が壮健なうちに次代に家督を継承させるのが佐竹の流儀なればな」

「世代交代が滞りないようで羨ましい限りね」

「義宣はトップとしてやっていけそうかえ?」

「未熟な面もあるが及第点は出せる。梅津兄弟や義成などもよく補佐しているしいずれ渋江・政光も来る。一代で滅ぼす事はなかろう」

 

 問いかけに義重は躊躇いなく答える。こちらから話題を振った以上義重が気遣う必要はない。

 

「最近は宇都宮家や結城家、佐野家の者も出入りしていて賑やかな限りだ」

 

 宇都宮と結城は小田原征伐において羽柴・秀吉側につく家であり、佐野も一部の武将が羽柴に味方している。

 関東の勢力図が大きく塗り替わる歴史再現を前にして諸家の動きは慌ただしいようだ。

 義重もこの時期に家督相続の準備を始めたという事は、歴史再現において不手際があれば自身が責任を負う腹積もりなのだろう。

 

「いつまでこっちに?」

「関東の情勢次第だがしばらくは留まるつもりだ。実季殿や盛安殿と交換襲名の可能性についても協議する必要がある」

 

 佐竹家は常陸国を治める大名だが水戸が松平の領地になった為その規模は小さい。

 それでも残った土地の開拓を行ってきたが、聖譜記述では関ヶ原以降出羽に移封される事になっている。

 従うにしろ解釈を使うにしろ移封先との連携は必須になる。このような事情から義重は奥州の地にたびたび赴いていた。

 伊達家とは戦争を行う歴史再現もあったので繋がりは特に深い。

 義重の細君は奥州シビルの出身で義姫とは姉妹のように仲が良かったのだ。

 

「小まめよの」

「縁を大事にするのが佐竹なればな」

「そのせいで源平合戦では平氏の味方をして源・頼朝に所領を没収され、永享の乱では朝敵の足利・持氏を支持して将軍足利・義教から攻撃され、関ヶ原では身動きが取れなくなって移封されちゃう訳だけどねぇ」

 

 ココと笑う義光が笑う。

 

「主以外は時流を読むのが下手だのう」

「返す言葉もない。しかし、それでいて佐竹の家を存続させた先達の力量には感服している」

「実利より義理を選びそれでも生き残れたなら、さぞ楽しい人生だったのだろうよ」

 

 先を見据えて歴史再現に抵触しない範囲で敗者とは距離を置けという声は当然あった筈だ。

 しかし佐竹の当主はそれを良しとせず縁を守った。

 そして佐竹の一族は初代から血脈を継いでいる。

 国王や大名などの襲名者は内紛による国力低下を避ける為に血縁を重視する事も多い。

 けれどそれらの襲名者は付随する権益も莫大なので追い落とす口実を探す動きが常に存在する。その政争に付けこまれて他家に乗っ取られた例も少なくない。

 そんな中で幾度も敗軍に属しながら襲名を維持してきたのは驚異的と言える。

 

「体制を揺るがさず公人としての責任は守った上で私人としての意は押し通した、見事なものね」

「利だけでなく情も解するのだと知らしめた事は佐竹存続の一助だ。……だが義宣には苦しい役目を任せてしまうな。義光殿、武蔵の副会長本多・正純は如何様な人物だ?」

 

 本多・正純。義重が気にするのも当然だろう。

 佐竹の処遇に関する交渉を行うのは彼女だろうし、聖譜記述によれば改易され流罪となった本多・正純の身柄を預かったのが佐竹だ。

 

「聞くより実際に会ってみた方がよく分かるぞえ」

「もっともな話だ」

「まあ、快い相手であったのは確か。必要だと思ったなら容赦なく踏み込んでくるが、言いかえれば悔いの残らない交渉を望んでいるという事じゃのう」

「それはそれは」

 

 義重は僅かに顔を俯かせて小さく笑う。

 それから三人は政宗について語ったり義重が土産として持ってきたハタハタを酒の肴にする。

 和やかな一時だったが、三人はひしひしと感じていた。関東を包む戦乱の影は確実に濃くなっていくのを。

 

 

 

 

名:佐竹・義重

属:佐竹教導院

役:総長兼生徒会長

種:近接武術師

特:坂東武者




本当にすみません。リクエストにあった佐竹の話ですが、遅れた上に中途半端なものしか出来ませんでした。
原作で小田原征伐や関東の状況が描かれたら新しい話も書きたいと思います。

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