舞台裏の出演者達   作:とうゆき

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社交場の背徳者

禁じられた事

許されざる道

甘美たる誘惑

配点(禁忌)

 

 

 

アナベラ作「青い通りの君」サンプル

 

 

 

 彼はごくりと喉を鳴らした。足が地面に縫い付けられたかのように一歩も動けず、視線は一糸纏わぬ姉の姿から離す事が出来ない。

 しなやかな肢体にうっすらと浮かんだ汗が艶やかさを際立たせる。

 その姿は実に蠱惑的で姉が僅かに身じろぎするだけで豊満な双丘が揺れ、芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。

 彼の心臓の鼓動が体を内部から強く打ち、もう一人の己が痛い程に存在を主張する。

 

「姉ちゃん……」

「ふふふ……良いのよ?」

「姉ちゃん!」

 

 瑞々しく形の良い唇が誘いの言葉を紡ぐ。

 限界だった。若い情動は理性を容易く吹き飛ばして背中を押す。

 彼は劣情のまま姉の体に覆い被さった。

 姉と弟。禁忌の関係。世に背く行い。父と母、そして友人達の顔が浮かぶ。

 しかしその背徳感は翼となって倫理感を飛び越え精神を高揚させる。

 

「ん……」

 

 押し殺した嬌声に彼ははっとして姉の顔を見た。

 彼女は顔を紅潮させて視線を逸らす。

 普段は気丈で余裕を持っている姉のこれまで見た事のない恥じらいの表情に彼の情欲は更に掻き立てられる。

 

    ●

 

 倫敦。ArchsArt(大属の芸術)が所有する大型倉庫はまだ六月の始めだというのに異様な熱気に包まれていた。

 熱の原因は単純に室内に大勢の人間がいるからというだけではない。

 この集まりは言ってしまえば趣味のイベントだが、だからこそ拘りが生まれる。

 信念を秘めた眼差し。淀みない歩調。彼等が内包した熱意は如何ほどか。

 近しき親善のための同人誌好事会。略して近親同好会。

 自費出版物の即売会だ。

 

    ●

 

 売り場である長机。その一つに一人の少女がいた。

 椅子に座って帽子を目深に被った彼女の名はアナベラ。ペンネームである。様々なしがらみからアナベラは本名での活動が出来ないのだ。

 縦横無尽に会場内を闊歩するシーツと抱き枕の怪異をぼんやりと眺めながら、アナベラは手元に重ねられた自作小説「青い通りの君」を手に取る。

 内容は姉と弟の禁断の恋。世間との軋轢。苦悩と決断。

 彼女の著作物の中ではポピュラーな題材だ。以前の内容が主人公のカップルが死亡するバッドエンドだったので今回はハッピーエンドにしている。

 

 アナベラは実の兄を愛していた。兄も彼女の愛に応えた。

 何故血の繋がった兄妹で男女の関係になったのか。理由はない。愛に理由を求めるなど無粋。しいて言えば本能か。

 後悔もない。むしろ倫敦にある法曹院ミドル・テンプルで何とか兄妹婚が出来ないか日夜法律を勉強中だ。

 いざとなれば同志であるジュリアンとマルグリットのラヴァレ兄妹とそれぞれ偽装結婚する腹積りだ。

 ……旧代聖譜に記されたアブラハムとサラも兄妹婚をしたのに。

 どうして今の世界は自分達を認めようとしないのか。アナベラにとってはまったくもって不条理な現実である。

 

 そして結婚とは別に長期的な目的があった。

 世の中には愛し合いながらも周囲の無理解から想いをひた隠しにしなければならない恋人が大勢いる筈なのだ。そんな彼等の助けになりたい。

 創作活動もその一環。文化面から社会通念を変化させようというのだ。

 基本は兄妹の背徳関係だが親子や叔姪なども網羅しているし、義理でもいける。

 最近では自分で監督を務めて動画の撮影も行っている。監督業は意外に楽しく、これを本業にしようかと真面目に思案していた。

 

 そんな折、所属する文芸部の部室で近親同好会の広告を見つけて応募したのだが、まさか小さなお子様でも楽しめる健全な即売会だとは思いもよらなかった。

 うっかりである。勘違いである。アナベラは少々ドジっ娘だったのだ。

 人間、自分の願望が叶うと思い込むと注意力が散漫になってしまう。

 「やべぇ! こんな夢のようなイベントが!」と狂喜乱舞し、愛する兄とダンスし、速攻で「青い通りの君」を書き上げて馴染みの印刷所で数百部刷ったのも今では恥ずかしい記憶だ。

 

 とはいうものの、売り上げ自体はそこまで悪くない。

 アナベラと同じ勘違いをした人間もそこそこいたようだし、初心者向けにエロを入れたのも功を奏した。

 今もまた長机の前に眼鏡をかけた少女が立つ。

 

「一冊貰おうか」

「毎度ー」

 

 貨幣を受け取ると同時に積んでいた小説の一番上を手渡す。

 少女は持っていた紙袋に入れ、すぐさま別の売り場に視線を送る。出店は一人一日限り。時間は有効に使うべきだろう。

 

    ●

 

 少女が去り、他の客もいないのでアナベラは表示枠を展開する。

 彼女は通神帯上での通販も行っている。「青い通りの君」印刷の際に在庫切れの過去作も補充して準備万全。

 チェックすると既に三件の注文があった。

 ……仏蘭西にサヴォイア公国、讃岐。

 少しでも広められればと送料はこちら持ち。本業が割と儲かっているし同好の士の事を思えば苦はない。

 ここでは発送の手続きが出来ないが、頻繁に確認する癖が付いてしまったのだ。そして注文があれば自然と顔がにやける。

 やはり分かりやすい評価の基準だからだ。自分の作品には金銭を払う価値があると思ってくれた読者がいるのは嬉しい。

 

 頬を緩ませ、ついでに他の用事も済ませておく。

 ……「シス婚! プトレマイオス」のシリーズ最新作の予約特典が貰える店舗をチェックしとかないと。あと「股おっぴろげ小アグリッピナ」の体験版の公開は今週……。

 

    ●

 

 そしてアナベラは一日を満喫した。

 好奇心溢れる目でこちらを見てきた女の子を笑顔であしらい、顔馴染みと意見を交わす。

 売り上げは目標に届かなかったものの、初めて来る客に買ってもらえたしリピーターも出来た。応援の言葉も貰え、有意義な時間を過ごす事が出来た。

 




アナベラ、一体何者なんだ?
ブログのアクセスに「背徳的同人道境界上のホライゾン」というのがあったので「よし、じゃあ近親相姦ネタいってみるか」となりこうなった。
この変態インセスターはちょっと頭がおかしいので生温かく見守ってください。
どうでもいい事だけど史実の伊達成実の両親も叔父姪の関係らしいね。
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