舞台裏の出演者達   作:とうゆき

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Journal de Anne

高等部になった事を機に日記を書く事にした。

といっても何かが新しくなった訳でもない。

顔ぶれもクラスという区切りはあるにしろ中等部の時からさほど変化はない。彼とも腐れ縁だし。

それじゃあ日記を書く意味も薄いかもしれないが、暇潰しにはなる。私には出来る事が限られてるしね。

……不治の病を患い、いつ急変するかも分からない身。何か残したいという気持ちが働いた可能性も無きにしも非ず。

 

 

 

兄さんから手紙が届いた。襲名の為の勉学を頑張っているみたい。

誇らしくなるがあまり無理してほしくない。その旨や近況を添えて返信を出す。

 

 

 

また今日も彼がイジメられていた。

はっきり言い返せばいいと思うのだが、生来大人しい彼には難しいらしい。

それでもいつまでもあのままというのは駄目だろう。流石に私がいつまでも助ける訳にもいかないし、ね?

 

 

 

教導院の図書室で司書のバイトを募集していたので応募した。

生活費くらいは自分で稼ぎたいが、肉体労働系や教導院から遠い場所での仕事は困難なのでちょうどいい。

追記

無事採用されたが、その事を知った同級生がライト草紙を入れるよう頼んできた。断ったけど。

 

 

 

今日は謝肉祭。

友人の中には一ヶ月以上前から仮装衣装を制作していた子もいるけど、私は面倒だったので倉庫で見付けたネコミミを被ってお仕舞い。

彼は騎士の格好をしていたが、着せられてるという感じであまり似合っていなかった。

熱狂する行列に付いていけないのでちょっとだけ参加したら後は教導院に戻って調理部が作っていた菓子を頬張りつつ、同じ事を考えていた面々と駄弁る。

そんな感じで謝肉祭は終わった。

 

後日、漫研がネコミミ特集を出していた。解せないわね。

 

 

 

彼から人狼を倒すにはどうしたらいいか相談された。

……新領主になって使命感を抱いたというのは分かるけど、向こう見ずというか何というか。

弱いという自覚はあるみたいだけど危なっかしい。

だから怪我をしないように罠を仕掛ける事を提案しておいた。

彼は抜けてる所があるから人狼も引っ掛からないだろう。

 

 

 

一週間も姿を見せないと思ったら急に帰って来て人狼女王に助けられたと言い出した。

荒唐無稽なようだが彼が言うなら事実なのだろう。

看病して貰った御礼がしたいというのでアドバイスを与えた。

上手くいってほしいと願うが、同時に何かわだかまるものがある……深く考えるとドツボに嵌りそうだからやめておく。

 

 

 

今日は体調が良いので町の方で農作業の手伝い。

野菜や干し草を載せた台車を押す作業は疲れはするが、心地良い充実感がある。

たまには社会の一部になっているという実感を得ないと腐る一方だもの。

 

 

 

来週テストがあるので皆で予習。互いに問題を出し合って答える。

本来は勉強会をしなくても点は取れるけど、皆で何かするという一体感は悪くない。

 

 

 

彼と人狼女王は順調に逢瀬を重ねているみたい。

領地の方も好調だけど周辺領主との関係は微妙なよう。

力になりたいと思うが、私もちょっと複雑な立場なので下手に介入すると余計事態を拗らせかねない。

それに、これまで彼には色々相談されたが、この件に関しては何も相談されていない。

だから私が口を出すべきではないのだろう。

 

 

 

クラスで王様ゲーム大会が開かれた。

ルールとしては巨大ガレットを皆で切り分け、一つだけ入っている人形を当てた者が王様となり、好きな相手に命令が出来る。

明日以降のクラス内カーストを考えなければどんな命令をしても許される仁義なき修羅場である。

ニガヨモギのリキュール一気飲み、教師のカツラ強奪、エドワード二世ごっこ、一週間二人称を「ご主人様」にする、椅子になる、凌辱エロゲを購入して実名の領収書を切ってもらう等々。

阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される中、最後に私が王様になった。まさか兄さんに先んじて王位に就くなんてね。

唐突にとある命令が浮かんだが、慌ててかき消す。代わりの「これまでの王様が下した命令を本人が実行する」という命令は万雷の拍手で迎えられた。

 

それはそうと、人間椅子って初めて座ったけどあまり座り心地は良くないわね。

 

 

 

今日はバレンタイン。毎年恒例の義理チョコを彼に渡す。

泣き喚く野郎共を無視し、茶化してきた女友達に肘鉄を食らわせる。

けれど、そうね、来年からはどうしようかしら?

 

 

 

何やら彼が落ち込んでいる。

彼女と何かあったのかと尋ねるが何も答えない。つまり何かあったみたい。

……

 

 

 

 

 

久し振りに日記を開く。こういうのは一度中断して時間が経つと再開し辛くなるのよね。

前回の日記を書いている途中、私は一瞬チャンスではないかと思ってしまった。彼と人狼女王の間に亀裂が生まれた事を喜んでしまった。

そんな人の弱さに付け込もうとした自分の浅ましさを恥じ、自戒の為に書き残しておく。

 

いよいよ近隣の領主達が彼の領地の乗っ取りを実行してきた。

悩んだ末に策を授けて彼を送り出したが、こちらも厄介な事になった。

各国からアンヌ・ドートリッシュの襲名とEcole de paris暫定総長兼生徒会長就任の要請が来たのだ。

兄さんを恐れての事だろう。聖譜によればまだ生まれてもいないのに相当な怯えようだ。

私みたいな病人を担ぎ出すなんて手段を選ばなくなってきたわね。ま、御しやすい小娘と思った事を後悔させてやるわ。

 

 

 

巴里に来て早数日。精霊に満ちたあの場所と比べると巴里での生活は些か気だるさを覚えるが嬉しい事もある。

久し振りに兄さんと再会出来た事だ。けど相変わらず小さかった。これでは私の方が姉に見えてしまうんじゃないだろうか?

そう危惧したが、よく考えればそれどころではなかった。

「兄さんの母親になってしまったわ」

「フ、背徳的なようでいてその実、思考の迷路に陥りそうな関係だね」

そう言って互いに笑い合う。

 

会計のリシュリューさんにも会った。そっけない態度だったが、歴史再現を順守しているのだろう。多分。

他にも生徒会や総長連合の人々に会い、何とかやっていけそうな感触を得たが、ずっと心に引っ掛かっている事がある。彼と人狼女王が上手くいったかどうかだ。

彼からの話を分析して最適な提案をしたつもりだが、伝聞だけでは誤りがあるかもしれない。それが不安なのだ。

 

 

 

最近嘆願書がよく届く。内容はある領主の助命嘆願。

人狼女王を妻にしているが翻意はなく、慈悲のある裁きをお願いしたい。要約するとこんな感じ。

そしてその中の何枚かには見覚えのある字。教導院にも馴染みの顔がちらほらと直訴に来ていた。

 

 

 

行方不明になっていた領主が帰ってきたというので巴里に呼び出した。

そして裁きの場に出席した時の彼や前教導院時代の同級生の唖然とした顔が可笑しかった。

体調不良を理由にこれまで会わなかった甲斐があった。

 

初めて会う人狼女王は彼から聞いていた通り、気高く凛々しい佇まい。私達とは正反対で、彼が憧れたのにも納得してしまった。

二人は落ち着かない様子だったが、私には彼等を罰するつもりはなかった。でも問題はその先。

私の部分は友人に無償の祝福を授けるべきだと主張するが、公の部分は戦力拡大に利用すべきだと嘯く。

暫定とはいえ一国のトップなのだから後者の立場に立つのが正解だろう。

そして彼女は誇りある人狼の頂点。施しだけを良しとする相手ではない筈。……これが勝手な推測で、罪悪感を軽くする言い訳にしたという自覚はあるけどね。

 

事が事だけにリシュリューにも事前に話をしたが「お好きにどうぞ」と了解を貰えた。

百年戦争の時も仏蘭西は人狼女王を始めとした異族部隊を使っていたのだ。先達にやれた事が私にやれない道理はない。

告げた裁定に対して人狼女王が自分の事が恐ろしくないのかと問うてきたので「私は神だから」と返答しておいた。

呆気にとられつつもすぐに彼と共に深々と頭を下げる姿は確かな絆を感じさせ、ほろ苦いものを感じると共に少し肩が軽くなった。

 

…………人狼女王が身籠っているという。人間と異族は子供が出来辛いと聞くけど…………何だか心配して損した。

 

 

 

人狼女王には私の女官をやってもらう事にした。

異族にのみ伝わる歴史など興味深い話も色々と聞けた。

百年戦争時において仏蘭西国王がジャンヌ・デ・アークの処刑を望んでいたという話は耳が痛かったけど。

 

 

 

巴里にある孤児院を訪問する。

突然現れた、気難しい女にも子供達は笑顔で迎えてくれた。

そこでは歴史再現による戦争や宗教改革によって親を亡くした子も多い。

これからの仏蘭西を主導するのは私だ。彼等と同じ境遇の子供を増やしてしまう立場になったのだという事を忘れてはならない。

 

 

 

今まで私を侮ってちょっかいをかけてきた男が急に大人しくなった。

何があったのやらと思いつつちらりと彼女を見るとニコリと微笑んだ。

……大分お腹も大きくなってきているのであまりイタズラはしないでほしい。

 

 

 

遂に彼女の子供が生まれた。関係者一同ハラハラし放題だったが、母子共に健康で一安心。

生まれたのは女の子だったけど、正直言うと不細工ね。兄さんが言うには私も似たようなものだったらしいけど。

彼女達の体調が安定したら巴里を離れて時期が来るまで正体を隠してもらう事になる。短い期間とはいえ仲良くやれていただけに一抹の寂しさもあるが、これは仕方ない。

幸せそうに子供を見る彼女を前にすると羨ましさを覚えるが……まあ、私には縁のない話ね。身体的な問題もあるし、聖連からいちゃもんを付けられても困るし。

 

 

 

毛利家が親善の証として自動人形を送ってきた。

固有名はないとの事だったのでアンヌ・ドートリッシュ永遠の友、リュイヌ婦人を襲名してもらう事にした。

病床の身、あまり外出出来ないので話相手にはちょうどいい。

堅苦しい口調じゃなくてもいいと言ったが、これが自動人形の本分だと返されてしまった。

ま、割と気分次第で生きてる私には彼女みたいなのが合ってるのかもしれないわね。

 

 

 

異族達に戦力として加わってもらえないだろうかと各地に使者を派遣して交渉。

了承されたものもあれば拒否されたものもある。人狼女王が仲間になった事を話せればもっとスムーズだったかと思うと少しもどかしい。

百年戦争で一度仏蘭西を守った竜属にも断られてしまった。残念。全くの脈なしという訳ではなかったけれど。

 

 

 

リュイヌに彼との関係を聞かれたので思わず階段から突き落としてしまった(あっさり受け身を取っていたけど)

彼から来た手紙を読んでいて懐かしくなり、つい前教導院時代の思い出をリュイヌに話して聞かせたのが拙かった。

 

 

 

今日は兄さんへ日頃の感謝と労いを込めてクレープを焼いた。

クレープにはちょっと自信があったけれど美味しいと言ってもらえて良かった。

あと躊躇いながらも最終的には調理場を使わせてくれた料理人の皆にも感謝を。

 

 

 

リュイヌに淹れてもらった紅茶で体を潤しつつ、新大陸で活動しているシャンプランからの報告に目を通す。

本音では新大陸の開拓は程々にして国内の整備に力を入れたいが、歴史再現を疎かにしていると聖連や各国に付け入れられる隙を与える訳にはいかないのよね。

シャンプランは外界にある本物の新大陸に行きたいと言っているが、勿論却下だ。

 

 

 

彼女から娘と一緒に描かれた絵が届いた。親子一緒にくねくねしていた。

娘の方は彼女と違って小さい。もちろん胸の事だ。

まだ幼いのだから将来性に期待ね。

 

 

 

毛利家から小早川・隆景が使者としてやって来た。

と言っても大まかな交渉は既に終えている。直接来てもらったのは友好関係にある事を示すポーズなので中身はお茶会と言っても差支えない。

戯れで矢を渡したらとても嫌な顔をされた。特注品だったんだけれどね。リュイヌと一緒に肩を落とした。

 

 

 

複雑怪奇な政治情勢の中、仏蘭西が水戸松平襲名の権利を得た。

聖連の影響力が及びにくい関東に領地を持つ意味は大きい。

問題は誰を派遣するか。良く言えば仏蘭西の代理人、悪く言えば使い走り。ぶっちゃけ傀儡なのが望ましい立場だ。野心が大きい人間では後々の禍根になる。

頭を悩ませていると人狼女王が訪ねて来て、娘を派遣してほしいと言った

……彼女の意図は理解出来るものの幼い少女にそれはどうなのだろうと考えたが、やめる。人の家の事情に必要以上に干渉すべきではない。

そう。あくまで他人の家庭。彼女と友人である事は確かだが、きちんと線引きをしておかなければならない。

それに彼女がこの決断をせざるをえなかったのは今の仏蘭西に彼女達親子を守る力がないからだ。私にとやかく言う資格はない。

 

 

新しく侍女として来たベルトーやヴェルニュと聖譜記述を読み返す。

傍論によるとこの時代を舞台にした「三銃士」という創作が後世で人気を博すらしい。文系の二人は好奇心をくすぐられるようで食い付くように読み耽っていた。

登場人物のモデルになった人間はそれほど活躍した訳ではないけど、一度歴史に名を残すと後世でどういう扱いになるか分かったものじゃないわね。

 

 

 

クリスマス。リュイヌに飾り付けしてもらった病室で兄と三人でささやかに祝う。

リュイヌは頼まなくて完璧に準備をこなすから助かる。

兄さんとプレゼント交換し、彼女や彼からもプレゼントが贈られてきた。

そして朝、目が覚めると枕元に包みがあった。開けてみるとそこにはダイヤの胸飾り。カードや差出人の名前はない。誰かしらねー。

よりにもよって私にこれを贈り付けるなんて、敵対する気はないというメッセージ? いや、贈り主は誰か分からないんだけどね。考えても答えは出ないのでこの話題は置いておく。

それと前日作ったクレープが余っていたので捨てるのが勿体なく、たまたま近くにいたリシュリューに渡す。いつもくれる御菓子の礼でもある。

 

 

 

ルメルシエ一派が巨大な翼を持った銀の女性型武神を献上してきた。

私にどうしろと。

名前的にリシュリューが乗ったらどうかと話題を振ったら逃げられた。

 

 

 

リュイヌがあの武神を使わせてほしいと言ってきた。

何でも自身を分解して組み込む事で自動人形でも武神を動かせるという。

本気のようだったので、いつ実行するかは別として許可自体は出した。

核の問題も彼女が自分から言い出したのだから大丈夫なのだろうし、彼女が決めた事なら尊重すべきだ。別に姿がちょっと変わるだけだし。

ただ、リュイヌが武神になると代わりに小回りがきく戦力が欲しい。

……そういえば前にちょうど良さそうな聖譜記述を見たわね。総長連合の会議で提案してみましょうか。

 

 

 

P.A.Odaと同盟した三河の松平・元信が大罪武装とかいう神格武装を送ってきた。

同盟はあくまで歴史再現に則ったもので他意はないという意思表示との事。

戦力が不十分なうちとしては助かる。数年前に襲名関係でゴタついてピリピリしていた毛利家の方もひとまず安心しただろう。

 

白と黒の打撃棍と刀。傲慢と虚栄。果たしてこの二つの担い手は現れるのかしら。

それにしても元信の話題を出した時にリシュリューが妙に懐かしげだったのが気になる。彼は極東人だが、既知なのだろうか?

 

 

 

コンコンとポンポン、それにベルベルが見舞いに来た。

ベルベルに演奏をしてもらいつつコンコンから私が来る前のリシュリューについて話してもらった。

あのおじさんも若い頃は結構ヤンチャしたり失敗してたのね。からかうネタが出来た。

 

 

 

彼女が落ち込んでいる。友人として力になりたいが、子育ての辛さは分からず、慰めの言葉が浮かばない自分が恨めしい。

憂いを晴らせるとしたら彼女が見付けたという王だろうか。人狼女王の御眼鏡に適った相手、機会があれば会ってみたいわね。

 

 

 

面倒な事になった。

P.A.Odaで長らく不在だった織田・信長の襲名者が現れ、聖連を半脱退。更に羽柴がM.H.R.R.に侵攻して同盟を結んでしまった。

当然M.H.R.R.国内で反発があるだろうから時間が稼げると思ったが、生徒会長のマティアスが上手くやっているみたい。食えない人。

 

 

 

M.H.R.R.皇帝のルドルフ二世と通神で会談。何とも濃い人だった。

M.H.R.R.の内情について聞こうとしたが、関心がないというか、わざと関わらないようにしている風に見受けられる。

どこの家も兄弟姉妹間は複雑ね。

早々に政治的な話題は終了し、雑談に移行。その中で面白い話を聞いた。

前任のカルロス一世大総長が公主隠しについて調べていたという。公主隠し。世界、極東問わずに起きているらしいが一体何なのかしら。

 

 

 

騎士が騎乗するのだから武神だって馬。半分冗談で言った主張が通った。

各国の、貸しを作るのと同時にP.A.Odaの防波堤にしたい思惑が垣間見える。

突出しそうな勢力があれば昨日までの敵とも笑顔で握手するのが欧州流。もちろん後ろ手にナイフを隠し持つのは忘れない。

ともかく、これで大規模な戦力拡大が出来る。

喜ぶ総長連合特務とは対照的にリシュリューの部下が顔を真っ青にしていたが何とか予算を捻出してもらわなくては。

 

 

 

M.H.R.R.生徒会唯一の改派、マルティン・ルターと連絡を取る。

P.A.Odaや羽柴の伸張を食い止める為には国内で彼女に頑張ってもらう必要があるのだ。

仏蘭西はナントの勅令で改派を認めているし、仏式旧派も教皇の影響を受けない。聖譜でも三十年戦争時の仏蘭西は改派側だから彼女とは軋轢が少ない。

交渉の末に極秘裏の支援を約束したが、やり辛い相手だった。何しろ彼女は巴御前、経験や度胸の面では世界有数の女傑だ。

教譜が違っても同じ国であり致命的な事態になるほどの対立はしないから支援は不要、というスタンスを崩さなかった為に対価を引き出せず、“無償の”援助をする破目になった。

 

 

 

グラモン公爵とベルジュラックが今日も仲良く喧嘩。

それを見てベルトーがおかしな笑みを浮かべながら鍵盤を叩いていた。

また文芸部でもある彼女に「腐心する女性作家が子細に語り合う会」というイベントに誘われたが遠慮しておいた。

ランブイエやスキュデリーもいるらしいけど何をやっているのやら。

 

 

 

三銃士のアルマンとリュイヌを会わせてみた。特に意味はない。

 

 

 

今日は予定がなかったので見舞い品として積んである同人誌やゲームを消化する事にした。

「ちんこっ!」「愛はあるのか、寝取り野郎マルタン・ゲール」「薔薇物語」「裸見なグロいす」「文通をしろラビュタン」「エセ作者モンテーニュ」

どれも癖が強い。あと最初のは口調や性格が全然違って違和感が酷い。

 

 

 

……人間、驚くと言葉をなくすというのは本当らしい。

でも私は悪くないと思う。トイレに行って戻ってきたら知らないおっさん二人が病室で談笑していたら誰だって驚くだろう。

すぐにリュイヌが確認してくれたけど相手は松永・久秀と本願寺・顕如。共にP.A.Odaの重鎮だ。

何をしているのかと聞いたら世間話をしに来たという。……流石、世界に名立たる大帝国を築いた男と常人には成し得ない三悪をやり遂げた男、大胆不敵だわ。

昔、この二人は組んで極東を支援してK.P.A.Italiaに一泡吹かせたが、織田・信長にスレイマンの名を奪われて以降、結び付きはより一層強くなったようだ。

帰ってほしかったが歴史再現を盾にされると断り辛い。サファヴィー朝は欧州と交流があったし、本願寺・顕如も毛利家と繋がりがあるのよね。

 

でも本当に雑談だけして帰っていった。……恐らく協同する価値があるかどうか見定めに来たのだろう。施設や人員も見られたわね、きっと。

会話中、脅せるような失言をしないかと注意していたけど特になかった。こういう面ではやはり老練ね。

 

 

 

暫定とはいえ総長兼生徒会長ともなれば相応に付き合いも必要になる。

ルーブル宮殿で開かれたサロンに走徒状態のリュイヌを名代とし、私は表示枠を使って参加する。

当たり障りのない雑談をしながら移動していると、女装した男二人とその周囲を取り囲むように膝をつく男達がいた。

有力貴族の子息で、オルレアン公とショワジーを襲名すると目されている二人だ。

関わりたくなかった。そんな意図を悟ったのかリュイヌは私が何か言う前にそっと立ち去ってくれた。歴史再現でも身内になるのはちょっと遠慮したいわね。

 

 

 

あの男がまたしても反乱を起こした。

「体制に逆らう俺かっけええええ」な男だったので驚かないし、前々からリュイヌに対し手を組んで権力を握らないかと持ちかけて断られていたのも知っているけど。

聖譜に記された最後の陰謀だけにリシュリューがはりきっているみたい。

 

 

 

リュイヌを贈ってもらった礼にこちらも自動人形を贈る事になった。

侍女式の自動人形が部隊単位の大盤振る舞い。

歴史再現において羽柴に屈服する毛利が抗う手助けになれば良いのだけど。

 

 

 

兄から恋愛相談をされた。中等部に気になる娘がいるという。

…………

「年の差が危ないわね」と言ったら些細な事だと笑った。どうやら本気らしい。

取り敢えずもっと女心を勉強するようにと言っておいた。

 

 

 

ここ最近体の調子が芳しくない。

足が消えて転ぶ事もあった。お化け屋敷でバイトが出来そう。

……あまり長くはなさそうね。

 

 

 

リシュリューが消えた。

リュイヌがマザランを襲名する事になり、その引き継ぎを行っている最中の事だ。いや、本当いきなりすぎる。

高等部の時にも行方不明になった事があるらしいけど、趣味なのかしら。

……口うるさかったけどいなくなると寂しくなるわね。

 

 

 

以前から少しずつ進めてきた毛利家との合一もいよいよ本格的になってきた。

毛利・輝元を襲名する少女とも会った。かつて行方不明になった、ユスターシュ・ドジェを襲名する予定だった少年の姪というのは妙な縁を感じさせる。

中等部だという彼女は何とも険しい顔だった。襲名への緊張か、将来への不安か。あるいは小姑への警戒か。

杞憂だ。身内贔屓かもしれないが兄さん程の男はそうはいない。だから心配はいらないが、それを私が言っても意味はない。一緒に過ごす内に自然と理解すべき事だ。

ただ、兄さんはちょっと天然な所があるのでおかしな言動をした時は容赦なくツッコミを入れてほしい。そう伝え、そして約束を一つ交わす。

果たされるのを見る事が出来るか分からないけど、彼女なら大丈夫だと思える相手に会えたのは幸いだ。

 

 

 

M.H.R.R.から提案があった。

私が人質になれば兄さんの襲名を認める、と。仏蘭西の国力増強に焦ったのが見えて微笑ましくもある。

欧州各国は既にこの話を知っている、というかM.H.R.R.が積極的に情報を流したみたい。お陰で東欧諸国が露骨に圧力をかけてきた。

 

まあ、ルイ・エクシヴの襲名が認められるならこちらにとっても悪い話ではない。

羽柴が十本槍とかいう私兵をチラつかせてゲーリケ市長から奪おうとしている研究成果も守れるだろうし、マクデブルクのような改派の都市の方が医療技術も進んでいる。

私が人質になる事に反対する者もいるだろうが、M.H.R.R.側はマウリトス大聖堂を使っても良いと言ってきた。

M.H.R.R.の始祖であるオットー一世が眠るあの場所はM.H.R.R.でも重要な意味を持つ。格式としては一国の前指導者の療養場所として申し分ない。

これなら何とか納得させられるだろう。

ただ私の為に療養施設ヴァル・ド・グラースを造ってくれたマンサールにはすまないと思うけど。

 

 

 

……兄が全裸になっていた。

にこやかな笑みを向けられても反応に困る。

詳しく話を聞くと教皇総長の意見に影響されたみたい。

あのおじさん、仏式旧派が教皇を蔑ろにしている事を根に持っているのかしら?

等と考えていたら兄さんが不意に申し訳なさそうな表情になった。身長はあまり変わらないのに兄さんが小さく見えた。なので軽く頭を小突く。

「二人っきりだからいいけど、未来の欧州覇王がそんな顔してると駄目よ。いつもみたいに不敵に笑ってなくちゃ」

そう言うと兄さんは一瞬だけ真顔になり、次の瞬間には文字通り光る笑みを浮かべた。

私としては最大の難問だと思っていた兄さんの襲名問題をクリア出来、総長の座を受け渡せて満足なのよね。

私の死をもって権力移譲が完全に成るという構図には思う所があるけど。

 

 

 

餞別として教導院の皆が盛大な催しを開いてくれた。

それだけで長年の苦労が結実したようで感極まる。本当、よくここまでやってこれたと思うわ。

次代の仏蘭西を担う襲名者達へ挨拶回りをしていたが、ふと思い出してヴァテールとカンティニにダガンを監視するよう強く頼んでおく。二人ともしっかりと頷いてくれた。

また高等法院のブルーセルとも話をした。

リュイヌとあまり喧嘩しないよう言いつつ、もしその時が来たら心置きなく戦うようにとも言う。

聖譜に予見された貴族と民衆の反乱。けれど兄さんなら大丈夫だろう。支えてくれる人も多いし、国は私が守り立てたのだから。

 

 

 

パレ・カルディナルの合一機構を取り外し、マクデブルクに輸送。私も後日出発する事になる。

合一中でもリュイヌと会話が出来るというのは有り難い。孤独に耐えるのは療養というより拷問に近いし。

日記を書くのもこれで最後になるが、だからといって特別に書く事もないし、無理に捻り出すのも違うだろう。精々三日坊主にならなくておめでとーくらいかしら。

この日記帳はいつか私の伝記を書きたいと言っていたベルトーに渡す事にした。本心を全て晒した訳じゃないけど役に立つだろう。

ただ人狼女王の事を含めて国家機密を色々と書いてしまったのでしばらくは関係者以外に見せないよう念押ししないとね。ちゃんとここを読みなさいよ。

 

……そうね。もし伝記を書くなら美化も賛美もいらないの。ただありのまま、私の在り方と成してきた事を書いてほしいわ。お願いね?

 

 

 




没ネタ。
心身喪失状態の予言者達が大勢病院に運ばれてきた。
中には知人もいたが、医者が言うには前例が一切なく、回復するかどうかは全くの不明との事。
彼女の話は面白かったので残念な限りだ。新型爆弾を巡って戦う仏蘭西と独逸の武神の話とか。



リクエスト作品。日記形式というのは初めてだし、そもそも自分も日記自体書かないので難産だった。
ネイトママンの事は隠していたんだから第三者に見られる危険のある日記には書いてないんじゃね?と思ったが、カットするのもリクエストに沿わない気がしたので書いた。
リュイヌがパレ・カルディナルと合一した時期や全裸が全裸になった時期などは原作の進行に応じて改訂するかもしれない。実際6巻の内容踏まえて書き加えたりしたしね。


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