舞台裏の出演者達   作:とうゆき

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大三島の戦姫

どうしてこうなったのだろう

いつまでこうなのだろう

いつまでこうしていられるだろう

配点(アイドル)

 

 

 

 四国。世界側でいうなら未開大陸。

 武蔵が停泊している陸港から伊予の居留地への街道を正純は歩く。

 道中、塩の香りが混じった風が彼女の肌を撫でた。

 

 何故こんなところにいるかというと、父から居留地にいる知人に手紙を渡すよう言われたのだ。関所の前にいるだろうから行って渡してこい、と。

 久し振りの会話が親子らしくない事務的なものだった事に寂しさを感じつつも、正純は了承した。

 断れば更に距離が広がると思ったからだ。

 

 歩きながら正純は以前調べた知識を掘り起こす。

 伊予の居留地は少々特殊な立ち位置なのだ。

 未開拓で不毛な重奏領域が多いので自活が難しく、また聖連のトップである教皇総長がいるK.P.A.Italiaに近い。

 ……聖連寄りだと言われてるよな。

 

 程なくすると関所が見えてきた。

 門の脇には狩衣を着た男性が木製の椅子に腰かけている。

 背もたれのない簡素なものだ。恐らく他から持ち込んだのだろう。

 

 窺っていると、男性と視線が合った。

 

「もしかして正信の使いか?」

「Jud.、父からです」

 

 そう言って手紙を渡す。

 

「……確かに受け取った。正直、余計な真似なんだがな」

 

 と、男性の足下に積っていた砂が風もないのに動き、文字を形作った。

 

『こんにちは』『初めまして』『ハロー』『お嬢ちゃん今暇?』

「……これは?」

「知らないか? 四国に住んでる珪素系の異族だ。聖連は個人ではなく「アボリジニ」という民族単位で襲名させているな。俺は個人的にイバヌマと呼んでるが」

「そうなんですか」

「そうなんだ。えっと……」

 

 自分を見ながら男性が戸惑ったのを感じ、正純はまだ名乗っていない事に気付いた。

 

「アリアダスト教導院二年梅組、本多・正純です」

「…………ああ、梅組か」

 

 ……何だ今の沈黙!

 正純の焦りをよそに男性は「ノブタンの娘だもんなぁ」と呟き、

 

「俺はここの居留地の代表をしている大祝・安舎だ」

 

 居留地の代表と聞いて正純は身を固くした。

 あるいは父が配達を頼んだのは政治家志望の自分への気遣いだったのかもしれない。

 正純が思考を巡らせる中、イバヌマが素早く動いて新たな文字を作った。

 

『違う』『否』『違うよ』『鶴姫』『くれーんぷりんせす』

「鶴姫?」

 

 正純は首を傾げつつ記憶を探る。

 この時代、その名前を持つ人物は複数いるが、四国で鶴姫といえば大三島の鶴姫だろう。

 時折物語の題材にもなっており、正純も子供の頃に彼女が出る本を読んだ覚えがある。

 最近も「極東のジャンヌ・デ・アーク」という神肖戯画(テレビアニメ)が放送している。

 ……しかし、何故この場でその名前が出る?

 

 一方の男性はばつが悪そうな顔で視線を落とした。

 

「……余計な事を言うんじゃない」

『伊太利亜』『愛蘭』『独逸』『鶴姫』『墨西哥』

「……今更か。言ってどうこうなる連中じゃなかった」

 

 男性は不本意ながらも納得したようだったが、正純は困惑を深める。

 

「あの、どういう事なんですか? 鶴姫って……」

 

 あー、と男性は頭を掻き、

 

「本多君は武蔵生まれじゃないな?」

「あ、Jud.、三河の生まれで、武蔵には今年から」

「だよな。……まあいいや、どうせ遅いか早いかの違いだ。武蔵の連中は大体知っている事だし」

 

 男性は体を僅かに浮かして椅子に座り直す。

 

「昔、居留地への支援と引き換えに対西班牙戦に駆り出されたんだ。一種の傭兵だな。本来は妹が鶴姫を襲名して派遣される予定だったが、直前のトラブルで俺が襲名した。教皇総長も既に実績があった俺の方が良かったみたいだ。場合によっては性別の違いを理由に歴史再現をやり直せるし」

 

 ただ、と鶴姫は脱力を滲ませながら続ける。

 

「連絡ミスで一般生徒には妹が来ると思っていたらしい。しかもうちの一部の馬鹿が「外貨獲得だぁ!」とか抜かしながら妹の写真集を売ってたからな。買う方も買う方でフライングで同人誌作ってる奴等もいたし。性格や一人称が違うどころじゃないぞ」

『触手』『百合』『凌辱』『クロスオーバー』

「味方のK.P.A.Italiaや六護式仏蘭西勢はおろか、三征西班牙の連中までがっかりしてて……挙句偽物扱いだ。撃退した筈なのに何だか負けた気分だった」

 

 ……実は武蔵だけじゃなくて世界規模でそんな感じなのだろうか。

 

「聖譜記述では戦いの後で鶴姫は入水自殺する事になっていたが、向こうはまだ俺の力を有用だと判断したらしく、解釈が認められた。俺が契約しているオオヤマツミは海神でもあったから、その加護を利用して三十分ほど海に浸かり、それを入水自殺の解釈としたんだ。……先程の偽物説と合わせて本物が自殺したと思われた時は否定を放棄したが」

 

 話が進むたびに鶴姫はテンションを下げていく。

 

「……悲劇的な最期、という認識が広がったせいで今でも創作分野で人気あるのは流石に頭を抱えたな。真相知っている筈の奴等もしっかり同人誌作ってるし」

『最近』『流行』『トレンド』『女性化』『カップリング』『義頼』『異世界召喚』『反逆』『ハーレム』『新作』『エロゲ』『戦乱の姫巫女』『初回盤』『予約受付中』『だよ』

「まあ、うちの連中に限ってはある程度許容してやりたくもなるんだがな。色々閉塞感抱えてるだろうし、息抜きになるなら――現実が思い通りにいかなくても想像なら自由だ」

「……やっぱり、極東に生まれると多くを諦めないといけないんでしょうか?」

 

 不躾だと理解しながらも思わず問いかけていた。

 副会長になって半ば物置になっている生徒会室を見た時、正純は失望を抱いた。

 しかし、それが今の極東の現状なのだとあっさり受け入れる自分もいた。

 

 だからこそ、他人が現況をどう思っているのか知りたかったのだ。

 

「……」

 

 鶴姫は顎に手を当てて幾らか思案し、

 

「こんな場所に押し込めた聖連への憤りもあれば、曲がりなりにも彼等の支援で生活出来たという事実もある」

 

 外に広がる乾燥した無人の荒野に視線を送り、力なく息を漏らす。

 

「難しいよなぁ。重奏統合争乱終結から既に百六十年。今生きてる極東人は居留地生まれだ。根幹の部分で支配されているのが当たり前になってるかもしれない。それでも、不自由は感じるし、そういう意味では松平には期待してる。うちはどっちかというと西軍寄りだし、末世もあるが」

「それは――」

「……ちょっと待ってくれ」

 

 突然鶴姫が正純を制止した。その理由は明白。

 鶴姫の視線はイバヌマに向いていた。

 

『非常事態』『ワーニング』『品川』『喧嘩』

「武蔵が来ると騒ぎが起きやすいから目を光らせてたが、案の定か。何が原因だ?」

『決闘』『聖戦』『浅間様が射てる』『ヒロイン論争』『攻め受け』

「……仲裁する気なくすなー。止めるけどさ」

『Jud.』『出陣』『ゴーアヘッド』『ヒャッハー』

 

 不意に、正純は肌に感じる熱が急激に上昇したのを感じた。

 足下の空気が揺らぎ、猛火が生まれる。

 炎は竜のようにうねって鶴姫の体に巻きつき、先端が鶴姫の顔の横で止まる。

 

「すまないが本多君。俺はこれで」

 

 鶴姫は手短に告げ、武蔵の方へ駆ける。

 

「……私も帰るか」

 

 手紙を渡した以上、正純も留まる意味はない。

 結局、望んだ回答が得られたとは言い難かったが、これまでの人生で思い通りになった事の方が少ないのだ。

 なかなか上手くいかないなと苦笑して正純は帰途につく。

 

 

 

 

 

名:大祝・鶴姫

属:伊予居留地

役:大山祇神社宮司

種:全方位神奏術師

特:同人界の偶像




「史実の男性を襲名した女性キャラは多いけど、その逆はないな。ノリキは未遂だし」「ワムナビの遣いー! 早く来てくれー!」「(アニメを見つつ)え、四国にも居留地あるんだ」
これらの気持ちが融合して爆誕。
正純出したのは割とノリ。本編前だからまだ色々吹っ切れてないね。
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