シンフォギアの世界に転生し……って、こいつかよ!? 作:ボーイS
「……脳波に異常なし。意識レベル正常。脈拍、心音共に正常」
「……聖遺物の活性化の兆候は軽微」
「……非検体に異常無し」
「……『アガートラーム』並びに『イガリマ』『シュルシャガナ』『ガングニール』に目立った反応はありません」
「分かりました。テストを終了してください。君は次の子を連れて来てもらえますか?」
「了解しましたドクター」
男性研究員が僕の一言で次のレセプターチルドレンを連れにこの沢山の機械に囲まれた部屋から出ていく。その間、強化ガラス一枚で隔たれた向こうの部屋では四種類のシンフォギアペンダントが台座の上に置かれており、その前には頭に脳波を計測するためのヘッドギアや脈拍を計測するためのリストバンドやら沢山の機器を身体につけたレセプターチルドレンの子が立っている。先の他の研究員の知らせの通り目立った不調は見られないのが幸いかな。
今日は定期的に行われているシンフォギアの適正審査の日だ。
まだ翼さんしかシンフォギアに適合していないため比較することが出来ない。そのためレセプターチルドレンのような身寄りの無い子から一人一人手探りで探している状態だ。
身体のコンディションや精神状態、そして身体の成長具合によって適合率に影響したりするらしいのですが、やはりそこには個人差があるのでいつどのタイミングで装者になれるほど成長しているのか分からない。それを確認するための審査だ。
実際映し出されたグラフを見れば今審査した子は前回の審査よりもイガリマへの適性が少し上がっていた。まぁ、もちろん装者になれるレベルにはほど遠いですがね。
ああ、あとガングニールに関しては先々月くらいに日本で開発されましたが、発見された聖遺物の欠片的に二つ作れたようで、その一つをフィーネが秘密裏にF.I.S.に流してきました。日本政府の記録もガングニールは一つだけのようです。手が早いなフィーネ。
「ドクター。今日はあと二人で終了です」
「おや、もうそんなに経ちましたか」
時計を見れば既に夕飯時を大きくまわっていました。やはり研究している時のウェルは時間の感覚がおかしいですねぇ。
「あと二人は誰ですか?」
「マリアちゃんとセレナちゃんです」
「ああ、あの子たちですか」
研究員の言葉に少し不安になってしまう。
セレナちゃんはもうすぐ十一歳になる。という事はだ、そろそろアガートラームを纏えてしまうという事になる。そうでなければ原作に繋がらないのだ。
(確かセレナちゃんは十三歳でネフィリムの暴走を止める為に絶唱を使って死亡する。十三歳になっていつかは分かりませんが、あと二、三年で事は起きるという事。そう考えればそろそろのはずですが……)
ネフィリムに関して先に手を回そうと考えているのですが、実はまだネフィリムが見つかっていないんです。この時点でネフィリムに関しての情報を上に伝える事なんて逆に怪しまれるだけなので出来るはずもなく、ネフィリムが手に入ったという情報待ちなのですが、それが遅れれば遅れるほどあの日を回避出来る可能性が低くなってしまう。
と色々厄介事がありますが、セレナちゃんがアガートラームを纏うという事はそれだけ原作の流れに乗っている事となり、そしてネフィリムとの戦いも近いという事になるんですよ。
(セレナちゃんを生き残らせるためにはネフィリムをなんとかしないといけないのは必須。でも見つからなければ待つしか出来ないのは歯痒いものですねぇ)
色々後回しにしないといけない事が多すぎて最近はお菓子しか喉を通りませんよ……いつもの事か。
「マリアちゃんの準備が出来ました」
「ん。分かりました。開始してください」
僕の合図で機械が起動。そこからモニターに映し出されたさまざまなグラフが不規則に動いたりして今のマリアちゃんのシンフォギアへの適性が表示される。まぁ結果は分かっているんだけどね。
「イガリマ、シュルシャガナへの適性は依然無し。ですがアガートラームへの適性が少し上昇しているようですねぇ。リンカーを投与すればあるいは」
「はい。ガングニールもリンカーの規定値に近いようですが」
「んーそちらの方はリンカーの投与量を増やさねばならないのでなんとも言えませんねぇ」
(リンカーを大量に投与すればあるいは、というレベルですね。そんな事しませんが)
いやぁ、前からある程度の適性あるならリンカーを投与すれば装者になれるんじゃ?と思ってましたがそんな甘い事はありませんでしたよ。もはやあれは薬じゃなくて毒ですね。
あれは確かマリアちゃんたち最初のレセプターチルドレンが連れてこられて間も無くしての事でした。
本当の実験としての最初の数人は思ってた通り適合率が足りなかったのですが、ある日フィーネがリンカーを開発して持ってきました。
リンカーの実験も兼ねて完全に使い捨てる為に一人の男の子が選ばれました。その子は親に捨てられてまだ十にもならないままストリートチルドレンとして貧しい暮らしをしていましたが必死に生きていたらしく、その子と同郷の子からは兄のように慕われていてらしい。
ですがその子にリンカーを使って実験したところ適合率が上がり、そのまま適合率が規定値になるまで投与し続けた結果、なんとシュルシャガナを纏う事に成功しました。
その時は多分ウェルの部分が出て来たのでしょう。存外早かったな、と思う部分がありましたが装者が見つかった事にその場にいた研究員は子供のように喜びましたよ。
しかし喜んだのも束の間、シュルシャガナを纏う事に成功した男の子は纏って数秒後に苦しみ出し、そして絶叫を上げて助けを求めながら身体の穴という穴から血が流れて死亡したのです。その光景を思い出すだけで……
(ああ、やっぱりウェルの方に頭が持ってかれますねぇ。
さらっと軽い感じで言いましたがあの光景は僕に強いトラウマを刻ませるものでした。ですがそうなる前にウェルの頭に切り変わり、男の子がそうなった理由をすぐ考え出したのです。
恐怖を感じる瞬間でしたよ。普通の人間なら絶対トラウマを刻まれますし、実際ショックで研究員を辞めた人もいるレベルのものでした。なのにウェルの頭に変わったらそんなトラウマレベルの出来事があれは実際のものではなく、まるでTVのワンシーンのような気分でした。「気持ち悪いけどTVのワンシーンだから観れる」そんな感じですかね。でなければ前世の僕のままの精神なら自殺ものですよ、あれは。
まぁそんな事もあったのですが、その時の悲惨な光景と僕の改革も合わさってレセプターチルドレンにそんな無理な実験をする輩はいなくなり、リンカー投与もまずは無しで確認してから、次に投与しても大丈夫なのか計算しながらと投与して人体に影響が少ないように細心の注意をしながらの実験になっています。
それでもやはり個人差はあるので規定値を超えて少々身体に異常をきたす子が出てきてしまうのですが、今のところ後遺症が残ったり死亡した子はいません。
(たまに秘密裏に無理矢理リンカーを多く投与しての実験を行おうとする輩もいますが、その人は翌日この研究所からいなくなっているのは不思議ですねぇ?ふふふ……)
おっとマッドな部分が出てきましたね。注意注意。
「取り敢えず、マリアはアガートラームと一応ガングニールの適正有りと記録してください」
「分かりました」
「よろしい。ではテストを終了してください。……出来るのならガングニールの事は話さない方が良いですかねぇ」
最近マリアちゃんも僕の研究に凄く協力的でとても助かってはいるものの、シンフォギアに関してはまだまだ至らない部分が多く、何が原因で後遺症や死亡に繋がるか分からない。原作でも沢山の犠牲者が出た、という程度で実験の途中経過は全然分からないからこの辺りもまだまだ手探り状態。そんな状態でマリアちゃんに無理なんてさせたくはないのですが……
「ですがマリアちゃんもセレナちゃんもドクターの助けになりたいから頑張っているのですよ。それを無下にするのは……」
「その結果マリアに何かあればどうするつもりです?多少の怪我なら良いかもしれませんが、今後に関わるような後遺症や死亡なんて事になったら僕は自分を許せません」
本来のウェル博士ならともかく、今のジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスである僕はあまりにも今のマリアちゃんたちに関わりすぎている。これで情が湧かない奴はそれこそ悪魔と言っても過言じゃない。それくらい、今の僕は彼女たちを愛してしまっている。
「マリアだけではありません。セレナや切歌、調たちレセプターチルドレンが元気でいられるのなら、僕の事を嫌いになっても構いません。生きているだけで、なんて言うのは嘘です。沢山の仲間を作り、沢山の思い出を作り、仲間と夢を目指し、そして元気に生きていて欲しいのが僕の想いですよ。間違っていますか?」
考えが甘いのは十分分かってる。ましてやこの世界はモブに厳しい世界と言われるくらい、人間の命が失われる。それも何も遺していけない灰にだ。まだ身体が残ったまま死ねるのは、もしかしたら良い死に方の部類なのかもしれない。
それでも、知らない人が不幸になるよりも自分の知っている人が幸せになって欲しいと願うのは間違った事なのだろうか?
僕はチート主人公でもないし、全員助ける確実な方法がないのなら大切な人たちを選び、知らない人を殺す選択をする。その結果大切な人に嫌われる事になっても。
この考えは、歪んだ考えなのだろうか?
「……そうですね。誰しも親しい人には元気でいてもらいたいものですからね」
「はい。だからマリアには無理をしてほしくないのですよ」
「ドクターはマリアちゃんたちに甘いですね」
「ははは。かもしれませんねぇ」
部屋内にいる研究員の空気が和む。みんな上司である僕を恐れて隠れて笑いを抑える……なんて事をするそぶりすらなく、むしろ僕に見えやすいように笑みを浮かべる者もいる。
「はっはっはぁ!ドクターは本当にお人好しというか何というか」
「非合法的なやり方で集められた子たちに非人道的な実験をしているというのにここまで愛情を持って接せられるドクターも変わり者ですな」
「ですな!しかしあそこまで愛されるのも事実」
「頭もよくて優しくて子供に好かれ、そして顔も良いとは!何故こんな所にいるのか不思議ですね」
おおう。なんか予想以上にみんなのウェルへの印象が良いな?てか頭顔も良くて優しくて子供に好かれるとか何処のイケメンだよ。どう考えてもラノベとかの主人公じゃないか。
まぁ実際、前世での僕は特に悪い事をした事もないし、何処にでもいる一般人的だったからその精神とウェルの天才的頭脳とイケメンな顔がカオスフュージョンして出来たのが僕だからね。バグな結果が今の僕のようなものか。
「もしマリアちゃんやセレナちゃんが彼氏を紹介するなんて事になったらもう──」
「は?マリアとセレナが誰かと付き合う?ちょっとその男を連れてきてもらおうか」
「い、いえ!もしもの話でして……」
「ああ。もしもですか」
思わずドスの効いた声が出てみんなビビってしまいましたが、もしもの話だと効いて安堵する。いけませんね。あの子たちの事になると冷静になれない僕がいます。あんな良い子たちを射止めるとはさぞかし良い男なのでしょうが僕自身の目で見定めなければ認めるつもりはないね!
「マリアは料理も出来ますし、気配りの出来る良い子です。セレナの姉という事もあって他の子たちよりも一段と大人びています。それに加えて美人とくれば彼女に言いよる男もさぞかし多いでしょう。ですが僕が認めた相手ではない限り付き合う事は許しませんね」
元から二人とも、いや切歌ちゃんや調ちゃんも美人で良い子になると知ってるから余計にただのモブに簡単に渡す気はないね。ちゃんと二人の気持ちを確かめ合って……なんか面倒な父親みたいになってますね。僕。
「……あ」
僕が言い切るのと同時に先程までモニターを確認していた研究員の一人が固まる。何か問題でもあったのでしょうか?
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、その…………マイクを切っていませんでした」
「え……」
その言葉に僕はゆっくりと強化ガラスの先にある部屋にいるマリアに目を向ける。そこには顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら嬉しいような恥ずかしいような、感情がごちゃ混ぜになって面白い顔になったマリアがガラス越しの僕を涙目で睨んでいた。
『ッ────バカ!』
それだけ言い残してマリアは走り出して部屋から出て行ってしまう。付き添いとして部屋にいた研究員も出て行ったマリアと僕を交互に見てあわあわと焦っていた。
「ん────────────────────……秘蔵のプリンで許してくれますかね?」
「「「「「正直に謝ってあげてください」」」」」
「はい……」
こういう時はウェル博士の頭に切り替わってくれないんですね!分かっていましたが!!!
「で、では次に行きましょうか」
「「「「「(逃げたな)」」」」」
ああ!みんな声出してないのに「逃げたな」って思ってるのが分かるうううぅぅぅ!!!こぉれは恥ずかしいぃ!穴があったら入りたい!
何処かに頭をぶつけたい衝動に駆られながらも次の被験者であるセレナが入室し、中の研究員に身体に様々な機器を取り付けてもらっていく。その間終始僕に向けて笑顔でジッと見つめているのが何故か怖かった。天使のような悪魔の笑顔とはこの事か。
「んん。それでは開始してください」
「「「「「分かりました」」」」」
さっきまでの軽い雰囲気から急に空気が変わり、みんなの顔が真剣なものとなる。流石はプロだ。その辺のスイッチの切り替えは早い。まぁ、シンフォギアの起動実験というのは細心の注意をするもののためそれは当たり前な事なんですがね。
「……脳波に異常なし。意識レベル正常。心音共に正常。脈拍は若干早め」
「……『イガリマ』『シュルシャガナ』『ガングニール』、全て反応は微弱」
(ここまではいつも通り)
セレナちゃんは元からアガートラームの適性は高かったんですが、実は意外な事にマリアちゃんより若干高い程度でリンカーが必要なレベルだったんですよ。
リンカー無しの完全適合には無理があるくらいでした。ですが原作やゲームではセレナちゃんはアガートラームの完全適合者のはず。もしかしたら僕のせいで何か致命的に原作との乖離が……
『あの、すみません……』
「ん?身体の調子でも悪くなりましたか?」
『あ、違います!その……歌が聞こえてくるんです』
セレナの言葉に研究員全員の頭の上に?が浮かぶ。
普通であればみんなが真剣に行なっている実験中になにをふざけた事をと思うのが一般的だ。だが僕は皆と違ってシンフォギアというものをよく知っている。だからセレナちゃんの言葉の意味が良く分かる。
「──セレナ、その歌を気持ちのまま歌い上げてください」
『え?わ、分かりました』
僕の言葉にセレナちゃんは一瞬困惑しましたがすぐさま落ち着くために深呼吸して、一拍置いてから口を開いた。
──
セレナちゃんの綺麗な声から発せられた短い歌はガラス越しの僕の耳まで届く。その瞬間、セレナちゃんの身体とアガートラームのギアペンダントが白銀の光を放ち始めた。
「こ、これは!?アガートラームの適性率が上昇中!!??」
「脳波、意識、脈拍全て正常!バイタルに変化ありません!」
「な、フォニックゲインが急激に高まっています!!!」
みんな腰を浮かせる程の驚き、目の前の光景とモニターを交互に見ては絶句する。かくいう僕も歴史的な瞬間に立ち会えてテンションが天井を天元突破していた。
そしてほんの僅かな発光の後、白銀の光は徐々に収まっていき、最後には完全に消え去った。そして残ったのは。
『な、なんですか、これ?』
アニメのワンシーンで、そしてゲームでは何度も見たアガートラームを纏ったセレナちゃんを少し幼くした姿がそこにはあった。
作者は!もっとギャグ路線の!!話を書きたいんだよ!!!
でも今後の展開もギャグ要素ががが……
何故セレナちゃんの適合率が急に上がったのか。それは嫉妬から自分が相手へ向ける気持ちに気づいたからなんですよ……シンフォギアは愛の物語ですからねぇ!