シンフォギアの世界に転生し……って、こいつかよ!? 作:ボーイS
輸送機に揺られて数時間。
僕と同僚たちは無事日本に辿り着きそのまま即移動を開始。そして目的地であるあのライブ会場まで余裕を持って到着しました。スマホ的なデバイスは結構ハイテクなものになってるのに車とかその他の製品は特に進歩していなくて結構前世と似ていてビックリしたような安心したような……
道中何かしらイベントがあるかなーと思っていましたが特に何もなく、数時間とはいえとても平和な時間を過ごせましたよ。マリアちゃんたちと会えなくて少し寂しいですが、久しぶりにゆっくり出来る時間が来て手持ち無沙汰です。
(まぁ、ゆっくり出来るのは今だけですが)
僕たちが持ってきた機材の中には奏さん専用に調整されたリンカーがあります。それをいかに上手く、そして自然に奏さんに投与出来るか。それは実は言うとまだ何にも思いついておりません!
強いて言うなら奏さんがシンフォギアを纏った直後くらいなら良いのですがね。それなら絶唱を使わずに翼さんと戦ってなんとかなる可能性は高いです。
……こればかりはまだ色々情報も足りませんしその時にならねば分かりませんね。最悪アニメ通り奏さんにはお亡くなりになってもらうしかありませんが……出来るなら救いたいものです。
「ドクター。あの方たちでは」
「ん?」
まだ準備途中のライブ会場の廊下で後ろを歩いていた今回のチームの研究員の一人が廊下の先の少し広がった休憩スペースのような場所で立っている二人の人影を指を指します。人に指を指すのはやめなさいな。
「はぁい。元気にしてた?ドクター」
「ええ。おかげさまで。そちらも元気そうで何よりですよ。Ms.櫻井」
一人はもう顔を見るだけでウェル博士に切り替わってしまいそうなほど嫌いな櫻井了子ことフィーネです。ニコニコ笑って手を振っていますがこれから起こる事を考えると「今始末するべきでは?」と思ってしまいますが、そうなった場合ビッキーの説得もされていない状態で調ちゃん又は他のレセプターチルドレンの子たちの誰かに憑依してしまうため出来ません。命拾いしたなフィーネ。
お互いに笑みが張り付いた仮面を被って多分異様な雰囲気があるでしょうが一見友好に見える態度を取って握手をします。ふむ、後でこの手切り落とそうかな。
そしてフィーネの横に立つのは筋骨隆々で赤い髪とシャツの大柄の男性が仁王立ちして立っていた。
「お初にお目にかかります。俺は了子君の……上司になるのか?」
「んー……一応組織の司令になるから上司になるんじゃないかしら?」
「そうか。という事で了子君の上司に当たる風鳴弦十郎です。今日はよろしくお願いします」
アニメの初期からずっと重大な役割を持った作中屈指の大人でありOTONA、風鳴弦十郎その人だった。遠くから来たから良いものの近くで見るとほんと赤い熊ですね。巨大な熊の無駄な脂肪を全部筋肉に変えたのが弦十郎と言われても信じてしまいますよ。
まぁ、取り敢えず隣の女性の顔面に持てる全ての力を込めた全力パンチをお願いできますか?
「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスです。ウェルとお呼びください。それとかしこまらなくても良いですよ」
「む、すまん。あまりこういうのには慣れていなくてな」
「いえいえ。今回は
これは事前にフィーネとの打ち合わせで決めていた言い訳です。
F.I.S.の事はもちろん、公にはガングニールと天羽々斬の二つしかシンフォギアは存在していない。という事になっているので僕たちがその他に四つ、もう一槍のガングニールを合わせたら五つ所持している事は極秘中の極秘なため、僕たちはあくまで「櫻井了子と繋がりのある海外の聖遺物研究者」という立場です。
少し突っつけばボロが出そうな設定ですがそれだけ了子さんを信じているのでしょうね。それでももっと相手の事調べなさいな弦十郎さん。まぁ、今回の情報もF.I.S.のデータベースとかに全て乗るんですがね。その辺りは局長に任せるしかありません。
「早速で悪いが今回の依頼内容や設備の説明をしたいのだが」
「おや、確か実験は一週間後のはずでは?」
「そうなんだが……まぁ、説明するのが早いか」
弦十郎さんが苦笑いを浮かべて言葉を濁しますが意を決したかのように今回の実験の内容を話してくれました。そして話を聞いてからよくよく考えたら僕は前世の記憶があるためこれからツヴァイウィングのライブを利用した完全聖遺物ネフシュタンの鎧の起動実験を行う事を知っていますが、この世界だとまだその話を全く聞いていない事を遅ればせながら気付きました。
でも第三者の目線で考えると中々無茶な実験ですよ。だってこれ、期間は開いていますし、完全聖遺物だと分かってはいるもののネフィリムの時と似ていますからね。弦十郎さんも警戒はしていますがこの実験を安全なものだと思っている雰囲気があります。
あの時もネフィリムは聖遺物の欠片だと油断していました。その結果があの事件です。故に僕のチームの皆はあの時の事を思い出してより一層警戒を強めていますね。
日本政府というか弦十郎さんを信じていない訳ではありませんが、確かこの時は特に役に立って無いので過度な期待は厳禁です。
「──以上が今回の実験の内容だ」
「なるほど。ライブを利用してフォニックゲインを高め、ネフシュタンの鎧という聖遺物の起動を」
「ええ。既にフォニックゲインに反応する事は確認済み。今度のライブでフォニックゲインを高めれば未覚醒のネフシュタンの鎧が起動する可能性が高いのよ」
「そんな簡単に上げられるものなんですかねぇ」
成功すると知ってはいますが念のためここは本当に成功するのか疑うフリをします。ここで簡単に「成功します」なんて言えば不自然ですからね。目の前に厄介な存在がいるので下手な事が言えません。
取り敢えず成功させようとするけど疑っているように見えていれば上出来ですかね。一般的な意見に見えそうですし。
「そこはアタシらの腕の見せどころさ」
弦十郎さんと憎っくきフィーネと話していると通路の先から声が聞こえてそちらの方に目を向けます。そこには長く赤い髪をした活発そうな少女がこちらに近づいて──。
(天羽奏来たあああぁぁぁ(゚∀゚)!!!)
おっとテンションが上がってしまいましたね。失礼失礼。
でも目の前にあの天羽奏が現れたんですよ?アニメ第一話以降まともな出番は無く、あっても五分もない短い時間、しかも重要な場面のみ。
ゲームなら結構いろんな所で活躍がありましたが、こうやって生の天羽奏を見られるのは貴重ですよ!
……おや。奏さんの後ろに見覚えのある青く長い髪が。
「ほ〜ら。翼も挨拶しな」
「あ、ちょっと奏!」
奏さんの影に隠れていたもう一人の少女が奏さんに手を掴まれてオロオロしながら前に出てきます。オロオロ具合がまだちょっと昔のセレナちゃんを思い出しますね。まだ周りを信じ切れていなかった頃です。懐かしいですねぇ。
「えっと……風鳴、翼……です……」
そう簡単に自己紹介をした後、秒で奏さんの背中に隠れてしまいます。そして奏さんの背中から顔だけ出して僕の顔色を伺っては再び奏さんの背中に隠れるを繰り返しています。
んー……誰これ?
いや、うん。見間違うはずが無いくらい僕の記憶の中の風鳴翼と姿は一致していますよ。本人だから当たり前なんですがね。でもね、でもね。
(しおらしすぎじゃありませんかねぇ???)
こう、小動物みたいに僕を怖がって奏さんの背中に隠れながら服の袖をギュッと握って……え、何この娘可愛いすぎじゃありません?狙ってやっているのなら天性の小悪魔ですが、そうじゃなくても庇護欲というか、昔のマリアちゃんたちとは別で守ってあげたくなるんですけど。これがあの悪即斬みたいな防人になるんですか?そんなぁ……。
「んん。風鳴、ですか」
「ああ。俺の姪だ。少し人見知りなところがあるが……悪い娘では無いんだ。気分を害してしまったのなら申し訳ない」
「いえいえ。知らない人間がいきなり現れたんですからビックリするのも仕方ありませんよ。お気になさらずに」
「何から何まですまない」
弦十郎さんが軽く頭を下げてきますが特に謝られる事をされた感じはしませんねぇ。むしろ貴重な翼さんの昔を見れた気分で役得ですよ。初めてマリアちゃんたちに会った時以来ですね。久しぶりに転生者である事に感謝したのは。もう八割くらい前世の事忘れていますけど。
しかし……弦十郎にとって翼さんが本当は姪じゃなくて妹なのは知っていますがやはり歳の差があって兄妹には見えませんね。見た目だけなら親戚か親子がしっくり来ますよ。
そう考えたらあのGEDOUはお盛んですね。お国のためとか言っておきながらやる事やってますし。褒められたやり方じゃ無いですけどね。マリアちゃんたちの目に入る前にネフィリムの餌にしてやろうか。ビッキーの腕の代わりにモグモグされてしまえば良いのに。でも何故か生身なのにネフィリムがヤバイ方向に進化しそうで怖いですね。
「この二人が我々が保有するシンフォギアの装者だ」
「おや、それは機密なのでは?」
「これから共に仕事をする間柄だ。それにそちらも知らない訳ではあるまい」
「まぁ、それはそうですよね」
もっと言うと個人的には翼さんが装者になる前から知っていますが、それは今言う必要性はないですね。
それにしてもやはり弦十郎さんはお人好しですね。僕たちが秘匿している装者の事を知っているという事は各国に提示されているシンフォギアの情報以上の事とニ課についても僕たちがある程度把握していると分かっているはず。合法か非合法かも恐らく分かっていないのにこんなにも信用してくれるとは……フィーネ補正高くありませんかねぇ?
「よろしくお願いしますね。天羽さん。風鳴さん」
「よ、よろしくお願いします……」
「任せとけ。って言ってもアタシらは全力で歌うだけだけどな」
自身満々な割には適当ですね。まぁ、奏さんは決して頭が悪い訳ではありませんがどちらかと言うと身体を動かすタイプなので元からそこまで期待はしていませんがね。
それと翼さん?会って間もないというのは分かっていますがもう少し警戒を解いてくれませんかね?マリアちゃんたちのおかげで小さな子供に嫌われる耐性はついていますが貴女くらいの女性に避けられるのは個人的に色々キツイんですよ。こう見えてメンタルは豆腐並みなんですから……。
「さ〜てと。こんな所で長々と話をしている時間は無いわ。一週間なんて長いようで短いんだから早くしないと予定に間に合わないわよ?」
「むっ。そうだな。ウェル博士も後程詳しい実験の内容や予定の打ち合わせをしたいのだが」
「はい。先に建物の構造や機材のある場所を回ってからお伺いしますね」
オメーが元凶だろうが。とツッコミたくなりますがそこはグッと抑えて僕も頷きます。フィーネの近くにいるとボロが出ないようにと神経を使うので中々疲れが溜まります。でもそれを我慢しないと殺されるかもしれないのですよね。ストレスが溜まる一方ですよ。なのでお願いですから弦十郎さん、腰の入った全力の正拳突きをフィーネの顔面に叩き込んでください(切実)。
それから話を一旦切り上げた僕たちは実験場となるライブ会場の裏でノイズに有効打を与えられるかもしれないネフシュタンの鎧の覚醒のための実験に、持てる知識を全て使うつもりで挑む準備を進めていきます。
ウェル博士に引っ張られているのもあって聖遺物の起動実験となるとワクワクとした感情が浮き上がってきます。どうなるのか分かっていてもこのドキドキ感は抑えられませんね。
ツヴァイウィングのお二人の歌もリハーサルの状態でモニター越しにですが聴かせてもらいましたが、やはり生で聞くと迫力が違いますね。世界で人気になるというのも納得の出来る歌でしたよ。僕の場合別の感動がありましたけどね。
それにリハーサルの時点でもネフシュタンの鎧が覚醒には至らないくらいに微弱ではありますが反応しています。本番で全力で歌う二人と観客たちの熱気が合わさったら覚醒するレベルまでフォニックゲインが上昇するのも分かります。
フィーネは目立った行動や何か工作をした形跡はありませんが、ライブの日にあの大事件が起こるのはほぼ確定ですので油断なりません。説得出来れば良いのですが説得できる可能性があまりにも低すぎますし、説得出来る材料も全く足りません。
なにより、この時点のフィーネに僕がこの後の展開を知っていると知られると何をされるか分かりません。殺される可能性も十分ありますがフィーネなら洗脳して自分の命令に思うがままの人形にする可能性もあるので下手に行動できないのが悔しい。
こうして、僕はフィーネを警戒しながら機材のチェックや当日の予定を話し合い、そしてどうやって奏さんにリンカーを投与させるか必死に考えながらこの一週間を日本で暮しました。
そして、物語の始まりの日がやって来る。
翼さんをちょっと乙女というかか弱くしすぎて防人さんと比べると風邪引きそうなくらいの差が……