シンフォギアの世界に転生し……って、こいつかよ!?   作:ボーイS

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原作に第一話に突入!果たしてウェル(オリ)は奏さんを救うことが出来るのか!


二十四話 肝心な時に運が悪いにもほどがありますよねぇ!?

 日本にやって来て一週間が経ちました。

 

 いやぁ、最初は国が違うしお偉い方たちは延々と互いの腹の探り合いをしてそうで想像しただけで吐きそうでしたよ。しかもその中にGEDOUも混じっていると考えるともうどうにでもなれって思いそうでした。下手をすればアダム辺りも一枚噛んでそうですし。

 でも蓋を開けてみれば向こうも僕たちに対して友好的ですし、予想以上に打ち解けあってしまいましたよ。噂によれば少し良い関係になった人もいるようですし。あくまで僕たちは、ですがね。

 とまぁ順調にライブ当日までの間に機材や当日の日程などを詰め込み、万全とも言える体制でその日を迎えました。

 結局奏さんにリンカーを渡す良い口実は思いつきませんでしたがね!

 

(直接渡す事は出来ないでしょうが、その場の雰囲気でなんとかなりますかねぇ……)

 

 もうあと数分でライブが始まってしまう時間まで迫って来ていますが、いまだにまともにここから離れる言い訳すら思いついておりません。

 一応考えたのは、ライブが始まってから僕がネフシュタンの鎧の起動実験している場所から離れて、最初の一曲が終わる前にスタッフ専用の通路を経由してステージの裏手にスタンバイし、ノイズが出始めたら即奏さんに持ってきたリンカーを渡す。という流れです。その際に何故リンカーを持っているのか質問されるでしょうがその場の雰囲気で誤魔化すしかありませんね。頑張れその時の僕。

 とにかく、不確定要素が多い今は最低限の対策をして後は成り行きに任せるしか方法がありません。僕が無理をしてなんとか出来るのなら良いんですがさすがにノイズかフィーネに当たると完全に役立たずですからね。無理してどうにかなる問題かどうかも分かりません。

 

 ネフィリムの時もそうですが、ウェル博士ってネフィリムの細胞取り込まないと戦闘面で役に立ちませんねぇ。まぁ、頭脳以外は一般人ですし。むしろまともに運動もしていないので一般人の平均より体力もありませんし。ギアを纏っていないクリスちゃんと良い勝負かもしれませんねぇ。

 

「何か考え事ですかな、ウェル博士」

 

 ネフシュタンが映し出された大きなモニターがある、実験室から離れたF.I.S.の研究員とニ課所属の研究員の方々が合同で様々な機械を操作している部屋で司令椅子、になるんですかね?の前で立っている弦十郎さんが隣にいる僕に話しかけてきます。椅子の意味無いですよね?

 

「いえ。まだ確定ではありませんが完全聖遺物の起動する瞬間に立ち会える事に感動していたんですよ」

「その割には心ここに在らず、と言った具合だったが?」

 

 意外と鋭いですねこの人。ポーカーフェイスのつもりでいたんですが……あれ、僕って意外と顔に出やすいのですかね?

 ですがこれはチャンスです。

 

「いえですね。実は僕もツヴァイウィングのファンでしてね。時間があれば彼女たちの歌をモニター越しではなく生で聴けるかもしれないと思っていたんですが……」

 

 自分で言っておいて途中で気づきました。この言い訳ダメじゃないですか。

 仮にも僕は派遣されて来た今回の研究員のメンバー、しかもメンバーのリーダーです。トイレで数分離れる事は許されても皆を放っておいて自分だけツヴァイウィングの生歌を聴きに行こうなんて出来るはずがありません。

 それによく考えたらここで離れたら凄く怪しくないですか?別に敵対している訳ではありませんが、ここで僕が席を外したらスパイ工作とかされているように見えなくもありません。緒川さん辺りに尾行されたら気付く自信は存在していませんよ。

 

「ふむ。ならスタッフの通路を使えばステージの裏手に着くぞ」

 

 完全にチャンスを棒に振ってしまい、焦る僕でしたが他ならぬ弦十郎さんが何でもないかのように観に行っても良いと遠回しに許可が出ました。……なんで?

 

「えっと……良いのですか?」

「良いも何も貴方は了子君が信用して連れてきた人だ。信用している部下が信用する人間なら、俺も信用するさ」

(フィーネの補正半端ないな!?)

 

 いや、実際は了子さんの補正ですか。そうだとしても了子さん経由で知り合った赤の他人である僕をそこまで信用しますかね?スパイ工作とかする危険性とか全く考えていませんよ、彼。まぁ、物理的に勝てる要素はありませんけど。

 

「そ、それに!僕も部下を置いて離れるわけには……」

「あ、それには心配及びませんよー」

「今回は日本の方々が協力してくださっているので案外仕事はありませんし」

「ドクターがいなくても問題ありません」

「むしろたまには仕事を忘れて楽しんで来てください」

 

 離れなければならないのに、予想外の弦十郎さんの反応に思わずここに残ろうとする僕でしたが、チームのメンバーたちがこれまた予想外の援護射撃をして来てくれます。ちょっと優秀過ぎやしませんかね?

 

 確かに、皆が言うように今回は日本側主体の起動実験なので僕たちはあくまでサポート。基本的には全てニ課の方々がやってくれますので僕たちの仕事はあまりありません。そんな中でチームのリーダーである僕は一応現場監督的な立ち位置ですが、僕の教育の賜物か弦十郎さんの指示でもみんな素直に聞いているので僕の出番はほとんどありません。

 それにここの避難経路の把握も済んでいるので心配もありません。爆発による崩落の危険性は残っていますが、みんなその時の避難訓練も行っているのであとは彼らの判断のみです。

 ……これ、僕必要でした?

 

「良い部下を持っているではないですか。ウェル博士」

「優秀過ぎて困ったものですよ」

 

 前世が多分ブラックな会社で働いていたはずなのでみんなの気持ちが眩し過ぎますよ。眩し過ぎて本当に行って良いのか迷ってしまいます。ほとんど前世の事を忘れても刻み込まれた社畜根性は中々消えていないんですかね?

 ですがここを離れられる最後のチャンス。時間的にもこれを逃せば絶対に間に合いませんよ。

 

「ここまで言われて時間を取らないのは逆に失礼になりますよ」

「……そうですね。お言葉に甘えますかね。何かあれば連絡を下さい。すぐに駆けつけますので」

「ええ。楽しんで来て下さい」

「ありがとうございます」

 

 男らしい余裕を持った笑みの弦十郎さんに一度お辞儀をしてから部屋を出て急ぎ足で移動します。弦十郎さんは生き残るのは確定として、あの爆発で死人がでない事を祈るばかりです。

 

「……さて、確かこの通路を真っ直ぐ行って左でしたね」

 

 ステージ裏へ続くスタッフ専用通路の場所はちゃんと記憶しています。しかも幸いな事に現在地からさほど遠くありませんしライブが始まる時間もまだ余裕がありますが、アクシデントを考えて余裕を持って行動しませんとね。

 

 ライブ開始までもう五分を切りました。

 時間はギリギリになりそうですが懐にはちゃんと奏さん専用に調整したリンカーもありますし、スタッフ専用の通路を通ればこの速度だと一分ほどでステージ裏にたどり着けるのでまだ余裕はあります。

 

(最良はアニメ無視ですが奏さんがシンフォギアを纏う前に。最低でも奏さんが絶唱を使う前かビッキーの体内にガングニールの欠片が埋め込まれた瞬間にリンカーを渡すのがベストですね)

 

 本当の最高はビッキーの体内にガングニールの欠片が埋め込まれて、そして奏さんが絶唱を使う寸前くらいにリンカーを渡せばアニメの流れを大きく変えずに進める事は出来ますが、その場合万を超える人間が死にますし、何よりあんなノイズだらけの中を上手く回避して近づく自信がありません。どう考えても格好の的ですよ。ボーナスパネルどころか一ポイントになるか分からないくらいのハズレのパネルレベルで僕は弱いので生き残れる自信はこれっぽっちもありませんよ。

 ですがここまで来たのならもう後戻り出来ません。成り行きに任せるしか無いとはいえ、惰性でやるつもりは全くありません。僕がそんな人間ならセレナちゃんも生きてはいないはずですから、ね。

 

「確か次の別れ道を左……なっ!!??」

 

 記憶にある地図を頼りに進み、あとは目の前の別れ道を左に入ればステージ裏にたどり着く通路に入る予定でしたし、弦十郎さんからもその道を使えば良いと言われたのだ何の問題も無いと思っていました。思っていたんですよ。

 

「通行禁止!!??」

 

 デカデカと「通行禁止!」と書かれた紙が貼ってある囲いと警備員が無ければ。

 

「す、すみません!」

「?何でございましょうか?」

「ここを通る事は出来ませんでしょうか!?」

「ごめんなさい。通すなと言われているので残念ながら」

 

 警備員は申し訳なさそうに顔を下げてきますが、目は断固としてここを通すつもりはないと言う目でした。

 おかしい。他ならぬ弦十郎さんがここを通れば良いと言ったのです。それなのに通行禁止になっているのはタイミング的にも明らかにおかしすぎます。

 

「……ちなみに誰に言われたんですか?」

「ああ。櫻井了子さんですよ」

(あの女の仕業かあああぁぁぁ!!!)

 

 最悪な事にステージ裏への一番の近道はフィーネの手によって塞がれていました。

 僕のやろうとしている事をフィーネは知らないはず。仮に知っていたのならもっと早い段階で僕を殺すチャンスはいくらでもあったのにここでアクションを起こすのは少し違和感があります。

 

(…………そうか!ここに爆弾が!)

 

 フィーネがいつ設置したかは分かりませんが通行禁止のエリアの何処かに、ツヴァイウィングが最初の一曲を歌い切った後に起きた爆発の原因の爆弾がここにある可能性が高いです。爆発の威力は分かりませんが、頭の中の地図的にもこの場所付近ならネフシュタンの鎧の起動実験が行われている部屋に近いです。

 

(解除出来ればこれから起こる惨劇を事前に止められるかもしれない。でも)

 

 解除出来たのならばフィーネの計画は大きく狂い、奏さんだけでなく沢山の命を救う事が出来るでしょう。

 ですが残念ながら僕には爆弾を解体する知識はありません。漫画のように赤と青の線のどちらかで、という爆弾の可能性もありますがそんな簡単なものじゃないかもしれません。解除出来ないほど難しい物なら完全に無駄足だし、そもそもここを通る事が出来ない。無理矢理通ったらスパイ判定をもらってしまいますし、何より爆弾がある場所へ行った僕がフィーネに怪しまれてしまいます。

 会場の方もまだ歌は聞こえて来ませんが盛り上がっているのか歓声が聞こえて来ます。時間ももうあまりありません。迷っている暇も無いです。

 

「ッすみませんでした!それでは!」

 

 警備員にそれだけ言い残して僕は急いで一般通路の方に向かって走り、会場に向かいます。今いる階層からは二階席に通じていたはずですが、今から一階席に向かっては間に合いません。こうなったら観客席から奏さんに向かってコントロール皆無の僕の投球センスに任せてリンカーを投げ渡すしか方法がない。ノイズが現れたらそれこそ直接渡す事は不可能だ。

 

(ああくそう!爆発による崩落は頭にあったのに何処に爆弾を設置するのか考えてなかった!油断していないつもりが完全に油断しているではありませんか!)

 

 今更言ってもどうにもならない事ですが自分の不甲斐なさに怒りを覚えます。これじゃぁアニメの知識があっても意味がない。宝の持ち腐れとはこの事ですよ。

 

「ッまずい、ライブが始まったっ!」

 

 まだ通路の途中ですが観客の地面が揺れていると勘違いしてしまうような盛大な合いの手が響いて来ます。それは悲劇へのカウントダウンが始まった事を意味しています。

 

 もっと走りこんでいればよかったと思うくらい、口の中が鉄の味がするくらいに全力で走り、やっと会場の入り口が見えて来ます。焦り過ぎて今自分がどの場所にいるか分かりませんが、早くどうにかして奏さんの元へ行かねばなりません。

 

 ですが、こう言う時に限って嫌な事は重なるものなんですよ。

 やっとの事で会場へ入った僕でしたが、その場所は奏さんと翼さんのいるステージの対角、そして二階席の出入り口でした。つまり。

 

「よりにもよって一番遠い場所ですか!?」

 

 見晴らし的にはとても良いでしょう。かなり遠いですが奏さんと翼さんの歌と踊りを正面から見られるのですからね。でも、今の僕には最悪なほどのハズレを引いた気分ですよ。しかも観客用の移動通路もテンションの上がった人たちで埋め尽くされています。これを掻き分けて進むのは至難の業ですよ。おまけに一曲目のサビに入るところですし!

 でも、ここで僕だけが逃げるわけにはいきません!

 

「すみません!ちょっとどいてもらえませんか!」

 

 至難の業と言っていながら僕は人を掻き分けて少しでも奏さんたちの近くに寄ろうと必死でもがきます。凄く迷惑な目であちこちから見られていますが、今はそんな視線を気にしている場合ではありません。

 

 まずい。ドームが割れて夕陽を背にした奏さんと翼さんが一曲目のラストスパートに入りました。

 焦る僕は必死になって人混みを掻き分けて進み続けますがあまりにもゴールが遠過ぎて最初の位置からドーム半周の四分の一も進まずに曲が終わってしまいます。それは惨劇の始まりを意味していました。

 

「ダメだ、間に合わない!みなさん!早く逃げ──」

 

 ダメ元で周囲に退避するように呼びかけようとしますが、最後まで言い切る前に会場の一階席の一画で大きな爆発が起きます。その付近にいた観客は残念ながら助かる見込みは……。

 

 爆煙が濛々と立ち上がり、爆発した地点を中心に舞い上がった砂煙で視界を悪くします。観客たちも何が起こったのか分からずに静かになりました。それに不自然に()が空を舞っています。

 僕には分かりますよ。分かっているからこそネフィリムの時にも感じた、自分の命の危険が迫っているというのを知らせるように強い悪寒を感じるんですよ……っ!

 

「ノイズだあああぁぁぁ!!!」

 

 誰かの悲鳴を合図に、地獄のような惨劇の幕が上がってしまった。




フィーネが通行禁止にしたのは偶然です。ほんと運が悪いよねえええぇぇぇ!!!

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