シンフォギアの世界に転生し……って、こいつかよ!? 作:ボーイS
ナスターシャと別れて数分後、僕はニ課所属の黒服の人に車を回してもらって弦十郎さんがいるらしい昨日の事件現場に向かいます。どうやら弦十郎さんも現場の後処理の手伝いをやっているみたいですね。組織の一部とはいえニ課のトップが何をやっているんでしょうかねぇ。まぁ、そんなお人好しというか甘いというか、それが風鳴弦十郎なんですがね。
なんて考えながら待っているとライブ会場に到着しました。
外観は特に大きな異常はありませんが出入り口は厳重に封鎖されており、沢山の警備員や政府関係者らしき人も多々見られます。あんな事があった後なので仕方ない事なんですけどね。
僕は運転手さんに一言お礼を言ってから会場の警備員に事情を話して中に入ります。入り口付近は特に問題はありませんでしたが、ライブをしていた会場に近づけば近づくほどあの爆発の影響か床や壁に大きなヒビや天井が崩落している部分が見られてます。どれだけ爆薬仕込んでいたんですかフィーネ……。
それに加えてこの場では不自然な灰や既に固まって赤黒くなっている部分もあります。大分綺麗にはなっていますが、おそらく今の見た目以上に悲惨な状態だったんでしょうねぇ。
(おっ。早速目標発見っと)
かなり歩いたところで前方に会場の捜査をしているであろう人と話している弦十郎さんがいました。頭に包帯を巻いていますが大丈夫なんですかね?
「む、ウェル博士?」
僕に気がついた弦十郎さんは捜査員らしき人に断りを入れて近寄って来ます。うん。そこまで大きな身長差は無いはずなのにでっかい赤い壁が近づいて来るみたいな圧迫がパないですね。
「こんにちは司令さん。頭の怪我は?」
「ああ。特に異常は無いが少々切ってしまっているようでな。医者が念のためにと巻いている。もう塞がってはいるんだがな」
んー多分昨日怪我したはずだと思うんですがなんでもう塞がってるんですかね?……深く考えてはいけませんね。うん。
「それで、被害の方は」
「……まだ、調査中だ」
若干目を逸らして言葉を濁している様子から多分おおよその被害は分かっていそうですね。それを口にしないという事はそれだけ被害が大きいんでしょうね。
アニメでの死者の詳しい数字は忘れていて分かりませんが、確か一万人を超えていたはず。そこからマリアちゃんたちの加勢で多少は減ったでしょうが、それは僕が知る元の世界のアニメの中の死者数であってこの世界では現実で、仮に半分の死者だったとしても沢山の人が亡くなった事には変わりません。
(まぁ、死者の数を「数字」として見てしまっている時点で僕も相当毒されてきてますかね)
これからもっと沢山の人が死ぬんだからこれくらい、と思っている僕がいるのは事実です。描写が少ないだけでアニメではこの数十倍以上の人間が亡くなっているでしょう。その中のたかが一万人、と思ってしまっている自分を殴りたくなりますよ。
「……ありがとう」
ちょっと考え事をしていると弦十郎さんが頭を下げてお礼を言ってきます。はて、僕何かしましたっけ?
「博士の部下たちの迅速な避難行動と誘導、救助活動によって重傷者はいるがニ課での死者は少ない。観客の避難も滞りなく進められたようだ。ノイズの規模を考えれば被害は多少抑えられたと思っている。それもこれも博士の教えの賜だと」
「……聖遺物の研究をしている以上そういった事態に見舞われるのはよくある事なので」
また知らないうちに僕の株が上がってたようですねぇ。
ネフィリムの件があったので避難訓練は続けさせていましたがまさかこんな場所で役に立っていたなんて……やっていて良かったですよ。
「それと同時にすまない」
「ん?ああ。別にネフシュタンの鎧が奪われたのもノイズが現れたのも全て予測できる事ではありませんのでお気になさらずに」
「いや、それもそうなのだが……」
んん?まだ弦十郎さんの歯切れが悪いですねぇ。被害が出ている以上全て上手く、とは言えませんが起きてしまった事を悔いていても仕方ありません。それに弦十郎さんにはこれからビッキーたちを導いてもらわねばならないのであまり気落ちされても僕が困るんですが。
「さっき博士の部下たちのおかげで被害は抑えられたと言ったが、実はその際、貴方の部下たちがかなりの大きな怪我を負ってしまったんだ」
「……なんですって?」
おっと、予想外の事に声が低くなってしまいました。これではウェル博士のイメージが壊れてしまう。
少し深呼吸して弦十郎さんから詳しく聞けば僕が会場であれこれやっている間にメンバーのみんなは逃げ遅れた観客や爆発で怪我を負ったニ課の研究員たちを必死で救助していたようです。そこはさっき聞いたので想像は出来てました。
ですが爆発の際の火災や天井の崩落から守る為に己の身を犠牲にしてみんな大怪我を負ってしまったようです。しかもネフィリムの時の僕のような回復の余地がある大怪我では無く、四肢を切断しなくてはならないほどなどこれからの生活に支障を来たすレベルの大怪我のようです。
(死んでいないだけで儲けもの、と考えるのは第三者だから言えるものですかね)
後でキチンと話を聞きにいくつもりですが、どうやらメンバーのみんなそこまで悲嘆しているわけでもなく、ナスターシャのように車椅子や義手義足を使ってでもF.I.S.で働くつもりのようですね。
個人的には見知った顔がいなくならないという事で嬉しい反面、給料は良いですが何故こんな命の危険がある職場に残ろうとするのか分かりませんね。まぁ、人の事は言えませんけどね!
「そうですか」
「本当にすまない……」
「いいですよ。これも彼ら自らやった事なんですから。お礼の言葉は嬉しいですが謝罪は彼らの頑張りを無にする事と思ってください」
「すまな、いや、ありがとう」
若干ですが弦十郎さんの強張っていた顔が緩んで幾分か優しい顔つきになりました。ガタイが良くて漢の中の漢なのに心も優しいから余計に守るべき対象の内である僕たちに守られて申し訳ないんでしょうね。でもこれから世界規模の大騒動に巻き込まれるんですからそんなメンタルで本当に大丈夫なんですかね?そっちの方が心配ですよ。
「そういえば、奏さんのご容態は?」
「うむ。少し無理をし過ぎて今は安静にしてはいるが特に目立った異常はまだ確認はされていないな。だが」
おう……なんかすっごい真面目な顔になってただでさえ少し強面な顔が更に怖い顔になってますよ弦十郎さん。なんか下手な事を言えばフィーネより先に弦十郎さんに豚箱送りにされそうな凄みがありますねぇ。
「奏から聞いたのだが、ウェル博士、貴方は何故リンカーを所持していたのだ?」
でーすよねー。そりゃ奏さんから聞きますよねぇ。特に秘密にしてほしいとも言っていませんし。それに
確認されている奏さんの戦闘能力を大きく超えた力。そんな都合の良いものを手に入れる瞬間なんてありませんでした。見た目も変わっていませんですしね。
もしそんな力を手に入れる瞬間があったとすれば僕が奏さんにリンカーを渡した時のみ。
(でも僕も良くわからないんですよねぇ。なんですかあの馬鹿げたパワーアップは。火力のみに限定すれば一撃でもマリアちゃんたちの命に関わるレベルでしたよ……)
ただアームドギアを振るうだけでノイズが面白いくらいあっさり消えていくのですから思わず固まってしまいましたよ。一人だけ無双ゲーやってるようでしたね。むしろノイズが可哀想なくらいでしたよ。
考えられる可能性としては粗悪品とも言えるフィーネ製のリンカーによる適合率の上昇よりも僕の作ったリンカーの方が上昇する適合率の割合が高く、その上昇率の差が今までの奏さんと今回の奏さんの戦闘能力の差を生み出したってところでしょうか。そう考えたらどれだけ適当に作ってるんですかフィーネよ……。
「んん。実はさっき櫻井女史にも話したのですが、ノイズの出現を聞いてライブ会場の方に向かう途中に崩落した瓦礫の間に一人の研究員が巻き込まれていたので、助け出そうとしたんですがリンカーを託されたんですよ」
「む?その時には既に会場にいたのでは?俺の教えた道ならそう時間は掛からんと思うのだが……」
「ああ。貴方に教えられた道は通行止めされていたんですよ。なので遠回りしていたら警報が、ってな訳です」
「……通行止めなんて俺は知らんぞ。知っていたらわざわざ貴方にその道を教えん」
「そうなんですか?」
おほう。また弦十郎さんの目が鋭くなりましてよ。ちょっと戦闘態勢に入ってませんかね?嘘を嘘で固め過ぎて何処が破綻しているのか分からなくなってきているんですが。いえ、大事な研究中にライブを生で見たい、とか教えられた道ではない所を通れば怪しまれるのは重々承知なんですがね。
「……実は会場全ての監視カメラのデータが消されていたらしい。しかも人為的にな。ノイズの現れたタイミングも考慮するとこの件はノイズを操る何かしらの手段を持った者の犯行と考えている」
やっば監視カメラの存在忘れてました。多分フィーネの仕業ですね。監視カメラが作動していなければ好き放題動けますし。だから爆弾を設置したり勝手に通行止めなんて出来たんでしょうね。抜け目ないですが正直今回は助かりました。僕が映っていたら完全に不審者ですからね。
「なら貴方は僕たちの中に犯人がいると?」
「いや、最初はそう思ったがノイズの件は兎も角、ネフシュタンの鎧の強奪のためにあれだけの爆薬を会場に設置する暇は君たちには無かった。前日までの機能していた監視カメラにも爆弾が設置されたと思われるエリアに立ち入った不審者は映っていない。映っていたのは俺や了子君の所属する二課の者とスタッフだけ。だから
「……そうですか」
もう答え言ってるんですがね。犯人の名前言っちゃってるんですがね!それを今言っても僕の立場が危うくなるので何も言えません。推理、サスペンス系の漫画や小説で犯人が分かっているのに主人公と仲良く話している犯人を見ている気分ですよ!そいつが犯人なんだと教えてあげたい!
ですが今フィーネを捕まえようとしても下手したらまだ解析していないネフシュタンの鎧をフィーネが纏ってヤバァイ事になる可能性もなきにしもあらず。解析出来ていない分暴走の恐れもある。
アニメ通りの性能のままなら弦十郎さんが戦えば楽勝でしょうが……今はフィーネ、というより了子さんを仲間と信じている状態ですからねぇ。覚悟も無く対峙したら迷いに迷いまくってあっさり負けてしまう可能性もあります。そうなったら詰みですよ。
(結局ビッキー頼りか。まったく情けないなぁ、僕は)
これから起こる事を知っているのにどうにか出来る術がありません。なにせ僕はまだただのちょっと頭の良い研究者なんですから。戦闘能力なんて皆無です。
それから弦十郎さんから教えられる範囲の今回の詳しい被害状況や怪我をしたメンバーの所在などを聞いて僕もお見舞い代わりに彼らに会いに行こうと弦十郎さんと別れます。彼も忙しいですからね。僕ばかりにかまけている暇はないはずです。
ですが、これだけは言っておかねば。
「司令さん」
「なんですかウェル博士?」
「……今回はニ課の装者とあの謎の装者たちのおかげで被害は、不謹慎ですが、あれだけで済みました。しかし、生存者の今後はどうなるか分かりません。それを視野にいれておいてください」
「……分かった。肝に銘じておこう」
それだけ言って今度こそ僕と弦十郎さんは別れます。
これで弦十郎さんも今後起こる生存者バッシングの事を考えてくれるでしょう。あとの事は彼に任せます。というより日本を離れる僕には何も出来ませんしね。
(でも、マリアちゃんたちのおかげで死者はある程度抑えられたはず。そう悪い事にはならないでしょう)
死んでいった者たちの冥福を祈りながら僕はライブ会場を後にし、その数日後F.I.S.に帰還しました。
後日談と言うほどでもないですが、僕はF.I.S.に帰還後マリアちゃんたちに約束していた通り少し長めの説教をしました。
本当は許してあげたいんですがね。マリアちゃんたちのおかげで沢山の命が救われたので怒るのも可哀想だとは分かってはいるんですが、約束を破った事には変わりませんからね。その辺りはキッチリしないと今後の彼女たちの成長に支障をきたすかもしれませんし。大人としてガツンと言ってやりましたよ。
ですがその割にはマリアちゃんたちは少し嬉しそうにしていました。その理由を聞いたら初めて僕が彼女たちを叱ったからですって。
たしかに、叱るのはナスターシャや他の研究員の役目であって僕は基本的にマリアちゃん達レセプターチルドレンを甘やかしていましたからね。僕が怒るのは彼女たちにしたら新鮮だったようです。
完全に毒気を抜かれた僕は軽い罰と思って「一週間僕の部屋に立ち入り禁止」と命じました。僕の部屋に来る理由なんて遊んでほしいだけでしょうからね。特になんの問題もないでしょう。
……と思っていたら四人ともまるで示し合わせたかのように同時にどこで習ったんだ!?と思うレベルの綺麗な土下座をして。
「「「「ごめんなさい(デス)」」」」
と謝られました。
……何故?
ウェル(オリ)よ、もう少しマリアちゃんの事を分かってあげなよ……