あなたは転生者だ。
目を閉じて、開いてみればのんのんびよりの世界に転生して【少女/少年】になっていた。
あなたの隣の家には、あなたと同い年の少女が住んでいる。
名を宮内れんげという。
その銀髪ツインテールの少女の家でいつものように遊んでいたあなたは、ふと三角形に指を入れたくなった。
「■■ちゃん、人差し指からはビームはでないのん」
宮内れんげはやれやれと言いたげに首を横に振った。
あなたが△の口元に差し出した人差し指は、れんげの両手に包み込まれるように折り曲げられてしまった。
今日はあなたの負けだった。
◇
翌日、今度は自分の家で遊んでいたあなたは、いいことを思い付いた。
「いいことって何なのん?」
あなたは冷蔵庫の中からハチミツを取ってきて、それを指に塗りたくってかられんげに差し出した。
れんげは首を横に振った。
「分かってないんな。ハチミツはパンに付けて食べるのが通なのん」
何処からともなく食パンを取り出したれんげは、あなたの指を食パンに突き刺した。
「もごにょ、もごのん、もごもごなんなー」
口の中にパンを詰め込んでもごもごと、何を喋っているのか分からない。
今日もあなたの負けだった。
◇
通学バスの待ち時間。
暇を持て余したあなたは、いつものように人差し指をれんげに差し出した。
れんげはあなたと同じように一本の指を立てて、あなたの人差し指をパシッと叩いた。
「しょうがないのんな。後攻は譲ってあげるのん」
指で数字を足していくゲームが始まった。
ターン制で指の数字を足していき、指が5本になってしまったら負けのゲームだ。
「これ後攻が絶対に勝つゲームなのんに……」
れんげが気の毒そうな顔をあなたに向けてくる。
あなたは負けてしまった。
◇
学校の休み時間。
いつものように、あなたは人差し指を差し出した。
「じゃあウチから行くのん。あっち向いて、ほい!」
あなたはまたもや負けてしまった。
◇
あなたは毎日のように勝負を挑んだ。
晴れの日。雨の日。曇りの日。雪の日も宮内れんげと勝負をして、毎日のように黒星を増やしていった。
◇
ある日。
あなたはいつものようにバス停でバスを待っていたが、宮内れんげが来なかった。
あなたは先に学校へ行った。
その日、宮内れんげは登校してこなかった。
「交通事故なんだって」
あなたは病院へ走っていた。
「打ち所が悪かったのか、ずっと目を覚まさないみたい」
◇
病室のベッドで宮内れんげは静かに寝息を立てていた。
穏やかな寝顔だった。
「折角来てくれたのに、ごめんよ。れんちょんにウチのお寝坊癖が移ったみたいで。ずっと起きなくて……」
れんげの姉が泣いていた。れんげの家族みんなが、悲しそうに涙を流していた。
あなたは一言だけ挨拶させて欲しいと頼んだ。
「……そうだね、れんちょんに何か言ってあげて」
あなたはれんげの家族にお礼を言った。
れんげのベッドまで行って、いつものように人差し指を立てようとしたが、上手く指が立てられない。
指が震えていた。
あなたは目を閉じて、深呼吸をした。
れんげと毎日のように繰り広げた勝負の数々が、目蓋の裏側に流れてくる。
色んなことがあった。しかし、まだあなたとれんげの勝負は決着が付いていない。
こんな所では終われない。
震えが止まった。
あなたは△の少し手前に、人差し指をゆっくりと差し出した。
「……!」
指先にぬるっとした感触が帰ってきて、あなたは思わず目を見開いた。
れんげが起き上がって、小さな口であなたの指を咥えている。
「……にゃんぱすー」
目が合った。
△の中は、とても暖かかった。