Re:ゼロから始める異世界生活(ifルート ネム)   作:ネムりん☽︎‪︎.*·̩͙‬

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この物語は Re:ゼロから始める異世界生活の二次創作になります。本編のifルート(双子メイドのラム・レムの妹ネムが加わった物語です。本編に沿って進行していきます。ifルートのため序盤は原作様と同じですが、中盤に連れて大きく変化が出てきますので気長にお楽しみ下さい。原作様のセリフをお借りしています。1部変更あり)



ifルート 〖ネム〗第一章

―物語は腸狩りの襲撃後ロズワール邸にて目覚めたスバルから始まるー

 

第一章【自覚する感情 if 】

 

 

 瞼を開けて最初に飛び込んできたのは、人工的な印象の白い輝きだった。光の向こうには広い天井があり、備え付けの結晶がぼんやり淡く輝いて室内を照らしている。

 寝起きの頭でそれを確認し、スバルの意識はすぐに覚醒する。寝起きの良さは体質だ。

 

「・・・・枕の感触が違ぇな。においと品質が、いつものと桁一つは値段が違う」

 

 スバルは布団の感触を堪能して、ほのかにいい香りがする寝台から上体を起こす。

 一目で上流階級とわかる一室だ。スバルの寝る寝台も、スバルが五人寝ても余裕があるキングサイズ―

二十畳近い広さの部屋に、ででんとベッドだけある妙な間取り。

 

「壁の絵とか調度品が申し訳程度にあるから逆に寂しさが増すな。客室、でいいのか」

 

 完全に覚醒したスバルは、寝台から下りると軽く手足を回して体調を確認する。肩や足回りの状態をその場で確かめ、最後に服をぺろっとめくっておなかに触る。

 

 「お腹の傷・・なーし。打撲はもちろん、切腹痕もなしか。縫い目も残らないとは、この世界の外科は優秀だぜ。俺の大活躍が妄想でなければ、だけど」

 

自らの腹を深々と切り裂かれた記憶と一連の出来事が回想する。

地球の日本国で普通の高校生をやっていたはずのスバルは、突如として異世界に召喚されて死ぬほど―文字通り、何度も死ぬほどの目に遭った。

 こうして今、命を繋いでいられるのはいくつもの奇跡が重なった偶然の産物だ。

 

「それにしても、あれからどんだけ経ってんだか・・時間のわかるもん、ねぇな」

 

きょろきょろと部屋の中を見回すが、カレンダーや時計の類は見当たらない。扉上の黄色に光る結晶が目立つのと、窓の外の暗さから今が夜だと分かったのが新しい情報だ。

 スバルは肩をすくめると、大きく深呼吸をする。そして、

 

「とにかくなんにせよ・・今回は『死に戻り』は回避できたってことだな」

 

出しかねていた結論を口にして、ようやく現実と向き合う覚悟を決めたのだった。

 

 

 

「一回無様に死んで、二回目も果敢に死んで、三回目で犬死して、四回目は死の果てに流れ弾で死亡― 的な展開は避けれたか。もし死んでたらモブ一直線だったぜ、俺」

 

 寝台に体重を預けながら、スバルは指折り自分の死因を数えてげんなりする。

 振り返ると、未遂を含めて刃傷沙汰で死んでばかりだ。しばらくは刃物は見たくもない。

 ともあれ、『死に戻り』を何とか回避して、ようやく時間が経過している。致命傷を負ったはずのスバルがこうして無事でいられるのは、

 

「状況から考えて、あの子・・エミリアの回復魔法、かな?」

 

 脳裏に浮かぶのは、銀髪に紫紺の瞳の美しい少女―エミリアだ。

 腹の傷の治療は、彼女のものと思って間違いないだろう。実際にエミリアに傷を癒して

もらった経験のあるスバルにとって、そう考えるのが自然なことだった。

 そして必然的に、スバルが休まされている客室――この屋敷の持ち主も、エミリアであるとスバルは考える。もっとも、

 

 「屋敷に関しては、ラインハルトの家の可能性もあるけどな。・・それにしても」

 

ちらと部屋の扉に目を向けて、スバルは音沙汰のない状況に不満のため息をつく。

 

 「普通、目覚めたら『起きた?』なんて枕元で看病してくれてた美少女が声をかけてくれるもんだろ。召喚のときも美少女不在だし、召喚ものとしてちょっと不備が目立つぞ・・」

 

 無双もできないし出会いも少ないし、召喚ものとしては落第点だ。

 

「それに、ここまでうごきがないとなると・・・自力で現状確認と洒落こむしかねぇか」

 

 スバルは跳ねるように立ち上がると部屋の扉にてをかける。ひんやりとした空気が開けた戸の向こうから流れ込み、素足が床の冷たさをダイレクトに伝えてきた。

 部屋の外に出ると、広がっていたのは壁や床を暖色系で統一した広い廊下だ。左右、どちらにも長々と通路が続いていて、恐ろしいことに廊下の突き当りが見えない。

 

 「豪邸すぎて、うわぁとしか言えねぇよ。超広いってか広大・・・ん、、あれ人影見えるな」

 

延々と続く廊下の向こうに小柄な人影がポツリと見える。その姿を確認しようと目を凝らすが・・

 

 「あれ、いねぇ。見間違いか・・?」

 

その姿は、ふと消えた。再度、屋敷の探索に試みる。

 素足で廊下をぺたぺたと歩きながら、スバルはその静けさに眉を寄せる。生活音というべきものがまるで聞こえないのだ。

 

「夜だってこと差っ引いても静かすぎんな・・これじゃ、でかい声を出すのも躊躇うわ」

 

 本来なら大声を上げながら「誰かいませんかー!」ぐらいやるのがスバルの性格なのだが、現在の状況でそれをするのも危ぶまれる。

 なにせスバルは現時点で、自分が安全な場所にいるかどうかも把握できていない。

 当たり前のようにスバルは好意的な人物の屋敷と判断したが、最悪、スバルが意識をなくした後に、腸大好きな殺人鬼が戻ってきて、スバルを拉致した可能性もなくはない。

 かといって、そんな可能性まで考慮していては何も行動など起こせないわけで。

 

「人生なるようにしかならんと、賢一も言ってたじゃねぇか。俺もそう思おう」

 

 ちなみに賢一、というのはスバルの父の名前だ。実にスバルの父らしい人物である。

 歩き出すスバルの足取りに迷いはない。だが、しばらく歩き、スバルは首をひねる。

「こんだけ歩いて、端に着くどころか突き当りも見えねぇとか、そんなことあるか?」

 さすがに違和感を誤魔化しきれない。きた道を戻ることも検討に入れてスバルは振り返る。

そして、「あれ?」と眉をひそめた。

 

「この絵・・最初、部屋を出たときに目の前にあったと思ったんだが・・」

 

廊下に飾られた油絵を前にして、スバルは腕を組んでうなる。

絵は夜の森を描いたもので、部屋を出て最初に目にしたものと同じ気がする。

スバルは牛歩過ぎた、などという転回でなければ、パッと思い浮かぶ可能性は、

 

「床が機械仕掛けで動いているか、まさかの場合は廊下がループしてる・・かな」

 

おそらく、廊下をある程度移動したところで、マップの反対側に転移させられているのだ。RPGなどではおなじみのフィールドトラップだが。

「もし廊下がループしてるってなら、『死に戻り』といいずいぶん縁があるもんだな」

誰にともなく同意を求めながら、スバルは手短な部屋の扉を開ける。すると、中に何も置かれていない殺風景な部屋に出迎えられた。当然ながら誰もいない。

 

「ループする廊下といくつかの部屋・・正解を見つけなきゃ出れない的な展開か?」

 

 まだ異世界召喚のことすらちゃんと受け止めきれたわけではないのに、目覚めてすぐに新たなファンタジー要素に出くわすとは頭を抱えたくなる状況だ。

 

「お約束の展開からすると、俺はこれから正解の部屋を探して何時間もさまようことになるだろうな。腹は減り、精神は擦り切れ、体力もやがて底を尽きる。それなら・・・」

 

 息をのみ、額の汗を拭って、スバルは覚悟を決めて最初の一歩を踏み出す。

油絵の飾られた正面の扉、つまりはスバルが出てきたと思しき扉のドアノブをひねり、

 

「誰かくるまで部屋で寝てよ。もしくは、ありがちな最初の部屋がゴールの可能性」

 

そんな投げ出し屋な性格と思いつきに等しい発想で、スバルは部屋の中に入り―

 

「・・・・なんて、心の底から腹立たしい奴なのかしら」

 

そして、見覚えのない書庫の中、スバルを見つめる巻き毛の少女の恨み節を受けた。

 

 

3

 

―そこはまさしく、『書庫』と呼ぶにふさわしい部屋だった。

 部屋の広さは先の客室の倍ほどもあり、天井まで届く本棚がそのスペースを埋め尽くし

ている。本棚にも本がぎっしり並べられていて、その蔵書数は想像するのも難しい。

 

「で、こんだけ本があっても俺が読めそうな本はなし・・がっかりだな」

 

 パッと本棚を見渡しても、日本語表記の背表紙は見当たらんない。アルファベットの類も

なく、王都で見かけた象形文字の数々――この世界の公用文字がずらりと並んでいる。

 何度見ても読み取れない文字を見やり、スバルは思わずため息をこぼした。

 

「他人の書架をずけずけ眺めて、おまけにため息。・・・ひょっとして喧嘩を売ってるのかしら?だったら買ってやるのよ?」 

 

「そんなツンツンしてると可愛い顔が台無しだぜ?ほら、スマイルスマイル」

 

「ベティーが可愛いなんて当たり前かしら。お前に見せる笑顔なんて嘲笑で十分なのよ」

 

 頬に指を当てて作るスバルに、少女は愛らしい顔に酷薄な笑みを張り付けた。 

 この表現も異世界で何度目になるか―美しく可憐な少女だった。

 年齢は貧民街で会ったフェルトよりさらに幼く、おそらく十一、二歳といったところだ。

フリルが多用された豪奢なドレスがやたらと似合う愛らしい顔立ちをしている。

 淡いクリーム色の髪を長く伸ばし、縦ロールに巻いているのが特徴的だ。微笑めば誰も

が頬を緩めずにはいられない可愛らしさ。

 大きめの本を抱えて、木製の脚立に腰を掛けながら、少女はスバルを見上げている。

 

「嘲笑とか難しい言葉を知ってんなぁ。あと、不機嫌なのは俺が一発で正解を引き当てたせいだろ?ごめんな!俺、こういうのって昔っからこうなんだよ」

 

 ヒントなしで複数の選択肢を用意されても、一発で正解を引き当てる才能を持つナツキ・スバル。過去にスバルがそのスキルで無意識につぶしてきたイベントは多い。さっきの廊下もその一つに加わるだろう。

 

「人がこうな労力で領域を構築したのに、それをあんな適当に・・最悪なのよ」

 

「GMからしたら全部のイベント踏んでほしい気持ちはわかるけどな。すまねすまね」

 

 軽く手を上げてスバルが謝ると、少女は恨めしげに半眼で睨めつけてくる。少女の恨みの視線に照れ笑いで応じつつ、スバルは内心で現状を慎ましく整理する。

今の少女の発言からして、廊下のループの原因はこの少女だったらしい。だが少女の目

論見はスバルの軽率な行いでおしゃかになったわけだ。

 

「まぁ、お互い様ってことで水に流そうぜ。とりあえず、ここってどこよ。教えてくれ」

 

「ふん。ベティーの書庫兼、寝室兼、私室かしら」

 

「俺は額面通りの答えにガッカリすべき?ここで寝泊まりとか自分の部屋がないの可哀想って哀れむべき?それとも、書庫を私室扱いしちゃう部分を微笑ましく思うべき?」

 

「少しからかってやろうとしたらなんたる言い草かしら!」

 

 皮肉を素で返されてご立腹の少女―自称ベティーは頬を膨らませると、脚立から腰を上げてスバルの方に歩み寄ってくる。

 

「そろそろベティも限界なのよ。ちょっと思い知らせてやるかしら」

 

「おい、何しでかす気だ、やめよーぜ! 俺って見ての通り戦闘力なしの一般人だぜ?」

 

 瞳を潤ませて小さくなりながら、小刻みに体を震わせる決死のアピール。が、少女の歩みは緩むどころか速度を増した。

 

「――動くんじゃないのよ」

 

 ゾッと、背筋を寒気が走るような感覚がスバルを襲った。

 目の前、すでに少女はスバルに手が届く位置まで近づいている。

 自分の胸ほどまでしか背丈のない少女に、薄青の瞳で見つめられて硬 直するスバル。肌が粟立ち、静寂が甲高い耳鳴りを頭蓋の中で打ち鳴らしていた。

 

 「何か言いたいことでも?」

 

 少女の問いかけに、わずかな時間だけ硬直を解かされる。許された一瞬で、スバルは何を口にすべき最善の一言を探す。視線をさまよわせ、スバルは唇を震わせた。

 

「い、痛くしないでね?」

 

「軽口もここめで徹底してると感心するかしら」

 

 本気で感心したような口調で言って、少女の手がスバルの胸に伸びる。掌が胸に当てられて、表面を優しく指先をなぞった。くすぐったい感触。

そして――

 

「ぶわぅ・・・ッ」

 

――次の瞬間、スバルは全身を炎であぶられたような錯覚を得ていた。

 すさまじい何かが体内を荒れ狂い、指先から髪の毛一本まで全てを焼き尽くされるような感覚。体の内外を、余さず火炎の指でなぞられたような痛みを伴うは不快感。

 視界が明滅し、気づけばスバルは大量の涙を流して膝から崩れ落ちていた。

 

「気絶しなかったみたいなのよ。聞いた通り、頑丈な奴かしら」

 

「な、何しやがった、ドリルロリ・・・」

 

「ちょっと体のマナを干渉しただけなのよ。おかしな循環の仕方をしているやる奴かしら」

 

少女は悪びれずに呟いて膝を折ると、震えているスバルの体を指で突いた。

 

「まぁ、敵意がないみたいなのは確かめれたのよ。それに、これまでベティーに働いた散々の無礼も、今のマナ徴収で許してやるかしら」

 

 限界に達したスバルは、突かれるだけで上体を支えれず、頭を床に落とす。それでも時間をかけてゆっくりと首を動かし、自分を見下ろす少女の嗜虐的な笑みを睨めつける。

 

「お前、アレだろ・・人間じゃねぇな。この場合、性格的な意味じゃなく」

 

「にーちゃに会ってるわりには気づくのが遅かったのよ」

 

 這いつくばるスバルを楽しげに見下ろす少女。少女の語り口は見た目以上に幼く、それがかえって羽虫の羽をもいで遊ぶ残酷な幼稚性を感じさせた。

 

「一個、訂正・・性格的にも、お前、人間じゃねぇや・・・」

 

「気高く貴き存在を、お前の尺度で測るんじゃないのよ、ニンゲン」

 

 それは少女が口にするには、あまりに冷たすぎる温度の発言だ。

 胸の内にくすぶるものをスバルは感じる。だが、感じた熱を言葉にするだけの余力が残されていない。意識はスバルの意思と無関係に、闇へと沈もうとしている。

―――――目が覚めたばっかりだってのにまた意識不明かよ。

 

「ここで死なれても死骸をまたぐのが面倒かしら。他の連中には話しておいてやるのよ」

 

――虫みたいに聞こえるから、死骸とか言うなこの野郎。違った、このガキ。

 

そんな減らず口をたたくこともできず、スバルは再び眠りへ落ちていった。

 

 

 

 

 

「あら、目覚めましたわね、姉様」

 

「そうね、目覚めたわね、レム」

 

「・・・。」

 

 再びの目覚めは、声質の同じ二人の少女とピンクの髪の少女後ろに隠れちらりと顔を覗かせている小柄な少女から始まった。

 柔らかな寝心地はどうやらさっきと同じベット。寝起きのスバルの瞼を焼いたのは、カーテンからわずかに差し込む眩い日差し――感覚的に、朝だろうかと思う。

 

「夜型人間というか、半ば夜の眷族だった俺が朝に起きるとか、胸が熱くなるな・・・」

 

 不登校中の昼夜逆転生活を思い出しながら、覚醒したスバルは上体を起こす。そのまま首を回し、肩を回し、腰を回して窓の方へ目を向ける。

 

「今は陽日七時になるところですよ、お客様」

 

「今は陽日七時になったところだわ、お客様」

 

「・・・。」

 

 声が親切に時間を教えてくれた。陽日七時――意味は伝わってこないが、想像できる字面から朝の七時、という認識でいいのだろうか。

 

「そうすると、さっきの目覚めがノーカンならほぼ丸一日寝っ放したか。まぁ、最高で二日半も寝続けた俺には大したことでもねぇけどな」

 

「まあ、穀潰しの発言ですよ。聞きました、姉様」

 

「ええ、ろくでなしの発言ね。聞いたわよ、レム」

 

「・・・。」

 

「んで、さっきからステレオチックに俺を責める君らと、その後ろの少女は誰よ、姉様方!」

 

布団を跳ね除けて勢いよく起き上がると、ベッドの左右からスバルを挟んでいた少女たちが驚き、小走りに部屋の中央で合流。後ろに隠れていた子を守るように体を寄せ合いスバルを見る。

集合する三人の少女―――――それは揃いも揃って似た顔立ちをした、二人の少女そして、その妹であろう少女たちだった。

 身長は平均150センチぐらい。大きな瞳に桃色の唇、彫りの浅い顔立ちは幼さと愛らしさを同居させていて可憐の一言だ。双子の方は髪型もショートボブで揃いにしており、髪の分け目を違えて、右目と左目を片方ずつそれぞれ隠している。

 その髪の分け目と、髪の色が桃色と青色で違っているのが見分ける特徴だった。

 後ろに隠れるもう一人の少女は幼い顔立ちに桃色の唇、姉達と違って両目を出していてその目は紫紺で綺麗な宝石をはめ込んだような目で、髪型はボブなのが特徴的だ。

 三姉妹の少女をざっと観察したスバル。その喉が、心を掻き乱されて思わず震える。

 

「馬鹿な・・この世界にも、メイドが存在するっていうのか!」

 

黒を基調としたエプロンドレスに、頭の上にはホワイトプリム。細い肩が露出する特殊な改造メイド服は、短いスカートを相まって体のラインがはっきり出て扇情的ですらある。

メイド服に関しては造詣の深くないスバルだが、この格好にデザイナーの露骨な趣味が反映されていることは間違いない――――が、三姉妹の美少女が着ている現実には違いない。

 

「メイドは俺にとって奥ゆかしさの体現のイメージだったが・・・これも悪くない!」

 

「大変ですよ。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けています。姉様とネムが」

 

「大変だわ。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けているのよ。レムとネムが」

 

「大変です。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けています。姉様たちが」

 

「俺のキャバシティを舐めるなよ。三人まとめて妄想の餌食だぜ。姉様方」

 

 両腕を交差して宙で掌をわきわき。無意味な動作にメイド三人の顔に戦慄が浮かび、二人の少女たちは後ずさり、後ろに隠れていた少女は姉達を庇うように前に出る。

 

「許してください、お客様。レムだけは見逃して、姉様とネムを汚してください」

 

「許してちょうだい、お客様。ラムだけを見逃して、レムとネムを凌辱するといいわ」

 

「許してください、お客様。姉様達だけは見逃して。ネムだけを凌辱してください」

 

「超麗しくねぇな、この姉妹愛!まともなの一番下の子だけじゃねぇか!そして俺は超悪役!」

 

 メイド三人が被害者役を押し付けあう中、スバルはどれから先に毒牙を掛けてやろうかと三白眼の目つきを細める。と、ふと気づいた。

 

「・・もっと大人しく起きたりできなかったの?」

 

 とんとん、と開いた扉を内側からノックして、四人を眺める少女が立っていた。

 腰に届く長い銀髪は、今日は解かれていて自然と背中へ流されている。服装は王都でみたロープ姿ではなく、白色のイメージが強い細身に似合ったデザインの格好。スカート丈の意外な短さと、すらりと長い足が絶妙で思わずスバルはガッツポーズ。

 

「わかってる!選んだ奴はわかってるぜ!」

 

「・・・なんのことだがわからないないのに、くだらないことってわかるのがすごーく残念」

 

 喝采するスバルを銀髪の少女――――エミリアが呆れたような目で見ていた。

 突然のエミリアの来訪に、困惑だらけだったスバルの心境は一挙に舞い上がる。

 立て続けに知らない相手―――特に最初の幼女にはひどい目に遭わされただけに、異世界召喚直後のやり取りで得た知己であるエミリアには格別な思いがある。

 

「血が足りていないところにベアトリスが悪さしたって聞いたから、ちょっと心配してきたのに・・すごーく損した気分」

 

「俺は寝起きで君の顔を見れて超いい気分だけどね。それで、ちょい聞くの怖いんだけど」

 

訝しがるエミリアに対し、スバルは両手を合わせながらおずおずと上目遣いにした。

 

「その、あの・・俺のことって、ちゃんと覚えてくれてる?」

 

「その仕草、なんか嫌。それに変な質問するのね。スバルぐらい印象が強い子って、そうそう忘れられないと思うんだけど」

 

 微笑するエミリアに名前を呼ばれて、スバルは安堵に肩を落とした。それからすぐ、女の子に下の名前で呼び捨てされていることに気付き、珍しいぐらい素で照れる。

 

「聞いてください、エミリア様。あの方に酷い辱めを受けました。姉様たちが」

 

「聞いてちょうだい、エミリア様。あの男に監禁凌辱をされたのよ。レムたちが」

 

「聞いてください、エミリア様。あの男に卑しめを受けました。姉様たちが」

 

 耳まで赤いスバルはさて置き、エミリアに駆け寄る三姉妹が事実無根の告げ口をする。三人の密告にエミリアは苦笑すると、スバルの方を横目にした。

 

「あなたたち三人にそんな悪ふざけ・・・スバルはしないなんて言い切れるほど知らないけど、きっとやらないって信じてるもの。あんまりからかいすぎないの」

 

「はーい、エミリア様。姉様とネムも反省しています」

 

「はーい、エミリア様。レムとネムも反省しているわ」

 

「はーい、エミリア様。姉様たちも反省しています」

 

ラム、レム、ネム、とそれぞれ自分を呼ぶ三人は反省の欠片も見えない反省を宣言する。三人のそんな態度に慣れているのか、エミリアはさして気にした風もない。

 

「それでスバル、体の調子は大丈夫?どこか変だったりしない?」

 

「ん、お、そういや寝る前は全身火傷したみたいで死ぬかと思ったのに、そんな感じも全然ねぇな。逆に寝すぎてちょっとだるいくらい」

 

「そのくらいで済んでるなら十分。軽く、お散歩でもする?」

 

「散歩?」

 

 小さく笑うエミリアに、スバルは首を傾げる」

 

「そ、お散歩。私も日課でお庭に出るつもりだったし、ちょうどいいでしょ?」

 

「日課・・って、何すんの?花壇に水やり?」

 

「ちょっと違うかな。精霊とお話しするの。毎朝、契約してる子たちとそうして触れ合うのが、私とあの子たちの契約条件の一つだから」

 

 精霊、という単語にスバルはエミリアと常に一緒にいた猫型精霊を思い出す。

 散歩と精霊とのお話。好奇心と下心が同時にくすぐられるナイスな提案だ。

 

「んじゃ、リハビリついでにご一緒しよっかな。エミリアたんが庭で精霊トークしてる間、歩き回ったり筋トレしたりちょこまかしてるよ」

 

「ん、大声で騒いだりしなければそれで・・・え?今、なんていったの?」

 

「おし、言質は取った。庭に出ようぜ」

 

「ねぇ、なんて言ったの?たんってなに?どこからきたの?」

 

 愛称めいた呼び名にエミリアが困惑する。素直に名前を呼べない照れ隠しを誤魔化しながら、スバルは傍らに立つメイド三人に顔を向けた。

 

「へい、メイド姉妹。俺の元の服ってどこいった?いつの間にか入院服みたいになってるし、たぶんこの屋敷で預かってくれてると思うんだけど」

 

「わかりますか、姉様。ひょっとして、あの薄汚い灰色の布切れでしょうか?」

 

「わかったわよ、レム。たぶん、あの血で薄汚れた鼠色のボロキレでしょうね?ネム、どこへやったしら?」

 

「はい、姉様。おそらく、干されているかと」

 

「かなり不適だな。その薄汚いドブネズミ色のボロだよ。無事なら持ってちょうだい」

 

 スバルの求めに三姉妹がエミリアを見る。許可を欲する視線だ。エミリアが顎を引いて応じると、三姉妹は丁寧にお辞儀をして部屋を出ていった。

 

「私から言い出したことだけど、無理はしちゃダメだからね。ひどい傷だったんだから」

 

「でも実際、もうパーフェクトに塞がってるしな。と、そういやそうだった」

 

 思い出したように姿勢を正し、スバルはエミリアにゆっくり頭を下げた。

 

「ケガ、治してくれたのってエミリアたんだよな。ありがとう、助かった。やっぱ死ぬのは恐いわ。実際、一回でいいよ」

 

「普通は一回しかないと思うけど・・ううん、そうじゃなかった」

 

 思わず突っ込みを入れてから、エミリアは紫紺の瞳を潤ませてスバルを見る。

 

「お礼を言うのは私の方。あの場所で、ほとんど知らない私のことを命懸けで助けてくれたじゃない。ケガの治療なんて、当たり前なんだから」

 

 真摯な眼差しで感謝を伝えられて、スバルは思わず息を詰まらせた。

 さらっと誠実な返事の一つも出てこない自分が恨めしい。

――――助けてくれた、というエミリアの言葉に「そうじゃない」と言いたかった。先に助けてくれたのはエミリアなのだ。

 だがその記憶はもう、スバルの中にしか残っていない。

 もう、決して伝えることのできない感謝の気持ちを呑み込んで、スバルは笑う。

 

「―――んじゃ、お互いに助け合ってプラマイゼロってことでどうよ」

 

「ぷらまい・・?」

 

「互いに貸し借りなしの対等だ!そんなわけで仲良くしようぜ、兄弟!」

 

 貧民街の住民相手なら、ここで肩の一つでも気軽に組んだところだ。だが、今のスバルにできたのは勢いで羞恥と照れを誤魔化すだけ。そんなスバルにエミリアは小さく笑う。

 

「私、こんな変な弟はいらないかな」

 

「わりと辛辣なコメントですね!?」

 

 しかもさりげなく目下扱いされているこのガッカリ感。

 そうして互いに笑い合ううち、ドアを開けて三姉妹のメイドが戻ってくる。三人がそれぞれ・・一番上はもたず、一番下と真ん中のメイドが、それぞれジャージの上下を分担して持っているのを見て、スバルはぐっと背筋を伸ばした。

 

「改めまして、一日の始まりといきますか」

 

『死に戻り』を乗り越えての一日が、本当の意味でスタートする。

 

 

 

 

 わざわざ着替えさせてくれようとするメイド三人を振り切り、独力で着替えを断行した

スバルはエミリアと屋敷の庭に出た。

 広い庭を見渡し、スバルは感嘆の息をこぼす。

 

「やっぱでけぇなぁ。屋敷もそうだけど、庭も庭ってより原っぱだ」

 

 お金持ちの屋敷の庭園―――漫画やアニメでたびたび登場する、立食パーティなどが行われるような風景が広がっている。ただっ広い庭の真ん中で、スバルはさっそくリハビリがてらに屈伸運動を始めた。

 スバルの動きを見て、エミリアが不思議そうな顔をする。

 

「珍しい動きだけど、何してるの?」

 

「あれ、準備運動の概念ってないの?本格的に体動かす前にあちこちほぐさねぇと」

 

「ふーん、あんまり見たことないかも。でも、急に体を動かすと危ないのはわかるかな」

 

「この世界の人間は準備運動しねぇのか。んじゃ、仕方ない。教えてあげようじゃあーりませんか。

俺の故郷に伝わる、由諸正しい準備運動をな!」

 

 自身満々なスバルの気迫に呑まれたのか、エミリアに隣に並ぶよう指示すると、

 

「ラジオ体操第二~!手を前に伸ばして、のびのび背伸びの運動~!」

 

「え、うそ、なに!?」

 

「俺の真似してやってみよう。ラジオ体操の真髄を叩き込んじゃるぜ」

 

 戸惑うエミリアを叱咤しつつ、スバルは全国的に有名なラジオ体操をアカペラ。

 最初は困惑していたエミリアだったが、やり切る頃には完全に没頭していた。

 二人、最後の深呼吸まで終わらせ、締めに両手を天に伸ばす。

 

「で、最後に両手を掲げて、ヴィクトリー!」

 

「び、びくとりー」

 

「よし、初めてしちゃ上出来だ。エミリアたんに『ラジオニスト初級』を授ける!」

 

 全力のラジオ体操をやり終えて、称号を授けるスバルにエミリアは感銘を受けた表情でいる。が、息を整えるとようよう最初の目的を思い出した顔になった。

 

「そだ。すごーく話がずれちゃったけど、忘れたら怒れちゃうから」

 

 そういって薄く微笑むエミリアは、懐から緑色の結晶を抜き出してスバルに見せる。

 

「あ、それって」

 

「精霊が身を宿す結晶よ。パックのことは、知ってたわよね」

 

「肝心な場面で居眠りこいた小猫だろ?その後の俺の活躍知らないんじゃないの?」

 

「あいにく、ちゃんと騒ぎが片付いた後でリアから話を聞いているよ、スバル」

 

 スバルの悪態に反応するように結晶が輝く。響いた声は中性的なもので、やがて結晶石から溢れ出した光が結集し、小さな輪郭をエミリアの掌の上に作り出した。

 

 掌サイズの小さな体、体長と同じくらいに長い尻尾。二足歩行の小猫型精霊、パックだ。

 

「や、おはよう、スバル。いい朝だね」

 

「俺にとってはわりと深夜から朝にかけて波乱万丈だったけどな。ループする廊下とタチの悪い幼女の猛威。それを乗り越えた朝、エミリアたんと一緒に情熱の汗を流し・・」

 

「人聞きの悪い言い方しないの」

 

 咎めるように唇を尖らせるエミリア。それからエミリアは掌の上のパックを見つめる。

 

「おはよ、パック。昨日は色々、無理させてごめんね」

 

「おはよう、リア。でも、昨日のことはボクの方が悪いと思うよ。危うく君を失うところだ。スバルには感謝してもし足りないくらいだね」

 

 パックは黒くて丸い瞳でスバルを見上げると、手で自分のピンクの鼻を撫でつけた。

 

「お礼をしなきゃね。何かしてほしいことはあるかな。大抵のことはできるけど」

 

「んじゃ、好きなときにその毛並み触らせてくれ」

 

 大きく出たパックに対し、スバルもまた即答で返した。

 パックとエミリアが目を丸くする。返事の早さもだが、その内容も驚きだったらしい。

 

「ちょ、もうちょっと考えて決めてもいいんじゃんない?小さくて頼りなさそうに見えるかもしれないけど、パックの力はホントにすごいんだから」

 

「少し引っかかるけど、そうだよ。こう見えて、ボクはけっこう偉い精霊なんだ」

 

「おいおい、俺みたいな一流の毛並み職人的には、触りたい哀願対象をいつでも愛でられるってのは、巨万の富と引き換えにしても惜しくない対価だぜ。いやマジで」

 

 言いながら、スバルは権利を履行してパックに指を伸ばす。お腹に顎、トドメに耳だ。

 

「耳ヤバいな!もう俺はふわふわっぷりにメロメロだよ!」

 

「うすぼんやり心が読めるからわかるけど、本気で言ってるところがすごいね」

 

 手指で自由に弄ばれながら、パックは愉快げに喉を鳴らした。

 スバルとパックが戯れる様子に、エミリアは諦めたようにため息をこぼす。

 

「それじゃ、私は微精霊の子たちとお話ししてくるから・・・スバルとパックは遊んでていいけど、邪魔しちゃダメだからね」

 

「見放されたな」

 

「見放されちゃった」

 

 おどけて肩をすくめる二人を、エミリアは無言で無視してそそくさと庭の端っこへ。地面を軽く払って腰を落とすエミリア。目をつむる彼女の周囲を、ぼんやり淡い光が取り巻き始めた。――見覚えのある光景だ。

 

「微精霊、か?」

 

「そうだよ。よく区別がついたね。準精霊と微精霊、区別つかない人が多いんだけど」

 

「当てずっぽう・・・ってわけじゃねぇけど、区別の方法とか俺も知らねぇよ?」

 

 スバルがエミリアの周囲を浮遊する光を微精霊と知っていたのは、王都で起きたループの最中で一度、エミリアの口から微精霊という単語を聞いていたからだ。

 座るエミリアは小声で微精霊と言葉を交わしており、時折、微笑むエミリアに同調する

ように微精霊たちも淡い明滅を繰り返していた。

 

「微精霊との契約、とか言ってたけど、あれって何しているとこなんだ?」

 

「精霊との契約儀式。―――誓約の履行だよ」

 

 聞き覚えのない単語にしかめ面になるスバル。

 

「えーとね。まず、精霊使いは精霊と契約しないと精霊術が使えないんだね。で、契約内容は精霊によって異なるんだよ。ここまではいいかな?」

 

「金貸しによって利息とか担保が違うってわけだな。オーケー」

 

「ボクがオーケーじゃないけど進めるね。それで、精霊が求めることは個々で違うんだけど・・・ああいう微精霊たちは術者との触れ合いみたいな、簡単な条件で契約できるんだ」

 

「お手軽っていうか初心者向けって感じな。つっても、今の言い方だとちゃんとした精霊は別なんだろ?」

 

「賢い子は話が早くて助かるよ。だから余計な脱線して話が進まないって気もするけど」

 

いやあ、と照れ笑いするスバルにパックは生温かい視線を向けて自分のヒゲを弄る。

 

「その通り、ボクみたいな意志ある精霊はもうちょっと要求が厳しいよ。その分、契約者に貢献するつもりだけど・・・ボクもリアにつけてる条件は厳しいよ」

 

「さっきから気になってたけど、そのリアって呼び方可愛いな」

 

「君のエミリアたんには負けるよー。ボクも今度からそう呼ぼうかな」

 

「―――お願いだから、絶対にやめて」

 

 二人の悪ノリに、エミリアが膨れっ面で割り込む。

 戻ってきたエミリアの周囲からは精霊の輝きが消えており、どうやら精霊トークショーは終了したらしい。スバルは立ち上がりながら尻についた草を払う。

 

「親睦会終わりかな?案外、ちょろい感じで済むんだね」

 

 言いながら差し出されるエミリアの掌に、スバルの下から移動するパックが着地。パックは丸い瞳をエミリアに向けて、含むように小さく笑った。

 

「大丈夫。探ってみた感じだけど、スバルに悪意とか敵意とか害意ってのものは見当たらないかな。ちょっと性根がねじくれてるけど、いい子だよ」

 

「ちょ・・・」

 

パックの散々な評価にエミリアが思わず絶句。それから口をパクパクとさせて、

 

「なんで本人の前で・・そんなこと、本当のことでも言われたら傷付くじゃない」

 

「あー、いいっていいって。俺みたいな素性の知れない奴、探り入れんのは当然だろう。疑るのが当たり前だ。今のエミリアたんのフォローには傷付いたけどね!」

 

 慌てて口を手で塞ぐエミリアにスバルは苦笑い。

 パックが理由もなく触れてきたわけではないのは、スバルにも予想がついた話だ。

 ここまでまともな情報一つ出さないスバルを、無警戒で受け入れるほどエミリアたちは不用心ではない。ラムやレムやネムの態度も、そういった思惑の一部だろう。

 

「とはいえ、うまく説明する手段はねぇし」

 

 記憶はあるけど戸籍はない、というのがこの世界のスバルの現状だ。

 召喚されたという真実は説明が難しい上に、頭のおかしい人物扱いされる可能性が高い。

 それならばいっそ、パックの人格判断に身を任せてしまえばいい。

 心の表層が読める上に、エミリアに信頼されるパックの言葉なら、スバルの口から説明するよりずっと説得力がある。

 

「平気だよ、リア。っていうか、スバルはそのあたりもわかってる。まんまとボクの読心を利用するなんて、悪い子だよ」

 

「光栄な評価だね。そんぽままうまくとりなしてくれよ、マイフレンド」

 

 スバルの呼びかけにきょとんとした顔をして、それからパックは笑みを弾けさせた。

 

「そんな風に接してもらうのは本当に久しぶりだよ。うん、好ましいなぁ」

 

「どうせならエミリアたんの方にしてほしい評価だな。いや、将を射んと欲すればまずは馬から。いや、猫だけど効果あるかな。・・・どったの?」

 

 顎に指を当てて真剣に悩む顔のスバルを、エミリアが驚いた顔で見ていた。

 スバルが疑問に眉を上げると、エミリアは「ううん」と小さく息を呑む。

 

「―――ホントに、スバルって不思議」

 

「ほぇ?」

 

「精霊とこんなに触れ合って、おまけに私みたいな・・・・ハーフエルフにも色目が使えるなんて。冗談でもビックリしちゃう」

 

『冗談でもなければ、そんな驚かれることしてますか?』というのがスバルの内心の発言だったが、それすら忘れてエミリアの微笑に見惚れてしまう。

 エミリアの微笑みが、王都で名前を交換したときと同じくらい透き通った笑みだったから。儚さとも切なさとも違い、見ていて思わず心が躍るような。

 美しく流れる銀髪は月の雫のように幻想的で、新雪のように透き通る白い肌。紫紺の瞳は魅了の呪いでも放っているようにスバルの意識を惹きつけ放さない。

 気高く、美しく、折れ曲がらない芯を心に抱いていることを知っている。

 自然と、感謝以外の感情を横顔に抱いてしまいそうで、スバルは自制する。

 

「あれ、二人ともどうかしたの?」

 

 と、何かに気付いたエミリアの声に、スバルも屋敷の方を見やる。

 屋敷から庭園に降り立ったのは三姉妹のメイドだ。

 三人はスバルたちの前までやってくると厳かに一礼する。

 

「――――当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうかお屋敷へ」

 

 一瞬のズレもない完璧なステレオ音声。

 乱れない連携にも驚かされたが、三姉妹の態度の豹変ぶりにもスバルは驚いた。

 先ほどまでの軽々しさが消えて、三人から豪邸の使用人としての貫禄が感じられる。

 

「そう。ロズワールが。・・・じゃ、迎えにいかないとね」

 

「はい。それからお客様も。目が覚めているならご一緒されるようにと」

 

 パックがエミリアの銀髪の中に潜り込み、髪を撫でて受け入れたエミリアは少し固い表情だ。エミリアの横顔を見つめながら、ご指名されたスバルは首の骨を鳴らす。

 

「で、ロズワールってのは誰のこと?」

 

「この屋敷の持ち主・・そっか、説明してなかったのよね」

 

 自分の落ち度に傷付いたように、エミリアは掌を口に当てる。

 

「えっと、そうね。ロズワールは・・会えばわかるわ」

 

「説明諦めるの早いな!そんな特徴ないの!?」

 

「―――ううん、逆」

 

 エミリア、パック、ラム、レム、ネムの五人の声が同時に返ってきた。

 驚きの五重奏にスバルはポカンと口を開けてしまう。そんなスバルの口をそっと下から手で閉じさせて、紫髪の少女が厳かに一礼。

 その両隣に立つ桃髪と青髪のメイドが、屋敷を手で指し示す。

 

「どんな言葉を並べても、ロズワール様の人なりを表しきれることはできません。ご本人に会ってご理解を、お客様。ええ、お優しい方ですから大丈夫」

 

 何度も念押すのが逆に不信感を煽るのだが、三姉妹は顔を見合わせて頷き合うのみ。

 困惑するスバルに、渋々三姉妹に同意といった顔つきのエミリアがそっと手を伸ばした。

 

「――――きっと、スバルは気が合うと思うの。疲れちゃいそうだけど」

 

 スバルの肩をぽんぽんと叩いて、気の重そうな声でエミリアは呟いたのだった。

 

 

 

『―――――第一章―――――完――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。
あんまり原作と変わらないと思いだと思われます。ですが、ifルートはここからが本番ですので、気長にお楽しみくださると幸いです!

好評でしたら続編を書いていくと思うのでよろしくお願い致します。
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