最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。 作:アステカのキャスター
次回、星漿体編エピローグ。
その後、日記に戻っていきます。戦闘描写が気に入らない方にはすみません。ちょっと俺ツエーみたいに見えて不快に思う人は読むのをやめてください。感想に批判は心が硝子なのでお願いします。
それではどうぞ。
心臓を貫かれた。
呼吸が出来なくなるような感覚と、真っ赤になっていく自分の視界。意識を失う前にと罅が入り、傷んだ片腕で再び黒閃銃を構えるが、奴は左腕で銃を払った。
「がっ……!?」
思いっきり蹴り飛ばされた。
まるでサッカーボールのように、小さな自分の身体は鮮血を撒き散らしながら地面に弾んでいく。
「が……ごふっ……ぁ……」
意識が保てない。
身体が重い。血が溢れるように流れていく。反転術式を咄嗟に発動する。心臓から先に治さなければいけない。だが、それでは遅い。心臓部を治す前に小さい身体から流れる血の量は尋常じゃない。心臓を治しても、このままでは失血死になりかねない。
反転術式で流れる血を最小限にしながら、心臓に反転術式を血を失った鈍い思考で行っている。
怠い。大量に消費した呪力。
流れる血から重くなっていく身体。
死が近づいていく。意識が遠のき、世界が廻る。痛くて死んでしまいそうだ。もう楽になってセンセーに会えるならそれでもいいって思えてきた。
そう、思った筈なのに……
『それでいいのか?』
懐かしい声が、聞こえた気がした。
★★★★
「チッ、鬼ごっこってか?」
幻灯の魔物が天内を咥えて本殿を縦横無尽に駆け回り、逃げている。既に蒼い大鷲は『天逆鉾』によって姿を消している。後は赤い化け猫さえ殺せば、天内は楽に殺せる。
赤い化け猫の速さは甚爾より遅い。
とは言え、人間とは全く別の動き方に少しばかり翻弄される。襲いかかる時は単調だが、逃げる事を優先している分だけ時間を稼ぐには充分だった。しかし、幻灯機がここにある時点で逃げ切る事など出来ない。
「ん?」
幻灯の魔物がある場所で止まった。
そこには先程、心臓に『天逆鉾』を突き刺した筈の少年が立っていた。赤い猫は天内を後方に吐き出す。
「きゃあっ!?」
吐き出された天内が叫ぶ中、赤い猫の頭を撫でる。鋭い目つきで俯きながらそこに立つ荒夜緋色の姿があった。
「……マジかよ」
「マジだよ。俺も、心臓ぶち抜かれた時はマジ死ぬかと思った」
呆然と呟く甚爾と目を見開いて睨みつける荒夜がそこに立っていた。パーカーは一部破け、血が滲んでいるにも関わらず不敵に笑う。
「反転術式……!」
「正解!俺の術式は構築術式、呪力消費と負担が激しいゴミみたいな術式だ。だが、術式反転の分解が使える人間からすれば、話は変わってくんのさ!だからソイツは既に極めてんだよ!!」
テンションがハイになっている荒夜はケラケラと笑いながら自分の術式を開示する。
あの時、脳内で自問自答の言葉が聞こえた。
センセーの声だった。幻聴か、死ぬかもしれなかったと思った時の走馬灯か、妄想か存在しない記憶が溢れたのか、ただの勘違いなのかわからない。
けど、おかげで
九十九由基の願いを叶えるという想いが再び、生きる理由を生み出し、諦めようとした気持ちが失せた。
身体を分解した時と同じだ。あの時の全能感が、今の荒夜にはあった。
「分解はあらゆるものを分解する。分解したものはエネルギーだったり、元素だったりするんだけど呪力を分解すると、魂の情報を手に入れられる。そこから、生得術式の基盤を手に入れる事も出来る」
あらゆる生得術式の基盤を取得出来る。
それはその気になれば、どんな術師からも呪術を模倣し、進化していくと言う事だ。未完成の化け物。荒夜を言い表すならそれが正しい。
甚爾は襲いかかるにも、変に距離を詰めてしまったら領域展開が来る可能性を考え、いつでも逃げられるように膝を曲げる。
「ただ、問題が一つ。魂の形は人それぞれだ。他者のソレを自分に刻んでもどんなに呪力操作が強くても劣化になっちまう。けど、劣化とはいえあらゆる術式をコピー出来るんだよ」
人間は原則として術式を一つしか持てない。
使役する式神によって持っている術式が変わってくる禪院の相伝術式や、変幻自在に変える事によって無条件で術式をコピーする折本里香などは例外。荒夜はどこまでも劣化しか使えない。
「でもさ、あらゆる術式のコピーが出来るならさ、劣化とは言えこんな事も出来ると思わないか?」
左腕を前に出し、右の拳を握り、左腕の上に添えるように構える。甚爾は禪院生まれなら、あらゆる術式には詳しい筈だ。相伝には先代が築き上げた術式の取り説がある。
なら、落ちこぼれとして生まれたとしても、知っている筈だ。今から行おうとしている術式を、荒夜が今何をしようとしているのか。
「──
その一言を聞いた瞬間、超スピードで荒夜に迫る甚爾。あらゆる術式のコピーが本当なら、劣化とは言え呼び出してはいけないものを呼び出すつもりだ。
すかさず、幻灯の魔物がそれを遮るが、一瞬で殺され甚爾は荒夜に迫りくるがもう遅い。
「
間に合わないと思った甚爾は『天逆鉾』を
しかし、それを遮るように上から一つの影が荒夜の前に立っていた。
「……っ……!!」
命令をした筈なのに無視してきたのだ。
一瞬の動揺はしたが、紡いでいた言霊を完成させる。
「
その言葉に地面に放り投げ出された未開封のトランクケースが開いた。
★★★★
『領域展開の内包……ですか?』
『ああ、領域展開をした後には必ず術式が使えなくなる。これ結構大問題だからね』
思い出したのはエミヤ・オルタ。
銃弾に固有結界を内包する事で、体内を撃ち抜いた瞬間に内部から固有結界を暴発させる事で内部から破壊するエゲツない宝具があるのだが、あれが参考例だ。
『領域展開ってのは、自身の生得術式に結界術を組み込んだ超高等な奥義だ。その対価が数秒の間生得術式の発動が不可能になってしまう。致命的だ』
『だから、領域展開を出来るものを創ると?』
『まあ、そういう事』
そうして出来たのが、トランクケースに呪核を組み込んで領域展開に必要な術式の構造を組み込むやり方。原理上は呪力を溜める事によって、入力したコマンド、言わば合言葉さえ聞けば発動するようになる筈だ。
だが、問題は領域展開になる前に、その場所の情報が必要な事。どこでも使えるわけじゃないし、領域展開する場所を知らなければ開いても使えない。水の中だったり、動く場所では使えない設置型の呪具であり、一回限りの使い切り型の呪具だ。
『何分、必要なんですか?』
『三分。トランクケースが動いてしまったらリセット』
条件は厳しいが、呪力を感知出来ない伏黒甚爾には有効。そして、伏黒甚爾を騙せる合言葉でそれが開くように設定した。
伏黒甚爾が元禪院の人間なら知らないはずがない。取説くらいは読んでいる筈だ。その中で調伏が誰一人として出来ていない式神。他人を巻き込んで行う調伏の儀。
幾ら伏黒甚爾が強くても、歴代の六眼を持つ無下限呪術持ちでさえ相討ちに終わったのだ。ハッタリさえバレなければ、至近距離で領域展開が発動出来る。
★★★★
「そういう事か!!」
条件起動型の領域展開。
トランクケースに内包した生得領域が広がり、閉じようとする。しかし、閉じ切る前に甚爾はトランクケースを一瞬で蹴り壊す。その瞬間、領域は閉じる前に壊れていく。
全く笑ってしまう。
それにどんな手間をかけたのか。そこまで考えた作戦を全部台無しにしてしまうその超人的な反応速度。
けど……
「領域展開」
トランクケースに仕込まれた領域展開は自分が行ったものじゃない。だから、荒夜はもう一度ソレが使える。
荒夜の呪力は残り二割弱。
そんな呪力で領域展開が出来たとして維持できる時間は三秒以下。領域展開で閉じ込められる範囲は約二十メートル。離れたトランクケースを蹴り飛ばした甚爾からすればこの距離なら閉じる前に脱出できてしまう。
だから、もっと
解釈を更に広げる。領域展開で閉じ込めるのではなく、領域を閉じずに逃げられるリスクを与えてでも更に広く展開する。
呪力の核心の理解が更に広がった荒夜なら、出来ると感じたその神業を実現する。
閉じ込めた中に領域を創るのではなく、領域を引っ張り出し、現実を侵食するようにそれを創り出した。
「──創始再編式!」
本来なら出来る筈のない。だが、荒夜はそれが出来るように
相手を閉じ込めず、あえてそうして『相手に逃げ道を与える』という縛りを自身に課すことで領域の性能を底上げし、術式が必中になる領域の範囲を最大百二十メートルまで引き上げる。両面宿儺がやっていたように、キャンパスを用いずに空に絵を描くような神業をやってのけた。
「チッ……」
たった三秒の領域展開。
だが、必中範囲が広まり、逃げ切れない甚爾の四肢が分解された。血溜まりを作り、達磨のように動けなくなった甚爾は地面に倒れた。
「か……はぁ、ああっ……!!」
「ヒイロさん!?」
頭を押さえながら血を吐き出す。
頭が割れるような痛みが襲いかかり、鼻血が止まらない。二割しかない呪力で無理して使った領域展開、しかも結界で区切らずに行うという規格外の呪力操作。
「ヒイロさん……しっかり!」
「か、は、はっ……ぐっ、ああ……!」
核心に近づいたからといって、無理をし過ぎた。一歩間違えば廃人になりかねない呪力操作に頭が焼き切れたと思えてしまうほどの激痛が荒夜を襲った。
「……っ、無理な、領域展開は、命を削る…な」
すかさず
「あり、がとう……もう私はいい…あとは夏油さんと天内を頼む」
「でも……」
「最後は、私が…やらなくちゃいけないんだ」
「………分かりました」
四肢がない状態ではもう逃げられない。
伏黒甚爾はどうやら上を見上げたまま、諦めたような表情をしながら呆然としていた。荒夜は黒閃銃の呪力の調整をズラし、伏黒甚爾に向ける。もう黒閃を使わなくても逃げられないなら当てられる。
「何か、言い残す事はある?」
「……ねぇよ」
もう何も出来ない甚爾は諦めていた。
最後にチラついたのは寂しそうに自分を待つ自分の子供の姿だった。
「……二、三年したらオマエと同じくらいの俺の
そう言った後、伏黒甚爾は目を閉じて終わりを悟った。
「じゃあ、私からも一つ」
九十九を殺したその怒りはなかった。
それでも、殺さなきゃいけないのだ。結局自分もクソみたいな人間だと自覚しながら、呪いとも呼べる皮肉を口に、引き鉄に手をかけた。
「センセーによろしくな」
パァン、と本殿に一発の銃声が鳴り響いた。
天内「ちょっ、妾の扱い雑過ぎない?」
作者「すまん。許して」
★★★★★★★★★
活動報告にて最強募集してます。
最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
明日の更新は忙しいのでお休みします。すみません