最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。 作:アステカのキャスター
「ぐっ……!」
電撃が荒夜の身体に直撃する。
電流の分解こそ出来ているが、呪力消費の激しい虚式膜を張り続けるのは難しい。津美紀達には絶えず張られている為、消費を抑える為に間に合わない呪力膜から自動発動している。致命傷は避けられるし、攻撃のおかげで呪力の還元は出来ているが、それでも苦戦を強いられている。
「チッ!」
「ははッ!!」
特級呪具『黒雷』の引き金を引く。
弾道を予測されているせいか、さっきから弾が一発も当たっていない。知性がある事がここまで厄介とは思わなかった。
「(使うか?領域)」
この場には津美紀とその友達が居る。
二人に当たらないように虚式膜を張り続けていたが、これではジリ貧でこっちが先にやられる。だが、手を合わせようとした時、警戒され、距離を取られる。
「(チッ、領域展開も閉じる前に逃げられる可能性があるな。舐めてた部分はあるけど、コイツ、
何なら五条さんでさえ捕らえるのは難しいだろう。
五条さんの場合は負けはしないが、勝てるかと言われたらまた別だ。それだけこの呪霊は速い。
伝承において、雷は天罰、裁き、神の怒りとされ、音が鳴るだけでもそこに恐怖を振り撒く天災。自然への恐れ、恐怖が固まった特級仮想呪霊だが、とんでもなく強い。特に速度全振りなのが厄介過ぎて荒夜は防戦一方だ。
「だが、そうは問屋が卸さないのが私だぜ?」
式神を用いて術式の遠隔起動。
私の周りでコソコソしている以上、森が邪魔過ぎる。式神を利用して此処の周辺には人がいない事を知っていた。少々派手だが、仕方ない。
「極ノ番【波旬】」
式神の一つが消えた。
次の瞬間、荒夜と津美紀の視界は光に覆われた。純粋なエネルギーによる圧倒的な範囲破壊。やはり遠隔起動と同時にやろうとすると起動に時間がかかるな。遠隔で式神を展開させているから被害範囲は抑えているが、それでも半径五十メートルの範囲の森が一瞬で更地と化した。
「う、嘘……森が更地に」
「遮蔽物は無し。祓えた気がしないな」
極ノ番は最も破壊力があるが、流石に本気を出して放つ事は出来ない。本気を出したら日本どころか世界が終わる。冗談抜きで。
「シン・陰流【五行界】」
シン・陰流【五行界】
荒夜は呪力膜では反応が遅れてしまう事を考慮し、生得術式からシン・陰流『簡易領域』の改良術式に変更。自身から1メートル、高さ2メートルの間で小規模な領域を展開する。簡易領域と違うのは五芒星を繋いだ五角形の結界でありながら、地上だけでなく空中も対応出来る万能結界であること。『簡易領域』より範囲は狭いが、津美紀と自分を囲むように展開する。
呪力膜→虚式膜では呪力消費は最小限ではあるが、どうしても攻撃が通ってしまう。伏黒津美紀にも虚式膜を張り続けなければならない中、自動発動では限度を感じ、呪力膜の範囲を肌0.1ミリから手前1メートルに設定し直す。
さあ、勝負だ。
結界の切り替わりが早ければ此方に有利が傾き、遅ければ雷撃を食らう。どちらの術式が速いか。
「きゃっ!?」
電撃が結界に触れた瞬間、虚式膜が自動的に発動。
津美紀は驚いていたようだが、傷一つ無い。どうやら虚式膜の方が速く展開できる。
「!」
遠距離からは無駄だと思ったのか、直接、殴りかかってきた。だが、虚式膜は術式だろうが呪力だろうが、例え人間であっても平等に分解する。音速を超えた拳は虚式膜に触れ、容易く分解される。
「チッ!うざッてェな!!」
「残念。もうその速度には慣れた。もう効かねぇよ」
とは言ったものの、荒夜はこの状況に内心舌打ちする。
シン・陰流【五行界】の展開中は自陣から動けない。動いてしまえば結界を張り直す必要がある。【五行界】からオート操作での切り替えが通用する事が分かったはいいが、津美紀が一緒に居る中、荒夜自身が高速移動で距離を詰めるのは危険過ぎる為、攻めるに攻められない。変に離れると虚式膜の対応が出来なくなる。
持久戦になっても問題ないようになっただけで、荒夜も攻めに入れずに亀のように守るだけの状態に等しい。逃げられる可能性も充分存在する中で、この状況はよろしくない。式神を使わなければ範囲攻撃出来ない極ノ番【波旬】も連発は危険だ。
「要するにその膜さえ無ければテメェを殺せんだな?」
「無理無理。君じゃ無理だ」
「馬鹿が、それを破る方法くらい知ッてんだよッ!!」
右手で拳を握り、左手を広げ横にして上から拳を乗せる。
この掌印は初めて見たが、領域によって掌印はどれも違ったりする。天から地に向けて雷を放つような、そんな意味を感じられる。
「–––––領域展開」
世界が侵食されていく。
地面が、空が暗闇に落ちていく。稲妻の音がしながら空には光は存在せず、あるのは暗闇と、一瞬、光を放ち空を躍る雷の大流と昏き積乱雲。荒夜が術式で炎を出し、周りを確認する。全方位全てが積乱雲に包まれ、その中には雷が渦巻いている。
「【
雷が人間に降り注ぐ確率は1%にも満たない。
今の世界では避雷針などの安全対策があり、人に雷が落ちる事はそう多い話ではない。降り注いだ余波で気を失ったりする人間はいるが、早々起こる話ではない。
だが、領域展開の必中ともなれば、恐れられた雷は確実に当たる。人間には逸らす術はあれど止める事は出来ないソレが、荒夜達に襲いかかる。
「術式の受けで何処まで持つか!!」
人間は100ボルトの電圧で死ぬ事がある。
人間は塩や血液、身体の中に水分をかなり蓄えている。呪力で強化した肉体ならその程度は耐えられるし、荒夜は電圧が回る前に分解を施している。だが、落雷の際の電圧は約1億ボルト。人間が耐えられるそれを遥かに超えている。
「っ………」
津美紀が震えている。
それは最早本能と言っていい。雷が当たらずとも、音を振り撒くだけで恐怖を撒き散らす。怖いと思うのは当然の話だ。
荒夜は津美紀の頭に手を乗せ、恐怖を散らす。
「大丈夫。私から離れないで」
一発でも喰らえば即死は免れない雷撃が、全方位から放たれる。荒夜は虚式膜を張り続ける事で失った呪力の還元、余剰の範囲で反転術式を使い、最初に食らった雷撃による火傷を治していく。
「塵芥と化せ!紛い物風情が!!」
荒夜の術式は五条ほど中和に対しての耐性が出来ていない。中和効果の分解も、より強い呪力に抑えられてしまえば負けてしまう。
だが、それはあくまで……
「––––領域展開」
領域を展開しない場合の話である。
「【創始再編式】」
荒夜の領域が曇天の世界を飲み込んでいく。
荒夜の領域と
阻止するにはより多い呪力で抑え込むしかないが、根本的な解決にはなっていない。より強い領域で領域を完全に抑え込まれた場合を除き、領域を展開出来る余地を残している時点で、
「ぐッ、おおおォォォォ!!?」
領域の侵食は止まらない。
還元したところで即座に食い潰される呪力殺しの世界が
「くそがァァァァァァ!!!」
「っ!?」
荒夜は領域を閉じるように設定した。
逃げる事で範囲を底上げした縛りを課した領域では祓い切れない不安もあり、荒夜は領域展開自体を轟霹が領域展開する後出しのために使用する事を考えていた。
だが、領域展開同士のぶつかり合いではいずれ負ける事を悟った轟霹は領域によって底上げされたアドバンテージを利用し、領域内で外に出る為に自身の速度を最大で加速して飛び、拮抗していた
「逃すか!!」
「おおおおォォォォ!!!」
拮抗を止め、逃げる事を選択した轟霹だが、領域の使用後は術式が焼き切れ、一時的に使用困難になる。領域の拮抗を諦めた以上、荒夜に必中効果が戻る。領域外に出てしまえば、荒夜が解除した時に術式を使えるようになる為、此処で逃せば死ぬのは荒夜達の方だ。
轟霹が領域外に出るのが先か、必中で荒夜が轟霹を分解するのが先か。
「……チッ、しくった」
必中を取り戻した荒夜は出来る限り分解したが、祓い切れずに領域外に逃げられた。
★★★★★
「ハァ、ハァ、ハァ、ヒャハハハハハッ!!賭けに勝ッたのは俺の方だなッ!!!」
両脚を分解で喪失したが、呪力で回復出来る。
領域展開で勝てないと悟った判断は正しく、必中効果を奪われて領域が閉じ切る前に分解される恐れがあったが、分解され切る前に外に出ることが出来た。
領域展開が終われば即座に殺す。
術式使用不可の時間は終わった。呪力の消費量から再び領域を展開する事は出来ないが、荒夜が術式を使えなくなった時を狙い、雷速で直接ぶち抜けるように構える。
そして轟霹が脱出をして八秒後、領域が解除される。
解除されると共に飛来してきたのは無数の氷の槍。領域内で発射し、ギリギリで解除する事で攻撃を可能としているのだろうが。
「遅いな!!」
「っ!」
轟霹に当たる速度ではなく、接近しながら避けられる。
荒夜が津美紀達を護って前に出るが、術式を使えない津美紀の前に出て護ろうとしている時点で致命的な隙を晒して、結果は目に見えている。速度は重さ、雷速に迫る速さの拳が荒夜の肉体を貫いた。
「馬鹿が、使えぬ餓鬼共を肉壁にしたらまだ可能性があッたのによォ」
心臓を貫いた以上、即死だ。
口と傷口から血は流れ、虚な目で死んでいる荒夜を見下し、貫通した右手を抜く。次の瞬間、轟霹は奇妙な感覚に襲われる。感触はあった、肉体を貫いた時の血も飛び散っている。
なのに、拭い切れない違和感に轟霹は背後に振り向く。そこにあったのは、死体の影から片腕が突き出され銃口を此方に向けている奇妙な光景だった。
「ッッ!?」
パァン!と銃声が鳴る。
轟霹はギリギリ反射的に右に避けた。その状況が飲み込めず咄嗟に下がる。
「凄い反応速度だ。本当に速いな。もう息吸っていいよ」
「ぷはっ!」
「もう一人は息してるかい?」
「大丈夫そうです。まだ起きてませんけど」
死体の影から現れたのは殺した筈の男と、呪力を持たない女達だった。あり得ない。領域展開直後は術式を使えないし、影から現れたそれは分解を使用していた術式とはかけ離れ過ぎている。何が起きているのか理解出来ず、轟霹は叫んだ。
「テメェ、何で生きている!?」
「殺したと思った?ちゃんと見てみなよ」
死体と背後の女達がパラパラと捲れていく。
感触も、質量も、呪力の質も本人のものだった筈だ。なのに肉体は徐々に崩れて、変わっていく。それは紙の集合体で、血まで巧妙に造られ、再現された……
「式神、だと…?」
「いやあ、苦労したんだぜ?肉体の再現とは違って自分と全く同じ存在を式神で再現するのは大変だったよ」
「術式は一人につき一つの筈だ!テメェの術式は分解じャないのか!?」
「私の構築術式は反転すれば分解出来るが、本質は構築だ。術式の基盤さえ有れば劣化再現が出来る。式神もその応用さ。それが例え、
普通、式神術、結界術、呪力強化を除いて生得術式は一つだが、荒夜は術式の基盤を複数持っている。故にそれらを再現可能なのだ。だが、デメリットも当然ある。術式は全て劣化再現になる。東堂の術式なら範囲だったり、冥さんの術式なら烏を操れる数だったりと。
他にも、複数同時併用は術式の使用が遅れたり、刻んでいる間は絶えず呪力を消費し続けなければならなかったり、勝手がいい訳ではない。
そして、これは最近分かったのだが、
「劣化はデメリットも多いが、それなりにメリットはあるんだよ」
メリットは術式のおかげで手数が増える点と、領域展開時における術式の使用不可は
結界内で身代わりの式神を用意し、劣化の【十種影法術】を刻み、影に隠れ、影が重なった瞬間に『黒雷』で打ち抜こうとしたが、間一髪躱された。
だが、
「君はさ。領域を展開する前に完成させる方法を知ってるかい?」
「……何?」
領域展開は結界を閉じる事で自身の生得領域を具現化させる。呪術師であるなら、この程度の知識は誰だって知っている。例外を除けば、結界術で囲わずに具現化させる奴は存在する。両面宿儺も私もそれは出来る。頑張れば五条さんもいけると思う。
「結界術はさ。上手い奴なら、術式効果を優先させて視覚効果を後出しする事が出来る。まあ、それ以外にも方法はある。
構築術式で創られた物は消えずに残る。
荒夜が【創始再編式】の内側で創られた式神が消えずに残ったように。荒夜は別に、式神だけを創ったとは言っていない。
轟霹が振り返る。
先程の氷の槍が突き刺さっている場所に隠れて、やや大きめの杭が埋め込まれている。氷の槍はブラフ、本命は此方にある。
「結界を先に閉じる事で発動効果を後出しする。まあそれなりに創るのに負担が掛かったし、一から創ったから君を分解して得た呪力も殆どパァだ。閉じるのがもうちょい遅れたらもう一回発動するのは無理だったけど」
「テメエェェェェェェェェェ!!?」
「これで終わりだ」
逃げようとする轟霹だが、
結界に阻まれて弾かれる。轟霹を阻む代わりに全ての存在が出入り自由な結界。この高度に指定された縛りは五条さんですら直ぐに壊せなかったのだ。結界は閉じられ、後は術式効果を後出しで発動するだけだ。
「––––領域展開【創始再編式】」
緋色の世界が轟霹を飲み込み、轟霹は成す術もなく緋色の世界に消えていった。
★★★★★
「(正直、危なかったな。かなり力技で押した感じだ。速度対策が足りてなかったな)」
伏黒恵と出会わなければ、【十種影法術】の効果で式神の影に隠れる事は出来なかった。基盤が無ければ最悪東堂の術式で立ち回るつもりだったが、あの呪霊は想像以上に強かった。
「っ、ごほっ、ごほっ!!」
普通に血を吐き出した。
正直な話、此方も辛勝と言ったところだ。ここに来るまでの高速移動、領域展開を二回発動と、式神と領域効果を先に優先させる特殊呪具、反転術式に虚式膜、呪霊から呪力を供給出来ても負担はかなり大きい。頭も痛いし、呪力は今分解した呪霊の分を供給出来たが、流石に疲れた。反転術式を回してとりあえず呪力膜の設定も今は無しだ。
「さて、帰ろうか。帳も上がったし」
「は、はい!……あっ」
「……?どうしたの?」
「腰、抜けちゃって」
まあ、仕方ないか。
呪霊が初めて見えてアレはかなりの恐怖を撒き散らす呪霊だったし。
「ったく、ほら乗った」
「えっ!?いや、悪いですよ!」
「取り残すのは無し。おんぶかお姫様抱っこかだけど、おんぶが嫌ならお姫様抱っこにするよ?」
「……おんぶでお願いします」
もう一人をお姫様抱っこし、津美紀をおんぶする。
こういう時、呪力強化は超便利だ。しかし特級仮想呪霊がこんな所に居るとは予想外だった。私はメロンパンが来ると思ってた。やはりもう原作という物語からズレ過ぎているのだろう。
「次からこういう所に来るのはやめた方がいい」
「はい……すみませんでした」
「怖かったかい?」
「凄く、怖かったです」
本当、無事でよかった。
あんな特級が現れたとなると、守りながらも大分無謀だったし、よく勝てたなと思う。まだまだ最強を創れないし、準最強になり切れていないな。荒夜チョー反省。
「津美紀、荒夜さん!」
「恵!」
「よくここが分かっ…ああ玉犬か」
匂いを辿ったのか。
片方持ちますよ、と言われたのでとりあえずお姫様抱っこしてる方の友達を渡す。この子、藤沼さんっていうのか。
「…怪我はねえのか」
「大丈夫。腰が抜けただけだから」
「馬鹿か。普通に心霊スポットに行くんじゃねえよ。五条さんも言ってたろ。そういう場所は呪いが出やすいって」
「分かってるからこそだよ。じゃなきゃ、私の友達は死んでたかもしれなかった」
「知ってるだけで対処出来る訳ねえだろ。姉貴は呪術が使えない。なんでそこまで構う必要がある」
やけに反抗的だな。
確かに呪術は津美紀には使えないし、呪力を持っていない。けど、それではまるで力がないなら黙って見逃していろと言っているようにも聞こえる。
「姉貴は弱い。助ける力もない。なのになんで助けようとすんだよ。助けれるとか思ってんのかよ。助けて感謝されたい優越感にでも浸りたいなら、一人で勝手にやれよ」
その言葉には私もカチンときた。
反論しようとした時、津美紀が後ろから強く掴む。あっ、ちょっと首絞まってる。反論はやめてほしいとの事だ。
「私が後悔したくないから」
「!」
「私は弱いよ。こうして助けてもらえなきゃ死んでたよ。けどね、私はそれを理由に誰かを見殺しにしたら、多分もう二度と笑えなくなる」
そうか。この子、虎杖悠仁に似てるのか。
根っからの善人だ。不平等に人を助ける、伏黒恵の行動原動力はこの子から教わったものだった。
「だから、不平等でも私が助けたいって思うの」
「死んでもかっ!お前はこの人が居なきゃ死んでたんだぞ!!」
「死なせたくないから、
「それが無謀だって言ってんだろ!!」
此処から先は平行線だ。
つか、私と気絶した人間を板挟みに口喧嘩するなよと言いたいが、ため息をついて口を出させてもらった。
「……確かに、君に呪術の才能はない」
「うっ」
「今、君が助けようとした事は君が二次災害に突っ込むような事だ。正直無謀だ」
「……ううっ」
「けど、
間違っているけど間違っていない。
それが答えだ。非術師が呪霊が生み出される場所に居るのは正直無謀かもしれないが、それでも助けたいと思う気持ちは間違いなんかじゃない。
「不平等に人を助ける。呪術師はそういうものなんだ。恵くん、君が呪術師になるのは五条さんの手引きのせいだし、君自身に思う所はあるだろうけどね」
伏黒甚爾に売られてしまうのを防ぐ為に五条さんが強制的に呪術師にする担保を結んだのだ。思うところはあるし、強制的に呪術師になれと言われて苛立つ部分はあるだろうが。
「呪術師は呪われた人を一人でも救う為に動くんだ」
「それは」
「偽善者なんだよ。本気で救いたいなんて思ってる人間は多くない。善人なんて数少ない。だから偽善者でいいんだ」
偽善者じゃなければ、この世界を生きにくい。
そうやって善人が潰れてしまった事を私は知っているから。
「自分が何者でもいい。理由が無くても救わなきゃいけない。だから、私達は本気で助けたいと思わないなら偽善者でいい。それでも救う。それでも助ける」
あの人がそうだったなら、どれだけ良かったか。
善人だからこそ、虐げられた存在を憎み、悪意を見逃せずに悪意に溺れて悪意を狩っていく。
「恵、君は助ける事をどう思う?」
私の答えはきっと偽善者。
私が助けたいと思う事は、知識を変えたくないからと打算的な思いも少なからずあるからだ。だから救える部分は救う。助けられた筈なのに、助けられなかった。助けられると思い上がっていた。
だから、助ける事は偽善者だと私は思う。
「俺は……」
「確立した答えなんてないんだ。ただ、津美紀が自分の良心を信じてるそれも、呪術師では無くても一つの答えだ」
自分がどう生きたいか。
自分がどうなりたいかなんて簡単には分からない。でも呪術師は救わなきゃいけない。救った数だけ自分の存在の証明になる。そうやって自分の存在証明をしていく。
「君が本当に誰も救えない人間だと思っているなら、心配はしていてもこの子を探そうと此処まで来てないよ」
「っ…」
「自分がどうしたいかくらいは、見定めておきなよ」
もう立てるようなので、津美紀を下ろす。
意外と発育がい……まあとりあえず呪力強化でも普通に肩が限界だった。最近、呪具製作に任務の板挟みで疲れてたし。
「荒夜ぁぁぁぁぁ!!!!」
「ん?この声、天な–––––がはっ!?」
津美紀を下ろし、振り向いた瞬間に私の膝に脚が乗り、その前膝蹴りが飛んだ。思いっきり鼻に入り、私は後方に五メートルくらい蹴り飛ばされた。やるな、世界を狙えるぞ。サラッと呪力強化してるからめちゃくちゃ痛い。
「おおい!?何でシャイニングウィザード!?呪力集中させなきゃ私の意識堕ちてたぞ!?」
「五月蝿いのじゃ!妾がどんだけ探し回ったと思っておる!!電話しても出ないし、歌姫さんから連絡されたし、なんならもう次の日になってるし!!」
「マジ?嘘だろ、そんなに経ったのか?」
スマホを取り出し、ホームボタンに指を置く。
電話は伏黒恵の連絡から震えていなかったと思うのだが。カコカコと、音が鳴るだけでロック画面が現れない。そう言えば、幻灯の魔物も壊れてたし、私も直に電撃食らったしな。
つまりこれは……
「……ふっ」
「壊れたのか」
「壊れたんですね」
「壊れたんですか」
許さん轟霹。データが全部吹っ飛んだ。
ハッキングされないように依頼の内容、連絡先が流出しないように徹底していたせいで、諸々全てが復元不可能だ。私はショックで地面に膝を突いて絶望に浸っていた。
★★★★★
活動報告にて最強募集してます。最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
良かったら感想評価お願い致します。