最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。   作:アステカのキャスター

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 ドブカス覚醒回。


三十四

 

 

○月○日 晴れ

 

負けた。五条悟には勝てなかったよ……。

とまあ、実を言えばこれは分かりきった話ではあった。殺し合いならまだしも、気絶させるまでの一対一なんて一番苦手な分野だったし。それに言ってしまえば術師としての限界。今回私が使った呪具なんて三つしかない。幻灯の魔物は今回使わなかったし。

 

そもそも課題が多すぎる。

私の創った呪具の扱いについて。パパ黒のようにあの格納出来る呪霊が居ない私は呪具の持ち運びが難しい。トランクケースに十種影法術を刻んで影の中に保管しているのだが、先ず問題が影に入れたものの重量の肩代わり。そのせいかトランクケースに重い呪具を入れてられない。

 

つまるところ、私が実戦で持っていける呪具は自ずと決まってしまう。嵩張って重くなっても邪魔になるし。

 

まあ、あとは単純に呪力量。

私の呪力量は中の上、術式刻印で新しく生得術式を刻んでも自己補完の範疇に収まっていない。先ずは呪具の扱いについてどうにかしようか。

 

 

○月☆日 晴れ

 

以前、術式を流さない生得領域の付与を陀艮がやっていた。アパートのドア開けたら海が広がっていたように、結界によってその場の空間を拡張する方法。それを実際にやってみた。トランクケースの中を結界で拡張し、その中に呪具を入れて重さを測る。

 

うん無理、何も変わらなかった。

 

 

○月♪日 曇り

 

パパ黒の持っていた呪霊はどうして重さを変えられたのか。そもそも、呪具の総量にもよるが、恐らく重さは全くないと見ていい。あのパパ黒の持っていた呪霊が小さくなっても総重量が変わらないなら胃の中を突き破りかねない。臓物がフィジカルされても流石に影響がある。面積が小さければ小さいほどに一点にかかる力は増えるわけだから、どれだけ内包していたのかは知らないけど人間を格納出来る以上、格納したものには重さがないのだろう。

 

そう言った自我を持つ式神を作ってみるか?

 

 

○月♪日 雨

 

今こそ、サーヴァントを作る時なのだ。

さあ、さあ、さあ!今こそ最強のサーヴァントを!!

 

……と思ったのだがどうやって作れるのか考えた。

私の構築術式(仮)はある程度の構造を知らなければ出来ない。少なからず漠然としたものは無理。私の術式は『構築術式』が最も近いだけで、過程を省略して結果に辿り着く聖杯の在り方に近い。望んだものを呪力を対価に構築する。まあ全能でもないし、それに基づくプロセスは必要だ。

 

聖杯と同じなら正しく過程を理解した上での過程の省略。世界平和を実現するならそれに基づいた過程がなければ成立しないのと同じ。分解で得られる情報から同じ過程を得ているから術式の劣化とは言え複数のストックが可能となってる。

 

六眼では『構築術式』と言われているが、ひょっとすると前世の私の魂の影響か?外から飛来した魂が『』とわずかに繋がっているのかもしれない。

 

まあそれはさておき。

サーヴァントを造る事を始めようか。

 

 

○月★日 晴れ

 

構築術式で作った物は消えない。

であるのならサーヴァントという霊体の括りでは難しい。

 

そもそもサーヴァントとは魔術師が自分の手で作った使い魔ではなく、人類史そのものからかつて記録された現象を呼び出す使い魔。

 

正式名称を『境界記録帯(ゴーストライナー)』。人理に刻まれた英雄である。

 

この理論通りであるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()。私は既にパックと(うるる)を造れている。だがそれは一重に性格や在り方が似ている人間の魂の情報の複製を当てはめているに過ぎない。人造呪骸は近しい存在を再現できても、それ以上にはならない。

 

問題はそこ。

オガミ婆のように肉体の情報、魂の情報は分別して入れなきゃ反抗される事はあり得る。令呪もないし。そもそもここ呪術廻戦の世界だし、根源もサーヴァントもアラヤもガイアも存在するのかが不明。死者の情報を呼び寄せる降霊術があるから冥界くらいはあるとは思うけど。

 

考え方を変えるべきか?

 

 

○月*日 雨なんて滅べばいい

 

やはりゲートオブバビロンこそ至高。

サーヴァントはもう少し先になりそうだ。抑止力はないと思うが、それでも変にカウンターを食らったら怖いし、相性も存在する。宝具くらいはアリだと思うから、やはり宝物庫だろう。射出力がなくてもあの宝物庫を作りたい。いや割といけそうな気がするんだよなぁ。ただ問題が一つ。

 

一つ、単純にそれが出来たとしても術式を刻まなくてはならない事。術式刻印は最大で二つまで付与出来るが、刻んでいる間も呪力を消費する。自己保管の範疇に含められないので、自分に術式を付与するのは難しい。

 

二つ、術式情報は一度刻印を外せば()()()()()()()。前に呪霊操術を再現して、その上で術式を消したら内部から呪霊の負の呪力で死にかけた。十種影法術は道具を入れた後、術式を消したら()()()()()()()()()()()()()。あくまで私の術式は仮想再現という所だろう。

 

 

○月♡日 晴れ

 

やべーよ。

考えが纏まる前に来やがったよ畜生。

 

百鬼夜行が来てしまった。

最近色々とあり過ぎてすげー忘れてた。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 禪院直哉は鍛錬を続けていた。

 あの交流会の特級同士の対決を見て禪院家の荒夜に対する認識が変わった。最初こそ特級から推薦され、良質な呪具を作れるだけの術師、自分の才能の弱さを呪具でひた隠しにしているだけの弱者、その認識が強く自分達とは違うと格付けをしていた。

 

 雑魚の罪は本当の強さを知らない事。

 

 最強でありながら甚爾を誰も認めていなかった。

 

 恐らく、悟や荒夜を除いて。

 

 伏黒甚爾を殺した彼だからこそ、直哉は誰よりも早く荒夜を認めていた。だが、直哉でさえ荒夜はまだあちら側に立っていないと、そう思い続けていた。

 

 特級同士の対決は禪院家では鼻で笑った。分かりきっていた結果だと。五条悟という存在はそれだけ生物としての格が違う。特級という格付けはあくまで国家転覆が単独で可能である事。その条件に当てはめているだけで、同じ土俵に立てているとは思えない。視力検査と同じ、特級という枠組みに甘んじている五条悟に勝てるなんて思いもしなかった。

 

 

 その結果は映し出された映像に絶句となって目を疑った。

 

 

 使った呪具は二振りと銃一つ。()()()()()()()。術師としての実力で荒夜緋色は五条悟と遜色ない実力を発揮していた。キャンパス無しで空に描くが如く、閉じない領域展開で五条悟の領域展開を壊しては殺し合いであったのならば荒夜緋色は勝てていたかもしれない。

 

 荒夜緋色は五条悟と同じ土俵に立ち、術師としての格があちら側に到達している。更に言えば真希や真依でさえ最近頭角を現してきている。このまま乗り遅れれば一生届かなくなる。

 

 

「なあ、ちょっとええか」

 

 

 なので直接聞いた。歳下に教わるなんてプライドを捨ててでもこの状況に甘んじている事が恥になりかねない。見下していた存在にいつの間にか抜かされていたなんて扇の二の舞になりたくはなかった。

 

 

「術式の理解を深めるやと?」

「うん。投射呪法の解釈の問題かな。直哉さんは黒閃か領域展開は使った事ある?」

「黒閃は最近やったで。領域展開はまだ無理や。投射呪法の解釈を領域に持ってこれへん」

 

 

 直哉は素直に自分ができない事の現状を吐露した。

 領域展開の解釈、術式の解釈だけなら恐らく五条悟よりも上である為、癪ではあるが自分の現状を話すと軽く悩みながら、生八つ橋を食べながら縁側に座っている荒夜は尋ねてきた。

 

 

「触れた物が一秒フリーズ。触れた物の解釈は?」

「殆ど生物やろ。物質をフリーズさせても動かへんのにフリーズする意味はないわ」

「じゃあ大気中の空気や液体はどうだい?」

「!」

「固定化する事によって軽い足止めの障壁くらいにはなるかもしれないし、空気を殴れば衝撃波くらいは生まれるんじゃないか?」

 

 

 異常性に気付いたのは直哉だけなのか。

 あり得ないような出鱈目な解釈で、領域展開を可能としているのか。それが可能であると疑わないから五条悟に届いているのか。発想実現力が五条悟よりも高いから異常なのか。そのイかれた思考に思わず押し黙るほどに背筋が凍る。

 

 

「投射呪法が一秒に二十四回の動きを刻む。動きのコマを上げる事は可能?」

「それは無理や。そこは二十四回と決まっとる」

「なら投射呪法は()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「はっ?」

「投射呪法は一種の縛りの強化に近い。指定した動きに対する超強化であるなら、自身の中で呪力の流れを刻めれば、呪力消費のコストを減らせる。敢えて一点に集中する縛りを結べば貫通力も増える」

「………」

 

 

 違う。何もかもが違う。

 解釈が異次元。術師の生得術式の解釈の仕方が他人のそれと遥かに違う。いや、もっと正確に言えば視点が違い過ぎる。考え方というよりは見えている視点が()()()()()()()()()

 

 術式において可能性を広げるというのは必要だ。戦略の幅が広がる上に、使える武器が増えるからだ。だが、荒夜は何かが違う。直哉から見て荒夜は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「じゃあ投射呪法で領域に転じた時、解釈はどうなんねん」

「触れたら一秒フリーズなら相手を永続的に止め続けるか、解釈を細かくして細胞を止める事で動く相手をバラバラにするとか、電気信号のみをフリーズさせて窒息死か、血液を止めて心臓をショック死させるとか、思い付く限りそんな所かな」

「頭ん中どうなっとんねん、キッショ」

「聞いてきたの貴方でしょ、張り倒しますよ?」

 

 

 解釈が常軌に逸している存在だからこそ不遇な術式である構築術式を使いこなせるのか、その知識や発想に対して気味の悪さを感じた。想像以上に解釈が広く参考にはなったが、迷う事なく回答を導き出した荒夜に直哉もドン引いていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 百鬼夜行当日。

 文字通り千体の呪霊が京都へと押し寄せた。四級から一級だけではない。その中には二体、特級呪霊が存在していた。特級呪霊『蜚蠊(ごきぶり)』。黒い悪魔は忌み嫌われ、恐怖となり子を生成しては使役し操っていく。大群大進行、相対する術師を飲み込み肉を喰らっては繁殖を繰り返す。

 

 

「うわああああァァァァっ!?」

「に、逃げろ特級だ!?」

 

 

 呪力を付与された無数の蜚蠊の殺傷能力が高く、飲み込まれては体内まで貪り食われて飲み込まれていく。質より数、木端と言えど大群であるそれはまるで捕食する津波にも思える光景を前に撤退していく。

 

 そんな中、悠然と態度を変えずに特級呪霊の前に現れる二人。禪院直哉と禪院蘭太がその光景を見つめていた。

 

 

「カスがわんさか撤退しとるの見とると、アレとあんま変わらへんなぁ」

 

 

 這い寄る黒い悪魔を前に直哉は忌々しげに逃げる術師を評価した。駆けつけた蘭太が蜚蠊の動きを止めているが、その奥の蜚蠊の呪霊に対しては動きの拘束をしていない。この呪霊に対して禪院家の中で相性がいいのは扇だ。直哉の投射呪法と相性が悪過ぎる。

 

 

「うへぇ、キッショいわ。ブチ抜くために触れとうないわ」

「直哉さん!此処は扇さんに任せて」

「指図すんなやカス。あと邪魔やからさっさと退がれ」

 

 

 蘭太の声を無視して直哉は掌印を結ぶ。

 荒夜の解釈を参考に到達した呪術の極致。伎芸天印の印相に合わせて放出される呪力の起こり。禪院家当主である直毘人すら到達し得ないステージに辿り着いた禪院の次期当主。蘭太はその光景に目を疑いながらも直哉から離れていく。

 

 

「領域展開」

 

 

 巨大な眼の付いた膣・子宮・卵巣が浮かんだ黒い世界に蜚蠊(ごきぶり)が閉じ込められる。現在の禪院家の中でただ一人その次元へと辿り着いた最強を追う者が今、想像を超えた未来の自分へと開花させた。

 

 

 

「【時胞月宮殿(じほうげっきゅうでん)】」

 

 

 

 領域展開した直哉は悠然と歩き始める。

 襲いかかる蜚蠊の群れに目を細め、嘲笑うと飛んでいた蜚蠊の群れが一斉に地に落ちた。まるで切り刻まれたかのようにバラバラとなり堕ちる蜚蠊に呪霊は目を見開き、何が起きたのか理解出来ずに動きを止めた。

 

 

「俺の領域は触れた物が一秒フリーズ、その術式対象はより細かくなるんよ。細胞1つ1つに対してフリーズし、一度体を動かせば細胞1つ1つの動きがずれてバラバラ。うん、ええわ領域。解釈次第じゃ人間に即死の必殺やしな」

「ギ、ガッ……」

「じゃあ動かなければいいって考えるやろ?」

 

 

 領域は呪力消費が激しく何度も使えない。

 六眼を持つ五条悟、幼い頃から『落花の情』を常に張り続け、反転術式でオート化して呪力操作力を高めている荒夜は例外。直哉はまだ二回以上続けて領域展開をする事が出来ない。

 

 だが、直哉は至っている。

 あの交流戦から今に至るまで自分に足りないものを知っては何度も荒夜に教えを乞う。見下していた三下に抜かれかけているのが一番癪であったから、プライドよりも術師としての格を上げる為に学び続けた。

 

 あの日から今日に至るまで、荒夜の持つ技術や知識を盗み続けた。

 

 

「投射呪法の術式反転ってなんやと思う?フリーズの解除?一度起こした行動の逆再生?全然違かったわ」

 

 

 解釈の可能性を模索した。

 反転術式のやり方を学んだ。五条家が五条悟のワンマンチームに対して、禪院家は術師達の連携が多く抜きん出る存在が少ない。『柄』の筆頭である直哉も禪院の中では強くても、禪院の括りから遥かに超えた術師とは言い難い。

 

 ──だがそれも、今日までの話。

 

 

「順転は刻んだ動きを始点から終点へと行動する事での超加速。であるなら術式反転はその逆、終点の結果に合わせて()()()()()()()()()()()()()

 

 

 過程から結果ではなく、結果に対して過程が働く。

 それは即ち因果の逆転。結果に沿うように過程を刻み、直哉自身を因果に合わせて()()()()()()()()()。過度な動きは一秒フリーズとなる事は変わらず、更に速くなるわけではない。

 

 

「反転は順転の二倍、失敗しないだけやったら大した強化やないと思ったんやけど定めた終点に向かって自動的に行動される。つまりな」

 

 

 失敗の時のデメリットが無くなるが、行動に変わりはない。因果に沿って行動が引き起こされるが、無下限を超えるなど過度な結果に対しては働かず、自分が引き起こせる範囲に限定された行動しか取れない。

 

 だが、それがもしも()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「俺は()()()()()()()()()()()。止まってるなら尚更や」

 

 

 黒い火花が蜚蠊の呪霊の躯体を消し飛ばした。

 

 全ての攻撃の威力が2.5乗。

 その上加速された拳の重さが乗せられ、その破壊力は()()()()()()()()()()。連続で放たれる拳全てに黒閃が走る。連続で八発、呪霊の躯体は完全に消滅し、這い寄る蜚蠊全ては司令塔を失い動けば領域効果に切り刻まれたように全滅していく。

 

 

 

「術式反転『時逆追髄(じぎゃくついずい)』。勉強になったやろ?ほな消えとき」

「ギッ────」

 

 

 

 ──蜚蠊の呪霊の完全消失を確認。

 ──禪院の異能、特級呪霊『蜚蠊』相対から四十五秒、数十万を超える蜚蠊の大群と共に全てを鏖殺。

 

 

「さて、荒夜は面白いモン見せてくれるゆうてたけど、何するんやろな」

 

 

 消耗した体力とは裏腹に足取りは軽く、特級達が踏み入れていた世界に一歩、足を踏み入れた実感に不敵な笑みを浮かべて京都の街を歩く。

 

 12月24日、百鬼夜行にて。

 天与の暴君に並び立てる禪院の異能が完成した。

 

 

 





 術式反転『時逆追髄(じぎゃくついずい)
 反転術式を習得し、新たに体得した能力。過程から結果に沿うように動きを作る投射呪法に対し、結果に沿うように過程の動きを強制する因果の逆転。黒閃で殴るという結果の因果を先に作り、その過程に合わせて24コマの動きを刻む事で直哉は狙って黒閃を打つことを可能としている。

 加速の速度は変わらず、自分が実現不可能な結果は失敗し、限られた範囲の因果逆転、失敗しないだけのあまり魅力のない力と錯覚していたが、狙って黒閃を撃てると解釈した荒夜の言葉に、加速に身を任せなければ出せなかった力の無さをカバー出来る為、本人はかなり気に入っている。


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