最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。 作:アステカのキャスター
「夏油さんが宣戦布告ですか」
『ああ、僕は東京。荒夜は京都でそれを食い止める。まあ問題ないでしょ君なら』
「幾ら何でも勝ち目のないプランをするような人じゃないでしょあの人」
『僕もそう思う』
原作知識があれど、あの人が想定通りに動くかは微妙だ。歴史は変わってしまっている。百鬼夜行の後、遺体を忌々しい脳味噌呪霊に持っていかれた以上、裏で動いていると考えた方がいいだろう。
「乙骨君の護衛に人員を割いてください。呪霊操術で祈本里香取られたら面倒でしょうし」
『ああ。一年の派遣は無しにしてるし、
「それなら大丈夫ですね」
真希なら伏黒甚爾と同じとまではいかないが、スペックはそれに近い。領域展開の結界をすり抜けられる以上は同等と見てもいいだろう。呪霊操術を使う中で勝てる見込みが一番高いのは真希だ。
『……天内はどんな感じ?』
「東京に行きたがっています」
『だろうね。僕としては来てほしくないけど』
「その覚悟込みで向かおうとしてるんですよ」
あの日、夏油さんがいたからこそ天内は救われた。恩人でありながら呪詛師に堕ちてしまった夏油傑の知らせを聞いて真っ先にショックを受けたのは五条先生と天内の二人だろう。非術師を間引き恐怖を植え付ける事によって生存本能から術式を覚醒させる。
平安時代、呪霊が跋扈していた時代は術師の数は比較にならない程多かった。その選択はある種の正解でもあるのかもしれないが、人の選択としては論外だ。人を殺す事を厭わない夏油さんの選択は天内が一番苦しいモノかもしれない。
「京都で呪霊討伐が終わったら天内を向かわせでもいいですか?」
『……出来るならいいよ。呪霊討伐千体なんて簡単だとは思わないけど』
「楽勝です」
『ははっ、言うねぇ』
ちゃっちゃと終わらせて最期くらい見届けますか、天内の為にも。
★★★★★
京都のビルの屋上へと階段を歩く天内と荒夜。
高級な紅い羽織と黒いマフラーと白い着物を身に纏い、天内は巫女の装束を着付けている。呪霊千体の被害は尋常ではない為、ある程度は此方で対処する事を術師達に先に告げている。
「なあ、なんで妾なんじゃ?結界の補佐なら妾以外でも」
「夏油さんの所に行きたいのは分かるけど、この役はお前にしか出来ない」
「いや妾は元星漿体じゃけど、呪術は一般の出と変わらないのに」
「ハァ、まだ分からないのか?」
天元に成れる存在は肉体の相性だけじゃない。
結界術の才能も関わってくる。結界術において天内は補助監督の中で一番上手い。星漿体である事もそうだが、それ以上の理由があるとすれば……
「お前が一番信用出来る。それだけだよ」
単純な信頼。
結界術は複雑で、帳以外の結界術は補助監督で出来る者は少ない。習得するメリットが少ない中でも荒夜の難しい講義や解説から逃げ出さずに勤勉に学んでいた誠実さ故の信頼。
「それじゃあ始めますか。歌姫先生、学長」
琵琶を持ち、座る楽巌寺学長と腕に鈴を付けて巫女服のまま裸足で立つ歌姫が待ち構えていた。ビルの中心に立つ荒夜の後ろで天内は掌印を結び始めた。
「(会いたい……)」
呪力が激流のように身体から抜けていく。
構築する結界の複雑さから真冬だというのに汗がこぼれ落ちる。失敗は許されない。そんな緊張感の中、天内は結界を慎重に構成していく。
「(あの人にもう一度会いたい……!)」
天内理子は荒夜の背中に両手を置いた。
天元の器である星漿体の素養を持つ女。それ故に結界術に限って言えばその
その上、荒夜が分解から逆算した天元の『空性結界』の知識、結界術の理論、その応用を含めて僅か三ヶ月で全て習得し切った。
「(だから今は……妾が荒夜を最強にする!)」
天元の結界術は補助監督の『帳』など、結界術の底上げを可能としているだけではなく、呪霊の発生を抑制する『浄界』を千年という長い年月を掛けて構成している。
天元を除き、現在の呪術界で結界術に最も優れている荒夜と、それに次ぐ天内でさえ『浄界』の構成は不可能であるが、構築理論さえ分かっていれば『浄界』の
結界内の情報の伝達及び、結界術の精度を150%引き上げる。
「「 "
歌姫の術式『
呪術を極める事は引き算を極める事であり、本来は呪詞、掌印など、術式を構成、あるいは発動させるまでの手順をいかに省略する事ができるかで術師の腕は決まる。しかし歌姫は一切を省略せず、術式を儀式に昇華させる事で効力を更に引き上げる。
「「 "
加えて荒夜は『術式刻印』で『呪言』を刻み、
そこで一つの仮説を考え、実証した。
元々『呪言』とは他者の術式を底上げする
他者を呪う、それに最も適した在り方をしている『呪言』は互いの他者との同意を取った上で呪いを強制し、
現代では超少数派である術師は等級が低ければ連携を取る事が多いが、二級以上は単独行動が多く、呪言遣いも単独での行動が大きく負担をしいている。だが、平安時代は術師の数が多く『呪言』を使った連携は存在していた可能性が高い。荒夜はそこに目を付け、実証する為に歌姫に同意を取った上でそれを確認した。
術師の潜在能力を引き上げるように『呪言』で呪詞を紡ぐ事によって他者の術式を更に底上げする。
舞、楽、呪詞、掌印の省略をする事なく昇華させる事で140%にまで引き上げる。
「"
呪言継続したまま荒夜は自身の呪詞を詠唱。
領域展開『創始再編式』の精度を高めるべく、掌印を結びながら詠唱を続けていく。圧倒的な呪力出力を察知した呪霊の大群が一斉に荒夜の居るビルの屋上に視線を向けた。
「"
以前の交流戦の特級対決。
五条悟は140メートルまで広げた閉じない領域に対して、領域の精度を敢えて下げる事によって閉じない領域を包むように範囲を拡張していた。
「"
それを閉じない領域で行う。
荒夜は同じように領域の精度を敢えて下げる事によって範囲を底上げする。100%の閉じない領域を70%に下げる事によって範囲を更に拡大。結界術は複雑だ。特に閉じない領域に関しては空に絵を描き上げるような神業とされる。構成に一歩間違えば領域は不発に終わる。
「"
だが、荒夜は失敗を恐れずに前人未到の挑戦を。
呪言、呪詞、舞、楽、そして『浄界』の一部を引き継いだ『空性結界』の結界補助。
「"
呪霊が襲い掛かるがもう遅い。
呪詞の完成、全ての増幅を終え、最後の掌印を結び、両手を合わせた。
「領域展開」
半径250メートルまで拡大した領域に出力300%の増幅──大儀式は此処に完成した。
「【
京都で戦う術師達の戦場の空を緋色の銀河へと塗り潰した。
★★★★★
京都で闘う術師も、暴れる呪霊も、夏油傑に付き従う呪詛師も全てが緋色の銀河の前に空を仰いだ。京都は呪術師の家系が多い。それ故に呪術に対する知識は東京よりも多いと言っていい。
ある者はそれを奇跡の体現と呼び、讃えた。
ある者はそれを絶望の具現と呼び、心が折れた。
だが、これはそれすらも凌駕する程のあり得ざる所業。
呪霊は夏油傑が率いた呪詛師の命令を聞く為、命令が届かない場所にまで呪霊を嗾けるのは準一級から特級までと決めていた。それが裏目に出た。特級なら数秒と言えど領域展開で対抗出来たかもしれないが、領域の外側で暴れている為、回避する術はない。
「な、んだ……アレは……」
一人の呪詛師は言葉は震わせ呟いた。
結界を区切る外殻が存在しない為、逃げる事は可能である。だがその範囲は異次元、敢えて逃げる縛りを与えた所で意味をなさない広大さに呪詛師の戦意が折れる。
「馬鹿な……これが領域展開だというのか……?」
特別一級呪術師である禪院扇は刀を地に落とした。
この所業を見た人間は何を思うのだろうか。呪術師としての限界を悟り停滞してしまう者、呪術師の可能性を垣間見て新たな解釈を持って挑戦に挑む者、そして自身の努力をあっさりと越えられて絶望に浸る者。
「ねえ、これ私達居る?」
「あの、虚しくなるんでやめてもらってもいいですか!?」
「幾ら何でも……これは人が出来る所業なのか?」
最強に並ぶ万能の神業を前に誰もが動けずにいた。
時代が違えば、天上天下唯我独尊と豪語出来たであろう存在は未だに最強を追っている。これに勝つ五条悟はどれほどの者なのか今更ながら理解出来る。次元が違い過ぎる。特級という
「あの日から更に強くなってる。それだけの話だろ」
「あの人、限界地点が異次元なのよ」
「これは流石に笑ってしまうけどな」
ドドドドドドッ、と一斉に爆ぜた。
天内が荒夜の領域と融合させた『空性結界』により、領域内に存在する人間や呪霊の存在を識別し、
「先は長いなぁ……ホンマ」
──万能の極地、領域展開から僅か九秒。
──四級から一級を含めた呪霊841体を鏖殺。
★★★★★
領域展開後、術式は焼き切れて一時的に使用不可となる。
領域内は荒夜の工房そのもの。未だ解除せずに分解した呪霊全ての呪力をそのまま転用する。分解した呪霊の総数から扱いきれないと思わされるほどに潤沢な呪力が存在している。
「さてと。此処まで呪力があるなら行けるか」
荒夜は領域内で分解した呪霊の呪力を集め、構築術式を起動する。
過程を省略し、結果に辿り着く聖杯と同じ原理が使えるのであれば正しいプロセスさえ有れば考え付いた術式さえも新たに創り出すことが出来る。以前は操術系統の呪術から『操作』の理論を割り出し、新たに『式神操術』を創り上げた。
今回作成するのは『
『保管』の構築理論を用いて創り上げる新しい術式。
創るまでの正しい過程は理解している。
皮肉にも過程となるのは呪霊操術。夏油傑は呪霊の調伏の為に体内に飲み込むが、呪霊は体内からではなく夏油傑の近くから外に出ている。であるならば、呪霊操術は呪霊専用の亜空間が存在している。
その理論を以て、呪具を保管する亜空間の術式を創り上げる。
「(作った術式を刻み続ける必要なんてなかったな。要は宝物庫を戦闘時に使えればいい。独立した宝物庫にいつでも接続出来る『鍵』さえあれば消失のリスクは消える訳だ)」
宝物庫には当然、『鍵』が必要だ。
その考えが抜けていたから迷っていた。創った術式を消さないように自身にいつでも刻める術式さえあれば可能。そして呪具に術式を刻むという御業は九十九が生きていた時期から習得している。
──構築理論を習得し、過程のプロセスを達成。
──『保管』の理論を持つ術式の形成に成功。
荒夜の右手には黄金の鍵が握られていた。
鍵の先端を自身の胸に当て、捻ると自身の身体に術式が刻まれた感覚が生まれる。虚空に手を突き出せば黒い波紋が浮かび、新たな空間がそこには存在していた。黄金色の波紋ではないのは呪術由来だからなのか、荒夜はそれでもただ一言呟いた。
「うん。悪くない」
──特級呪具『王律鍵バヴ・イル』の構築完了。
──新生術式『
「天内、行くよ」
「うん!待っておれ!今から新幹線で……」
「いやどんだけ時間かかると思ってんだ。こんだけ呪力があるんだから
「えっ?」
同時に構築術式で『転移』の理論の術式の構築。
東堂葵の術式『
──結果、失敗。
「いや、これじゃ無理か。転移系統の術式のサンプルが足りないから構築理論が足りない」
条件の変更。
天元の結界術である『浄界』から目的の『浄界』へと転送する空間跳躍の術式の構成。圧倒的呪力を消費する代わりに、特定の『浄界』に転移。結界の転送と『
──結果、失敗。
「これも違うか?いや、距離の問題か。いきなり距離を跳躍するんじゃなくて近場の『浄界』に転送なら……」
更に条件の変更。
特定ではなく、京都から東京に向けて電車の各駅停車のように『浄界』から『浄界』を繋いでの転送。
──結果、成功。
──新生術式『浄界転送』の構築完了。
「まあ、此処が限界か。でも充分だろ」
呪霊を分解して生み出された膨大な呪力を、分解して補給するだけの為の呪具に変換し、宝物庫に収納していく。そして広範囲に広げた領域は此処で解除する。術式が回復するまでの暫しの休憩を挟み、息を切らした天内の手を握る。
「あ、荒夜?」
「術式が完成した。移動するよ」
「えっ?ま、マジか?」
「大マジ」
手を握られて僅かに赤くなった天内の顔が青くなりながら引き攣っていた。
「歌姫先生、学長」
「あ、荒夜?跳ぶって何──」
「残りの呪霊は葵達に任せますので、後は頼みます」
「えっ?はっ……?はあっ!?」
新生術式『浄界転送』を起動。
最も近い『浄界』を元に結界の一部を掌握し、天元の結界のシステムから転送のみを引き出す転移術式を発動すると歌姫達の目の前で二人の姿が掻き消えた。
「き、消えた……マジで今術式構築してやったわねあの子」
「………」
ビルの屋上で取り残された二人はポカンと口を開けたまま起きた現象に愕然としていた。
数秒の沈黙。
冬の風が吹き呆けていた意識を取り戻すと二人はため息を吐いた。
「…………あの若いクソガキの面影を感じるのぉ」
「……こればっかりは同意します」
何処となく五条悟に似ている破天荒さ。
あのクズより百倍マシ、と歌姫は口にするが、偶に漠然とした問題行動を起こしてくるのだ。大方呪霊は祓ったが、まだ呪霊が居るため此処の持ち場から離れるのは得策ではない事を知っていながら移動していたのを見て頭を抱えそうになった。
──荒夜は天才、ただし問題児。
歌姫の呪詞はオリジナルです。
【創った呪具】
・纏帳
・幻灯の魔物
・黒雷(黒閃銃)
・ヒトガタの符(遠隔術式の式神)
・天結刃(結界自立型の刀)
・天狼刃(領域展延の刀)
・退魔の剣
・王律剣バウ・イル(保管庫用)
・呪力保管用の呪具×99
【創った呪骸】
・ぺけ(最初に創った人形の呪骸)
・
・パック(出典、リゼロ)
【創った術式(新生術式)】
『式神操術』
荒夜が『操作』の構築理論を習得し、創った術式。
『黒鳥操術』『呪霊操術』『縄状操術』『傀儡操術』から『操作』のプロセスを理解し、構築する事で式神を呪力で操作するだけではなく創った道具に対して操作を働かせる術式。使う頻度は一番高い。
『
呪具の扱いに困り『保管』の構築理論を組み合わせて作られた宝物庫。『呪霊操術』や『術式:祈本里香』『十種影法術』など仮想の空間に収納するといったプロセスから保管庫として生み出した。『王律鍵バウ・イル』で自身に術式を刻めばいつでも使える。但し射出性能はなく、刻んでいる間は呪力を消費する。創ったところで古今東西、世界の全てが保管されたそれに比べれば塵のようなものだが。
『浄界転送』
東京まで『転送』の構築理論から考えた転移術式。
『不義遊戯』や死滅回遊編で起きた結界に入る際の転送、天元の結界による空間のシャッフルを元に創り出した術式を参考に構築した。帳の効果を底上げしている『浄界』が及ぼす範囲のみの転移を可能とするが、呪力消費量が尋常ではない為、一回使えば六割は呪力を消費する。限定した空間であれば、死滅回遊を知らない荒夜でも転送の結界は張れる事は既に実証してるらしい。
★★★★★★★
次回、東京校視点
活動報告にて最強募集してます。
最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
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