最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。   作:アステカのキャスター

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 これを読む前にお知らせがあります。
 この作品「最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから」がpixivにて無断転載される事が多々報告されています。

 この作品を書き始めたのは大学生の頃でしたか、呪術廻戦と型月作品の複雑さを組み合わせたら面白いんじゃないかと思って投稿していました。当然推測設定や原作との乖離、後に出てきた設定に対応出来ない部分は多くありますがそれでも原作を読んだ上での設定で僕は書き進めてます。

 それを無断転載されると僕も書く気を無くしてしまうのでやめてほしいです。自分の事を評価してその上で使いたいと思ってくれることは光栄ですが、僕自身がやってきた独自のアイデアを盗られたみたいでモチベーションが下がってしまうのでお願い致します。

 わざわざメッセージを送って報告してくれた黒鉄直人さん、謎の好青年Rさん。ありがとうございます。それではどうぞ。




三十六

 

 

 

 荒夜さんから連れてこられてやってきた新しい学校。

 呪術を学んで里香ちゃんの呪いを解く為に僕は呪いに向き合う事を決めたんだけど……

 

 

「とりあえず憂太、君貧弱だから徹底的に扱きまーす」

「へっ?」

 

 

 割と二十回くらい後悔した。

 五条先生。荒夜さんが言うには最強の術師で適当さはあるけど面倒を見てくれてる人に呪術を教わろうとしてた。荒夜がいる京都は権力渦巻く魔境であるとかいう理由で僕が殺される可能性が高いから。

 

 

『君がその子を生かしたいと思うなら人を傷付ける存在のままにしている君の怠慢だ』

 

 

 あの日の言葉がずっと刺さる。

 今まで何やってきたんだろうって。向き合わなきゃいけない時はきっと来るとわかっていたのに。里香ちゃんの呪いを解く為に僕も出来ることを全力でやるつもりだった。

 

 

「えいっ」

「ぶへらっ!?」

 

 

 振り下ろされた蹴りに黒い火花が微笑んだ。

 地面はひび割れ、土煙が舞う。小さく柔軟な身体から放たれる蹴りの威力がおかしい。あまりの衝撃に四回転くらいしながら吹っ飛んだ。

 

 二級術師、荒夜(ウルル)

 この人が術師として呪力効率が最高でありながら肉体強化だけなら一級相当と呼ばれてる女の子らしいんだけど。木刀が玩具に見えるくらいに目の前の怪物は生物として一線を画している。絶望が一人歩きしてる光景を見た恐怖感に思わず逃げた。

 

 

「あっ、出てきた……スルーした!」

「せ、先生!?このヘッドギアどう付ければいいんですか!?」

 

 

 特級術師のあの人が作ったらしい防御術式が編み込まれたヘッドギアを拾ったが、どうやって起動すればいいのか分からずに先生に叫んだ。このままでは里香ちゃんが顕現されるし、顕現される前に当たっても挽肉になりかねない。

 

 

「それを額に当てながら『受けてみよ!正義の力!正義装甲ジャスティスハチマキ!装☆着!』って言えば出来るから!」

「いやなんで起動呪詞がそんな小っ恥ずかしい台詞なんだよ」

「しゃけ」

 

 

 命か羞恥か取るまでもないけど、これはいくらなんでも酷すぎないですか!?

  

 

「っ、あぁもう!『受けてみよ!正義の力!正義装甲ジャスティスハチマキ!装☆着!』」

「ぶっwwww」

「うわ憂太マジでやっちゃったよ」

「後で殴りますよ先生ぇ!?」

 

 

 真希さんや狗巻くんがお腹を抱えて地に臥した。

 ケラケラと笑う元凶の先生を横目にこの後、極力手加減した(ウルル)さんに里香ちゃんが出るまでボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、戦ってみてどうだった(ウルル)

「自覚の問題、だと思う」

「というと?」

「乙骨くんが呪力を練ってなくて、供給されてるから。緋色さんは乙骨くんが持っていた呪術的能力を譲渡する事で里香を自分の一部とするって言ってた。その認識が薄いから呪力の扱いが弱い…と思う」

「それは僕も思った。解呪したいと思うほどにそこから離れていくのは仕方ないんだけどね」

 

 

 里香を縛り付けている事を悔やんでいる乙骨にとってその自覚が無ければ呪力の扱いが弱い。これでは呪力を流されて成立しているだけの術師だ。呪力の身体強化は勿論無理であり、強大な呪いに慣れすぎて呪力感知もザル。指輪から流れた呪力を物質に込める程度しか出来ない。

 

 

「憂太が呪いを掛けた……ねぇ。そんな芸当出来るような子には見えないんだけど」

「死者の滞留の縛りは人そのものを縛り付ける膨大な呪力が無いと無理って緋色さんが言ってたから、御三家よりも呪力総量が多い可能性がある」

「マジ?」

「マジ」

 

 

 確かにそれなら不可能ではない。

 だがそれは荒夜では無理、最低でも五条悟レベルの呪力総量が無ければ成立しないとの事。死者を抑留させるというのはそれだけ難しい話だ。

 

 伊地知に調べてもらうか、と五条は少し思案していると、(ウルル)は付け足すように告げた。

 

 

「でも、乙骨くんには言わない方がいい」

「えっ、なんで?」

「主従関係は成立してる。だから一方的に破棄すると縛りの罰がある可能性もある。それに祈本里香が破棄を拒むと思う」

「あぁ〜、それは否めないなぁ」

 

 

 乙骨に向けられた愛の重さ。

 それが過呪となって特級クラスとなっているのだ。一方的に破棄すると乙骨を巻き込んで心中する可能性は確かに否めない。それは乙骨が自覚し、里香と向き合う事で関係を終わらせなければならない。

 

 乙骨憂太は優し過ぎる。だからこそあんな姿になっていてもなお里香を愛している。呪力を使うという事は祈本里香を使うという事だ。それを無意識に拒んでいる。

 

 

「愛ほど歪んだ呪いはない……か」

 

 

 とても皮肉な話だ。

 大切な人の死を拒む為にこのような形でしか縛り付けられない二人の在り方に五条は少しだけ俯いていた。もしも同じ立場だったなら、きっと自分は同じ事を出来ない。

 

 歪んだとて愛。

 強者故に孤独である五条悟が知らないものであるから。

 

 

 ★★★★★

 

 

 六月頃 交流戦終了後。

 

 

 荒夜さんが作ってくれた呪具を渡された。

 高専の呪具では里香ちゃんの呪いを流すだけで耐えきれない部分が多くて、模擬戦の木刀も何本も砕け散ってるのを見て五条先生が荒夜さんに依頼してくれてたらしい。まだ呪力を込める事に慣れてないから申し訳なかったけど。

 

 

「はい乙骨君。君の特注の呪具だよ」

「あ、ありがとうございます」

「出来る限り呪いに耐えられる強度にはしたけど呪いを急激にぶち込むと自壊しかねないのを念頭に置いた上で使ってくれ。そう簡単に折れはしない造りにはしたけど」

 

 

 鞘から抜かれた刀身はとても美しい直刃で触れた瞬間込められた呪力滑らかさに思わず手を離しそうになった。荒々しさがすごい秤先輩とは対極で、これはとても澄んでいるというのか呪力の質が凄い。凄く馴染む。

 

 

「いやー、やっぱ惚れ惚れするくらいに質がいいね。けどこれ性能的には二級くらいだよね」

「等級的に考えればこれでも譲歩した方さ。いきなり特級を持たせても成長の阻害になるしね。込めた呪力を多少馴染みやすくはしたけどそれは初心者向けだ。慣れてきて物足りないと思ったら今度また依頼すればいい」

 

 

 呪具に於ける特級は単独で国家転覆が可能である特級術師を殺せるだけの性能を併せ持つか呪具に宿る術式の性能から判断される事が多いらしい。実際に高専にも荒夜さんが作った呪具はそこそこある。

 

 僕が最初に選んだ刀も荒夜さんが作ってくれてたらしいし、何かと同調しやすいというか込められた呪具の呪力が洗練されてるというか、とにかく扱い易い。

 

 

「特級になるとどのくらいかかるんですか?」

「相場にもよるが億を超える。退魔の剣は20億で売れた」

「ひえっ」

「うっわ」

 

 

 それ一生遊んで暮らせるんじゃない?

 庶民派の僕には気が遠くなるほどの金額に思わず上擦った声が出た。えっ、待ってこの刀どれくらいの値段なの……ちょっと怖いんだけど。

 

 

「まあ、私が生み出した呪具は術式が絡んでるからね。そういったものは『浴』とか特殊な技法でなければ出来ないから、実質窓口は私のみなのさ」

「下手したら僕より稼いでるでしょ。一生遊んで暮らせるくらいにはさ」

「いや流石に御三家の持つ資産には負けるさ」

 

 

 呪術界の御三家。

 名門である五条先生なら確かにそれくらいいってそうだし特級の任務は破格らしいから絶対同じくらい稼いでそう。あれだけ質のいい呪具を無数に生み出せるなら確かに持っている金額は一人で使いきれないと思う。

 

 

「まあ私の場合は研究室の維持費、平安の呪具や呪霊の研究で結構お金飛ぶんだけどね」

「ち、因みにそれってどれくらい?」

「聞きたいかい?」

「……やめときます」

 

 

 なんか怖いから聞きたくなかった。

 軽く笑って刀に手を置く。澄んだ呪力が指輪を通じて里香に語りかけているように見えた。

 

 

「ともかく、君は呪いに向き合う事から始めるように。呪具云々ではなく、祈本里香とどう向き合うかを考えなさい」

 

 

 里香とどう向き合うか。

 死んでほしくない…けど苦しんでほしくない。僕の我儘は里香に向き合わなければ出来ない事だ。この人の言う通り、僕が怖くて先延ばしにしていた向き合わなかった愛に答えなければならない。

 

 それを分かっているのか、荒夜さんは警告も忠告をこれ以上口にしなかった。僕がどうしたいかは僕自身が決めなきゃいけないから。

 

 

「導き出した答えがきっと君の力になる。励めよ」

 

 

 叩かれた肩と共に言葉が身に染みる。

 隣にいる先生との温度差を噛み締めて、何故か涙が出そうになった。

 

 

「先生より先生っぽい……」

「憂太、後でマジビンタ」

 

 

 このあと、先生との特訓で無下限使われて僕は吐いた。

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 12月22日 クリスマスイブ二日前。

 

 闇が蠢く気配がした。

 高専の結界が異変を感じ取るよりも早く、慣れ親しんでいた者達の直感が教室の外の異変を察知した。学生五人は空を見上げると巨大なペリカンの呪霊に乗った一人の男に視線が向いた。

 

 

「変わらないね、呪術高専(ここ)は」

 

 

 袈裟を身に纏い、僧を思わせる特徴的な前髪の男。

 ペリカンから降り立ち、辺りを見渡してそう呟いた。僅かに懐かしむように、目の前の光景を見て僅かに笑う。ペリカンが口を開くと、成人した男女が降りてきた。

 

 

「此処が傑ちゃんの母校なのねぇ」

「ラルゥ、貴女寒くないの?」

「イマサラ言ウノカ?」

 

 

 オカマ口調の上裸の男、茶髪の大人びた女性、黒肌のサングラスをした外国人。見るからに怪しい上に侵入者や呪霊を寄せつけない天元の結界が張られている高専で警鐘が鳴っているのを真希には聞こえていた。

 

 

「オマエら、何者だ。侵入者は憂太さんが許さんぞ」

「こんぶっ!」

「えっ!?」

「憂太さんに殴られる前にさっさと帰んな!!」

「えぇ!?」

 

 

 動揺している乙骨にそっと手を合わせる。

 

 

「──はじめまして乙骨くん、私は夏油傑」

「えっ、あっ、はじめまして」

 

 

 緊張感を緩ませたコントの中、気付いた頃には乙骨に自己紹介を済ませ、両手で握手を交わしている夏油の姿にパンダと狗巻は驚愕し、(ウルル)は即座に乙骨の襟も掴み、後ろに引き寄せて夏油の前に立つ。真希は殺意を感じなかった為、静観していたが(ウルル)の様子から少し警戒度を上げた。

 

 

「やめてください。夏油さん」

「おや、久しぶりじゃないか(ウルル)。荒夜は元気かい?」

「元気ですよ。彼に何かするつもりなら容赦しません」

「おや怖い」

 

 

 夏油の首を狙い澄まし呪力で強化された蹴りが放たれた。煙が立ち、ドゴッという重い音が響く。幾ら何でもやり過ぎと乙骨が心の中で思う中、煙が風に飛ぶと、その蹴りを容易く受け止めた夏油が不敵に笑っていた。

 

 

「あの頃より強くなったじゃないか」

「っ、あっ……!?」

(ウルル)さん!?」

 

 

 呪力で強化された呪霊を挟まれて威力が削がれ、(ウルル)の足を掴んで投げ飛ばしていた。体勢不十分で地面に転がりながらもすぐさま立ち上がり呪力を迸らせているが、凪いだような穏やかな笑みの裏腹に感じる余裕。組み手で一度も勝てなかった(ウルル)をこうも容易く遇らう夏油を見て僅かに恐怖が増す。

 

 

「止めろ不審者。仲間に手を出すなら容赦しねえよ」

「僕の生徒にイカれた思想を植え付けようとしないでくれる?傑」

「君も久しぶりだね悟」

 

 

 薙刀を構える真希と乙骨の前に立つ最強。

 まるで見えてなかったかのように視線を向けずに嗤う夏油に異質さを感じていた。

 

 

「今年の一年は粒ぞろいと聞いたが…なるほど悟の受け持ちか。特級被呪者に荒夜の人造術師、突然変異呪骸、呪言師の末裔。そして……禪院家の落ちこぼれ」

「殺すぞ」

 

 

 先の笑みから一転、憐れみながら路上の石を見るような目で真希を見下ろし威圧する夏油に真希は青筋を浮かべた。

 

 

「言葉に気を付けろよ。君のような猿は私の世界にはいらないんだから」

「お前こそ気を付けろよ。アイツの再来だぞ」

「あの猿に勝てなかった君が言うと説得力が違うね悟」

「勝ったの荒夜で自分の事を棚に上げてブーメラン吐いてんじゃねーよ。オッエ"ー」

 

 

 伏黒甚爾に負けた事実は未だ消えていない。

 反転術式を習得し、ハイになっていたというのに荒夜が倒してしまった為、不完全燃焼は拭い切れなかったのは否定しない。その黒星は汚点と言えば汚点である為、五条は静かに青筋を浮かべていたが、夏油も荒夜と共闘して真っ先にボコされて負けた為、若干苛立ちから睨み付けていた。

 

 

「……まあいい。本当は乙骨くんを誘いたかったけど、要らない邪魔が入ったし止めておくよ」

「じゃあ何しに来たんだよ」

「宣戦布告さ」

 

 

 悪どい顔で嗤いながら声を張り上げる。

 

 

「お集りの皆々様、耳の穴かっぽじってよーく聞いていただこう!」

 

「来る12月24日、日没と同時に我々は百鬼夜行を行う!!場所は呪いの坩堝(るつぼ)である東京、新宿!呪術の聖地、京都!!」

 

「各地に千の呪いを放つ。下す命令はもちろん"鏖殺(おうさつ)"だ。地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして止めに来い」

 

 

 最悪の呪詛師が告げる最悪の宣告。

 地獄を再現する事に罪悪感すら湧かず、それが彼が目指した答え。非術師を皆殺しにして、術師だけの世界を作り上げる。

 

 馬鹿げた誇大妄想も、ここまで来れば地に足がつきかねない程に夏油傑という存在が全員に刻み付けられる。

 

 

 

「思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

 

 

 その言葉に一同が警戒を強め、夏油傑の捕縛に入るか逃走を選ぶかどちらとも行動できるように、各々武器を取り出す。特級という存在は数で圧倒しても無意味だ。

 

 だが、此処には最強(五条悟)がいる。呪術界での負けはない。負けはなくとも巻き込まれて死ぬかは別問題ではあるが。苛立ちを含んだまま去ろうとする夏油に五条は言葉をかける。

 

 

「このまま帰すとでも?」

「──やめとけよ」

 

 

 出現する夥しい数の呪霊が既に取り囲んでいた。

 骸骨の音量、這い寄る百足の群生、ケタケタと笑う怨念の集合体が一瞬にして数の暴力を覆す。このまま戦闘を行っても周りを巻き込みかねない。五条悟にとっては特にそれが顕著に出る。領域展開で生徒達を除外して夏油傑や呪霊のみを巻き込む事は対策されているだろう。

 

 

 

「──可愛い生徒が私の間合いだよ」

 

 

 

 相変わらず小賢しくて狡賢い。

 舌打ちを溢し、さっさと行けと言わんばかりの視線を向ける五条に勝ち誇ったかのように夏油傑は笑い、ペリカンの呪霊の足に掴まると手を振って飛び立っていく。

 

 12月24日、百鬼夜行の宣戦布告。

 一同は気を引き締めて夏油傑という呪いを祓う為に対策を練り始めた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 俺達、最強だから。

 そう呟いた言葉はもう伽藍堂だった。オマエは僕と同じ所にいた筈なのに強くなってから置いてかれてるって焦ってたのも気付けなかった。時間も青春も巻き戻らない。

 

 アイツは変わった。もう最強とは言わなくなった。

 辿り着けないから僕にはなれないと言っていた。それは決別を意味する言葉だった。

 

 僕は最強だ。そこは否定しない。

 誰にも負けない強さを自負してる。誰も追い付けない場所でただ世界を謳歌している。この世界が心地良くて、その極地に辿り着けた悦びは未だ消える事はない。

 

 追い付けるはずがない中で、唯一僕に近づいたのは荒夜だった。

 

 あの時は激った。交流戦で無ければ全力でぶつかり合えた。殺し合いでなくとも、あそこまで血潮が沸騰するような高揚感と充足感はまだ見つかっていない。

 

 荒夜は更に力をつけてくる。

 

 僕を超えて最強を謳う日がきっと訪れる。

 

 

 

 

 なあ傑……

 

 

 

 俺はオマエも最強の壁として立って欲しかったよ。

 

 挑戦者(チャレンジャー)を待ち構えて、最強を謳い続けて。

 

 いつか超えられたとしてもその時に自分達が誇れるように。

 

 荒夜だけじゃない。憂太も秤も真希も僕を超えてくる強さを秘めてる。だからこそお前と一緒に術師育てて、腐ったミカンの連中が支配してる世界を変えたかった。

 

 今更こんな事言うべきじゃねえけど……

 

 俺はお前と一緒にこの世界を変えたかったよ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「チッ……」

 

 

 地味に苦戦を強いられている。

 負けはしないが、この黒人が持つ黒い縄に術式を乱される。コイツに構ってる暇はないが、呪霊の数も相当だ。二級以下の雑魚が多いが、群れで襲われたら他の術師は厄介だ。

 

 早く決めておきたいが、術式そのものと肉体強化で強度が半端ない。蒼や赫は乱されて決定打にならない。出力の高い術式を乱されて二次災害を起こしても面倒だ。

 

 領域展開を使うべきか?

 けど、術式を乱すあの縄が何処まで通じるか未知数だし一定の距離を保っている。領域内で『無量空処』が効かないのは僕だけだが、その前提をあの縄が崩してくる可能性がある。恐らく特級呪具だろうからあれを削った方が確実か。

 

 

「メンドッ、術式に絡む呪具なんて『天逆鉾』以来じゃん」

 

 

 真希が居るなら問題無いと思うけど、アイツが倒せる前提で高専に向かったなら真希であっても危ない。棘やパンダでも傑と渡り合うには厳しいだろうし、かといってこの男を他の術師に預けるのはあんま得策じゃないかも。あの時、傑と一緒に現れた中では一番強いし。

 

 いっそ領域展開を速攻で行なって倒したほうが早いか。掌印を結び、目の前の男を閉じるように領域を展開しようとした次の瞬間。

 

 

「わああああああああああああああっ!?」

「口閉じないと舌噛むよ」

 

 

 悲鳴が聞こえた。しかも上から。

 天内の声が聞こえて上を向くと、手を繋いで上空から落ちてきた荒夜と天内の姿が見えた。

 

 はっ?アイツ京都に居たろ。なんで此処に居んだよ?

 天内を横抱きして、フワリと降りてくる荒夜を六眼が捉えた。新たな術式情報が()()()()()思わず二度見した。

 

 

「やっ、久しぶり五条さん」

「何でいんの?」

「京都の呪霊ほぼ祓ってきたから転移術式を創って飛んできたんだよ」

 

 

 その言葉に内心絶句した。

 そう、荒夜が持つ術式は天元様の浄界に干渉して転移するという()()()()()()()()()。生得術式は基本的に自己完結する事が多い。他人の呪力を増幅させる歌姫の術式とは全く性質が異なる。()()()()()()()()()()()()()()()()()であるという異質さ。

 

 

「術式創ったって言った?」

「ああ、言ったね」

「いや……生得術式でもないのに術式創るとか現代の呪術師涙目じゃん」

「それが出来なきゃ勝てるものも勝てないだろ?」

 

 

 それよりも生得術式と同じような術式を一から構築した?模倣や再現とは訳が違う。誰もが羨むような力を再現し、構築する。才能や血筋なんて関係がない。過程さえあれば荒夜は文字通り()()()()()()万能の呪術師じゃねえか。

 

 あの勝負から更に強くなってる。

 僕に並ぶ術師も僕に追いつこうとする術師もあまり居なかったから経験が無かったけど、追いつかれる感覚がここまでゾクゾクとするものなのか。それはきっと将来的な愉しみが増えてしまったからなのか自然とニヤけていた。

 

 

「……ぶっちぎりでイカれてんね。ホント、僕もうかうかしてらんないなぁ」

「まあそれは後で話すとして」

 

 

 荒夜は指を高専の方向へと向けた。

 

 

「──行きなよ、あの人のところへ」

 

 

 僅かに目を見開いた。

 そういえば荒夜は傑と僕の仲を知ってたな。真希がいれば問題ないと思ってたけど、傑が対策してないわけがない。念の為、棘やパンダを送ったけれどそれでも傑の相手にはならないだろう。曲がりなりにも特級、僕と同じ道を歩もうとした最強。

 

 でもそれなら何故荒夜は此処に来た?

 荒夜がいけば万事解決だというのに。ため息をついて見透かすような視線を向けられた。

 

 

「私があの人殺すくらいなら自分の手で終わらせたいんだろ?」

「っ、それは」

「天内は連れていきな。代わりに此処は私がやるから」

 

 

 僕の配慮なんて百年早いと言いたいけど、確かにそうだった。アイツの本音も、どうして道を踏み外してしまったのかも、何もかも言葉が足りない中で、別れた()たちの道。

 

 後悔してる。

 救われる覚悟があるものしか救えない。その救われるものに傑はいなかった。入れてしまえば弱いもの扱いになって、きっと対等でなくなるから。けど、アイツの助けてという無意識の呪いに気付けなかった事は今でも後悔してる。

 

 詰まった言葉に何も返せずに困った顔をした荒夜は黒人の男に視線を向けて、振り返らずに僕に告げた。

 

 

 

 

「親友なんだろ?今でもあの人は」

 

 

 

 

 ああ…そうだね。その通りだった。

 見透かされたように告げられた言葉に僅かな動揺が走ったのに認めてしまえば蟠りはストンと消えた。それは自分が一番認めていたから。たった一人の隣に立っていた親友はアイツだけだったから。

 

 傑は殺さなければならないけど、終わらせるのなら最後に僕が終わらせたいと思っている。叶わなくてもいい。傑と最期に話をしたいと思ったのも事実だから。

 

 ……ホント、そういう所は誰かの口から聞いて決めたくはなかったんだけどなぁ。

 

 

「──任せたよ、荒夜」

「言われなくても任されたよ最強」

 

 

 僕は天内を掴んで戦場から高専へと飛んだ。

 僕に背中を預けられるくらいに強くなったアイツに託して。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「さて……あの人なら大丈夫だろ」

「チッ、任務ハ失敗。ナラ逃ゲサセテ──」 

 

 

 ヒュッ、とミゲルの横に何かが飛来した。

 横に突き刺さっていたのは刀。低級の呪具とはいえ、地面に深々と突き刺さっている。荒夜はただそこに立っているだけで投擲している訳でもない。

 

 

「逃がさないよ。それにその呪具、割と興味があったんだ」

 

 

 荒夜の後ろから黒い波紋が浮かび上がると、無数の呪具がそこから鋒を向けて待機していた。夏油傑から聞いていたもう一人の特級は無数の呪具を創り上げ、術式の汎用性が異次元。万能と言っていい程の多才さ、そして五条悟を超える攻撃手段と破壊力を兼ね備えた人の形をした兵器のような存在と聞いていた。

 

 

「慣らし運転には丁度いい」

 

 

 色々な意味で予想外、教えられた術式の攻撃ではない。

 ただ狩人に狩られる怯えた狐になる事しか出来ない程の圧倒的な恐怖。五条悟であったならまだやれたかもしれない。圧倒的な強さであったが、術式の攻撃手段が決まっていた分、まだ時間を稼げていた。

 

 

「まあ、精々死んでくれるなよ──雑種」

 

 

 想像が出来ないから怖い。

 何でも出来るから故に選択肢を絞れない。未知数の術式さえ構築する特級呪術師を前に、ミゲルはただ涙して死に物狂いで逃げ回った。

 

 

 

 




 次回
 ミゲル 対 荒夜
 鬼人真希 対 夏油傑
 
 ちょっと細かく書くとエタりそうだったのでこのくらいで書きました。社会人になって研修の時間が長い為、ゆっくりと空いてる時間や休みの日に書き進めて行きたいと思います。

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