最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。 作:アステカのキャスター
ちょっと長くなりそうなので夏油傑対高専メンバーは次回。沢山の応援ありがとうございます。
「まあ、精々死んでくれるなよ──雑種」
右手を構え、方向を定める。
黒い波紋が揺れ動き、鋒がミゲルに向く。
「"金冠" "圧制" "千里の
「!」
「『◼️』」
呪詞の詠唱。飛んでくる呪具。
ミゲルはすかさず横に移動して躱しているが、いた場所には数本の呪具が突き刺さっている。すかさず呪具にマーキングした呪印から遠隔の術式起動。呪具に宿る呪力全てを消費する縛りで術式の威力を引き上げる。
「
「フゥ!!」
が、発動直前でミゲルの『黒縄』が術式を乱す。
呪法『氷天』は制御を失い、呪具が中途半端に残った状態でその場に存在していた。意表を突く程度なら問題ないが、実戦に使えるかと言えば性能はやや微妙だと評する。
「やっぱ術式の同時発動じゃ碌なスピード出ないな。割り出した呪詞込みでこれじゃ実戦に向かなそうだな」
「(構築術式、アノ波紋カラ呪具ヲ作ッテ射出? イヤ、アレハ元カラ存在シテタヨウニ見エタ……)」
「(問題は呪術を使う為の容量だな。保管するだけとはいえ容量をそこそこ使う中で他の術式を使うならどうしても発動時間や精度が落ちる)」
術式刻印は術式の同時発動が可能ではあるが、当然限度が存在する。術式には容量があり、『構築術式』発動中に強力な術式は殆ど使えない。同時並行で使う術式は基本的に『式神操術』のみ。媒体である紙の呪符を用いて目視できる程度の範囲まで操っているが、これにもタネがある。
式神そのものの重さは軽く、遠隔起動の呪印を刻まれているだけの紙媒体。式神自体の攻撃性はなく、式神そのものを操るのは技術である程度カバーしている為容量をあまり使用しない。
術式遠隔起動のマーキング付きは起動しなければ容量そのものは使わない。あくまで周辺まで動かせるだけ。操作範囲や操作枚数の縛りを科す事によって術式そのものの容量を軽くしている。それ故に『構築術式』との同時併用が可能である。
「まあ、理論の殆どが生きた呪い限定だったからな。仕方のない部分は多いか」
構成した術式は式神や呪霊を格納するものばかり。
射出性能がないのは正にそこに関わってくるのだろう。荒夜は一度『構築術式』を切り、術式刻印で刻まれた『
音速を超えず、準一級クラスの呪術師なら見切れる程度の速さ。数で圧倒する本家のやり方、呪具自体がこの世全ての源流である宝具の源と比べるまでもないだろう。
作った術式を新たに作り変えて飛ばす概念を追加しても英雄王のようには飛ばす事は出来ないだろう。そうした所で更に術式の容量が重くなり燃費も悪くなる。呪霊操術だって呪霊が動くからこそ同じような使い方が可能なわけで無生物では限度がある。十種もリカも呪霊操術も基となった理論が全部生物対応である以上は仕方のない話ではある。
「フッ!」
「おっと、危ないな」
射出された呪具を避け、鋭い拳を打ち込むミゲルに身体を傾けて躱す。体術だけなら恐らく自分より上だと悟った荒夜は『落花の情』の出力を通常より多く上げる。
「!」
「フンッ!!」
拳に対しカウンターの呪力攻撃が当たった瞬間、
「おっ」
「貧弱ダナ!」
ドゴッ、という音の割にめり込んだ拳はミゲルに大したダメージを与えていない。まるで大木を殴ったかのような感覚。それ以上に驚いたのは拳に込めた呪力が減衰した事。『黒縄』を振るうミゲルから術式反転の分解で重力を分解し、距離を取る。
呪いに対する
「(流石ニ五条悟ホドデハナイナ。イヤ、コイツ遊ンデイルナ?)」
「(普通に速いし硬い。ステップを刻んだ時間分、呪力攻撃の減衰と肉体強化寄りの単純な術式か。単純な体術なら術師の中でもかなり上澄みだな)」
ミゲルの術式は『
刻むビートは呪いを退け、自らの身体能力を強化向上する。その為、直接的な呪いは減衰され、骨格や
ミゲルは逃走を選択肢から排除した。
逃走したところで上空に転移してきた術式が未知数であったこと。アレがどのような条件なのかミゲルは知らない。京都にいるはずの荒夜がここにいる以上、多少遠くに逃げても追いつかれる可能性がある。であるなら、多少なり呪力を削るか戦闘不能にするか。五条悟ほどではないし、術式も対応出来る。理不尽な無下限と比べれば対処不可能な訳ではない。
一方で荒夜はミゲルの実力を評価している。
五条悟を足止め出来るだけの実力。シンプルな術式にシンプルな強化。五条悟や夏油傑とは別種の厄介さ。面倒だと顔を顰めた。
「(それにそこそこの距離を取られるな。仮に展開しようものなら構築前の結界に『黒縄』をぶつければいいだけ。術式の焼き切れの時間も惜しかったからか五条さんは領域を使わなかったのか)」
ミゲルの強さは理解した。
単純な相性の悪さ故に五条悟に勝てないだけで術式無しのタイマンならば互角かもしれない。在り方は違えど伏黒甚爾に似た脅威と言えるだろう。
だからこそ笑う。
丁度良い実験体が目の前に居る事に頬を歪ませて笑う。それは何処か不気味で、ミゲルの背筋に走る寒気。全神経を逆撫でするような恐怖。
「何ヲ……笑ッテイル?」
「いやさ、あの日からインスピレーションが止まらないんだ」
特級呪術師。
現在五人しか存在しない単独で国家転覆が可能な術師。無限を掌握する現代最強の術師。特級過呪怨霊に愛された現代の異能。呪霊を取り込み異形の軍を兼ね備えた現代最凶。そして現代最多に呪術を持つ万能の極地。
強い人間に追い付く為なら何でも創るし、何でも試す。呪術師としての限界は自身の生み出す手数で越える。あの日の五条悟との戦闘は荒夜に多大なインスピレーションを与えていた。術式の創生、縛りの変更、手数の増加。
それら全てを以て──
「子供の頃大きかった公園が小さく感じるみたいに、手の届かない所へ手を伸ばせるような成長の実感があってさ。思春期全開なんだ」
突き詰めた『一』を『全』で対抗する。
それもまた最強の在り方。奇しくもその戦い方だけは夏油傑に最も近かった。そしてそれは夏油傑が五条悟に追い付けないと諦めてしまった道だった。
「だから──殺しちゃったらごめんね?」
それは呪力の起こり。
大技を出す際に漏れ出る呪力をミゲルは感じ取る。
「領域展開」
「マジカ……!?」
滑らかな動作で結ぶ掌印は堅実心合掌。
唐突に展開される領域を前に、警戒していたミゲルは『黒縄』を握り締める。
「【
緋色の銀河が周囲一帯を塗り潰す。
領域展開に於いて最も顕著に出るのは呪力の起こり。どれだけ優れた術師でも大技の瞬間に発する呪力を隠す事が出来ない。ミゲルはそれを知っている。
領域が広がるのを見越したミゲルは『黒縄』を領域の一部に叩きつける。領域の範囲、内包出来る空間の大きさには個人差がある。囲む領域の場合、外殻の
逆に言えば術者を外殻が包む前ならば結界が構築される前に対処出来る。包み込む領域の外殻に『黒縄』を叩きつければ領域は乱され不完全、或いは崩壊する筈だった。
「嘘ダロ!?」
ミゲルの誤算。
荒夜が展開した領域は結界による分断を行わない。敢えて逃げる縛りを与えた領域。現実世界に侵食する領域に
敢えて逃げ道を作る縛りで範囲を、そして領域展開中ミゲルのみを必中にすることで呪力消費量を減らしている。ミゲルは領域を破壊出来ない事を理解し、領域の外へと加速する。
しかし、それすら──遅すぎる。
「ガッ……アアアア!?」
ミゲルに対し必中効果が発動する。
構築術式で酸素と水素、炎を構築。水素爆発の化学反応に呪力が込められ、ミゲルの背後が焼けるような痛みに思わず叫ぶ。それでも歯を食いしばり、領域の外へと足を動かす。
その光景を見ながら、悠然と歩きながら荒夜は軽い術式の開示を始めた。
「私の構築術式は
それはもはや開示ですらない。
五条悟との戦闘を経て新たに覚醒した境地。物理量、物理法則に干渉した構築と分解。手数の多さが更に測れなくなったと同じだった。『黒縄』を領域に叩きつけながら外へと走る。少しでも自分に届く術式効果を乱そうとしながら領域の範囲外が見えたその時。
「!?」
領域の一歩手前でミゲルの体が止まる。
あと一歩だというのにその一歩が踏み出せない。まるで足が重くなったかのような感覚。向かい風に邪魔されるように前に進めない。
否、ミゲルが荒夜のいる中心へと
「術式
荒夜の頭上の空間が陽炎のように揺らいでいる。
その中心へと物質は収束し、圧縮されていく。それは五条悟が使う『蒼』に似ている呪術に『黒縄』を手摺に巻き付けて耐えるミゲル。聞かされていた話と違う。五条悟の術式の再現は出来なかったと言っていた夏油の話と噛み合わない。
「コレハ五条悟ト同ジ…!?」
「無下限じゃないよ。虚構を生み出すアレと違って私は力の方向を一点に集中して圧縮してるだけ。足りないものを満たすように空間が圧縮し、引き寄せが発生する『蒼』と比べたら力業でやってるパチモンなんだけど」
荒夜は無下限呪術が使えない。
無限が見えずとも無限を操るを前提に何度か試してみた事があるが、原始レベルの無限一つにアプローチをかける事が出来ず一つの無限に他の無限が干渉しあって制御が出来ない。『六眼』が無ければまともに使えない欠陥術式。故に習得は諦めたが、これは構築術式で蒼を擬似的に再現した術。
なんてことはないただの力業。
物理量を構築し、一つの空間に力のベクトルを生み出し無理矢理圧縮してるに過ぎない。当然限度もある。一方通行のように
ただし……
「圧縮した気体は一箇所に集中するなら、それを一気に解除するとどうなると思う?これもパチモンで再現には程遠いけど」
圧縮した気体は依然残り続ける。
方向性は定まらない無差別な広範囲攻撃。本家よりタチの悪い圧縮された空間の制御が解き放たれた。
「術式偽典『赫』」
「───!」
風の爆発が周囲の全てを飲み込んだ。
★★★★★
一級呪術師、日下部篤也は東京で呪霊の討伐に勤しんでいた。
百鬼夜行から二級以下の呪霊をのらりくらりと倒しながら上手い事、特級や一級から離れて雑魚狩りをしていた。一級を確実に祓えるとはいえ勝負に絶対はない。術式の相性や能力値によっては殺される可能性を捨て切れない。術式がないながら一級にまで上り詰めたとはいえ、危険に自ら飛び込みたくはなかった。
「おい、なんだこの嫌な予感……」
先程、『赫』の余波でビルの窓が全損する被害が起きた。それはまだいい。良くはないが勘で避けられたから。歴戦の勘、臆病さから来る警報が足を動かす。急いでこの場から離れようと逃げ出した瞬間。
「うおおおおおおおおおっっっ!?!?」
突発的に訪れた横殴りの暴風に成す術なく吹き飛ばされた。飛ばされる方向は奇しくも怖いからという理由で遠ざかっていた一級呪霊がいる場所へと。
なんとかダメージを最小限に突風から免れ、着地すると他の術師は救世主を見たかのように日下部を見る。ジリ貧で負けている二級以下の術師達から一級に対する信頼の視線が突き刺さり、逃げる事を許さない。
「アイツ覚えとけよおおおおぉぉぉっ!?」
嫌でも戦わせられる恐怖。
他の人間が見ている中で階級の高さから逃走する事を憚られる状況。帰りてえ…!と心の中で叫びながら一級呪霊へと抜刀した。
その後、涙を流しながらも一級は祓えたらしい。
★★★★★
風の爆発の中心に佇む影。
煙の中から悠然と姿を現す荒夜は苦笑した。まるでピンボールのようにミゲルは声も上げられずに吹き飛ばされ、ビルへと叩きつけられていくのを横目に先程の偽典『赫』を見て、ため息を吐く。
一点に放つ『赫』のようにはいかず、定めた方向からかなり拡散してしまう。荒夜はベクトルを生み出すだけで操作をしている訳ではない。『六眼』があればまだしもそこまで緻密な操作は不可能だった。
改めて『無下限呪術』の恐ろしさが理解出来る。
これは五条悟以外が使っても五条悟以上にはならないだろう。劣化再現でさえかなりの欠陥モノしか再現出来ない。
「なんちゃってにしてはいい発想だけど被害が大きいからアウトかな。方向性が拡散しちまうし、五条さんみたいにスマートにはいかな……ん?」
吹き飛ばされた方向を見る。
あの速度なら骨は少なからず逝っている筈と思っていたが、叩きつけられる前に巨大な手がミゲルを包んでキャッチしていた。その下にはハートのニップレスを張ったオカマがミゲルを助けながらこちらを見ていた。
「大丈夫かしら?」
「コレガ…無事ニ見エルノカ……?」
「あら、憎まれ口が叩けるなら平気そうね」
オカマ…ラルゥの術式によるものだ。
手に由来する式神を作る術式か禪院甚壱のように拳そのものを巨大化して顕現させるものか僅かに悩むが、まだミゲルは領域内にいる。『波旬』を必中で当てても分解してもどちらでも構わない。まだ射程距離内にいる。
「逃げるわよ」
「逃すとでも?」
「お願い。『かまど神』」
「!」
ラルゥの声に影が揺らぐ。
ずるり、と出てきた炎な形をした呪霊に目を細めた。準一級呪霊『かまど神』は火難や盗難を護る神であり、火を司る妖怪でもある。ただ呪霊を分解すれば回復できる荒夜を前にそれを出す事は自殺行為だ。
だが、出したその意味は直ぐに理解出来た。
地面に揺らぐ炎の結界が荒夜の強いた必中効果を逸らしている。
「成る程ね、簡易領域か」
火難に対してより強い強度を誇る簡易領域。
領域対策としては正解ではある。更に荒夜はミゲルを対象に必中を縛った以上、『かまど神』の簡易領域を簡単に剥がせない。今更変更した所でその前にミゲル達は領域から出ていくだろう。
「けど射程内なのに変わりは──」
視界が黒く染まる。
瞬間、何が起きたか理解できずに呪力を最大限に防御する。眼前に巨大な手が飛んできた。掌底のように手の平に弾かれ、逃げようとするミゲル達の反対側へと飛ばされた。
「(ッッ……やべっ、虚式膜の対応遅れた)」
術式刻印を意識していたせいか虚式膜の対応が遅れた。手数が多い原因もあるが、新しい事を試したい欲求が大き過ぎて隙を作っていた。反省反省、とダメージを反転術式で回復させながら荒夜は頭を掻いた。
「まあいい、折角だ。新しい術式でやってやろう」
領域を閉じない利点。
それは術式の容量を食わない事。領域に術式を付与した影響で、術式の容量は回復している。遠くない未来で宿儺が【伏魔御厨子】を使用しながら『領域展延』を行ったように外付けした術式は容量を使用しない。
領域展開によるステータスの上昇、そして術式を使用する容量。それにより外付けした術式刻印は限りなく100%に近い能力を発揮する。
使用するのはあらゆる呪具を保管する新生術式。
「嘘でしょ!?」
「たかが必中を逸らした程度で、逃げられると思ったか?」
ミゲル達の周囲に黒い波紋が浮かび、矢を番えていた。
射出性能がない為、呪具そのものを式神化。
射出する際に呪詞込みと本数の制限、飛ばした呪具の性能の消失、領域による構築術式の使用を一時的に使用不可にする即席の縛りを複数結ぶ事で術式の容量を下げ、性能を200%まで引き上げる。
「"金冠" "圧制" "千里の
「っっ!ミゲルちゃん『黒縄』で──」
「遅い」
魔眼起動。
視界に収めた存在に対して働く『積重魔眼』に領域から逃げる足が止まった。簡易領域で術式を弱めたとしても一瞬でも足が止まればそれは致命的な隙となる。
「『
一秒の停滞。番られた矢。
数秒先の未来を見ずとも分かる絶望の歯車は動いた。
★★★★★
呪具が放ち続けられてから十数秒。
波紋を閉じて蹲る敵を見下ろす。二人と一柱に保管された呪具が肉体を貫き、深く突き刺さっていた。既に『かまど神』は祓われている。
「っ…ぁ……!」
「はいお終い。がんばり賞ってところだな」
新生術式『
元々創る事をメインとする術式で術式反転ばかり使っていたが、どちらかといえば本質はこちらの方が向いている。
「グッ…ラルゥ…!」
「へぇ。即席の縛りを結んで手で覆うことで急所だけは避けたのか」
「フゥー…フゥー…!」
「まあ、その様子だとギリギリ間に合わなかったみたいだけど」
ミゲルは左脚と肩に呪具が、ラルゥは腰と右腿と左腕に呪具が突き刺さっている。
ラルゥの術式『
動きを止められていたあの瞬間、即席の縛りを自身に科し術式を無理矢理発動し、ミゲルを守った。その代償として仮想の手のダメージを全て負うことになり、右手は穴だらけになっていた。
「(夏油さんが目指した世界か……)」
呪術師が呪術師を守る。
それは夏油傑が目指した世界である。呪術規定に基づくなら死刑ではあるが、此処で死なすには少々惜しい気もした。
「どれだけ手数を弄しても究極の一に勝てないってかの王様は言うけどさ。私はそうは思わないよ。五条悟や両面宿儺が一なら私は全だ」
「何ノ、話ダ……」
「こっちの話。突き刺さった呪具には一部麻痺毒が塗られてるのあるから暫くは動けないよ。まあその脚だと反転術式でも使わなければ無理か」
決着が着き、領域を解除する。
動けないミゲルから『黒縄』を掻っ払い、宝物から呪力をある程度封印する鎖で二人を縛る。動けないと思うが念の為だ。
「最強の在り方なんて、それを割り切れたならきっとよかったんだ」
焼き切れた術式は回復していないが、暫く待てば元に戻る。『
戻り次第、『雷天』で気絶させる。
展開時間を考えればあと数分で回復する。反転術式による脳破壊からの回復は出来なくはないが、窮地でもないので使用せずにゆっくりと待てばいい。動けない二人を見てそう考えていた次の瞬間──
「っ!?」
感じ取った
呪具を取り出し、発動前に潰す選択を選ぶ。感じ取った場所は背後から十数メートル。荒夜なら発動前に潰せる距離。
だというのに、
『
「悪いわね…負けは認めても死ぬつもりはないの」
「テメッ──」
二人を隔てるように降ろされる結界。
領域に引き摺り込まれた荒夜は即座に簡易領域を展開するが、呪力を然程感じない事に僅かに顔を顰めた。霧が世界を包み、笠地蔵が並ぶ林の中、最速で簡易領域を展開したが剥がされるような様子もない。
「チッ……油断したか」
油断してた訳ではないが、普通にトドメを刺さなかった慢心のツケが働いた。あの攻撃も虚式膜で防げていればこんな事にはならなかっただろうに。英雄王の真似事が出来た自分に酔っていたのか呆れてものも言えない。
「……不完全な領域だな。必中効果もないし、呪力を感じない。攻撃性のない縛りで対象を引き摺り込む事だけに特化してるのか?」
引き摺り込む
逃走用の呪霊は領域で分解されないように外で待機させていたようだ。原作でもミゲルが逃げられた理由としては納得に尽きる。
「狐に化かされたって訳か。妖狐の類の術式だな」
恐らく領域を解除しても二人はいないだろう。
呪霊に乗って逃げる事は出来る。五条悟の足止めを用意してるならそれくらいはしてくるだろう。
「まあいい。『黒縄』は手に入れたし、あの様子じゃこれ以上戦えないだろうしね」
どうせ何も出来ない。
回復するならまだしも、呪力操作の練度から反転術式の習得もしていなさそうだった。これ以上、この場所を荒らされないだろう。荒夜は術式が回復し終わるまで、その場で手に入れた『黒縄』を出来る範囲で解析を始めていた。
★★★★★
──時を遡る事、三十分。
「最悪、悟を相手にして逃げる必要があると思ったけど、やはり乙骨の護衛に何人かは残していたようだね」
東京都立呪術高等学校に一人の侵入者が入った。
帳を降ろされ、外部との通信は絶たれ、高専に残っていた天元の護衛が襲いかかるも余裕の笑みを浮かべながら返り討ちにしている。
目的は分かっている。
乙骨憂太の殺害後、祈本里香を取り込む事。呪術界を変えるほどの猛威を秘めた存在は主従関係さえすげ替えれば取り込める。調伏するのに苦労はするだろうが、それでも博打を賭けるだけのメリットが存在する。
悠然と歩く夏油の前に、ツインテールで高専の制服を身に包んだ女の子がそこに立っていた。
「やあ、
「………」
「乙骨を守る為に1人で来たのかい?」
「……五条先生に無茶言って残りました。貴方が万が一来ても足止め出来るように」
識っていたとしても
「勝つ気かい?」
「私じゃ無理。だけど真希さんがいる。帰るのなら…見逃します」
「あの猿に怯えるくらいなら私は此処に来てないよ」
「……そうですか」
斥候の役割を果たしてでも手の内を知る必要がある。
もしも夏油傑が識っている存在から更に成長していたら。極ノ番『うずまき』は術式の抽出を行う上、取り込んでいる呪霊も未知数。真希に勝てると自負している以上、手の内は暴いておく必要がある。
「呪術規定に基づき、貴方を祓います」
「どうぞご自由に。逆立ちしても君じゃ私には勝てないよ」
「足りない差は……コレで埋めます」
「!」
背後に置いていた
「勝負です。夏油さん」
特級呪詛師と人造呪骸。
開戦の号砲が高専で鳴り響いた。
・偽典『蒼』
構築術式で『蒼』を再現したもの。-1の虚構を作る無下限と違い、一点に無理矢理ベクトルを集めて圧縮する技。一方通行の「くかきけここここーーー!」に似た技。ただし限度はある上に便利ではない。大雑把に大規模な引き寄せしか出来ない為、恐らくこの先使い所はほとんど無い。
・偽典『赫』
同じく再現したものだが、『蒼』の圧縮した気体を解放するだけ。威力は悪くないが制御と影響範囲がお粗末。街中で使うべきではないとこの先封印。日下部に後で怒られる羽目になる。
・『
射出性能はないが、呪具を式神化する事で飛ばす事に成功。本数は絞るし、呪詞を唱える必要はあるが再現は出来ている。呪具の式神化は九十九センセーの
・
呪具に内包した呪力を糧にした縛りで呪具の全損と引き換えに術式の効果を引き上げる。よく使うのは『氷天』
・『
キャスギルのアレ。数秒後に呪具の効果を失う縛りで射出性に特化したもの。一度使うと呪具に刻んだ遠隔のマーキングが消える為、一度目は縛り無しでそれを試していた。正直射出特化よりは遠隔のマーキングを使えた方が便利ではある。
良かったら感想、評価お願いします。
モチベが上がります。