二人の少女が百合本を見つけてしまった話   作:うううう

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第2話

 いかにも初夏らしく澄みわたる青空が広がっている。

 ゆりゆり☆らぶはぁと事件の翌日のこと。清涼な風が吹きつける早朝から外に出かけた宮内れんげは、友人の家を訪問していた。

 今日は石川ほのかが家族と墓参りに行くそうなので、明日遊ぶ時まで二人は別行動である。

 夏の日差しが降り注ぐ古めかしい日本家屋の玄関先で、れんげに対応しているのは小柄な少女だ。

 

「こまちゃん。おはようなん」

「あれ? れんげじゃん。夏海なら今日はこのみちゃんと街に買い物に行ってるよ」

 

 茶髪のロングヘアーの少女――越谷小鞠である。

 彼女の言によれば、れんげの姉貴分の中学生の少女――越谷夏海と、隣の家に住んでいる高校生のお姉さん――富士宮このみは二人で街に買い物に出かけているらしい。

 しかし、れんげが越谷家を訪れた目的はその二人ではなかった。

 訪問の目的を勘違いしている小鞠に向かって、れんげはしたり顔で首を横に振った。

 

「ふっふっふ。その情報はウチも知ってるん。だから今日のウチは、(にい)にいと遊びにきたん」

「えっ、れんげがお兄ちゃんと?」

 

 小鞠は不思議そうにぱちぱちとまばたきを繰り返した。

 普段はあまり話さないその二人、れんげと卓が遊ぶことがよほど信じがたい話だったようだ。

 

「まあ、お兄ちゃんなら家にいるけどさ。てか、二人はいつの間に一緒に遊ぶくらい仲良くなったの?」

「それは言えないん。この話は秘密、それもトップシークレットなん」

 

 そう言いながられんげは勝手知ったる我が家のように越谷家に上がっていく。

 小鞠が訝しむような目を向けながら、れんげの後をついて行く。

 

「ふーん。秘密ねえ?」

「そうなのん」

 

 れんげは廊下を歩いて、卓の部屋に向かった。

 コンコンと控えめなノックの後で、返事を待たずにドアを開いて部屋に突入する。

 

「お邪魔しますん」

「!?」

 

 れんげの姿を見た卓は、それまで座っていた椅子から転げ落ちた。まるで突然のラスボス襲来みたいに驚いている。

 昨日の今日でアポイントメントもなしにれんげが来れば、こんな反応にもなる。

 

「……!」

「実はアレの続きが気になって、ウチ胸がどきどきして昨日の夜ぜんぜん眠れなかったん」

 

 何か用でもあるのかと訊ねた卓に対して、れんげは少しだけ恥ずかしそうに言葉を濁しながら事情の説明を始めた。

 

「だから、今日はアレの続きが見たくて、兄にいに会いにきたのん……けど」

 

 その存在に配慮しているようで、れんげは後ろに居る小鞠の方にチラチラと視線を送っている。

 どうやら他の人にゆりゆり☆らぶはぁとについて秘密にするという約束をきちんと守っているようだ。

 ならばと卓が小鞠を部屋から追い出そうとしたが、その行動から不穏な何かを感じ取ったらしく、小鞠はなかなか外に出て行こうとしない。

 

「……!」

「な、なんで? わたしがいたらダメな話ってどういうこと!?」

 

 卓としても口から出まかせを言うことは出来ないので、誤魔化し方が曖昧になっていた。

 れんげは嘘を付かない性格である。なので小鞠に雑誌という情報を与えただけでも、どんな雑誌なのかれんげに総当たりで質問攻めをすれば、その反応からボロが出てしまう。

 卓が強引に部屋から押し出そうとする度に、小鞠の顔に疑惑の色が深まっていく。とうとう小鞠はドアを閉めて意地でも動かない構えを見せた。

 

「れんげ、何しに来たのか詳しく私に言いなさい!」

 

 いつまでも要領を得ない説得を続ける卓に痺れを切らせたのか、小鞠がれんげを急かし始めた。

 

「でも、これは人には言えない話なのん」

「なおさら聞かないとダメなやつじゃん! 私それ聞くまでここから動かないからね!」

 

 いつになく頑固な態度を取る小鞠だった。

 彼女は善性を発揮したらしく、れんげの事を思って意地でも動くことはなさそうだ。

 滅多に見れない頼れるお姉さんをやっている。

 このままでは埒が明かないとみたのか、れんげは内容をぼかして伝える事にしたらしい。

 

「こ、こまちゃんは何を心配してるのん? ウチ、兄にいのオトナのアレを見せてもらいに来ただけなのん。やましいことは……そんなにないのん」

「!!」

 

 卓は大量の冷や汗を流した。

 他の人にゆりゆり☆らぶはぁとの事を話さない約束だったので、ぼかした表現になるのは仕方ない。

 ただし、そのせいでれんげの発言が余計にヤバい感じになっている。

 

「……に、兄にいのアレ、またウチに見せて?」

 

 えっちな本を何度も要求することが恥ずかしいのだろう。

 その顔がほんのり朱色を帯びている姿も相俟って、そのやり取りを見守っていた小鞠は完全に勘違いしたようだ。

 卓の股を凝視して悲鳴を上げた。

 

「お兄ちゃんのアレ? えっ、あれってアレ? あれのあれがアレで……ひゃああああ!!?」

「!!」

 

 慌てて卓が弁解する。

 それは誤解で、そういうアレではないと言ったが、小鞠は納得していないようだ。

 

「じゃあ、アレってなに! ってか、お兄ちゃんよりもれんげに聞くことにする! れんげ、アレってなんなの!」

「それは、ウチの口からは言えないのん。兄にいに、固く口止めさせられてるん……」

 

 ケーキを奢ってもらうことで、ゆりゆり☆らぶはぁとについては口外しないよう約束させられている。

 そうとは知らない小鞠は、最悪の想像に思い至ったようで顔色が真っ青になった。

 

「口止めってどういうこと! もしかして本当に、れんげに人には言えないようなことしてるの!?」

「……」

 

 さすがにその勘違いは本物のおまわりさん案件である。

 妹からロリコン犯罪者の疑惑を掛けられた卓は、観念したのかことのあらましを説明した。

 昨日、生命の神秘が描かれた本をバス亭に置き忘れてしまい、それを見たれんげがその本に興味を持ったので続きを見に来てしまったのだろうということだ。

 

「れんげ、いまの本当なの?」

「本当なのん」

 

 れんげが首を縦に振ったことで、小鞠は安堵したのか大きなため息を吐いた。

 

「なんだもう、びっくりさせないでよ二人とも。変な想像しちゃったじゃん!」

 

 そう言って苦笑いする小鞠だったが、その途中で「あれ?」と呟くと笑いを止めて首を傾げた。

 

「それなら私に隠す必要なくない?」

 

 卓が小鞠を追い出そうとしていた事を疑問に思ってしまったようだ。

 

「……お兄ちゃん、やっぱりなんか隠してる? 私にもその本見せてよ」

「!?」

 

 卓は本棚から解体新書を取り出した。

 

「れんげ、この本で合ってる?」

「ウチには黙秘権があるのん……」

 

 ウソを付かないれんげの精一杯の誤魔化しは小鞠には通用しなかった。小鞠がジト目を卓に向けると、卓は別の本を取り出して、再び小鞠がれんげに確認する。

 そんなやりとりを繰り返す内に、とうとう小鞠が最終兵器を持ち出した。

 

「お母さんに言うよ!」

 

 これ以上被害を広げるわけにはいかない。卓は全てを諦めたのか、悟りを開いたような爽やかな表情になって、机の鍵付きの引き出しから一冊の本を取り出した。

 

「ゆりゆりらぶはぁと?」

 

 それを見た小鞠の目が点になった。

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