彼女が冷たく笑うわけ   作:ゲル状

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この作品には以下の要素を含んでいます。
・オリ主
・オリ必殺技
・独自展開
・後継シリーズの必殺技
・円堂守(DF)
・クララ様

※まだクララ様は出てきません。


サッカーやろうぜ!

 

 円堂守にとって鈴音(すずのね)(ある)は付き合いの良い先輩であった。

 些か付き合いが良すぎる、と言うのが本音。

 主に――グラウンドと同じように、部活の競争が激しいという意味で。

 部活は無所属。だが、大抵の物事において高い実力を発揮し、頼まれて部活に付き合えばその部のエースに伯仲するため、練習相手(すけっと)として申し分ない。

 自身に予定がなければ頼まれごとは殆ど断らず、ゆえにマネージャーだのコーチだのの手伝いをさせられているのもよく見かける。

 それが便利屋扱いという悪意によるものではなく、彼の人望から来るものであることは、円堂から見ても明らかだった。

 

 そんな彼を人気たらしめているのは、何事にも手を抜いた様子がないというのが大きいだろう。

 あらゆる物事に打ち込む気持ち。

 一秒一秒を大切に――心から生きていることを、彼は時々口から零す。

 その態度が顔にも態度にも殆ど現れないため、それを知らない者からすると近寄りがたい雰囲気を放つ、やけに浮いた最上級生なのだが。

 

 

 ――その日、円堂が鈴音との約束を確保できたのは幸運だった。

 相変わらず彼が率いる……率いている筈の雷門サッカー部はただ存在しているだけで、殆どまともに活動出来ていないというのが実情だ。

 他の部員のやる気もなく、引っ張り出す前に彼は我慢ならず部室を飛び出してしまった。

 数十年前から碌に整備もされておらずボロボロの部室を後にして、マネージャーである木野秋に河川敷で小学生のサッカークラブチーム相手に練習することを告げて学校を出る。

 そして道中で、鈴音を見つけたのだ。

 

「鈴音! 今、帰りか?」

「――ああ。円堂、お前は……練習か」

 

 物静かだが不思議と重みのある声で、答えが返ってくる。

 中学三年生にしては長身であり、同年代の相手は大体見下ろすことになる。

 肩までの白髪は片目を覆い、露わになった三白眼は否応にも見据えた相手を威圧してしまう。

 それを自覚していることから、それほど人と目を合わせるのを好まない彼だが、円堂が自身に委縮しないことも、既に知っている。

 

「そうなんだ。なあ――今日も、頼みたいんだけど、いいかな?」

「構わない」

 

 円堂が練習の手伝いを頼んでみれば、考える様子もなく、短く受け入れた。

 河川敷で練習をしている小学生たちはそれなりに“やる”とはいえ、中学の部活の練習としては些か物足りないというのは分かる。

 円堂と練習することで、彼らのスキルアップは望めるかもしれないが、その逆となると効率が悪い。

 同じ中学生の練習相手がいた方が張り合いがあろう。

 

「よっしゃ! 助かるぜ! 今日の練習なんだけど――」

 

 練習内容について話しながら、サッカーコートに向かう。

 

「おーい! サッカーやろうぜ!」

 

 既に練習を始めているらしい小学生たちに向かい、円堂は駆け寄りながら叫んだ。

 それに歩いて付いていった鈴音は、学校指定のジャージに着替える。

 鈴音はサッカー部員ではないため、ユニフォームも受け取っていない。

 最初に円堂が彼を勧誘したその次の日から、彼のためのユニフォームを用意しているのだが――それは今まで、着られたことはなかった。

 あくまで、彼はどの部活にも入っている訳ではなく、サッカー部にとっての彼も助っ人に過ぎないのだから。

 

「円堂ちゃん! 鈴音ちゃん! 今日もよろしくね!」

「おう!」

「ああ」

 

 ここでこのサッカークラブ相手に円堂が行っている練習に呼ばれたことも、初めてではない。

 クラブに所属している少女、如月まこも鈴音にとっては顔なじみの一人であり、傍から見れば近寄りがたい容姿に似付かわしくない呼称も慣れていた。

 ジャージに着替えた鈴音は小学生たちから道具を借りる。

 大人用のシューズなどは数が少ないものの、そのうち一つはそれなりの頻度で鈴音に貸し出されていた。

 円堂が関わらずとも休日などにこのクラブに付き合うこともあるため、いつからか用意されていたものである。

 既に準備が完了し、パス回しをしている小学生たちや円堂たちを待たせまいと、手早くシューズを履く。

 そして――グローブを嵌め、ゴール前に立った。

 

「よし! 始めるぞ!」

 

 ――そう。円堂が鈴音をサッカー部の助っ人として求める要因として、それはあまりにも大きかった。

 現状で七人しかいないサッカー部員に、“そのポジション”を受け持つことが出来るメンバーがいないのである。

 

 二年、FWの染岡。

 二年、MFの半田。

 一年、DFの壁山。

 一年、DFの栗松。

 一年、MFの宍戸。

 一年、MFの少林寺。

 

 ――そして、キャプテンたる、()()の円堂。

 

 これは、本来GKとして雷門サッカー部の最後の砦を守る筈のキャプテンが、フィールドプレイヤーとしての道を選んだ話である。

 

 

 

(――やはり。ここに立つと、より熱が灯る)

 

 鈴音は冷たさすら感じていた胸の内にひときわ大きな火が点くのを感じていた。

 サッカーとは、彼にとってそういうものだった。どんなスポーツだろうと感じる熱も、サッカーに関しては強さが違う。

 それは、かつて――幼少の頃に嗜んでいたことが関わっているのだろう。

 

 ――俺、円堂守です! よければサッカー部の練習に付き合ってくれませんか!

 ――構わない。しかし……サッカー部か。この学校にサッカー部が出来たんだな。

 

 円堂と鈴音の初めての会話は、それだった。

 円堂が木野から鈴音の噂を聞き、彼の予定がない時に頼み込みに行った。

 その時、鈴音は雷門中にサッカー部が出来たことを初めて知り、どうにも揺れにくい感情で、それでも結構な感心を覚えた。

 鈴音が入学した時はこの学校にサッカー部はなかった。伝説とすら呼ばれた勇名も今は昔。この学校のサッカー部は部室を残して消え去ってしまっていたのだから。

 彼が二年になって早々、新入生だった円堂はサッカー部を立ち上げたのだ。

 それから数日後に、彼らは出会った。

 

 ――鈴音先輩ってサッカーの経験あるんですか?

 ――随分と昔だが、少しだけなら。

 ――本当ですか! 俺はディフェンダーなんですけど、鈴音先輩は?

 ――キーパーだ。無論、練習に付き合う以上は何処でも務めるつもりだが。

 

 曰く、四、五年ほど前までは遊び程度にならよくやっていたという鈴音は、そんなブランクを感じさせなかった。

 ディフェンダーとはいえシュート練習も欠かしていない円堂ではあるが、彼からゴールを奪えたことがあっただろうか。

 

「いくわよ! すいせい――シュートっ!」

 

 キーパーとして早速、小学生たちのシュートを受け始める。

 まこによる、高らかに名前を叫びつつのシュートは、本人が狙っていた位置とは大きく右に逸れた。

 そのボールの軌道を片目で追いつつ、鈴音はふっと小さく息を吐いてから動き出す。

 落ち着いたまま、片手でシュートを受け止めると、僅かに思案してボールを返した。

 

「うーん……上手くいかないわ」

「シュートの速度は上がっていた。コントロールを詰めれば試合で通用すると思う」

「わかった! 次、円堂ちゃんね!」

「おう! 行くぞ鈴音!」

 

 ――鈴音でいい。お前はキャプテンなんだから。

 

 円堂が先輩呼びを改めて、敬語もやめたのは、彼と会ってからそう経たない頃だった。

 真顔のままに、当然のように言われた時、よりキャプテンということを自覚した。

 サッカー部に手を貸している間は、キャプテンに従う。そんな、彼の意思表示なのだろう。

 

「いっけええええ!」

「っ」

 

 円堂のシュートを、先程と同じように息を吐いて受け止める。

 それに込められていた力は、腕を確かに伝わっていた。

 

「モノになってきたな」

「ああ! もうすぐ身に付けられる気がするんだ! この必殺技を!」

「円堂ちゃんの必殺技!?」

 

 その言葉に、まこも当然食い付いた。

 ボールを中心として繰り出される数多の必殺技は、サッカーの華とも呼べるものだ。

 サッカーの強い人気はこの必殺技にこそあり。選手たちが個々の強みを活かして完成させた独自の必殺技は、その選手の代名詞にもなり得る。

 ゆえにあらゆるサッカー少年、少女たちの憧れであった。

 円堂は鞄からボロボロのノートを引っ張り出し、ページを捲る。

 まこだけでなく、参加していた小学生たちは一斉にそれを覗き込んで――たちまち微妙な顔になった。

 

「円堂ちゃん……読めないよこれ」

「はは……爺ちゃんが必殺技のコツや極意を書いた特訓ノートなんだ。今、俺が練習しているのは――これとこれ!」

 

 離れたページを順番に開くも、そこにあったのは古代文字もかくやとばかりの意味不明な殴り書きだった。

 或いは、宇宙人が残したメッセージの写しだろうか。

 ともかく、小学生たちが初見で理解するには些か以上に難易度の高いものだった。

 ちなみに鈴音も過去に見せてもらったことがあるがまるで理解は出来なかった。

 

「ライジングサンダーにゴッドハンマー! どっちも強い足の力が必要になる必殺技だ。これのために、シュート力を高めているんだ!」

「へえー……それってどんな技なの?」

「えっと……ライジングサンダーは――」

 

 円堂が特訓ノートを読み上げた技の説明は擬音が半分以上を占める非常に奇抜なものだった。

 余計に技のイメージが出来なくなった小学生たちに、表情を変えないまま鈴音も同意する。

 自身にイメージ力が欠けているのは自覚している。ゆえに、何となくだろうと祖父の遺した難解な言葉を理解出来る円堂の能力を、鈴音は評価していた。

 

 

 +

 

 

 鈴音が河川敷での練習に付き合ったその数日後、円堂は三年教室前の廊下を走っていた。

 求めている姿はすぐに見つかる。

 靴の踵でブレーキを掛けるように、鈴音の前で止まれば、その隣にいた男子生徒が呆れた様子で苦言を漏らす。

 

「……キミ。もう二年にもなるのだから、廊下を走るななどという当たり前のことくらい――」

「すみません! 鈴音に用事があるんです!」

 

 言葉を遮り、円堂は鈴音に用件を告げる。

 

「鈴音! 一週間後、練習試合があるんだ。助っ人キーパーとして、手を貸してくれないか!」

「練習試合……?」

 

 また珍しい、と思ったのは隣の男子の方だった。

 あの弱小という以前に、試合をするための最低限の人数すら揃わないあのサッカー部に練習試合を申し込むような酔狂な学校があるとは。

 相手がどういうつもりかは知らないが、この始末。

 メンバーが足りず、助っ人や緊急の新入部員を補填しようという魂胆だろう。

 本気で臨もうとするその気概は認めなくもないが――

 そんな疑問を鈴音は持ったのか否か。特に追及する様子もなく、問いを投げた。

 

「一週間後の、いつだ?」

「えっと、時間は――」

 

 円堂が時間を告げれば、数秒で首を横に振った。

 

「その時間は埋まっている。申し訳ないが、請け負うことは出来ない」

「んな……っ!?」

 

 まさか一週間後に既に予定が入っていることなど想像していなかった円堂は絶句する。

 一方で、男子は円堂の間の悪さに同情していた。

 つい今朝方、その時間に彼に依頼をしたのは、他でもない自分たちだったのだから。

 

「――途中からの参加で構わなければ、そちらが終わり次第向かわせてもらうが」

 

 あまりにショックが大きかったらしい円堂に、鈴音が代案を出せば、たちまちその顔に生気が戻っていく。

 

「いい! 全然それでいい! 頼むぜ鈴音!」

「ああ」

「……」

 

 男子が抱いていた円堂への呆れは、隣に立つ無表情な友人の付き合いの良さに対してのものへと変わる。

 確かに、部員集めもままならないサッカー部にとっては、途中からの参加でさえ縋らなければならないものなのだろうが。

 これは当日は、程々に切り上げてもらった方が良いか、と彼は友人へ依頼していた、生徒会の仕事の効率化について、頭の中で整理を始める。

 ……会長にはどう説明したものか――と、雷門中生徒会副会長、海皇(かいおう)星児(せいじ)は溜息をついた。




オリ主が先輩で円堂がDFって作品はきっとまだないと思ったので書きました。
本話中の河川敷での特訓は円堂が豪炎寺と出会った日とはまた別日です。


海皇(かいおう)星児(せいじ)
名門の家に生まれ生徒会でがんばるみんなのまとめ役。
雷門中三年。本作では生徒会副会長で主人公の友人。今後の出番は知らん。
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