社会への不満を筆に起こしてたらできました。

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趣味は音ゲーです。


社会はクソだから、せめて異世界に転生したらデレデレなお姉さんに甘やかされたいよねって話

 ただ、生きるのが苦痛で仕方なかった。

 

 親に勉強しろと言われ、勉強を続けてきた。良い学校に行けと言われたから、受験勉強も頑張った。

 高校、大学とそれなりに良い学校には入ったつもりだ。偏差値で言えば60半ばくらいだろうか。両親は大喜びこそしなかったが、満足げにしてたのをよく覚えている。

 だが、そんな学歴は何の役にも立たなかった。寧ろ、自分を陥れる為の材料にすらなっていた。

 

 大学では真面目に講義に出席した。講義の板書やスライド、講師の発する重要な事項を欠かさずノートに撮った。課題の提出は当然のこと、各教務の予習復習も欠かさず行った。そんな毎日を、欠かすことなく続けていた。

 また、社会勉強の為にアルバイトを始めた。そして初めて、社会で生きる過酷さを目の当たりにする。

 

 分からないことがあったら何でも聞いてくれ、と当時の先輩。研修や指導の度にメモを欠かさずとった。先輩方の足を引っ張るまいと必死で仕事を覚えようとした。それでも、どうしても分からないことは出てくる。だから、迷惑を承知の上で、分からないことを先輩に聞いた。

 

「マニュアル見れば分かるだろ。聞く前に自分で調べようとか思わないの?」

 

 第一声がそれだった。私は言われて、はっとした。

 ここは仕事の場であって、学校ではないのだ。ましてや、小、中学生みたいな子供ですらなく、ともすれば社会へと一人立ちしていてもおかしくない、一人の大学生。

 分からないからすぐ聞くでは、意味がないのだ。そこで調べ、概要を把握した上で、始めて分からないと言うべきなのだ。何も調べずただ意見を仰ぐだけでは、分からないのではなく、やる気が無いだけだ。

 そして、仕事先の業務マニュアルを必死に読み込んだ。そして自分の仕事をしている姿をイメージし、滞りなく、周囲に迷惑をかけぬようにと行動に移していた。

 

「君さ、変な所で丁寧な癖に仕事遅いし、間違いも多いよね」

 

 別の先輩に言われた一言。マニュアル通りにやっていると言う返答は、自身の頑張りを主張する為の自己防衛でしかなかった。

 だが、そんな陳腐な言葉では、自身を守ることすらできない。

 

「マニュアル通りってったってさ、実情にあってなかったらやってる意味ないっしょ。普通さ、もっと臨機応変に対応するでしょ、常識的に考えて」

 

 普通。臨機応変。常識。

 これらの言葉の前に、私はなす術を知らない。

 

 恥を(しの)んで両親に聞いた。回答は「もうそろそろ立派な社会人なんだから、頭の良いあんたならよく考えたら分かるでしょ」だった。

 

 一体何をすれば良いのだ。私に何が求められているのだ。心の中で慟哭するも、誰も答えを教えてくれない。

 だから、必死になって考えた。どれだけ考えても正しいかどうか分からない解答を求める様は、暗中模索と言ってもいい。

 

 無能と罵られ、使えないと見下される環境の中、ああでもないこうでもないと頭の中を回し続けた。

 堂々巡りの思考回路を捨てきれず、それでも日々を過ごす中で小さな気付きがあり。

 

 そして、一つの回答を導き出す。

 

 マニュアル通りの仕事はあくまで最低限だ。当時の先輩が仰った通り、それを実務に落とし込まなければ意味がない。細かなミス、細かなムダを極限まで排除し、より効率的に業務をこなす。それが己のできる、最大で最低限の努力だ。

 

 その上で、相手の立場に立って、何を求められているのかを考えるのだ。

 

 どれだけ考えても、私には分からなかった。何が普通で、常識で、どのように臨機応変な対応をすれば良いのか。何もかもが分からない。

 だが、相手が望むことをすればそれで良い。相手の希望と仕事のマニュアルの間にある数多の齟齬を埋めていく。これが、業務遂行の理想像なのだろう。

 

 苦しいアルバイトは、大きな糧となるに違いない。これを社会進出の際に大きく役立てていけば良いのだと、私は浮かれていた。

 

 そんな淡い幻想は、就職先で壊される。

 

 そこそこ良い大学を卒業し、晴れて某企業に就職した。社会で生きる術を学んだ私は、きっと上手く行くと思い込んでいた。

 

 私は、現実は冷徹で、ままならないことを思い知る。

 

 入社した私は、とにかく相手が何を望んでいるのか聞いて回った。そして、相手が何を望んでいるかを聞き出し、出来る限り要望に答えた。

 勿論、業務マニュアルを読み込むことも欠かさない。課業時間の間は相手の要望に答えることに専念したが、課業時間後にはマニュアルを片手に家まで持ち込んだ。休日祝日も、休むことなくマニュアルを読み込んで、己が仕事をするイメージを想像し続けた。

 

 マニュアルを理解した私は、それを実践に起こす。相手の要望を聞き、己の内にあるマニュアルと照合し、要望の解釈をマニュアルに合わせ、独自の見解を相手に仰ぐ。そうして相手の要望とマニュアルとの齟齬を極限までに無くしていった。

 

 そんな生活を一年続けた。

 

 私は。同僚に、学歴だけの媚売り野郎と嘲笑われた。上司からは、頭でっかちで気の使えない無能と酷評された。

 

 普通では無いと。非常識なやつだと。そう罵られた。

 

 普通とは何だ。常識って何なんだ。誰か教えてくれ。

 

 心の内に響く苦悶の叫び声は、口から出ることはなかった。

 

 当たり前だ。私は、大学に入学してから、いや中学、高校と交友関係を全く築いていなかったのだから。

 

 ここに来て、ようやく私は思い知った。人との付き合いの大事さを。今まで本当に学ぶべきは何だったのかを。

 

 正直な話、私は下らない自尊心を掲げ、周りを見下していた。グループを作り、馬鹿笑いをする集団を尻目に、内心小馬鹿にしていた。今楽をして、後で痛い目を見るのはお前らだ、と。自分はお前たちとは違うのだ、と。

 

 そんなことは、全くなかった。交友関係を築く、引いては人と接すること自体が、一つの社会勉強なのだ。それを怠ったのは自分自身。勝手に周りと線引きをして、自分は他と違うと、ちっぽけでしょうもない自尊心を尊重した、自分自身の愚かな業。

 

 常識知らずだと罵られ、普通じゃないと嘲笑われる日々。

 臨機応変に動けない、頭でっかちの役立たずと後ろ指を指される毎日。

 

 常識が何なのか分からない。普通って一体何が普通なんだ。臨機応変って、何をすれば良いんだ。

 それは、人との付き合いの中で学ぶもので。周りと一線引いていた私には、理解できないもの。

 

 何も分からない私は、社会不適合者だった。

 

 それを思い知り、理解した時にはもう遅すぎたのだと悟る。

 

 そして、後悔する。

 

 非常な現実に、胸が張り裂けそうなくらい痛くなる。

 

 私はなんの為に生きているのだ。

 

 生きるのが辛い。

 

 死んでしまえば楽になるのか。

 

 でも、死ぬのは怖い。

 

 そんな自分が、大っ嫌いになった。

 

「ああ………………」

 

 声にならない声を上げ、仕事帰りの夜道を歩く。

 暗く物静かな住宅街は、まるで私の人生を鏡写しにしているかのようだ。

 

 今日もいつも通り、罵詈雑言の嵐だった。同僚とすれ違えば舌打ちされ、上司の要望を伺えば「そんなこと自分で考えろ」と叱られる。仕事はやってもやっても終わらず、今日も夜遅くまで残業していた。

 

 嫌な考えが頭の中をぐるぐる回り続ける。相変わらず胸が痛い。ぼうっとしながら、街灯に照らされた帰路に着く。

 

 激しいクラクションの音が聞こえたのは、刹那の出来事だった。ふと右を見ると、迫りくる大型トラックの姿。

 どうやら私は、横断歩道を渡っていたようだ。それも赤信号。間違いなく非は私にある。

 

「はは…………」

 

 私はきっと、笑顔を浮かべていたのだろう。

 ようやく楽になれると。死ぬ勇気すら持てなかった自分に降って湧いた、暗い希望だ。

 

 このまま私が死んでしまって、誰か悲しむ人はいるだろうか。職場の人間はまず悲しまないだろう。寧ろ邪魔だった私がいなくなって、清々するに違いない。

 私の両親はどうだろうか。正直分からない。大学に通い始めてからは、ずっと疎遠だった。会社に就職した際に、追い出されるように一人暮らしを迫られてからは、連絡を取ってすらいない。

 

 私が生きてきた意味は、果たして本当にあったのだろうか。普通でない、非常識だと、誰からも疎まれた日々。生きることに希望が見いだせなかった毎日。

 

 ああ。でもこれで楽になれる。これ以上はもう何も望むまい。

 

 だが。しかし。強欲な私は、祈ってしまった。

 

 もしも次があるのなら、願わくは――

 

 大型トラックに触れた瞬間、私の意識は吹き飛んだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「起きて、朝だよ」

 

 風に包まれるような柔らかいソプラノボイスを耳に、私は起床した。

 目を覚ませば、そこは全面木で出来た一室。窓から射し込む日の光と、頬を撫でるそよ風が心を洗うよう。

 ここは、大森林に建てられたログハウス。ログハウスと一言で表現したが、その規模は大豪邸に勝るとも劣らない大きさだ。

 

「おはよう。気持ちよく寝れたかな?」

 

 声のする方へ視線を向けると、そこには緑髪ショートヘアーの人型(ひとがた)がいた。中性的な顔立ちは男性とも女性とも取れるが、筆舌に尽くし難いほどの美形であることに変わりはない。

 その極めて美しい相貌を、彼、或いは彼女は柔らかく微笑ませていた。

 

「はい。とても良い寝覚めです」

 

 私は答える。出てきた声は以前の低く渋い声とは打って変わって、声帯変化の訪れていない特有の高音を発していた。

 

「ふふっ、それは良かった。出来れば「お母さん」と甘えてくれると私としてはより一層嬉しいんだがね?」

「そんな、恥ずかしいし畏れ多くて出来ませんよ」

「何を言っているんだい。君はまだ子供じゃないか。遠慮なんてする必要はないんだよ?」

 

 緑髪の彼、或いは彼女は、くすくすと上品に笑う。腕先を口元に持っていく仕草は、崇高な貴婦人を彷彿とさせる。

 だが、桃色の柔らかそうな唇を覆う掌が、そこには無かった。口元を覆う手は腕先に無く、肘辺りからグラデーションの様に薄く、消えていっている。

 

「全く、素直じゃないね。そんな君が、私はとても可愛く思うよ」

 

 そうして、私の元まで近付く人型。足を動かすことはない。腕と同じく、膝から下はグラデーションの様に消失しているからだ。彼、或いは彼女は、確かにそこに浮遊していた。

 

「私と君では、種族が違う。勿論、血も繋がっていない。それでも、君は私の立派で大事な息子なんだよ。自分から甘えてくれたって良いじゃないか」

 

 そうして、人間ではない人型は、私の頭を抱きしめた。顔を埋められる胴体ははっきりとそこに存在し、柔らかな感触が私を包み込む。

 しかし後頭部には、腕に抱えられる感触が無かった。代わりに柔らかい風に押され、温かな風に頭部を撫でられる。人外の者が私にくれる、人の心を蕩かす抱擁。

 

 私は自然と、涙を流していた。

 

「おや? ふふっ、相変わらず君は泣き虫だねぇ」

 

 よしよし、と風が頭を撫でる。物質的な感触は感じられなかったけれど、前世で与えられなかった温もりが確かにそこには存在した。

 

 前世――そう、私は転生した。

 

 目を覚ませば、赤子だった。そこは、寂れた農村であった。

 そのことに、酷く絶望したのを今でも覚えている。

 

 何故、あそこで終わらせてくれなかったのか。またも私を責め苦に合わせるつもりなのか。私はもう、頑張りたくなど無かった。誰にも悼まれることなど無かろうとも、全てを終いにして眠りに着いてしまいたかったのだ。

 

 もう、生きることに疲れていた。苦しいのはごめんだった。

 信じたことなどない神をこの上なく恨んだ。そして、相も変わらず死ぬ勇気すらない私自身に、心底反吐が出る思いだった。

 

 そうして現実を恨み妬んで赤子の日々を過ごしていた、矢先のことだった。

 

 私は両親に捨てられた。

 

 今でこそ知る機会などないが、きっと口減らしの為なのだろう。顔すら覚えてない父と母、兄弟姉妹だが、酷く(やつ)れ、痩せ細っていたことはそれとなく覚えている。

 しかし、どんな理由があろうとも、捨てられた現実は覆らない。私は第二の両親に、必要ないと無言で切り捨てられたのだ。

 

 私がそのことを恨んだか。否である。

 寧ろ、喜ばしいとすら思った。

 これ以上生きていることに、意味を見い出せなかったからだ。

 

 私はこのまま朽ち果てるのだろう。そのように夢想した。そのことに恐怖の感情があったことは否定出来ないが、同じくらい安堵していたのも確かだったのだ。

 

 

 

 そして私は、希望に拾われる。

 

 

 

「ふふっ。素直で泣き虫な君が愛おしい。愛おし過ぎてしんどいくらいだ。ああ、全く、君は本当に魔性の子だね。私は、君を拾った私を今までで一番称賛しているよ」

「がっ……からかわないでぐだざい……」

 

 人外の者、人を(かたど)った風の形――風の精霊に、救われた。愛された。

 

 きっと私は、前世の頃から愛されたかったのだ。

 だから、親の言う通り勉強を頑張った。しかし親の反応は満足げなだけで、褒めてくれることはなかった。

 そうして良い大学に出て、過酷な社会を知り、それでも愛される為に頑張った。結果は散々たるものだった。

 

 風の精霊は――シルヴィアは、私のことを愛してくれている。

 

「さて。泣き虫アルくんをこのまま愛でるのも良いが、そろそろお腹が空く頃じゃないか?」

 

 言われて、己の空腹を自覚した。

 同時に、ぐうと音がなる。

 

「……はい」

「おやおや、泣きべその次は赤っ恥かい? ふふふっ、相変わらず君は可愛いなぁ」

「も、もう、だからからかわないで下さいって言ってるじゃないですか!」

 

 胸に顔を埋めながら、シルヴィアの胸を叩く。

 

「それは出来ない相談だな。君が可愛いのがいけない!」

「わ、僕は何も悪くないもん!」

「そういうところだぞ」

 

 言いながら、シルヴィアは私を(すく)い抱いた。風に包まれて浮き上がっているだけとも言うが。

 

「さぁ、一緒に朝食を食べようじゃないか」

「……シルヴィアは精霊だから食べる必要無いじゃないですか」

「何度も言うが、私の朝食は君が食して綻ばせる顔だよ」

 

 恥ずかしげもなくシルヴィアが私をからかって、そのまま食堂まで連れて行かれた。

 

 シルヴィアにからかわれるのは、正直言って気恥ずかしい。まるで嘗て大人だった私を否定するかの様に、優しい声で子供扱いする。

 だが、それがとても心地良かった。私は大人になんて、社会人になんてなりたくなかった。私にとって、シルヴィアとの関係は、怠惰で退廃的だが、非常に甘美で抗い難いものだ。

 

 シルヴィアが私をからかいながらも甘やかし、私はそれに甘んじる。

 

 私は、愛情を知った。

 

 




需要があったら続きます。

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