マギアーツ①
魔法と言うものがこの世界に現れたのは随分昔のことだと言う。
元々の発見は、魔粒子と言う魔法の源となる元素の発見である。
発見者は後にこの元素を
この新しい粒子の研究は、やがて一つの成果へとたどり着く。
それが、魔法。
人類を物理から解き放つ新たな理。
不可能を可能にし、零から一を生み出す、これまでの物理法則の全てを覆す究極の元素。
驚くことに、それは人間なら誰しもが保有していた。
超能力者、霊能力者の起源はここにあるのだということが解明され、やがて魔法は日常化した。
現在において魔法はすっかり社会に浸透し、それまで世界が抱えていた多くの問題を一気に解決していった。
何せそれまで『空想/理想論』とされていた不可能を一気に可能へと変えてしまえる万能の力が人類には与えられたのだ。
勿論魔法は便利なだけの力ではない、相応に危険な力でもある。
だが年月と共に研究が重ねられていった結果、見事魔法は社会に溶け切ったのだ。
今となっては右を見ても左を見ても魔法が関わっていない物など存在せず、誰もがその恩恵に預かれるほどに魔法は広く普及した。
その中の一つに魔法を使ったスポーツがある。
個人が自力で空を飛ぶことすら可能とする魔法である、であるならば従来のスポーツでは魔法という超常の力に対応していないことは明白であり、世界中の大半の人間が魔法を使うことが可能となった現代において、魔法に対応していない競技というのは取り残されていった。
そうして残ったのが魔法を前提としたスポーツの数々で。
魔法戦闘という目にも鮮やかな技の数々は派手で、痛快で、爽快で、だからこそ多くの人に受け入れられた。
そして何よりも『安全』でクリーンなスポーツだ。それが旧来の格闘技などと大きく違うところである。
万能の力と呼ばれるほどに汎用性が高く、何にでも使えた魔法だったが、唯一軍事転用にだけは余り使われなかった。
理由としては非常に簡単で。
魔粒子を全くの無力化してしまう反物質が存在するからだ。
人類の誰しもが簡単に奇跡を起せなかった理由は魔粒子の作用をこの反物質が押さえ込むせいであり、超能力、霊能力と言った類の超常現象を引き起こす力を持った人たちは、このアンチエリクシルの保有量が他者よりも少なく、その分、魔粒子が強く働いた結果、と言えた。
魔法そのものは個々人の体内のアンチエリクシルによって無効化される。
ならば魔法で物理的なエネルギーを付与すれば、と考えるかもしれないが銃器程度ならば一般人の作る魔法の盾でも無効化できてしまう程度には魔法は強固な力だ。
それこそミサイルでも落とさない限り人一人殺すことすら困難な世界へと変わってしまった。
要するに利率が圧倒的に悪いのだ。
まともに戦争するのが馬鹿らしくなるくらいに、人一人殺すコストパフォーマンスが極悪になってしまった。
守ることは容易なのに傷つけることは難しい、という非常に都合の良い力である魔法はだからこそとてもクリーンな力として受け入れられ、普及した。
結果的に戦争自体がかなり下火になったのもまた理由に挙げられるだろう。
何せ銃器で脅そうにも瞬きするほどの一瞬の間でそれを無効化する力が誰にでも使えるのだ。
まともに争うのが馬鹿らしい、とばかりに人類は争いを途端に辞めた。
とは言え争うことは生命としての本能でもある。
―――故に『マギアーツ』は闘争の場として求められた。
* * *
それを見かけたのは偶然だった。
画面の向こう、ニュースばかり垂れ流すつまらないテレビに飽き飽きし何か面白い番組は無いかといくつものチャンネルを見て回っている最中、偶然それを見た。
僅か数秒にも満たない間にテレビの向こうで相対する二人の人間に目が釘付けになった。
ワールドマギアーツチャンピオンシップ決勝戦。
世界最強の魔法使い『
この世の物とは思えない光景がそこに広がっていて。
一目で夢中になった。
一瞬で虜になった。
まるで恋にでも落ちるかのように。
その日から俺は『魔法使い』に憧れた。
* * *
「でっけえ……」
聳え立つ真っ白で巨大なドーム状の建物を見て、まるで城のようだと思った。
地元からバスで揺られながら三時間近い道のりは小学生には退屈なものではあったが、いざこうしてこの場所に立ってみるとそれまでの退屈から来る不満など一瞬で吹き飛ぶような圧巻の光景だった。
とはいえそうして見上げている間にも周りは歩いて行ってしまうもので、呼ばれた声に視線を向ければ建物の入口で引率の先生が自分を呼んでいた。
「まって、すぐいく!」
慌てて駆けだしながらも自分の頬が緩むのを自覚する。
だがそれも仕方ない話。
三年だ。
三年もの間、今日という日を待ち続けたのだ。
三年もの間、望み続け、待ち続け、ようやく訪れたその日は神代勇樹が小学三年生になってから数日後であり、同時に魔法戦闘競技会への選手登録の最低年齢制限の解禁の日だった。
それはつまり、勇樹がマギアーツの選手になる日でもある、ということだ。
と言っても別に魔法戦闘競技会へ参加しなければマギアーツができないか、と言われるとそんなことは無いのだが、魔法戦闘競技会への参加の最も大きな利点として練習場所がある。
マギアーツ選手、通称『魔法使い』は当然のことながら『魔法』を多用することが前提であるが、現代において気軽に魔法を……それも攻勢魔法を使用できる場所、というのは限られてくる。
マギアーツはその知名度や選手人口と反比例して練習場所というのが少ないのだ。
だからこそ魔法戦闘競技会に参加することで『魔技競技館』が利用できるようになる。
館内全域に渡って防護魔法の掛けられたこの場所でならば自由かつ安全に魔法の練習が可能となるため実質的にマギアーツをするならばこの競技館で練習することになる。つまりその競技館を利用するために魔法戦闘競技会への参加は必須となってくるのだ。
それに何より魔法戦闘競技会に選手登録をすることで年に一度、適性検査を無料でしてもらうことができる。この適性というものがマギアーツにとってとても重要になってくるわけで、これを見てもらえるというだけでも選手登録する意義は大きい。
毎年四月十日から十六日までの七日間、小学三年生以上の子供を対象に魔法戦闘競技会が新規選手登録を開始する。
それに合わせて小学校でも希望者を募ってバスを出すのだ。
これに関しては全国どの学校も同じであり、マギアーツという競技のこの国での人気ぶりが伺える。
この期間外でも登録受付自体はしているのだが、『公式試合』の参加名簿はこの期間の登録データを参考に一年分作られることになるので、この一週間内に登録できないとその後一年は公式試合に参加することができなくなる。
特に勇樹たち最年少組は今年限定の『新人戦』が存在する。
これは新規登録して一年以内の9歳以下の子供限定、つまり小学三年生限定の大会なのだ。
マギアーツ選手となった子共たちは秋ごろ行われるこの大会をまず目指すのが通例であり、この大会の結果如何で『道場』から勧誘を受けたりする子供も多いので結構重要な大会だったりするのだ。
大きな自動ドアを潜って抜けた先では広大なロビー。
奥には人間十人は横に広がれそうなほどに大きなカウンター。
どうやら受付場所はそこらしく、先生がロビーの端に勇樹たち子供たちを集めると登録申請のためにカウンターへと向かった。
しばらくして全員で奥の通路を抜けた先の一室へと案内される。
「それじゃあ一人ずつ『
そこにいた担当の女性の案内に従って全員が自分の導具を取り出し、机の上に置かれたこじんまりとした機械へと通していく。
デスクライトか何かのような機器の先から光が出ていてそこに導具をかざすとピッと電子音が鳴る。
コンビニのレジ打ちのような光景に首を傾げながらも勇樹もまた自らの導具をかざした。
ピッ、と音がなってそれで終了。
何だかあっけないな、と思いながらも次は何だと思っていると。
「はい、ではこれで検査終了です、お疲れ様でした」
そんな担当の女性の言葉にぽかん、とした。
* * *
魔法が発見されてから世界に普及した現代に至るまで約五十年ほどに時が流れていた。
五十年、子供が老人になるくらいにまで時は流れいて、当然ながら『世代』というものも移り変わっていた。
特に魔法が発見されてからの五十年間を三段階に分けて発見された当時の人々を『第一世代』、第一世代の子供たちを『第二世代』、第二世代の子供たちを『第三世代』と呼んだ。
この区分に関してもう少しだけ詳しく言うならば魔法の歴史にも関わる話であり、長くなるので割愛するが『
厳密にはこの『導具』をつけている人たちを『第三世代』と呼ぶ。
魔法を発動する時、必ず『
これは魔粒子を活性化させることで発生するエネルギーであり、現状のいかなる物理にも属さないエネルギーでもある。
これは人が普段から無意識に発し、垂れ流しており、『導具』は無意識的に流れでている魔力を吸収、貯蔵してくれる。
つまり各々の『導具』の中には当人が発した『魔力』が詰まっているのだ。
勇樹たちが通した機械はこの『導具』の中の『魔力』に反応し、その性質を読み取ることができる。
解析に時間を必要とはするが、個々人の『
『魔力属性』とはつまるところ個々人の魔力の『個性』だ。
得意不得意、と言い換えても良い。
魔法は万能の力ではあるが、人間は決して万能の存在ではない。
人それぞれ長所、短所があるように魔法もまた個々人でできることが異なる。
その差異を生むのがこの『魔力属性』であり、これを知ることがマギアーツ選手の大前提とも言える。
要するにこの『魔力属性』次第でどんな魔法が使えるか、使えないかが決まってしまうと言っても良い。
適性が無い属性が全く使えない、と言うわけではないのだが適性がある人よりもずっと苦労するのは間違いなく、どんな適性を持つか、それは言うならば才能と呼んでも良い領域の話だった。
だいたいどんな人間でも最低4~5種類くらいは何らかの適性を持っている。
だからまあ何の魔法も使えない、なんて人間は普通は居ないのだが……持っている人間は当たり前のように数十種類……下手をすれば100種類以上の適性を持つ人間というのもいる上、後天的にこれを付与するというのは非常に難しい話なので、適性魔法の数というのはマギアーツ選手が最初に付きつけられる才能の壁とも言えた。
バスで三時間弱。
行きと同じだけの時間をかけて地元で戻ってきた勇樹だったが、当然ながら検査結果がすぐに帰って来るわけではない。
まだかまだか、とその日から一週間待ち続ける。
学校では同じように検査を受けた子供たちの検査結果が徐々に帰って来ているようであり、勇樹を焦らせたが一週間ほど経ったある日ようやく待ち望んだ物が来る。
そうして。
「勇樹、お前宛てに封筒来てるぞ」
「!!」
朝ポストの中を確認した父親が持っていた封筒を差し出してくる。
差し出し人は魔法戦闘競技会、つまり先週行った検査の結果の通知だった。
「この間の検査結果か?」
「だとおもう」
「それで、何て書いてあるんだ」
「まって……いまみてみるから」
父親の問いに焦らされながらもびりびりと口を破り、中身を取り出す。
出てきたのは一枚の紙だった。左上のほうに検査結果と書いてあり、勇樹の魔力を計測した結果の一覧が多岐に渡って記入されている。
とは言え小学生の勇樹にそこに書かれていることの大半は良く分からない数字の羅列である。
それに今一番知りたいのはそこでは無く……。
「あ、あった、まりょくてきせい」
そしてそこに書かれていたのは。
適性魔力属性:無し
余りにも無情な現実だった。