魔法の発動プロセスは大きく分けると三段階ある。
一つ、体内のアンチエリクシルと結びついた
二つ、発生した魔力に
三つ、魔力に
人の体内には魔粒子と
第二世代以降の人類はこのアンチエリクシルと魔粒子の結合を意図的に解除することができる。例えるならば自力で発電することで水を電気分解して水素と酸素に寄り分けるように。
そして結合の解除された魔粒子は同じ魔粒子と結合することができ、この結合の際の反応として大きなエネルギーが生まれる。
それが『魔力』と呼ばれるそれだ。
この魔力に対して魔法を形作るための指向性、或いは性質を付与する。
それが『
これは主に【創造】【変化】【付与】【奪取】【操作】【虚構】の六つからなる。
つまるところ魔法の発動という現象に対して一つずつ要素を抜き出し【生ずる】【変える】【与える】【奪う】【操る】【消し去る】という六つに分類したものだ。
これにさらに魔力属性に寄る個々人の適性属性を足すことで魔法は完成する。
例えば火の魔法ならば。
魔力属性:火
魔法要素:創造
これで『任意地点に炎を生み出す魔法』になる。
これが魔法要素:変化ならば『自らの魔力を炎に変化させる魔法』になる。
何が違うのかと言うと、創造で作った火は『火という概念』を現出させている。
そこには『熱』という概念が含まれているし、『燃焼』という概念も含まれている。
逆に変化で作った火は『魔力に火という概念を加えている』状態なのだ。
根本的にはあくまで魔力であり、魔法の発動者の支配下に存在する。
もっと分かりやすく言うと、手の中に火を出したら創造だと自分の手まで燃えるが、変化だと自分の魔力なので全身を炎で覆っても別に自分が燃えたりはしないのだ。
まあ反面、変化で生み出した炎は魔力そのものなのでアンチエリクシルの影響を絶大に受ける。この炎で人間が燃えたりすることはほぼほぼ無いと言っても良いほどに。さらに言うならば本質が魔力そのものなので、より大きな魔力に押し流されることもある。
まあどちらが優れているということも無くどちらも相応にメリットがあり、相応にデメリットがある。
そしてこの魔法要素に関しても個々人でそれなりに得意不得意というのはあるのだが、これに関しては実は余り才能云々は関係無かったりする。
【創造】⇔【虚構】
【変化】⇔【操作】
【付与】⇔【奪取】
で対になっていて、どちらかが得意なら必ずもう一方が不得意になる。
何故そうなっているのか、未だに分かってはいないがこれに関して過去一人の例外も無くそうなっているので確定した事実と言っても良い。
さらに言うならこれに関しては後天的にある程度まで矯正することも可能であり、余りにも極端でなければ基本的に問題になることは無い。
では何が問題になるのかと言えば。
上に挙げたように魔法を使う上で『魔力属性』というのは切っても切れない重要なものであり。
魔力属性適性が無いというのは実質的に『魔法使い』として終わっているすら言えることだ。
* * *
魔力属性適性の無い魔法とある魔法で全てにおいてだいたい十倍前後差があると言われている。
消費する魔力の量が十倍前後、効果や威力もまた十倍前後。さらに発動までの時間も十倍前後違うとされている。
ただ効率が悪いだけで別に使えないわけではないのもまた事実なのだ。
けれどマギアーツというのは基本的に毎秒互いの魔法を撃ち合うような短時間での連続した魔法の使用が求められる競技であるが故にそんな時間のかかる上に威力も無い魔法を使うことなど普通あり得ない。
結局適性外魔法というのはマギアーツでは通常使われない、というのが正しい。
だが神代勇樹にとっては別だ。
魔力属性適性無しというのは神代勇樹の目指す先を考えると致命的とすら言えた。
勇樹は人の十倍時間をかけて発動し、十倍の魔力を消費するにも関わらず、十分の一の威力しかない魔法を使って戦わなければならないのだ。
まさしく絶望的としか言えない。
どうしようも無く、詰んでいると言っても良い。
それでも、勇樹は諦めなかった。
幼さ故にその過酷な現実を正常に認識できていなかった、というのもあったかもしれない。
だがそれでも適性が無い、という事実が自分にとって大きな不利であることは察していた。
憧れから三年間、勇樹だってマギアーツができない間にマギアーツについてたくさん調べたのだから。
その不利を理解した上で、それでも勇樹は諦めなかった。
否。
切欠は憧れだったかもしれない。
だが三年だ。
三年もの間、渇望し続け、切望し続け、熱望し続けていたのだ。
人より不利、その程度の理由が諦めるための言い訳になるわけも無い。
何より念願かなって勇樹は『魔法使い』になることができたのだ。
憧れだった場所に指一本分とは言えかけることができた、その事実はどこまでも大きく。
そうして。
そうして。
そうして。
最初の現実が立ち塞がった。
* * *
地元からバスで一時間ほどかけてたどり着いたのは『魔技競技館』。
勇樹の地元はそれなりに賑わいのある街だと思っている。だがそんな街でもマギアーツの練習場所が無い、練習のためには遠くの街に行かなければならない、というあたりにマギアーツの人気ぶりに反比例するかのような練習場所の確保という死活問題が見え隠れしていた。
競技館を利用するには魔法戦闘競技会に入会し、選手登録をする必要がある。
まあ国内で大規模なマギアーツの大会というのは基本的に全てこの魔法戦闘競技会によって運営されており、この大会に出るためには選手登録が必須なのでマギアーツをやっていて選手登録をしていない人間というのは実質的にほぼ居ないと言っても良いのだが。
逆に言えば選手登録さえしていれば誰でも競技館を利用できるということである、と勇樹は思っていた。
これに関しては勇樹の考えも間違いではない。
基本的に競技館の利用に求められるのは選手登録をしておくことだけ、なのだが厳密に言うともう一つだけ条件がある。
ただし余りにも緩い条件なためこれを満たせない人間というのは実質的にいない、というだけで。
―――神代勇樹はその例外中の例外だった。
「……つかえないって、なんで?」
驚いたように目を見開き、問うた勇樹の言葉に競技館の受付の女性が気まずそうに視線を逸らす。
「先も言いましたように、内部では多くの方々が利用されていまして……その、それなりの頻度で利用中に他の方の魔法が飛んでくる、ということがあるんです。その際、強度Ⅱ以上のシールドを張れないと危険を伴いますので利用規約に強度Ⅱ以上のシールドを張れることが一つの利用のための条件としてあるのですが」
魔法が最も無害認定される理由として『シールド魔法』が存在する。
文字通りの『盾』の魔法だ。分かりやすく言えば目に見えない透明の壁を張る……ひと昔前の言い方をするなら『バリア』だ。
例えば『変化』の要素で作られた魔力の塊のような魔法ならば人の持つアンチエリクシルで大きく威力を軽減、無いし無効化することができる。
だが『創造』の要素で作られた魔法などは実体を持っている。創造で生み出された炎は物理的な炎と同一なのだから、『創造』の要素を組み合わせた魔法はアンチエリクシルの無効化範囲外と言える。
これだけなら魔法の危険性を訴える人間もいただろうが……。
『シールド』の魔法は誰にでも使える。
基本的に魔力を集めて壁状にするだけだから。
これが本当の利便性の高い魔法であり、強度Ⅰでも質量の小さい物なら大半遮断できる。先ほどの例で言うならば炎などはこれ一つで避けつけなくなる。
強度Ⅰなら子供でも使えるレベルの魔法であり、その程度の魔法にも関わらず子供が関わる程度の危険性なら大半これでどうにかなるのだ。
さらにここに自分の魔力属性に適した属性を加えることで簡単に強度2に上がる。
強度Ⅱのシールドは属性を加えた分だけ属性相性左右される部分もあるが物理的強度は飛躍的に上昇している。
少なくとも人類が携行できる程度の火器ならば強度Ⅱのシールド魔法で大半無効化してしまえるのだ。
そして基本的に魔力属性を持たない人間というのはいない、つまりある程度成長すればこんなもの誰でも使えるようなものなのだ。
本来ならば。
神代勇樹は魔力属性に適性を持たない。
まあ適性を持たないからと言って強度Ⅱのシールドが使えないのかと言われるとうそうでも無いのだが、当たり前だが適性を持っている人間と比べても時間も魔力も大きく必要とする。
突発的に飛んでくる魔法の流れ弾に対してそれは使えるとは言えない、である以上競技館の利用は危険性を伴うとして利用できない、と言われるのは仕方のない話ではあった。
とは言えそれに対して思うことが無いかと言われれば決してそんなはずがない。
神代勇樹はまだ8歳の子供なのだから。
憧れと渇望というモチベーションが滔々と湧いてくるので折れることは無い、がそれでも自分が抱えた大きすぎるハンデを直視することはできた。
「うーん」
地元に戻るまでのバスの中、勇樹が唸る。
考えることは多い、当たり前だが競技館が使えないというのはとても痛い。
勇樹がマギアーツを知ってから三年、自分の魔力属性を知る前からこんなことがしたい、あんなことが……と色々妄想を膨らませてはいたのだ。
競技館が使えない以上その大半が試すことすらできないのだ、勇樹には取り得る選択肢が余りにも狭すぎた。
「うーん」
考えて、考えて、考える。
今の神代勇樹に許された行動はそれだけなのだ。
* * *
魔法使い、と言われるとどんなイメージを抱くだろうか。
現代でならばそれはマギアーツの選手を指す言葉として知られている。
だがひと昔前の人間に聞くと『ローブを被って杖を持った怪しい人間』をイメージするらしい。
それ故か、マギアーツでも『魔法使い』を文字って『魔法使いの杖』と呼ばれる物が存在する。
それが『
正確に言うとこれ『魔装具』という物品があるわけではなく、言うなれば『
と言っても最近では『導具』の基本機能の一つとして最初から導入されていることも多い。
なので大抵の人間は生まれた時に持たされる『導具』一つで済ませる、ということも多いのだが少女の場合少しばかり事情が違った。
『魔装具』の最大の機能は『導具』に溜め込まれた魔力を用いて『
『ドレスコード』は『シールド』魔法の派生であり、シールド魔法が前面に展開して防ぐのに対してこちらは全身を覆うように展開する。その分、密度が下がるので防御能力が落ちるのだが全身を覆うことで防御の穴を失くすことができるのが特徴だ。
またこの『ドレスコード』はデフォルトでは透明なのだが、デザインデータを読み込ませることで着色、整形し衣類状にすることができる……というか大半の人間はそうしている。
他にも使用者の魔法発動のための補助機能などもあり、まさにこれは『魔法使いの杖』であり『魔法使いのローブ』なのだ。
マギアーツではこの『ドレスコード』の上からさらにもう一つ『マジックバリア』を重ね掛けすることで安全性を保ったまま公平感のある試合を演出する。
『マジックバリア』は少しばかり特殊な魔法で『使用者が受けた物理、或いは魔力的ダメージを肩代わりする』という効果がある。
マギアーツの試合ではどちらか一方のマジックバリアが破壊された時点で勝敗が決定され、破壊されたほうが敗北となる。
当たり前だが『ドレスコード』を使用していなければ『マジックバリア』が破壊された直後から攻撃が直接来ることになるのでドレスコードの使用は必須である。
要するにゲームのように例えるならば、マジックバリアとはマギアーツにおける『HP』概念なのだ。
これが無くなった時点で強制的に敗北となる。
ドレスコードは安全装置ではあるが、決着のためにはマジックバリアを割る必要性があるのでこの処置は当然とも言える。
で、あるが故に。
マギアーツの試合の際には必ず『導具』に『魔装具』が入っている必要がある。
とは言え先も言ったが最近の『導具』には初期から『魔装具』が入っていることが多いので新しく購入しに来る人間というのはだいたい年配が多いのだが。
先も言ったが少女は例外中の例外だった。
何故ならば。
『魔装具』を探して歩く少女のその髪色は。
―――紫色だったから。
髪色紫だったら何なんだよ、という説明は次回……のはず。
あとやったら説明多いと思うので一章終わったら用語録作ります。