魔法を使うためには魔力が必要ではあるが、魔力というのは無尽蔵に沸いてくる不思議な力、と言うわけではない。
ちゃんと人の体内にある魔粒子を活性化させた時に出てくるエネルギーであると証明されており、当然ながら体内の魔粒子全てが活性化すればそれ以上魔力は湧いてこない、ということになる。
つまり体内の魔粒子の量がそのまま個人の魔力の『最大値』ということになるのだ。
そして体内の魔粒子は全てアンチエリクシルに結び付くことで留めおくことができるのだが、このアンチエリクシルという不可思議な物質、実は『種族』ごとに大よその量というものが決まっている。
要するに人間という種族なら誰しも体内に抱えたアンチエリクシルの量は同じくらいになる。
だったら人類の持てる魔力の量というのは皆同じになるのか、と言われるとそれは否である。
アンチエリクシルの量は変わらないが、実は質というのは異なるのだ。
基本的に
だが時々これが1:3になったり、2:5になったりする存在がいる。
当然ながら同量のアンチエリクシルに対してそう言った人々はより多くの魔粒子を抱え込むことになる。
アンチエリクシルの総量は変わらないのに個々人で魔力量の差が生まれるのはこのためだ。
当然ながら抱え込める魔粒子の絶対量が違うので一度に生成できる魔力量も大きく変わって来る。
こう言った個々人の持てる魔力の量に違いを示して『
だからこそ魔力を貯蔵することのできる外付けアイテムとしての『導具』は画期的発明だったのだが、まあそれは今はおいておくとして。
魔粒子の活性化によって魔粒子同士が結合するならばその分だけアンチエリクシルが『空く』ことになるのは分かると思う。
そしてここで一つ。
実を言えば魔粒子自体は世界中に溢れている。それこそ大気中に漂っているのだ。
かつて『パワースポット』などと呼ばれていたのは特に空間中に漂う魔粒子の濃い場所だったりするのだが……まあそれはさておいて、いくら大気中に魔粒子が漂っていてもアンチエリクシルが魔粒子と結合している以上、人にそれを取り込む手段が無かったのだが魔法の発見によって人が体内の魔粒子を『意図的』に減少させる手段を手に入れた。
そしてそのアンチエリクシルの『空き』部分に大気中の魔粒子を呼吸等を通して吸収することで再び魔力を生成することが可能になる。
この生成速度、量を『
基本的に人の持てる魔力量というのは実はそれほど多くない、それこそ魔法の十や二十で簡単に魔力が尽きてしまうくらいには。
そうした時に生成魔力が発生するので魔力を使い切ったとしてもまたすぐに使えるようにはなる。
だが生成魔力というのは人によって量にばらつきはあるが一呼吸で魔力が全回復、なんてお手軽な物では無い。本来ならば一晩かけてゆっくりと自然回復するようなものなので回復量はそう多くは無い。
勿論それを早める方法もあるのだが、それでも全回復にはそれなりの時間がかかる。
故に貯蔵魔力の量はマギアーツにおいて非常に重要になる。
とは言え先ほども言ったが、基本的に人の持てる魔力量はそう多くない。
元より突然変異を起こした人間以外はアンチエリクシルに抑え込まれて体外に発現しない程度の力しか無かったのだから寧ろ当然とすら言える。
第一世代人類。
つまり魔法が発見された当時の人類の魔力量が大よそ20~30とされる。
つまりライターの代わりにくらいにしかならなさそうな極小規模の魔法でも2,30回使えば尽きる程度の魔力量。
それでも当時、魔法というセンセーショナルな力に人々は飛びついた。
第二世代人類。
第一世代人類によって人類が魔法を手に入れた次の世代の人類の魔力量が大よそ180~600とされる。
この第二世代に関して他の世代よりも数字の幅が広いのには理由があるのだがそれはさておいて、最低魔力量だけでも第一世代の十倍近い第二世代人類は『魔法に対して適応した』初めての存在であると言える。
その結果の一つとして第二世代人類から人類は『自力で』魔力を生産する方法を手に入れた。
現代では当たり前のように人は魔力を生ずることができるが、アンチエリクシルと魔粒子の結合を解除する方法は第二世代人類によって確立されたといって過言でない。
そして第三世代人類。
つまりここ二十年、三十年で生まれた子供たちの魔力量は1500~2000ほどとされる。
第二世代人類が『魔法に適応した』のならば、第三世代人類は『魔法に最適化した』人類である、と言える。
ところで。
かつて突然変異のように多くの魔粒子を持った人間が生まれ、魔法使い、超能力者ともてはやされた。
第一世代人類以前からそういう事例は多くあり、その条件は良く分かっていない……だが確かな事実として例外存在というのは生まれるもので。
魔法を知らない人類の例外存在が魔法使いなのだとすれば。
魔法を知った人類の例外存在とは一体どんなものなのか。
それが『
* * *
マギアーツとは魔法戦闘競技の名の通り魔法を使って戦うスポーツだ。
重要なのは当然魔法……だけではない。
戦闘と銘打たれているように旧来の格闘技に近い物がある。
つまり運動能力というのも必要になるのだ。
魔法は離れたところからでも射撃することができるが、格闘技のように相手に近づいて直接攻撃することもできる。
射程の問題で
つまりマギアーツは魔法だけ鍛えれば良いというわけではない。
魔法に寄らない身体能力も鍛えねばならないのだ。
少し話は変わるが。
実を言うと貯蔵魔力というのは女性のほうが多くなる傾向にある。
あくまで傾向であり女性より魔力の大きい男性というのが居ないわけではないが、『例外』を除いた男性と女性の平均を取ると女性のほうが一割から二割ほど貯蔵魔力の量は多いという統計がある。
マギアーツは魔法を連発する競技の性質上、貯蔵魔力は多いに越したことは無い。
だから女性のほうが有利になる競技なのか、と言われるとそうでも無い。
先も言ったがマギアーツは激しく魔法が交差するが同時に狭いフィールド内を縦横無尽に駆け回るような競技でもあり、身体能力が高いに越したことは無い。
この点で言うと女性よりも男性のほうが強みがあると言え、結果的には男女でそれぞれ有利不利に余り差は無い。
だからこそ、マギアーツはスポーツではあるが男女で枠組みを別としない競技でもある。
と言う話は今はおいておくが。
神代勇樹に残された選択肢は余り多くない。
競技館が使えないということは大半の魔法の練習ができない、ということだ。
まあ魔力属性に適性を持たない勇樹にとってまず何の魔法が練習できるか、という話はあるのだが。
一応競技館外でも一切の魔法が使えないというわけではないのだ。
周囲に迷惑のかかりそうな魔法は当然アウトだが、自分単体で完結するような魔法ならば使っている人間もいる。
勇樹に許された選択肢の中で言うならば『身体強化』魔法くらいしかないわけだが。
『身体強化』の魔法は割とポピュラーな魔法の一つだ。
属性適性抜きで使える強度1のシールドと同質の魔法で、『変化』の魔法要素によって魔力を純粋なエネルギーに変換することで行動の際に必要、発生するエネルギーを『付与』する……本当はもっと細かい原理があるらしいのだが、一般的に体の動きを良くする魔法、とされている。
以前行った検査の結果に魔力属性の適性以外にも貯蔵魔力や生成魔力、それ以外にも魔法要素の適性なども書かれていたのだが、勇樹の場合魔法要素がかなり極端だった。
【創造】<【虚構】
【変化】>>>【操作】
【付与】>>>【奪取】
【奪取】と【操作】は期待するな、と言わんばかりの適性である。
さすがにここまで極端だと矯正しても余り効果が無い上に元の強みを消してしまいかねない。
【操作】とは放出した魔力の操作に関与し、【奪取】は相手の魔力への干渉に関与するのでこの二つが皆無に等しい適性の勇樹は極論、戦闘を自分だけで完結する必要がある。
この上でさらに極端なくらいに【変化】と【付与】が高い。
【変化】は魔力属性に適性の無い現状の勇樹では余り意味が無いが、【付与】は自らへの魔力的強化の充実に関与する。
分かりやすく言うならば『自己バフつけて物理で殴る脳筋魔法使い』にしかなれない、ということだ。
つまりマギアーツの試合において勇樹の勝ち目を考えるならば『身体強化』で縦横無尽に動き回って相手を引っ掻き回し、相手の攻撃を全て避けながら先に相手のバリアをチマチマ削っていく、しかない。
はっきり言うならば非常に大きなハンデである……がそれでも勝ち目が皆無、と言うわけではない。
勝ち目がないわけではない、ということはそこにまだ希望はある、ということ。
神代勇樹は考える。
無い、無い尽くしの勇樹だからこそ、余計に考える。
今あるもので少しでも勝ち目を上げるための手段を。
考えて、考えて、考えて。
「よし……」
一つ、決める。
「走るか」
九歳にもならない少年に難しいことは分からなかった。
* * *
先天性魔素比重異常。
簡単に言えば、生まれつき体内の魔粒子とアンチエリクシルの
それはかつて魔法を持たなかった人類に生まれた『魔法使い』と同じ、魔法を得た人類に生まれた『例外』存在であり。
その最大の特徴は持って生まれた絶大なる貯蔵魔力、そして髪色にある。
実を言うと魔粒子というのは人体には有害である。
否、正確に言えば生命に取って有害的である。
基本的に魔粒子は世界中に存在していて、同様に世界中の生物の体内にも存在する。
だが同時にアンチエリクシルは魔粒子を中和する、だからこそアンチエリクシルを持つ生物は体内に魔粒子があっても無害だ。
だがこのバランスが崩れ体内に魔粒子が溢れると……生命としての根幹が破壊される。
簡単に言えば種族から外れていくのだ。
十数年前にとある研究室で大量の魔粒子を持たせた生物が起こした生物災害は当時を知る誰もの記憶に新しいほどに。
例えばネズミなどならば本来なら精々十センチもあれば大きいと言われるような種が一メートルを超すほどの成長を見せたり、馬に本来存在しない角のようなものが生えたり。
かつて神話上の存在とされていたような『伝説上の生物』たちが実は魔粒子の過剰摂取によって生物として根幹が狂った存在だった、と言えば少しは分かるだろうか。
人間の場合それは『髪色』に現れる。
『赤』『橙』『黄』『緑』『青』『藍』そして『紫』。
まるで虹を表すかのように髪の色が本来人類の持たない色へと変ずる。
先天性魔素比重異常が別名『
その症例者が『
通常人類では有り得ない髪と瞳の色は、同時に通常では有り得ないほどの莫大な魔力を宿した証となり、有り得ない色をした彼、彼女たちを人々は『色付き』と呼ぶ。
『色付き』は誰も彼もが強大かつ莫大な魔力を持つが、魔力量によって色が変わるように、色ごとにランク分けもされている。
中でも藍、紫は世界中見渡しても片手の指の数で足りるほどにしか存在せず、その桁違いの魔力量は果たして同じ人類というカテゴリーに加えても良いのかと学者が疑問に思うほどであり。
そして。
端的に言えば。
藤間悠希という名のまだ八歳の少女は。
『紫』色の髪をした少女は。
この日本にたった一人生まれた『紫』の色付きだった。