クラウンマギカ   作:水代

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マギアーツ⑤

 彼を知り己を知れば百戦殆ふからず、などと大昔の古典で書かれていたりするが相手の情報を知ることはスポーツのみならず多くのことで重要になってくる。

 これはマギアーツにおいても……というかマギアーツにおいては特に重要なことで、事前に相手の試合を見ることができたか否か、というたった一点が勝敗を分けることだって多々あるほどだ。

 

 相手がどんな魔法を使うのか、ということ。

 それを知ることができれば相手の戦闘スタイルもおのずと分かってくる。

 『近接型(ファイター)』なのか『遠距離型(ガンナー)』なのか。

 自分との魔法の相性や戦闘スタイルの噛み合いなど、相手を知ることで得られる有利というのは非常に多い。

 

 逆に言えば、自分の魔法適性や戦闘スタイルがバレている、というのは大きなデメリットである。

 

 特に神代勇樹の場合、知っていれば容易に対策が取れる上に対策された場合、一気に戦局が不利に傾くことになる。

 とは言え勇樹だってそんなことは分かっている。

 自分のやり方に大きな問題があることは百も承知だ。

 

 けれどだからって他に方法があったか、という話ではあるのだ。

 

 勇樹に与えられた手札の中で最善と尽くすならばやはりこれしかない、というのも事実で。

 だから勇樹だってどうなるか不安はあった。

 今回の月例大会に出たのだって、どこまで行けるか、というよりはこの戦闘スタイルで今後やっていけるか、それを試す一貫としての意味もあった。

 正直言えば勝てると思っていなかったのだ。勿論試合に出るからには勝つために最善を尽くすつもりではあったが、勇樹の最善を尽くしたところで勝つことができるかどうか、それは賭けの要素が強かった。

 

 だが神代勇樹は失念していた。

 

 誰もが勇樹のように理不尽な条件を強いられてはいないし。

 誰もが勇樹のように強い熱意を持って競技に取り組んでいるわけではないし。

 誰もが勇樹のように必死になって思考を巡らせているわけではない。

 

 九歳にもならない子供たちの毎月開催される地域の大会、しかもこれが全員初参加なのだ。

 基本的に全員自分のやれるだけのことをやるだけであって、次の相手の試合をチェックして対策をしようなどという思考をする子供はほぼいなかった。

 

 結果的に神代勇樹は月例大会の決勝へと駒を進めた。

 

 まだ魔法に不慣れな子供たちばかりの中で初手の一撃に全力を掛けている勇樹のスタイルは上手く意表を突いていた。

 また前の勇樹の試合を見て初手で防御魔法を張ろうとした子供もいたが、実際に試合が始まれば間近に迫って来る拳に集中が乱されてしまい上手く魔法が使えなかった、ということもあった。

 

 そうして迎えた決勝。

 

「よっ……お前さん、すげえおもしれーたたかいかたしてるんだな」

 

 対面で笑みを浮かべる少年を見て、勇樹は本能的に悟る。

 

「いっちょ、オレも相手してくれよ」

 

 ―――勝てない、と。

 

 

 * * *

 

 

 朱月総司にとってそれは極自然な行為だった。

 

 真っすぐに、真正面に、ブレることなく。

 振り上げ、振り下ろす。

 横に薙ぐ、振り切る前に止める。

 

 何度なく繰り返し続け、小学生になってからは竹刀は木刀に変わって、やることは何一つ変わらなかった。

 今年の四月になり、木刀が『導具』へと変わってからすらも何も変わらない。

 何度も、何度も、毎日、毎日振り続け、手に馴染ませる。

 

 数十年前まで、総司の家はとある剣術の道場をしていたらしく、総司の家には剣を振るための道場があった。

 別にそれは親に強制されて始めたわけではない。そもそも親が子供の頃にはすでに道場は閉められていたらしく父は祖父から剣を教わることも無く大人になっていたのだ、その父が総司にそれを強いるはずも無い。

 だからそれを始めたのは純粋に総司がそうしたかったからだ。

 

 現代において『剣術』に限らず『武道』『武術』というものは昔とは様変わりしている。

 理由は単純でこの世界に『魔法』がもたらされたからだ。

 格闘技を習うより魔法の一つでも覚えたほうがよっぽど便利で、安全なのは言うまでも無いことで。

 身体強化魔法などにより人の身体能力が物理の限界を容易く超える現代において非魔法を前提とした武術など一体何の意味があるというのか。

 勿論礼節などを重視する『武道』のほうは意味が無い、と言うわけではないが、それでもやはり時代遅れ、というレッテルは否めないのが現実だった。

 

 それ故現代における『武道』『武術』には『魔法』が前提とされているものが多々ある。

 残念ながら総司の家の道場はそんな時代の流れについていけず、閉館してしまっていた。

 それに対して思うところが無いわけではないが、かと言って何を言ったところで『今更』な話である。

 だからそれ自体は仕方ないことだった、と総司だって思っている。

 

 ただ。

 

 毎朝、それが日課であると言わんばかりに道場で剣を振る祖父の姿に憧れた。

 気づけば祖父の隣で、祖父の真似をしながら剣を振っていて。

 いつの間にかそれが当たり前のようになっていた。

 そうしていつからか祖父が総司に剣の手ほどきをするようになり、毎朝の日課がより苛烈な物へと変わっていったが幸運にも総司はそれを楽しめるだけの器量と才覚があった。

 

 そう、剣を振ることは楽しかった。

 

 ただそうなると今度はそれを奮う場所が欲しくなるのが子供というものだろう。

 けれど現代においてそんな舞台、中々無いもので。

 一応『魔剣道』という魔法を組み込んだ剣道という名のエクストリームチャンバラめいたスポーツはあったが、硬い防具を身に着け竹刀で叩き合うだけの『剣』とは名ばかりの礼節を重視する『武道』の側に寄ったそれは実戦派を謳う剣術を教わった総司の感性にはどうにもあわなかった。

 

 そんな時、マギアーツという競技を知った。

 

 妙な話ではあるが、朱月総司は本当に最近……ほんの半年ほど前までマギアーツという競技を知らなかった。

 マギアーツは非常に有名かつ盛況なスポーツであったが、剣ばかり振っていた総司は学校の同じ世代の子供たちとは話が合わないし、友人と呼べる間柄もいなかった。

 家は家で、祖父を真似てかあまりテレビの類は見なかったし、じっと座っているより体を動かすほうが好きだったので暇があっては剣を振り、それ以外のことに興味を持たなかった。

 

『もうすぐ三年生だけどマギアーツとか興味無いの?』

 

 だから母親からそう言われた時、首を捻った。

 まさか誰でも知っているような有名なスポーツを息子が知らないと気づいた母親は思わず目を白黒させた。

 それからマギアーツという競技について調べ……()()()()()()

 

 総司はそもそもからして自分の剣の腕を奮いたいのであって、相手が剣を持っている必要があるわけではない。

 そう考えるとマギアーツというのは非常に総司の理想に近い競技であった。

 

 四月になって総司はマギアーツのための選手登録と適性検査を行い、自分の魔法の適性を知った。

 それを祖父に告げて自らの剣に魔法を組み込むための術を相談し、そうして迎えた翌月の頭。

 総司にとっての初陣……三年生最初の月例大会が始まった。

 

 けれども。

 

 迎えた大会当日。

 すでに何度となく試合を終えた総司の胸に去来するのは虚しさだった。

 失望、と言ってもいいかもしれない。

 低い……余りにも、レベルが低い。

 否、幼少の頃より剣を奮い続けてきた総司と違って彼、彼女たちはこれが初めて戦いなのだ、心構えからしてまるで違うのは仕方ないとしても、それでも、だ。

 鎧袖一触、とでも言うべきその有様。

 これでは余りにも腕の振るい甲斐が無いではないか。

 

 何よりも。

 

 ―――熱が無かった。

 

 スポーツでもなんでもそうだが、勝負とは相手がいて初めて成立するのだ。

 勝つ側と負ける側があって初めて勝負と言える。

 そういう意味で、彼らは最初から勝負なんてしていないのだ。

 ただ自分の魔法を使いたいだけ、使う舞台が欲しいだけ。

 そういう意味で総司だってそれは否定できない、総司自身そうなのだから。

 

 それでも総司は対面に向かい合った相手を無視することなど無い。

 

 戦う相手をちゃんと見据えて戦っている。

 けれど総司が戦ってきた相手はそうじゃないのだ。

 彼らは総司なんて見ていない。ただ自分の動きたいように動いて、自分のやりたいように魔法を使って、そうして晒した隙に総司が一撃叩き込んでお終い。

 

 勝ちにきていない。

 

 本気で勝とうとしていない。

 

 それが分かる、分ってしまう。

 自分の都合の良いように展開が進むと思っている。

 その結果勝てるものだと最初から思っている。

 そんなはずがないだろ、相手を見ないで何でそんな風に思えるんだ。

 

 その余りの見込みの低さに勝手に失望しているだけと言えばそうなのかもしれない。

 

 だが。

 

 剣を握った総司に一撃と攻撃を交わすことすら無く『怖くなった』と言って棄権するのは一体何なのだろう。

 だったら何でお前はこの場に立ったのだ。

 

 苛々する。

 

 苛々する。

 

 苛々する。

 

 自分は一体何のためにこの場に立っているのだろうか。

 

 そんな風にすら思い始めて。

 

 そうして。

 

 『彼』の試合を見た。

 

 

 * * *

 

 

 >>魔法式プログラム起動『変化』『付与』=『強化術式』

 >>魔法表式コード読込完了ローディング『脚力強化』『瞬発力強化』『視力強化』『腕力強化』『耐久力強化』

 

 開幕ダッシュ。

 

 ワンパターンと言えばそれまでの話ではあるが。

 それでも、そこにしか勇樹の勝機が無い以上、それしかできない。

 

「それはもう見た」

 

 けれどまあ予想していた通り、勇樹が踏み込んだ分相手も踏み込んでくる。

 まるで躊躇が無い。つまりこの戦い方がバレている。

 まあ決勝の相手なんて二人に一人なのだ。バレるに決まっている。

 

 >>汎用魔技:『収束』=『右拳』

 >>魔法式起動『付与』

 

 それでもこれしかない、と拳に魔力を集めて殴りかかる。

 

「だから見たよ、それ」

 

 呟きと共に……背筋に寒気が走り、咄嗟に身を屈める。

 直後にぶんと、振りぬかれた刃が勇樹の頭の上を掠めていく。

 

 『剣』だ。

 

 多分それが相手の『魔法』。

 手に持っているのは恐らく……『導具』だろう。

 刀の柄のような『導具』から『刃』が飛び出している。初期状態では柄だけだったのでそこに生えている反りのある『刃』は必然的に魔法で形成された物ということだ。

 

 剣対拳。

 

 何とも不利な話だ。

 

 純粋に攻撃の当たる距離が違うというのは厄介極まる。

 しかも射撃型魔法と違って攻撃範囲が点でなく線なのだ。

 さらに言うならば。

 

「うわ、っとっと」

「はは! すげえな、なんでよけれるんだ?!」

 

 慣れている。何となくだが分かる……多分普段から同じように剣なのか刀なのかを振り回しているのだろう。次にどう動くか、の決定が異常に早い。

 勇樹が辛うじて躱せているのは攻撃用に取っておいた魔力を全て身体強化につぎ込んで効果をかさ増ししているからに過ぎない。

 当然躱すほうに全力になればろくに攻撃もできなくなる。

 

 そもそも攻撃用の魔力すらもつぎ込んでいる以上、今殴ってもほとんどダメージを与えられないだろう。

 だが攻撃しようと身体強化へ回している魔力を減らせば恐らくあの剣に捉まる。

 

 要するに状況的には限りなく詰みだった。

 

 どうにかしようにもどうにもならない。

 

 まさか、という話ではあるが原因はシンプルで。

 

 ―――技術(テクニック)の差だ。

 

 例えば今勇樹に魔法適性がいくつかあったとして、それを使用できたとして、だとしても高速で振りかざされる刃を避けながら悠長に魔法を使用などできるはずも無い。

 躱す、以外のことに気を取られた瞬間にばっさり切り捨てられて負ける、というのが今の状況だ。

 だが単純な魔力量ならば勇樹のほうが上で、それを身体強化に全てつぎ込んでいる以上、勇樹のほうがより動けるはず。

 

 にも関わらず状況が拮抗しているのは、結局それなのだ。

 

 神代勇樹はマギアーツについてはそれなりに知っているつもりだが武道、武術については素人だ。

 朱月総司はマギアーツについてそれほど知っているわけではないが、剣術を習っている。

 武術の術理とは結局のところ『動きの最適化』だ。

 互いが相手を殺す武器を持って戦うことを想定した武術というのは『当てたほうが勝ち』なのだ。

 つまり相手の攻撃を躱すこと、相手の回避を読んで当てること、これを理詰めにしている以上、それを知らない人間との差は歴然となっていく。

 

 勿論それがマギアーツにおいて圧倒的アドバンテージになるか……と言われるとそうではない。

 正確にはそれを生かせる状況になることが少ない、というべきか。

 だが勇樹の拳が届くほどに近づき、互いが身体強化で高速で動き合い、そして絶え間ない攻防に互いが全力を注いでいるこの状況において、それはどうしようも無い差となって現れる。

 

 これが遠距離から攻撃できる手段の一つでもあればこんなことにはならなかっただろう。

 

 接近しても切れる手札が一枚、二枚用意できていれば、また違う展開にもつれ込んだかもしれない。

 

 だがすでに神代勇樹に手札は無く。

 

 そしてこの状況にもつれこんだ時点で勇樹の敗北は確定していた。

 

 ―――はず、だった。

 

 

 がくん、と刃を振り切った総司の動きが鈍る。

 それに驚き目を見開く総司に、何が起こったのか分からなかった勇樹。

 それでももうここしかチャンスは無いとばかりに一歩、さらに()()()()()

 

「なっ」

「らああ!」

 

 総司が反応するより先に、強化された身体能力で踏みしめた大地。

 圧倒的な力に引かれて縮む両者の距離、そしてそのまま。

 

 ごつん、と互いの額がぶつかる。

 

 とは言えダメージは全てバリアが肩代わりするため痛みは無い、痛みは無いが顔面に向かって叩きつけられた勇樹の頭を見て僅かに怯みはする。

 その僅かな隙すらも身体能力に差のある現状では致命的で。

 

「らああああああああ!」

 

 >>汎用魔技:『収束』=『右拳』

 >>魔法式起動『付与』

 

 残った魔力の全てを拳につぎ込む。

 すでに身体強化でかなり減ってしまっていたが、それでも勇樹の生成魔力の量は常人の数倍近い。

 この試合の間にも多少なり回復した魔力の一滴すらも拳に集約させて。

 

 ぱりん、と拳がバリアを突き破る。

 

 ビー、とブザー音。

 

 

 ―――それが両者の決着を示していた。

 

 

 




【選手名簿】

名 前 :神代勇樹
魔力属性:無し
貯蔵魔力:16000Maf/all
生成魔力:200~240MaF/s
魔法要素:創造<虚構、変化>>>操作、付与>>>奪取


名 前 :朱月総司
魔力属性:、刀剣、??、??、??
貯蔵魔力:5600Maf/all
生成魔力:30~340MaF/s
魔法要素:創造=虚構、変化≦操作、付与<<奪取


Maf/all(マギフォースパーオール)
貯蔵総魔力量の単位、つまりマギプールの最大蓄積時の総量。
実は『導具』に蓄積できる魔力量はこの貯蔵魔力の総量で変化するので、これが高いほどマギアーツにおいて『HP』と『MP』が高いと思えば良い。

MaF/s(マギフォースパーセカンド)
秒間生成魔力量。つまりマギジェネレートの秒間値の単位。
正確には本来は『一日かけてゆっくり回復する』はずの魔力を急激に回復させた時の生成量。
要するに全力疾走して息切れしてる時に呼吸が激しくなったような状態。必死に体力回復させようと息が荒くなるだろ? 同じように急激に魔力を回復させようと魔粒子を活性化させるんだけど、一度に活性化させれる魔粒子の量は個々人でばらつきがあるよ、ってこと。
これの表記に幅があるのは『空間魔粒子濃度』に幅があるため、と魔法要素における『奪取』の適性に関係するから。
例えば魔法をばんばん撃って空間内に魔力が散っている状況だと魔粒子濃度が上がる。だから同じ範囲の空間から魔粒子をかき集めても量が増える。
さらに『奪取』は魔力や魔粒子の『収奪』に関与する適性なのでこれが高いと生成魔力量の幅が増える。


因みに第三世代人類の一般人平均貯蔵魔力量が三話にも書いた通り『1500~2000』なので総司君普通に優秀レベル。勇樹君は天才レベル。

ただし 『色付き』は人類のバグレベルなので勇樹君の数十倍レベル。
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