「負けた負けた……つえーなお前さん」
あっけからん、と相手は笑った。
試合が終わると共に全身の力が抜けそうになった体をどうにか支えながら、荒く息を吐く。
そんな勇樹とは対象的なくらいに軽い足取りで歩く総司の姿は勝者と敗者がまるで逆にしか見えなかった。
「今日はオレの負けだ。けどま、次やる時は負けねえからな」
告げながら総司が差し出した手を見つめ。
「次も勝つよ」
口の端を吊り上げながら勇樹がその手を取った。
* * *
―――魔力切れ。
それが朱月総司の敗因だった。
総司の貯蔵魔力量は常人の倍以上と多い方ではあるがその使い方にはまだ無駄が多い。さらに言うならば身体強化一つしか使っていなかった勇樹と違い、総司は二つ三つ魔法を合わせて使っていたのも拍車をかけた。
まだ魔法を使えるようになったばかりで慣れていないのだから仕方ないかもしれない。総司の強みは剣を使った接近戦であって、魔法自体はまだ初心者なのだから。
魔法は使い慣れるほどに魔力的無駄を削減できる。より少ない魔力でより大きな効果を得ることができるのだ。
逆に勇樹はたった一つの魔法だけを使い続けた。身体強化の魔法だけはまだ完全とは言えないがすっかり使い慣れたと言えるレベルにまで達していた。
魔法を補助とし剣に重きを置いていた総司との差はそこだった。
逆に言えばそこ以外は全て総司のほうが上だった。
総司がもっと自分の魔法の限界を知っていれば……結果は逆になったかもしれない。
今回だけだろうな、とだからこそ勇樹もまたそう思った。
正直言えば試合前は勝てないと思ったのだ。
否、今日一日で四試合も五試合も続く連戦でなければ……もっと言えば、決勝以外で当たっていれば負けていただろう。
結局のところ総司が最終的に魔力切れを起こしたのは決勝までの連戦で貯蔵魔力をすり減らしていたからに過ぎない。
勇樹の初撃に全てを賭ける戦い方は上手く行けば最短で試合を終わらせ余計な魔力を消費しない。それが上手くはまっていたからこそ決勝戦まで消耗せずに戦い抜けたが総司は決勝までにそれなりに消耗していたのだろう。
そう考えれば総司に勝てたのはいくつもの有利が勇樹に重なり、不利が総司に重なった結果と言えた。
―――月例大会での優勝。
勇樹にとってこれ以上無い結果だったが、同時に自分の限界もまた見えてしまった。
やはり身体強化だけでは無理がある、というのが何試合が戦った末の勇樹の結論だった。
今日まで勇樹は身体強化の魔法と魔力の収束、この二つを徹底的に磨いてきた。
それしか使えない、というべきか。本人の適性の問題もあったが、それ以上に練習場所の問題がある。
やはりどうにかして競技館……ないしそれに準じる施設を使えないとこの先どうにもならない、というのが神代勇樹の正直な感想だった。
ただ『だったらどうする?』と言われても困ってしまう。
無い、無い、無い尽くしの勇樹には改善のための選択肢すらも無いのだから。
魔法適性が無い以上、やはり身体強化以外の魔法というのは難しい。
別に魔法適性を必要としない魔法が身体強化以外に無いわけではないのだが、それがマギアーツに使えるかどうかというのはまた別の話。
限界が見えていた。
神代勇樹の魔法にこれ以上は無い。
それを認めるしか無かった。
だから。
「やっぱり……それ以外、かな」
視線を落としたその手にはくしゃくしゃになってしまった一枚の名刺があった。
* * *
マギアーツにおいて公式大会『マギアーツトーナメント』は年に一度の一大イベントと言っても良い。
小学四年生以上の子供たちから高校生までを対象にした幅広い大会であり、それぞれ『初級*1』『中級*2』『上級*3』で部門が別れている。
毎年この大会では多くの観客が訪れており、会場は賑わいを見せているのだが、中には純粋に観戦に来たのとは別の目的を持った者も一定数やってくる。
その中で最も多いのは『スカウト』だろう。
マギアーツは十年近く前に正式にプロスポーツとなり現在では最も人口が多い競技だ。
イメージとしては六、七十年前のプロ野球とプロサッカーを足したくらいの割合で人気を博している。
はっきり言って現代のプロスポーツとしては一強と呼んで差し支えないほどに『市場』の大きい競技だ。
故に青田買いというのは当然行われるし、全国各地から強者の集まるのが公式大会である、ということ考えればスカウトマンたちが来ないという選択肢は無い。
ただそれでも基本的に彼らが注目するのは中学生以上……つまり『中級』部門以上だ。
小学生たちをスカウトする人間がいないわけではないのだが、小学生時分の子供たちの場合、熱意が続くのか、という問題がある。
子供というのは気紛れなものだ。小学生時分にマギアーツで良い成績を叩きだしていたからと言ってそのまま中学、高校まで続けてくれるのか、プロにまで至ってくれるのかという保証が無い。
途中で気紛れに別の物に興味を持ってそちらへ移って行ってしまうことだって多々ある話で、だからスカウトするなら最低でもある程度将来について真剣に考えることのできる……多少なりとも分別がつく程度の年齢になってから、というのがスカウトたちの間での暗黙の了解のようなものだった。
とは言え小学生の頃から芽が出ている有望株を見過ごすのもスカウトマンの名折れだろうと勧誘するか否かはともかくとして唾をつけておくために『初級』部門の試合を見ないわけではない。
本命は『中級』以上だとしても一通り戦績や注目株に目を配るくらいのことはする。
だがさすがに毎月行われる月例大会にまでその目を届かせる、というのは無理な話だ。
全国64区画に区切って行われる予選ならばともかく、毎月毎月全国100箇所近くで行われている大会の全部門に目を通すことなど不可能だ。
故に上原和真がその日その会場にいたのは完全に偶然だった。
大掃除のために妹に家を追い出されて当てもなくぶらぶらしていた時に偶然月例大会の会場が見えたのでふらっと寄った、本当にそれだけの話だったのだが、その会場で思わぬものを見てしまった。
「良い……良いな」
ぷはあ、と咥えた煙草の紫煙を吐き出しながら和真は先ほどまでの戦いを反芻した。
拳と太刀という最近のマギアーツの流行の真逆を行く二人の姿。
良い、とても良い。特に拳一つで余計な魔法を使っていないのが良い。
「あいつなら―――」
和真の実家はとある武術の道場をやっている。
マギアーツという競技が生まれてから数十年、
そして近づいて戦う競技者を『
マギアーツはスポーツと爽やかな印象で銘打っているがやっていること自体は何でもアリな総合格闘技に近い。そこで何よりも重要なのは『魔法』ではあるが、なら魔法だけ優れていれば勝てるか、というとそうでも無いのがマギアーツの奥深さである。
特に『近接型』のスタイルを取る選手にとって『体の動かし方』というのは非常に重要な話だ。
だからこそ、と言うべきか。時代の流れと共に廃れていたはずの『武術』が近接型の間で流行ったのはある種必然であったのかもしれない。
対人戦を基本とする武術の流れはマギアーツにおいて特に近接型同士の戦いで大きな力となったのだ。
近接型が強くなるための手段として有用であるならば……と色々な選手が全国各地の『武術』を習うために『道場』へと通うようになり、かつて廃れる一方だった武術の流派はマギアーツという競技の上でのみとは言え必要とされるようになり、少しずつかつての隆盛を取り戻していった。
話を戻すが。
和真の実家はとある武術の道場をやっているのだ。
それなりに人気のある道場であり、師範である妹は毎日忙しい日々を送っているようではあるが対照的に兄である和真は退屈な日々を送っていた。
理由としては簡単で現在和真には門下生が居ない。実家の道場は妹が継いでいるため道場に通っているのは妹の門下生たちだ。
故に現在の上原和真はフリーター……否、ニートとすら言えた。
そのことに対して妹にぐちぐちと言われることが面倒でこうして逃げてきたのもある。
とかくやかましいのだあのしっかり者の妹は。
だがまあそのお陰で面白いものが見れた。
「名刺……名刺……確かどっかにあったよなあ、んん?」
がさごそとポケットの中を探す。
煙草の箱や魔力性ライター、財布と色々と出てくるポケットだったが肝心の名刺入れは見当たらない。
はてどこに行ったのかと思考を巡らして。
「そういや家に置きっぱなしだった気がするな」
面倒臭そうに呟いて頭をガシガシと掻く。
そうしてすっかり短くなってしまった煙草を携帯灰皿に突っ込み、もう一本と煙草の箱を開いて。
「あぁん?」
くしゃくしゃに丸められた紙が一つ転がり落ちてくる。
なんだこれ、と伸ばしてみれば。
「名刺じゃねえか」
何故こんなところに、と本気で理解のできない状況にまた頭を掻いて―――。
「まあいいか」
とにもかくにもこれで面目は立つ、とくしゃくしゃになってしまった名刺をぴっぴっと指で延ばしながら歩きだす。
「さて、と……あいつ、なんて名前だったかな」
呟きながら会場を後にし、そうして神代勇樹を『勧誘』するのがその数十分後の話である。
* * *
嘆息一つ。
先ほどまで沸き立っていたはずの会場は今や静まり返っていた。
余りにもあっけなく終わってしまった会場を藤間悠希は踵を返して去っていく。
たった十秒。それが悠希を前にして相手が立っていられた時間。
確かにまだ初年度最初の月例大会、出てくる子供たちの間にそれほど能力の差異は無く純粋な才能の差で勝ち負けが決まりやすい大会ではある、だが。
それでも決勝まで勝ち残ったはずの相手をこうも一方的に倒すというのは過去類を見なかった。
藤間悠希。
日本で唯一の『紫色』の髪の少女は突出した魔力量を持つ人類の『例外』存在だ。
だが魔力量が多いからと言って勝てるのがマギアーツではない。
そも『色付き』が全員マギアーツをやっているわけではないし、マギアーツをやっている『色付き』が全員強いわけではない。
マギアーツにおいて魔法は重要な物ではあるが、その魔法を使うための魔力も重要な物ではあるがそれが絶対と言うわけではない。それ以外にも必要とされる能力はたくさんあって……。
藤間悠希はその全てを備えていた。
『紫色』であることを差し引いてすら、藤間悠希は天才と呼ぶことすら烏滸がましいほどの才能を持っていて。
そんな才能の持ち主が世界最多クラスの魔力を持っている、という事実に悠希の試合を見ていた全ての人間に激震が走っていた。
マギアーツにおいて競技者の
何せスタイルを決定する魔法適性が全員バラバラなのだから当然と言える。
とは言えだ。
一言に魔法適性と言っても実際には強弱がある。
魔法適性自体に優劣は無いが、マギアーツという限られた用途において使えるか否かの差異は確かにあるのだ。
だから多用な魔法適性の中でも実際にマギアーツで使用される適性、というのはある程度限りのようなものが出てくる……となればそのスタイルにもある程度似通ったものが出てくるのは当然のことだろう。
そうするとどんな戦い方が『強い』のか、どんな戦い方が『弱い』のか分析する人間も出てくるし、それほど明確に意識せずとも全体にスタイルの『流行』のようなものが出来上がる。
この『流行』自体は毎年毎年変わると言っても良い。その年に競技者の中で『強者』として印象に残った選手の模倣がそのまま『流行』になるからだ。
―――『環境』と言い換えても良い。
藤間悠希は間違いなく『環境』を作る存在だった。
その圧倒的で、絶対的で、そして揺るぐことの無い盤石な戦いぶりは確実に今の『流行』を駆逐し、新しい『環境』を生み出す。
否。
その程度で終わるはずがない。
この不世出の天才は……もう人類に二人と生まれることが無いと思えるほどの希代の才を持った少女は確実に日本という小さな国を飛び立ち、世界へと羽ばたける至高の逸材だと確信させられた。
こんな小さな大会の、それもたった一戦……十秒ほどの戦闘でそれを確信させられるだけのものが悠希にはあった。
それは最早マギアーツというまだまだ浅い歴史の競技に生まれた大きなうねりだった。
この幼い少女は世界という果てしなく大きな規模で『環境』を作るだろう。
それは最早、これまで積み重ねられてきたマギアーツの歴史を一変させてしまうほどの巨大な嵐だった。
と、いうわけで名前で察してた人もいるかもしれないが勇樹君のライバル枠の悠希ちゃん正式デビュー。まあまだ出会ってないけど。
名 前 :藤間悠希
魔力属性:????……(総数300以上)
貯蔵魔力:6800000Maf/all
生成魔力:3250~4850MaF/s
魔法要素:創造>虚構、変化≦操作、付与≦奪取
人類のバグ、例外、イレギュラーそんな存在が『色付き』でその中でも最上位存在が『紫』の色付き。
というわで実数値換算するとこのくらい違うよ。逆に言えば今作においてこれ以上はほぼ無い。
RPGに例えるとLv1の魔王が最初の街付近をうろついてるレベル。尚、時間経過で強くなります。
悠希ちゃんがくそつよなのは魔力量が桁違いだから、っていうのもあるんだがそれ差し引いても超が三つ頭につくくらい天才的にマギアーツに必要な才能持ってる。
現状ですらにやべえやつ、なのにこれから加速度的に成長していくから余計にやべえやつになる。