いつか天魔に棲む幻想 ~宮阪高校生徒会は幻想郷へと踏み入らん~   作:暁葵

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第二章 巫女と魔法使い

「うおおおおおおおおおおおおおお――ッ!?」

 

 一方その頃大兎は、山の奥で蝶々のような翅を生やした少女たちに追い回されていた。しかも彼女たちの周辺には謎の光輝く弾が浮かび、大兎の方へとそれを発射する。

 

 大兎がその気になれば、こんな群れなど一瞬にして畢竟無に還せるが、彼女たちの可愛らしい無邪気な姿を前にして、そんな惨たらしいことはできないと、彼の良心が枷をかける。

 

「大兎? もしかして苦戦してるの? 待ってて、今すぐそいつらぶっ殺すから」

「待て待てヒメアッ! コイツら別に完全な敵意を剥きだしてるわけじゃねーっぽいぞ! だから殺すな」

「でも……大兎を追いかけていいのは、私だけだから♡ だから――」

「殺すな殺すなっ! 多分このまま逃げ切ればアイツらも追ってはこないだろ」

「む……大兎がそう言うなら、分かった。じゃあ、私に掴まって」

 

 ヒメアの言う通りに、大兎は彼女の左手を握り締める。すると身体が浮遊し、そのまま奥へ奥へと新幹線のように飛んでいく。

 

 普通の人間であれば間違いなく抵抗で死んでたかもだが、実質人外な二人にしてみれば、この程度で死ぬことはまずありえない。

 

 そして二人は太陽の光すら当たらない深く、昏い森林へと到着する。

 

「ふぅ、何とか撒けたな。ありがとな、ヒメア」

「えへへ~。大兎、ご褒美に撫でて♡」

「しょうがないな~」

 

 大兎がヒメアの薄桃色の髪を優しく撫でていると、

 

「おーっと? 見慣れねぇ顔だなアンタら。一体どこから来た人間なんだ?」

 

 空から声が聞こえてくる。その声色から、女の声だということを理解する二人。

 

「何よ急に話しかけてきて。ちなみに言うけど私はニンゲンじゃないわよ」

 

 ヒメアが謎の声に対しそう答える。すると謎の声は喉の奥から笑い、

 

「はは、そりゃ謝るぜ。でもよ、人間じゃないから何だって話だ。ここは幻想郷……神やら妖怪やらがうじゃうじゃ居やがる世界だぜ? 今更ビビらねぇよ――っと!」

 

 その声が段々と二人の方へ降りてくる。

 

 ドサッ! と草の上に着地する音が聞こえ、大兎とヒメアは音のする方へ振り返る。するとそこに居たのは、小柄な金髪の少女。頭に魔女の象徴たる尖がり帽子を被り、その右手には箒を持っている。

 

 典型的な魔女のような外見をしている。

 

「うお、女の子が急に降って来た!? しかも魔女っ娘……まさかテンペロン・クローリーか?」

 

「テンペ……なんだって? 悪ぃが、そんな意味わかんねぇ言葉出されても困るんだわ」

 

 後頭部を掻きながら、困惑気味に話す金髪の少女。

 

「大兎、あの女は全然違う。悪魔と契約してないっぽいし」

「そうなのか?」

「そうなの」

「へー」

 

 二人が金髪の少女を見つめながらそんな会話をする。

 

「……勝手に話を進めないでくれよ。こっちはアンタらがどういう奴なのか分かんねーのによ」

「あ、ごめん。……一応、自己紹介とかした方がいいかな? 俺は鉄大兎。この〝幻想郷〟を調査に来たんだ。で、そっちは?」

「あ? あぁ。あたしの名前は霧雨魔理沙! 見ての通り、普通の魔法使いだぜ!」

「な、なるほど……?」

 

 そう堂々と「普通の魔法使いだ!」と断言していいのだろうかと、大兎は困惑する。

 

「名前なんかどうでもいいわ。それよりも邪魔だから死んでくれないかしら?」

 

 ヒメアが魔理沙に向かって魔術を発動しようとする。

 

「へぇ……そこのアンタは()る気満々みたいだな。……いいぜ、やってやるよ」

 

 彼女は不敵な笑みを浮かべて、ポケットからあるものを取り出す。それは掌サイズの判子のようなもので、底には八卦陣が彫られている。

 

「八卦陣……それ、一体何なの? 見る限り、火の属性を宿してるっぽいけど」

「コイツはミニ八卦炉だぜ。あたしの最強の武器だぜ」

 

 魔理沙が自慢げに鼻を鳴らす。

 

「なぁヒメア。その八卦炉って何なんだ?」

「八卦炉って言うのはね、斉天大聖孫悟空(クィーティア・シェイイェン)を焼き滅ぼす為に創られた鉛を煉った炉なの。人間に分かりやすく言うなら……地獄の釜? に近いかな?」

「え、それって結構まずくね? ヒメア。だってあれって要するに地獄の釜と同じくらいの熱さなんだろ? 結構ヤバいでしょ」

「心配してくれてるの? きゃっ♡」

「う~ん、正直ヒメアが負けるなんてあり得ないとは思うけど……でも、ね? やっぱり心配なんだよ!」

「照れ屋さんなんだから、大兎♡」

 

 ――と、いつも通りのバカップルぶりを発揮していると、咳払いが聞こえる。

 

「……あのなぁ、そう目の前でイチャつかれると気が散るからよ、早く始めようぜ」

「ふん、うるさいわよニンゲン。私は今大兎から愛を貰ってるの。それを邪魔するなんて……殺すわよ?」

「そうカッカすんな。――っと、与太話はいいか。んじゃ……行くぜッ!」

 

 魔理沙は箒に跨って、空を飛ぶ。そして、この昏い森林の中を、ただひたすらに駆け回る。

 

 恐らく攪乱のつもりなのだろうが、ヒメアにとってそんな小細工は無意味に等しいモノだった。

 

「――遅い」

 

 ヒメアの指先から紫紺の炎が飛び出し、魔理沙を撃ち墜とそうとする。その狙いは完璧で、魔理沙の脳天を撃ち抜くつもりだった。

 

 しかし、彼女は咄嗟の判断で箒から力を抜いて、そのまま自由落下してゆく。

 

「あっぶねぇ……アンタ、相当なやり手だな」

「そんなことより早く死んでくれないかしら、鬱陶しいわよ」

「んなつれねーこと言うなよ。ったく、可愛げのねーやつだぜ」

「アンタにそう言われる筋合いは無いし、何より私に可愛いって言っていいのは大兎だけだもん」

 

 と、そんな会話を二人が繰り広げているが、一人蚊帳の外にある大兎は。

 

「……なんか俺、ただボーっとしてて、カッコ悪いなぁ。俺にも何か出来ないかなぁ」

 

 と後頭部を掻きながらそう呟く。

 

 ――すると。

 

「魔理沙ッ! 無事?!」

 

 空から新しい声が響き渡る。全員がその声のする方向を向くと、そこには一人の女の子が浮いていた。

 

 髪には赤く大きいリボンがあり、身体には巫女装束を纏っている。その右手には白幣を把持している。端的に言えば、巫女が空を飛んでいる、そんな状態だ。

 

「んあ? 霊夢か、どうしたんだよそんなに慌ててよ」

「幻想郷に侵入者が現れたの! だから知らせに来たんだけど……アンタらがそうね?」

 

 と、空飛ぶ巫女――博麗霊夢が、彼らを睨みつけながら声をかける。

 

「え? あぁ、まぁ……そうなるかな?」

「そうなるかな、じゃないのよ。アンタたち、私たちの世界に勝手に侵入してきて、挙句結界も破壊するなんて、正直許されることじゃないわ。下手すれば外の世界と繋がっちゃうかもしれないのよ?」

「マジかよ!? マズいじゃん! くっそ、あの俺様生徒会長め……」

 

聖地(リイル)》による異世界間の移動は、結界を破らずに別の世界と別の世界をつなぐものとばかり思っていた。だが、存外そうでもないらしい。

 

「基本異世界って、結界が張られてないでしょ? でもこの〝幻想郷〟は結界が張られてるから、それを破らなきゃ繋げなかった……んじゃないかしら? まぁ、私には関係ないけど」

「どうでもよくないわ、こっち側からしたらね。仮に〝幻想郷〟の結界が破壊された場合、アンタたちの世界とこっちが繋がって、世界は混沌と化すわ」

「え? つまり……世界ヤバい感じ?」

「そうよ。そして……そんなヤバい状況を生み出したアンタらを懲らしめる必要がある訳、分かる?」

「え、マジかよ」

「マジよ」

「あのー……このまま大人しく帰っても……」

「駄目に決まっているでしょ。ちゃんと仕事しなきゃこっちだって示しつかないの」

「そっかぁ……」

 

 困ったことになった。これはあくまで調査に過ぎなくて、戦闘をするつもりはないと、月光は言っていた。だから出来る限り無駄というか、無闇な戦闘は避けたい。

 

 でも――あちら側はその気はないらしい。

 

「そうかぁ……分かった。そこまで言うなら、受けて立つぜ。ヒメア、お前はそっちの魔女っ娘なんとかしといてくれ」

「一人や二人増えたところで、私の敵じゃないよ?」

「俺だってただ立っているだけなのは嫌なんだ。お願いだ、ヒメア」

「う~ん、大兎が言うなら、いいよ♡」

「ありがと、んじゃ――」

 

 大兎は霊夢の方を向いて、拳をパキッと鳴らして、不敵な笑みを浮かべる。

 

「始めるか!」

 

 

 

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