いつか天魔に棲む幻想 ~宮阪高校生徒会は幻想郷へと踏み入らん~   作:暁葵

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第三章 巫女と魔法使いⅡ

「霊符【夢想封印」ッ!」

 

 霊夢は大兎に向かってあるカードを取り出して、そう詠唱する。すると、彼女の周囲に七色の光の弾が複数出現し、彼の方へと飛んで行く。

大兎はその飛んでくる弾幕を避けて逃げようとするが、それらは彼の背中をぴったり追尾している。

 

「うおっ!? あれってさっきの妖精みたいなのが使ってた球体? 何であんたが……」

「別におかしいことじゃないわよ、この世界じゃ。――というか、そんな喋ってる余裕があるの?」

「え、どういう――」

 

 大兎が素っ頓狂な声を上げながら弾幕から逃げていると、霊夢は手に持った白幣を振り翳す。すると彼女の周囲に紅白の陰陽玉が複数出現し、それを大兎の方へと飛ばす。

 

「マジかよ!?」

 

 彼の逃げる先に陰陽玉が待ち構える。挟み撃ちだ。このままでは弾幕に挟まれて死ぬ可能性がある。実際のところ、弾幕がどれほどの致死性を持っているのかは不明だが、当たらない方が絶対に良い。

 

 大兎は横へと前転して、何とか攻撃を免れる。しかし、その背後では陰陽玉と七色の弾幕が衝突し、爆発を引き起こす。

 

 彼はその爆発の衝撃でさらに遠くへ吹き飛ばされる。

 

「うわあああああああ!?」

「終わりよッ!」

 

 霊夢は間髪入れずに白幣で大兎を殴ろうとする。大兎は咄嗟に防御の構えをして、白幣の攻撃を受ける。

 

 女の子とは思えない、途轍もないパワーに大兎は面食らった。

 

「えげつねーな……巫女ってこんな戦闘する奴だったっけ?」

「アンタらの世界にどういう巫女がいるかは凡そ見当はつくけど、少なくとも幻想郷(うち)の巫女は大抵は戦えるわよ? 女だからって侮ってると――死ぬわよ?」

「へぇ、結構言ってくれるじゃねーか。いいぜ! 俺だって結構戦ってきたんだ、やってやるぜ!」

 

 霊夢の挑発が効いたのか、大兎は不敵な笑みを浮かべて、拳をパンッ! と合わせる。

 

 そんな本気になった大兎の内側から問いかけるものが現れる。

 

【……で、どうするんだに?】

 

 それは喋る猫だ。不思議な国のアリスに登場するチェシャ猫に類似した存在だが、その本質は全く異なるものだった。

 

 この猫はヴィショウブ・エレランカという異世界に閉じ込められていた凶悪な使い魔だ。――と、銘打ってはいるが、その実能力自体は大したことなかったり。

 

「流石に人殺すのはあれだからな~、ニャン吉のスカールズであの光の弾を呪ってくれないか?」

【了解したに】

 

 ヴィショウブ・エレランカ――ニャン吉はそう返答して、準備をする。大兎は赤巫女が攻撃するタイミングを観察する。そして――

 

「さっさと倒れなさいッ! 霊符【夢想妙珠】――!」

 

 無数の弾幕が襲い掛かる。

 

 今だ! 大兎は心の中でそう叫び、手を前に翳す。そしてニャン吉が、

 

【スカールズ】

 

 と宣言する。

 

 すると弾幕は黒い霧のようなものに包まれ、水風船が爆発したかのように弾け飛ぶ。

 

「嘘でしょ!? アンタ……本当に表側の世界から来た人間?」

「あー、まー、人間かって聞かれたら半分そうだしそうじゃないって答えるしか……」

「何よそれ!」

「っと、それよりも。どうする? 降参するか? アンタの攻撃は通用しないぜ?」

「……くっ、はーもう滅茶苦茶よ。……一応聞くけど、これ以上の危害は加えないって約束できる? 返答次第では本気で殺すけど」

「正直そこんとこは俺の一存じゃ決められないんだよね~。あの俺様にも聞かなきゃだし……」

「アンタは戦いたいの?」

「なわけないじゃん! 俺だって出来るなら殺し合いとかは避けたいし」

「だったら一時休戦よ。あたしだってアンタらとじゃれ合ってる暇はないの。ま、取り敢えずはこれで」

 

 と、霊夢の肩の力が抜けると同時に、目の前に眩い閃光が横切る。

 

 超高密度にして超高温の質量を持った一閃――霊夢がそれを放たれた方向を見ると、そこには魔理沙がいた。

 

 ミニ八卦炉が煙を吹いている。つまり、彼女は必殺技の一つである恋符【マスタースパーク】を放ったのだ。

 

 そんな必殺技が、鉄大兎に直撃したのだ。その温度は摂氏千度は超える……いくら魔法のような力を使える大兎でも、あれが直撃すれば死ぬことは確実だ。

 

「魔理沙! アンタ何してるのよ!? 外の人間殺してどうするのよ?!」

「わ、悪ぃ……こいつ、ちょこまか避けるから、夢中になっちゃって……」

「夢中になっちゃって、じゃないわよ! どうするのよこれ……このままだとまたあたしが責任を負う羽目になるじゃない……」

 

 と、霊夢が慌てた様子でいると、

 

「いった~。マジで地獄の釜並みの熱さなんだな、それ」

「……は!? アンタ……なんで生きて――ッ!?」

 

 霊夢と魔理沙は、唖然としていた。当然だろう……普通の人間であれば、あの攻撃をモロに喰らえば即死。身体は溶け落ちて、跡形もなく消え失せるだろう。

 

 それなのに、彼は平然としている。

 

「んあ? 俺は確かに死んだぞ?」

「アンタ……もう一度聞くけど、人間じゃないの?」

「だからそうだって。俺は確かに見た目は人間だけど、中身は人間半分バケモノ半分みたいなんだよね」

「……で、今のが人間じゃない方の能力ってこと?」

「ま、そういうことになるな。どっちにしても、俺と戦うことは得策じゃないって分かっただろ?」

「あたしだって馬鹿じゃないわ。これ以上手出しはしないわ。……ただし、話がついたらすぐに帰って。それまでは何もしないと約束するわ」

「恩に着るぜ……と、そうだ。一応名前聞かせてくれよ、呼ぶのに不便だろ?」

「いいわ。あたしの名前は博麗霊夢。この幻想郷で発生する異変を解決したり、結界の維持をしたりしてる、ただの巫女よ」

「ただの巫女とは思えないが……ま、いいや。短い間だが、宜しく頼むぜ、霊夢」

「ええ」

 

 そう微笑んで、大兎と霊夢は握手を交わす。

 

 ――握手を交わして数秒後。二人は互いの手を放して、霊夢が、

 

「魔理沙! ストップ!」

 

 環境音のように爆発音が絶え間なく鳴り響く中、彼女が空中で戦闘する魔女っ子に声をかける。

 

「あぁ!? 霊夢、邪魔すんなよ!」

「こっちが休戦協定結んだの。アンタもとっとと止めなさいよ!」

「無茶言うなよっ! コイツが結構厄介で……」

「よそ見しないでよ、殺すわよ?」

 

 魔理沙はずっと逃げているのだ。攪乱として弾幕をばら撒いてはいるが、そこまでで、優勢に立っているかと問われれば、間違いなく否。

 

 形勢はヒメアの方が有利な状態だ。ヒメアには無尽蔵な魔力が宿っているし、多種多様な魔術を操ることができる。一方魔理沙は人間だから、そういった無限の力が無いから不利なのだ。

 

 このままいけば、魔理沙は間違いなく殺される。力づくでも止めなければ、魔理沙が死に絶える。

 

 霊夢がお札を取り出して応戦しようとするが、それは無駄となる。

 

「ヒメア、今は一旦止めてくれないか? いくらでも褒めてあげるから!」

 

 と、大兎が言う。霊夢は「そんなの無駄」と大兎を眺める。が……

 

「え! ホント!? だったらやめる~♡」

 

 と、修羅のような顔で魔理沙を殺そうとしていたヒメアの瞳にハートが現れ、同時に攻撃を止める。そして大兎の方へと近寄って、思い切り抱き着く。

 

「嘘でしょ……?」

「おいおい、興ざめだなぁ……ま、いいか。どうせあたしの方が不利だったしな。……で、どうするんだぜ? 霊夢が止めるってことは、戦わないってことでいいんだよな?」

「そうよ。アイツらにも一応原因はあるけど、あのだらしなさそうな奴曰く大元がいるらしいから、そいつを問い詰めて判断するわ」

「そっか。分かったぜ」

 

 魔理沙も納得した。いくら戦闘好きな魔理沙でも、流石にやる気のない奴と戦うのは乗り気ではないらしい。

 

 そして大兎たちも――

 

「一応そっちも説得が終わった感じ?」

「ええ。……ところで、この後はどうするのよ?」

「あ~、まーとりあえずはこっちの仲間を探して説得してみるしかないかな~」

「居場所はわかってるの?」

「分かってたら苦労しないよ」

「それもそうね……」

「大兎、月光たちの居場所が知りたいの? それなら私の魔術で探せるかも」

「お、マジかよ! でかした、ヒメア!」

「えへへ~♡」

 

 大兎はヒメアの頭を優しく撫で、ヒメアはそれに凄く喜んでいる。

 

「じゃあ、そこの娘が何とかしてくれるってことね? なら、あたしたちもついていくわ」

「はぁ? アンタたちが大兎と一緒に歩くなんて、大兎が穢れるから近づかないでくれる?」

「あ? 何よ、あたしはただ――」

「まあまあまあっ! ヒメアも落ち着いて、俺は別に大丈夫だから! 霊夢、悪いが道案内を頼めるか? 幻想郷の土地勘があるあんたらが来てくれたらこっちとしても助かるしな」

「……まあいいわ。せいぜい迷わないようにね、ええと……」

「大兎。鉄大兎だ。んでこっちがヒメア」

「分かったわ。じゃあ行くわよ、大兎、ヒメア」

「勝手に私の名前を呼ばないでくれる? 私の名前を呼んでいいのは大兎だけなのよ?」

 

 と、相変わらずヒメアが大兎に対する偏執的な愛を見せつける。霊夢たちはそれを無視して、歩き出す。

 

 ――と、同時に空が唸る。

 

「何だ?」

 

 大兎が空を見ると、そこには大規模な稲妻が残っていた。それを見て、大兎は確信する。

 

「美雷だ……間違いない」

「あそこは紅魔館……まずいわね。大兎、飛ばすわよ。はぐれないようにね」

「分かってる! 行くぞ、ヒメア」

「うん♡」

「あたしのことも無視しないでほしいぜ……ったく」

 

 と、四人は紅魔館と呼ばれる場所がある、霧の方へと向かうのだった――

 

 

 


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