私は山田太郎、詐欺師だ。   作:matome0101

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まだまだ初心者ですが、楽しんでいただければ幸いです。


一週目
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 私は山田太郎、詐欺師だ。

 詐欺師というのは、人を騙し、そいつから金を奪うことを生業としている者の事だ。

 人の心の隙につけ込み、そいつの人生を滅茶苦茶にする、人間のことだ。

 人を騙し、金を奪う。

 これは、当然、「犯罪」である。

 そして、当然、「悪いこと」である。

 ところで、諸君は「悪いこと」というのが、どのように定義されるのか、知っているだろうか。

 何を持って、人は、ある事象を、「悪」であると定めでいるのだろうか。

 私は、「悪いこと」とは、「過半数の人間にとって不都合なこと」であると考えている。

 どういう事か、わかりやすく説明しよう。

 例えば、ある組織が、世界を支配しようとしたとする。

 地球人民の大半は、支配なんぞされたくないから、全力で反発する。

 このとき、過半数を占めている、支配されたくない派が「正義」となり、少数派である、支配したい派は、「悪」と定義される、と、こういうことだ。

 つまり、悪というのは少数派なのである。

 今、悪を定義するものは「ルール」だろうと思った君。

 知っているか?法律は、多数決で、成立の可否が決まるんだぜ。

 「ルール」っていうのは、多数派が有利なように定められている、いわば「正義」そのものだ。

 少数派である悪は、ずっと、この多数派の正義に怯えながら、生きていくしかないのだ。

 私がこれから諸君に教える話は、私という悪が、正義に精一杯あらがう物語だ。

 この話を知った諸君が、自分の信じてきた正義を見失うことを、期待している。

 取り敢えず、手始めに、私が、一人の老人を、騙してやったときの話をしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

day 1  晴

 朝がきた。

 私は朝が苦手だ。

 起きてからしばらく続く、頭に靄がかかったような、あの感覚が嫌いだからだ。

 考える力を奪われているような感じがして、虫酸が走る。

 今朝も例外なく訪れるその感覚を、何とか消し去ろうと、頭をかきむしりながら、私はベッドから出た。

 「ホテル佐藤」と金色の文字で書いてある、緑色のスリッパを履き、そのまま、部屋に備え付けられている、電気ポットのある場所へ向かう。

 ポットを手に取り、洗面所へ。水を入れ、元の場所へ戻し、ポットのスイッチを押す。

 ヴ~~~という機械音が聞こえ始めたの確認した後、私は、豆の準備に入る。

 備え付けのコーヒー豆を、ケースから、右手で掴み取り、部屋備え付けのコーヒーミルには入れず、そのまま右手で握りつぶす。

 ガリゴリガリリと、良い音を立てて、手の中でコーヒー豆が砕ける。  

 いくらか手からこぼれて、床に落ちてしまったが、気にしない。

 戸棚から、「ホテル佐藤」と黒い字でかかれた白のカップを取り出し、右手のコーヒーの粉末を入れる。

 タイミングよく、電気ポットがピーと音をたてて、お湯が沸いた事を教えてくれる。  

 コーヒーの粉末が入ったカップに、ポットからお湯を注ぐ。

 湯気が立ち、コーヒーのいい香りが、部屋に広がる。

 カップを持って、私はテラスへ向かう。

 部屋とテラスを隔てるガラス戸を開け、テラスに出る。

 朝日が眩しい。

 眼前に広がる田園風景を眺めながら、コーヒーを一口飲む。

 少し熱いが、この位の方が、眠気覚ましにはちょうどいい。

 よし、だんだん頭がはっきりしてきた。

 ポケットからシガレットを取り出そうとして、手が、何か粉のようなもので、汚れていることに気付く。

 何だ、この茶色い粉末は。

 匂いを嗅いでみる。

 今飲んだコーヒーと同じ香りがする。

 どうやらコーヒー豆の粉末のようだ。

 だが、どうして手に付いているんだ?

 これじゃあまるで、私が寝ぼけながら、コーヒー豆を握りつぶしたかのようじゃないか。

 私は、そこまで握力が強いわけでは無い。

 きっと、コーヒーミルで豆を潰したあと、その粉が手についてしまったんだろう。

 私は、寝ぼけている間の記憶が、ほとんど残らない。

 この体質もあるから、私は朝が嫌いなのだ。

 そんなことを考えながら、私は、視線を、手元から、ホテルの前の道路へと移す。

 この部屋は23階だから、道路は結構下に見える。

 そろそろ、今回の詐欺の、ターゲットが、あの道路を通るはずだ。

 そう思いながら、私はさっき取り出し損ねた、シガレットの小箱を、ポケットから取り出す。

 小箱を開け、中から白いスティックを取り出す。

 それを、右手の人差し指と、中指の間にに挟み、口にくわえる。 

 そして、前歯で齧る。

 カリッと、快い音と共に、口の中に、ココアの香りが広がる。

 今はこの、「ココアシガレット」というお菓子も、中々見かけなくなってしまった。

 私はこの、棒状のラムネのような菓子が、大好きなので、常に鞄の中に、常に何箱かストックがあるから、それで、困るようなことは無いのだが、昔は多くあったものが少なくなっていくというのは、何だかせつない気持ちになる。

 といったところで、ようやく今回の詐欺の、ターゲットが、現れた。

 道路の左側を、自転車でのんびり走っている、あの高齢者男性が、今回のターゲットだ。

 彼の名前は、山下薹璽臘。

 姓と名の、漢字の密度差がえげつないこと以外は、極めて普通の、御年75歳の、一般老人男性だ。

 ていうか、姓の画数:名の画数=6:55って、どういうことだ。

 この名前を付けた親は、きっと相当な変わり者なのだろう。

 因みに薹璽臘で、トウジロウと読むらしい。

 音が見た目に負けている感が否めない。

 さて。

 薹璽臘は、自転車で、走り去ってしまった。

 きっと、いつものように、図書館へ向かったのだろう。

 私は、彼が読書を嗜んでいる間に、彼について調べることにしよう。

 ターゲットの詳細をよく知ることが、優秀な詐欺師への第一歩だ。

 今の所、私が持っている、薹璽臘についての情報は、名前、年齢、性別、住所、家族構成、生い立ち、出身小、中、高等学校、口座のパスワード、趣味、口癖、鉄板ネタ、独自の学習法、好きな食べ物、嫌いな食べ物、初恋の相手、今の妻との出会いのエピソード、結婚指輪を買った店初めての夫婦喧嘩の日時とその理由、喧嘩の和解の原因、と、このぐらいか。

 後半は、無駄な内容が多い気がする。

 まあ、知っていて損は無い。

 因みに、これらの情報は、すべて薹璽臘本人から教えてもらったものだ。

 彼はどうやら多弁家のようで、図書館や公園などで、薹璽臘と、世間話をしていれば、彼は勝手に、こちらに個人情報を流してくれる。

 詐欺師としては、やりやすいことこの上ない。

 これは推測だが、私が詐欺を仕掛けなくても、この老人は、いつか誰か別の詐欺師に引っかかるだろう。

 こんなボーナスゲームみたいに個人情報撒き散らす老人を、詐欺師が放っておく訳がない。

 というかこのじいさん、もう何回か、詐欺に遭っているんじゃないか?

 彼からそんな話は聞いていないが、、、

 まあいい。 

 取り敢えず、これ以上の情報は、必要なさそうだな。

 ていうか、もう詐欺は終わったんじゃないか?

 だって、銀行の口座のパスワード知ってるんだから、あとは、銀行行って、番号打って終わりだろ?

 あれ~?おかしいな~。 

 私はただ、老人の世間話に、付き合ってあげただけなんだけどな~。

 まあ、いいか。

 銀行いって、薹璽臘の口座から百万ぐらい下ろして、今回の詐欺は終了だ。

 

 

 

 

 

 私は銀行へ向かった。

 自動ドアをくぐる。

 きちんと列に並び、ATMの前に立った。

 薹璽臘の口座番号とパスワードを打ち込み、百万引き出そうとして、私は、おや?と思う。

 なんと、その口座には、一銭の金も入っていなかったのだ。 

 私は納得した。

 一銭の金も預けてない口座のパスワードだったら、そりゃあ言いふらしもするか。

 得心がいった。

 取り敢えず、銀行を出るかなと思い、ドアの方に一歩踏み出そうとして、止めた。

 とてもいやな予感がしたからだ。

 私は、ドアの方へ踏み出した足を止め、思考を始める。

0.0s

 さて、今感じた予感は何だろう。

 予感には必ず理由がある。

 取り敢えずその理由を探そう。

 

0.1s

 目だけで銀行内を見回す。

 目に入ったのは、ATM、順番待ちの客、銀行の外の駐車場、以上。

 ここは小さい銀行なので、スタッフはおらず、カウンターもない。

 

0.2s

 客の数は私を除いて3人。

 対して、外の駐車場には車が5台

 

0.3s

 どうして客の数より車が多い?

 車で順番待ちをするほど、店内は混み合っていない。

 

0.4s

 ところで、薹璽臘はどうして口座番号とパスワードを言いふらした?それで彼に何の特がある?

 まるで、誰かを、銀行に誘い出したかったみたいじゃないか。

 

0.5s

 仮に薹璽臘が私を銀行に誘い出したかったとすると、わからないのはその理由だ。

 私を誘い出して、あの老人に何の得がある?

 

0.6s

 いや、あの老人が、一人で、私を誘い出したとするのは早計かもしれない。

 なにがいいたいのかというと、つまり、私を誘い出したのは、複数人による行いかもしれないということだ。

 私が相手にしていたのは、あの老人だけではなかったかもしれないということだ。

 

0.7s

 仮にそうだとしたとき、私が相手にしていたかもしれない組織は、おそらく警察と言うことになるだろう。

 

0.8s

 この国で、私を嵌められる人間は、警察ぐらいだし、私は指名手配もされているからな。

 

0.9s

 警察に嵌められたらとすると、外の駐車場に止まっているのは、覆面パトカーと言うことになる。

 とすると、このまま外にでるのは、極めて危険ということになる。

 

1.0s

 よし、別ルートを使おう。

 

 

 

 一秒の思考の後、私は、トイレの方へ足を向けた。




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