私は山田太郎、詐欺師だ。   作:matome0101

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拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。


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 トイレに向かう、とは言ったが、用を足しにいくわけではない。

 さっき言ったはずだ。「別ルート」を使うと。

 男女兼用のトイレの扉を開き、中に入る。

 その際に、掃除用具のデッキブラシで、扉が開かないようにしておく。

 用を足して、手を洗った後、私は、トイレの磨り硝子の窓に目を向ける。

 そして、その窓を開けて───

 ・・・・・・おっと。

 こりゃまずい。

 この窓、嵌め殺しだ。

 ここから逃げようと思ったんだが、どうしようかな。

「ドンドンドン!」

 あ、やべ。

「おい!開けろ!」

 野太い声が、扉の向こうから聞こえる。

 私もここまでかな。

「小山田海斗!いるのは分かってるんだ!諦めて出てこい!」

 ん?

 小山田海斗って誰だ?

 ・・・・・・ああ、思い出した。

 えっとだな、私のこの「山田太郎」という名前は、偽名であって、本名じゃあないんだ。

 で、私は、「山田太郎」以外にも、これまでたくさんの偽名を使っていて、「小山田海斗」は、そのうちの一つなんだ。

 でも、「小山田海斗」は、私が、まだ、新米詐欺師だった頃に使っていたもので、どのくらい昔かというと、まあ、まだ警察に見つかってもいないぐらい昔だ。

 従って、私を「小山田海斗」と呼ぶ、扉の向こうの男は、警察ではない可能性が高い。

 じゃあ、こいつはいったいだれなんだ?

 俺は何に嵌められた?

 取り敢えず、こいつらに捕まるのは嫌だな。

 

 

0.0s

 このままなにもしなければ、扉の向こうの物騒なジェントルメンズに捕まってしまうのはわかりきったことだ。

 何とかして、それを回避する必要がある。

 

0.1s

 あの嵌め殺しの窓を叩き割って出て行くのも無しじゃあないが、割れたガラス怪我をするのはまずいし、大体、外で誰かが待ちかまえていた場合、速攻で詰んでしまうので、やめておくべきだろう。

 

0.2s

 窓から逃げられないとしたとき、残る出口は、あの扉だけになる。

 が、扉の向こうでは、男達が待ちかまえている。

 

 

 

 

1.0s

 仕方ない。

 窓から逃げるか。

 もしかしたら、窓の向こうに、見張りが誰もいないかもしれない。

 

 

 私は、磨り硝子を叩き割った──────

 

ドゴォ

「オラァ!」

「小山田海斗はどこだ!」

「いねえぞ!」

「見ろ!ガラスが割れてるぞ!」

「クソ!奴め、窓から外に逃げたのか!」

「外に戻るぞ!急げ!」

「待て!もしかしたら、個室に隠れているかもしれない!」

「お前ら!個室を調べろ!」

「誰もいねえ!」

「あ!誰かいた!お前!小山田海斗か!」

「ウィ~ヒック、おれぁ~酒~飲み~ヒック、さぁぁけ持ってこぉぉい!ヒック」

「小山田海斗はいねえ!」

「おい!お前!小山田海斗を見なかったか!」

「ああ、見たぜぇ~ヒック、窓ぶち破って~ヒック、出ぇて行ったぜぇぇ~ヒック」

「やっぱり外だ!急げ!」

 ドタドタドタドタドタ・・・・・・

 

 さっき、窓から逃げるといったが、あれは冗談だ。

 さっきの思考の後、私は、窓を叩き割って、トイレの個室に逃げ込んだ。

 見つかった時は終わったかと思ったが、飲んだくれのふりをする事で、事なきを得た。

 いや~、危なかったな~。

 というか、あいつら、かなりバカだな。

 何で、あの演技で騙されたんだ。

 ところで、男たちの内ひとりは、顔に大きな傷跡があった。

 あの傷、確かどこかで見たような・・・

 まあいいか。

 今は、この銀行から離れることに専念しよう。

 私は、銀行を出て、泊まっているホテルに戻った。

 今日は疲れたから、あの男たちが誰なのかについては、明日考えることにしよう。

 

 

 

 

 

ドンドンドン

 ・・・せっかく気持ちよく寝ていたというのに。

 誰だ?

 左手の腕時計を見ると、短針は、4の数字を指していた。

 外は、まだ暗い。

 頭をかきむしりながら、布団から出る。

ドンドンドン

「はいはい、今開けますよ」

 ドアノブを回す。

 ん?あれ?開かないな。

 このドア押して開けるんだっけ?

 じゃあ押すか。

 ん?動かないな。

 いや、でも、引いて開かなかったから、押して開けるはず。

ドンドンドン

「今開けますから」

 ああ、クソ、開かない。

 頭を掻きむしる。

「クソッ!開けや!オラッ!」

 ドアを思い切り蹴る。

「ウワッ!」

「ギャッ!」

 よし、開いた。

「お待たせしました。どのようなご用件ですか?」

「てめぇ!いきなりドアぶつけてくんじゃねえよ!」

「ボス~、目の前に星が見えます~」

 誰だ?こいつら。

 顔に傷がある男と、丸眼鏡の男。

 んー、どこかで見たことがあるような・・・

 「おいこら!聞いてんのか!」

 そういうと、顔に傷のある男が、殴りかかってきた。  

 首を軽く傾けて、かわす。  

 ついでに隙だらけのボディに3発ほど、パンチを叩き込む。

「グフゥ」

 と言って、傷のある男は崩れ落ちた。

「お前っ!よくもボスを!」

 そう言って、今度は丸眼鏡が、懐からナイフを取り出して、襲いかかってきた。

 ナイフを持っている手を、全力ではたいて、ナイフを落とさせる。

 そして、振り切った右手を握りしめ、今度は反対に振って、手の甲で相手の顎を叩く。

「ゴァッ」

 といって、眼鏡の男は倒れそうになる。

 低い位置に降りてきた頭に、右足膝を叩き込む。

「ヘブッ」

 といって、眼鏡の男は、後方2メートルに吹っ飛び、壁にぶつかって止まった。

 何なんだ、こいつら。

 急に襲いかかってきたりして。

 何のつもりだ。

 ・・・ああ、くそ、考えがまとまらない

 コーヒーを飲まなければ。

 回れ右して部屋の中に戻り、戸棚から、コーヒー豆の入ったビンを取り出す。

 蓋を開けて、十粒ほど、口の中に入れる、そしてかみ砕く。

 口の中で粉々にしている間に、昨日と同じようにお湯を沸かす。

 口の中が苦味でいっぱいになった頃、お湯が沸く。

 沸いたお湯を、ポットから直接、口に流し込む。

「ウゲッ」

 まずっ!なんじゃこりゃ!

 取り敢えず必死に飲み込む。

 目は覚めた。不味すぎてな。

 どうやら、私は今、コーヒーを飲んだらしい。

 しかし、今、私の右手が握っているのは、コーヒーカップではなく、電子ポットである。

 当然、中にコーヒー豆は入っていない。

 じゃあ、私は、どうやって、口の中に、激マズ濃厚コーヒーを誕生させたのだ。

 取り敢えず、ポットを、所定の位置に戻す。

 そして、ロビーの自販機で、口直しに何か飲もうと、ドアの方へ足を向ける。

 わっ!

 なにこれ!

 ドアはずれてるし、昨日銀行で会った、顔に傷のある男と、昨日銀行にはいなかった、丸眼鏡(なぜか大きく歪んでいる)をかけた男が、通路にぶっ倒れている。

 なんだ、こいつら。

 取り敢えず、声をかける。

「おーい、あんたら、大丈夫かー?」

「大丈夫な…わけ・・・ない・・・だろ…」

 あ、生きてる。

「何があったんだ?」

「はぁ?…てめえ…ふざけるのも…大概にしろよ…」

 顔に傷のある男は、極めて不快そうな眼差しを、こっちに向ける。

 何故だ。

「ドア…壊したのも…俺たちを…ボコボコにしたのも…お前…だろうが…」

「はっ!俺のこの、貧相な肉体で、お前らをボコボコにできるわけないだろう。」

「てめえ…おちょくってんのか…」

 うーん…どうしよっかなあ。

 ここに放っておいてもいいんだけど、ホテルの人の迷惑になっても困るし、とりあえず、手当くらいはしてやろう。

「お前ら、立てるか?」

「…俺は立てるが…おい…メガネ…大丈夫か…」

 傷の男は、歪んだメガネの男に呼びかける。

 だが、メガネは、ピクリとも動かない。

「よし、じゃあKIZU、お前は歩いて部屋に入れ。このメガネは私が運ぼう。」

「…KIZUって誰だ…」

「お前のことだが?」

「…俺はKIZUじゃねえ…坂下だ…」

「じゃあ坂本、とっとと部屋に入れ。」

「坂下だ!ごほっごほっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっと。これでフレームは元通りだ。」

「は〜山田さん、器用っすね〜。」

 と、丸眼鏡の持ち主である、田山が、感心したような声をあげる。

「実は、昔、鯖江のメガネと偽って、手作りの伊達メガネを売りさばいたことがあってね。」

「おい、それって犯罪だろう。」

 坂下が、横から口を挟む。

「ああ、そのはずなんだが、何故か、警察からマークされるどころか、眼鏡を買った客から、文句というか、とにかく、否定的な意見が、全く出なくてな。」

 通販の、私の、手づくり眼鏡のレビューは、星4.8だった。

「どういうことだ。偽物を売りつけたんだろう?」

 坂下が不思議そうに言う。

「そうだ。私が売った眼鏡は全部私の手作りだった。」

「その眼鏡って〜、どんくらいのクオリティーだったんすか?」

 今度は田山が口を挟む。

「うーん、一応2、3ヶ月程、鯖江で修行はしたが、そこまでいい物では無かったと思うよ。」

「お前、詐欺のために、本場で修行したのか?」

 山下が意外そうに言う。

「ああ。偽物だとしても、消費者に、ある程度の品質のものは、提供したいからな。」

「…あんた、善人か、悪人か、よくわからんな。」

「私は悪人だよ。その点は、どうしたって変わらない。」

「そうか…」

 一時の沈黙。

「ところで、坂下、田山、君たちはどうしてここに来たんだ?」

「ああ!そうだ!俺たち、お前を捕まえに来たんだよ!」

 おっと思い出させない方が良かったなこりゃ。

 とりあえず、言いくるめにかかるか。

「なんで私を捕まえるんだ?」

「佐々木さんに頼まれたんだよ。『小山田海斗がホテル佐藤の2315室にいるから、捕まえて連れてこい』って。」

「小山田海斗?そんな奴はここにはいないぞ?」

「そうなんだよなー。」

 …あ、いいこと思いついた。

「おい、坂下。その、佐々木という奴から、その話をされたのは、いつだ?」

「昨日の夜だ。」

「俺がこの部屋に来たのは、とある人間に、昨日の夜、ここに来るよう呼び出されたからなんだ。」

「誰に呼び出されたんすか?」

「『小山田海斗』と名乗る人物にだ。」

「何?!」

「そいつはどこにいたんすか?!」

「さあ、電話口で呼び出されたから、そいつが何処にいるかはわからん。」

「そうか…」

「残念っす…」

 何だこいつら。

 ちょろすぎだろ。

「まあいいか。情報が手に入っただけでも万々歳だ。」

「そうっすね。」

「山田、急に押しかけて、殴りかかったりして、済まなかったな。」

 と、坂下が謝る。

 え?殴り掛かられたの?私。

 まあいいか、適当に流そう。

「大丈夫だ。気にするな。」

 私がそう言うと、坂下は、安心したような顔をする。

「じゃあ、俺たちは、失礼する。」

 そう言って、二人は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、これからどうするかな。

 とりあえず、このホテルからは、離れなければあるまい。

 あと…佐々木、といったか。

 そいつの素性も調べなければ。

 それから、薹璽臘。

 あのじじいの正体も探らなければな。

 よし、行動開始だ。




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