ヘルPRJとサツキ少年
鎮守府の談話室の一角に四人の艦娘たちが集まっていた。
その内訳は、独特なシルエットの龍驤、金髪ツインテボクっこ皐月、初期艦の控えめ電、室内なので流石にマントは外している木曾、である。
「というわけで、キルデスビジネス、やるでー」
「おー!よくわかんないけどカッコよさそう!」
「え、ええっ!?」
「唐突だな、おい」
一般的な文庫本より少し大き目のサイズの本を掲げた龍驤。
タイトルはリアリティーショーRPGキルデスビジネス。
スーツを着た骸骨が表紙に描かれており、不気味な印象を与える。
テーブルトークRPG(TRPG)のルールブックなのだがそもそもTRPGを知っている艦娘はこの中では龍驤だけだ。※1
「キルデスビジネスってのはなんなんだ。その本をみんなで読もうってのか?」
「いや、これでゲームができるんや。提督がみんなで遊べってくれたんや」※2
「本でゲームができるんですか?」
「ゲームって言ったら、提督がくれたのがあるけど対戦とかできないもんね。GCとかプレステとかコントローラー一個しかないし」※3
「せやで。TRPGちゅうて、うーん、せやなあ、大人のごっこ遊びってとこかなあ」
「大人の遊び……」
なぜか赤面する電。それを横目で見る木曽は何も言わない。
「ごっこ遊びー?今さらそんなことして楽しいの?」
「仲のいい友達同士でやればきっと面白いって提督は言ってたで。まあとにかくいっぺんやってみよー」
「そうだな。今すごい暇だし、俺はいいぜ」※4
この場にいる面々がプレイに同意すると龍驤はキャラクターシートを配る。
「なんですかこれ。かいしゅうにんきゃらくたーしーと?」
A4の用紙に印刷されたそれが行きわたる。
「まず、キルデスビジネスっちゅうのがどういうゲームなのか説明するで」
あなた方は地獄のテレビ番組キルデスビジネスに出演することになった回収人である。
キルデスビジネスは素人に人殺しをさせて、それを見て楽しむ番組だ。
活躍して視聴率を上げたりするとソウルというポイントがもらえる。最後にそのポイントが一番多かった回収人が好きな願い事をかなえてもらえるのだ。
さあ、願い事をかなえるために頑張ってターゲットをぶっ殺そう。
という感じのことを龍驤はかいつまんで説明した。
「うわぁ」
「なんというか、いやな設定だなおい」
「良くないと思うのです……」
常識的な反応だがその辺はゲームと割り切って楽しんでもらわないと困るのである。
「ええとなー、なんか殺伐としてるように聞こえるかもしれんけど、このゲームの世界観では命ってすごい軽いんや。死んでもソウルを払えばすぐ生き返るし、それが出来なくてもヘルピープルとして地獄に落ちるだけで済むっちゅー感じで。あんまり真面目に考えないで欲しいなぁ」※5
「ああ、ザオリク」
「暗い感じではないんだな」
「うう、電はそれでもやっぱり、自分のために他の人を犠牲にするなんて……」
電は暗い顔だ。真面目な子なのである。
「ゲームなんやし、気にせんでも。ああ、それにほんとに嫌なら強いて殺しに行かなくてもいいし」
「そうなんですか?」
「せやせや。勝てないかもしれんけど、勝つのが目的ではないしな、このゲーム」
「ええー!?ゲームでもやるなら勝つ気でやらなきゃ駄目だろ?」
「まあ、勝ち負けは得点つけるから一応あるんやけど、楽しむのが目的やから。いかにかっこよく死ぬかとか、いろいろ楽しみ方はあるで。もちろん全力で勝ちに行ってもいいけど」
「ふーん。じゃあボクは全力で勝ちに行くよ」
「俺もそうしよう。電には悪いけどな。ゲームは本気でやってこそ楽しめる」
皐月はグッと拳を握り、木曾はにやりと笑う。表面上の性格はどうあれ、艦娘は皆負けず嫌いなところがあるのだ。
「ええと、電、どうする?あれなら他の子よんでもええけど」
「……やるのです。司令官さんが楽しいというなら、きっと楽しいはずなのです」
「そかそか、それならええんや。じゃあキャラシート書いてもらうで。これは回収人の設定とか能力を書く紙やな。普通のゲームで言うならステータス画面になる。大体のことはサイコロ振って決められるようになってるからそんなに迷う必要ないで。じゃあ順繰りにやってみよう」※6
~艦娘キャラ作成中~
「だいたいできたかな。じゃあまずは皐月からやな」
「こんな感じ?」
サツキ 男15歳 願い事 属性:笑い 履歴:絶望 戦闘スタイル:ファイアドラゴン
特技:芸術家・振る・ネックレス・アウトドア・喜び・勝利
アビリティ:7火炎噴流ドラゴンブレス 6空中殺法エリアルコンボ 5炎の嵐ブレイズストーム
4火球ファイアボール 3気功弾キコーダン 2速衝ファストストライク 1炎弾フレイムバレット
「うん。名前はややこしくなるから全員そのまんまやな。性別はダイス振って男。年齢も2d6*3で適当に決めることにしたんやな。戦闘スタイルは任意の二つ」
「ファイアドラゴン!カッコいいでしょ。必殺技はドラゴンブレスで、でっかいドラゴンに変身して火を噴くよ!」
「そのドラゴンやなくてジャッキーな方なんやけどな。まあ問題なし。ちなみに技の効果を無視する簡単キルデスルールでやるから職業とか技は飾りやな。アビリティは1から6までは職業ごとに決まったものを配置。7番目の決まれば絶対相手を殺せる必殺技、キラートリックは自分で名前を決めるんやな」※7
「願い事はちょっとよくわかんないからまだ決まってないよ」
「うん。属性っちゅうのがそのキャラクターが一番大事にしてること。特技が職業、動作、小道具、衣装、情動、願望でこの最後の願望を参考に決めたりするとええらしいんやけど……」
「笑いと勝利。あと履歴っていうのが絶望だって」
「履歴はどのように悪魔と接触したか、地獄のテレビ番組に出ることになった理由やね。絶望は、何らかの失敗によって失意のどん底、もう死んじゃおうかなあ思ってたところに悪魔が現れて、番組で勝てばこの状態から抜け出せる言われて飛びついた、やって。」
腕を組んで首を捻る皐月に龍驤はルルブの該当部分を読み上げる。
「願望の勝利はそのまんま、特定の分野や誰かに勝ちたい。キャラ属性の笑いは、自分や他人の笑顔を大切にしている、普通に考えたらいい人やけど、自分の笑顔だけ大切にしてるちゅうことにしたらかなりの悪党になるなあ。」
「あ、なるほど。じゃあ芸術家でファイアドラゴンだし、放火で捕まったことにしよう。芸術は焼却だー!ってことで。ボクは物が燃えるところがこの世で一番美しいと思ってる。それも特に人の思い入れのあるものが燃えるところ。それを見てるとすっごく笑顔になれるんだ。で、捕まって絶望中」※8
「あー、なんかあかんこれ(笑)リプレイにも捕まってた人おったな。それで願い事は?」
「刑務所を出てまたなにか古い建物とかを燃やしたい」※9
「とりあえず放火の罪から逃れたいってことでええかな」
「そんな感じかな」
「じゃあついでに導入シーンもやってしまおう。ええと、シーン表振って」※10
「えい(ころころ)。奇妙なオブジェだらけの、墓地、だって。ボク刑務所に居るはずなんだけどな」
「脱獄したんやな、たぶん」
「もう罪から逃れちゃったじゃん」
「いや、警官隊に超追われとる」
「駄目だ(笑)」
「で、そうやな、お地蔵さんとかが数え切れんほどある寂れた墓地に隠れとるサツキ少年」
「息を切らせて、疲れきって墓石にもたれかかってる感じかな。それで『どうしてみんなわかってくれないんだ。あの炎ほど美しいものはこの世にないのに!』」
「悪態をついてるサツキの上から声がかかる。墓石に肘をついて座り込んでいるサツキを見下ろす悪魔が現れる。『芸術ってのは一般人にはなかなか理解されへんから大変やなあ』なんて」
「関西弁?龍驤の骸骨なのかな(笑)」
「うち骸骨になるの嫌やし、ちょっと角が生えてる感じで」※11
「じゃあボクは驚いて見上げたらすっごく近くに女の子の顔があってドキドキする。そして『誰!?』と誰何する」
「思春期やな!あ、ちなみにキルデスビジネスでは18歳以下のキャラクターでも18歳以上と表示されるらしいで。ヘル倫理規定がどうのこうの」※12
「このお話の登場人物はみんな18歳以上ですってやつだね。何の意味があるのかは知らないけど」※13
「せ、せやな。ええと、それじゃあ『ウチはこういう者です』と言って名刺を渡すで」
名刺にはヘルテレビプロデューサーRJと書かれている。
「『気軽にヘルPって呼んでえな』」
「ヘルPの顔と名刺を見比べながらぽかんとした顔をするよ」
「『キミ、困っとるやろ?ウチが助けたろうか』ニヤニヤしながら問いかけるで」
「むっとしながら『できるもんならやってみなよ』って言うよ」
「『ちょっとお仕事してくれたらばっちり助けたげる。どや?』」
「少し悩んでから、遠くでパトカーがサイレンを鳴らしているのを聞いてゆっくり頷くよ」
すると突然寄りかかっていた墓石がパタリと倒れ周囲のお地蔵さんなんかも突然書き割りみたいになってぱたぱた倒れる。※14
そして皐月はいつのまにかヘルスタジオのステージに倒れている。
「といったところで次のキャラに行くで」
「この時点でちょっと楽しいな。意外だ」
※1作者もあんまり知らない。ぼっちなので。プレイ経験は実卓1回のみ。本作は捏造リプレイ風SSである。
※2遊ぶ予定の無いルルブは本棚の肥やしになるしかないのである。しかし公式リプレイは読み物として面白いのでぼっちが買っても無駄にはならない。1500円と文庫本1冊としてはお高いがルルブ+リプレイと考えると非常にお買い得(ステマ)(回し者ではない)
※3ぼっ(ry。この鎮守府でゲームと言えばじゃんけん大会に勝ち抜いた艦娘がドラクエやFFをプレイするのを後ろから眺めることである。意外と盛り上がる。あとはトランプとかオセロとか将棋とか非電源系。
※4木曾、Lv95で半ば引退状態。春イベントに向けて備蓄中なので余計に出番がない。
※5でぇじょぶだドラゴンボールで(ry。命は一つしかないから価値があるのである。いっぱいあるならちょっとくらい無駄遣いしても大丈夫。シリアスは無いので実際安心。艦これアニメでもシリアスは無いといいと思う。軍艦を可愛い女の子に!という時点でシリアスさんは死んだ。
※6ルルブを読み込んだり確率計算をしたりすることで有利な組み合わせを導き出すことがたぶん可能。だがめんどいので適当に決める。まあ結局はダイスの出目次第なのでそんなに問題ない。
※7ルルブ2巻204ページにあるルール。本来アビリティには出目が大きいといいことが有ったりする効果が設定されているのだがそれをすべて無視する。いちいち効果を参照したりする手間が省けて判定などがスピーディになる。これ以外の2巻のルールなどは本作では使用しない。続編があれば使うかもしれないけど。キルデス含むサイコロフィクションシリーズのいいところはとにかくお手軽なところ。TRPGのめんどくさい部分をガンガン省略しているのだ。そしてサイコロを振れば話が進む。
※8今回は履歴やキャラ属性などすべてダイスで決めてそこからキャラ付けを行っているが、逆にキャラを決めてからそれに沿うように任意で決めてもいい。迷ったらダイス。
※9文化財とか。この世でかなり上位の許されざる行為。ショッギョムッジョとはいえ。
※10妙な形容と場所を6面ダイス2個ずつ振って決める。
※11地獄のテレビ局のプロデューサー、ヘルPはルルブの表紙の骸骨だ。他のTRPGでいうGMに当たる。龍驤ちゃんがこのヘルPなのだが骸骨は嫌なのでそのまま。地獄の住人ヘルピープルには角が生えているらしい。まあToらぶるな感じの尻尾が生えてるとかでも、とにかく常人と違うことが一目でわかればなんでもいいのだろう。特徴的なシルエットは大事。
※12地獄の住人の倫理観はかなりヒャッハーしてるのであんまり問題ないが、暇つぶしにクレームの電話をかけてくるためその対策らしい。
※13一見無垢な笑顔での発言。皐月ちゃんがお馬鹿なのか賢いのか、純真なのか小悪魔なのか、それは提督には分からない。
※14ついさっきまで普通の現実だったものが次の瞬間偽物に。切り替えのため直前のシーンに顔のアップとかを挟んでる。
全ての部分で実際にサイコロを振ってやっていますが、特に証明する方法も意味もないのでしません。読者はこのSSがあらぶる常識にとらわれないダイスの女神の加護によるものと思ってもいいし、作者の演出によるものだと思ってもいい。