主役になれないモブが使い魔作成でラスボス討伐後の崩壊世界を生き延びるようです   作:きんたろう

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十、のぞみ

 燕が連れてきた生存者の数は十四人。

 老若男女交わる、ぱっと見脈絡のない集団だ。

 鉄郎は彼らを追い出すわけにもいかず、ショッピングモール跡に共に住むことになった。

 

 生存者がいたことに、鉄郎の驚きは大きかった。

 この辺りの生存者のコミュニティは、木ノ実が中心となっているもの以外には無い。それは、元からゼロだった訳ではなく、地下鉄や頑丈なビルに逃げ込み難を逃れた人々が築いたコミュニティを、番條が端から襲って回ったからである。

 だから生存者がいるにせよ、それは極少数で、しかも成人した男のみであろうと考えていたからだ。

 

 であるから、十人以上の集団で、しかも女子供老人を抱えて生きている彼らは、驚異を通り越して奇異に映った。

 勿論鉄郎は、今まで生き延びてきた方法を尋ねた。

 すると、このグループのリーダーらしき初老の男性が、

 

「それは、彼女のおかげなんですよ」

「彼女?」

「ええ。のぞみちゃん!ちょっといいかい?」

 

 男性がそう呼びかけると、白いフード、白いパーカー、白いスカートと、白尽くめの格好をした少女が駆けてくる。

 

「は、い?」

 

 少したどたどしい口調でその少女は喋った。

 見た目十歳くらいであろうか。フードを脱いだその少女の肌は抜けるように白く、髪まで白い、どころか、目まで白かった。

 

(アルビノというやつか?)

 

 美しい、と言える少女だった。目鼻立ちは彫ったように整い、将来が恐ろしくすらある。けれど、色彩のせいだろうか。鉄郎はその少女に可憐というより“脆い”という印象を持った。そして同時に、懐かしさも。

 

「鳥本さん、紹介しますね。こちらのぞみちゃん。のぞみちゃん、こちら鳥本鉄郎さん。ここに先に住んでた、あと、悪魔退治ができる人だよ」

「よろしく、おねが、いします」

 

 やはりたどたどしく、その少女は礼をする。

 釣られて、鉄郎も礼。

 

「この子が、いったい?」

「ええ。実はこの子、悪魔のいる方向が分かるようなんです。それで悪魔を避けて、私たちは今まで生きてこられたんですよ」

 

 なるほど、と鉄郎は思った。どうやらこの少女は強い霊視の力を持っているらしい。鉄郎も持つ力であるし、世の中が平和なら、その内塾がスカウトに行った事だろう。

 しかし同時に、妙だなとも鉄郎は感じた。そういう強い力を持つ人間、例えば猪鹿倉木ノ実や河西鮎などが持つ“圧”の様なものを、この少女から感じなかったのである。

 

「それだけじゃないんです。一度完全に囲まれてしまって、どうしようもなかった時、のぞみちゃんは我々を隠してくれたんです」

「隠した?」

「ええ。我々の前に立って、手を広げたんです。すると、悪魔たちが我々をまるで見えないみたいに素通りしていったのです」

 

 それを聞いて、鉄郎はますます妙に思った。そんな力を人間が使うなんて聞いたことがない。悪魔ならいざ知らず。

 

(もしかして、主人公ちゃんよりも凄く才能に溢れてるんだろうか?それとも、異能者とか?)

 

 異能者とは、生まれつき悪魔の様な力を持つ人間の事である。霊視を持つ人間よりさらに希少だ。もっとも、強くてもライター程度の火を指から出すのが限界である。ただし、悪魔と契約してその力を鍛え上げ、人の枠を外れたものもかつていたらしいが……

 

(この少女がそうだとは、とても見えないな)

 

 鉄郎は膝を曲げ、その少女と目線を合わせると、

 

「のぞみちゃん、だよね。これからよろしくね」

「はい」

 

 鉄郎は考えるのを止めた。可能性ならいくらでもあるだろう。重要なのは、この少女がそうであるという事だ。と考えたのだ。

 

 それから一週間が経過した。

 さて、鉄郎が築いていた吹き抜け下の空間は、一週間で大きく様変わりしていた。

 鉄郎と燕二人分の頃は雑多ながらも空間の広さのおかげでどこかすっきりとした印象もあったが、今は人数分のベッドや机が所狭しと並び、何より発電機の数が増えてうるさくなっている。

 今鉄郎はと言えば、その騒がしくなった空間を離れ、テナントの書店で座布団を並べて寝転がって本を読んでいた。ビスケットも一緒である。

 

(あー……一週間、一週間だぞ。他人と同じ生活空間で一週間……つれぇ)

 

 鉄郎は基本他人というのが苦手である。

 同じ空間にいるだけでありもしない視線を感じるし、聞こえもしない嫌味を聞いてしまうのだ。

 同じ生活空間に他人がたくさんいるという現状は、鉄郎にかなりの心的ストレスを与えていた。

 

「ビスケット……ビスケットぉ……」

 

 きゅ?と反応するビスケットを鳥かごから出す鉄郎。

 ビスケットは鉄郎の手の中で小さく収まった。

 

「つれえ……人手があるのは助かるけど……これじゃ主人公ちゃんのとこにいるのと変わらないじゃんか……」

 

 何より、鉄郎には彼らを好きになれない理由があった。

 

(なんであいつらは笑えるんだろ……)

 

 そう、笑顔。

 彼らは笑うのだ。普通に、何も心配事何て無いかのように、朗らかに。

 無理をしているだけかもしれない。

 けれど、あんな笑顔は主人公ちゃんのコミュニティでも見たことが無い。みんな明日に怯え、下を向いて生きていた。

 彼らにはまるで、何か希望があるかのようだ。

 鉄郎にはそれがどうにも気にかかる。

 

(不気味だ……)

 

 いっそもうここを離れようか?

 鉄郎の思考はいつもの場所に着地しつつあった。しかし当然引き留められるだろう。あの白い少女だって悪魔を祓えるわけではない。物理的に悪魔を排除できる燕と鉄郎は彼らからすれば必要不可欠である。

 黙って消えてもいいのだが、それで彼らが悪魔の餌食になってしまっては寝覚めが悪い。

 そういえば、と鉄郎は思う。

 あの白い少女。のぞみ。彼女の笑ったところは、見たことが無い。

 

「ごーしゅじーん。あ、ここにいたんだ」

 

 書店の入り口、空きっぱなしの自動ドアを通って燕が現れた。

 

「燕?待機してなくていいのかよ?」

「うん。白い娘が悪魔を感じたら知らせてくれるって」

「そう」

 

 白い娘――のぞみの力は本物であった。鉄郎が仕掛けた罠が知らせるより早く、悪魔の襲来をぴたりぴたりと言い当てて見せた。

 それに従って燕が出向き悪魔を退治する。こうなると鉄郎はもう不要で、最近はモールの中をふらふらとしている。

 しかし燕はすぐ動けるようのぞみの近くにいなければならないため、必然鉄郎と燕は一緒にいる時間が短くなった。

 燕はこれが不満である。

 

「何読んでるの?」

「マンガ。SFモノの短編集」

「短編かぁ。やっぱり長編は読む気にならないよね。もう絶対完結しないわけだし」

「そうだな。ナンバリングある漫画は最後を見て完結作品か確かめる癖ついちまった。もしあいつらが漫画家集団なら俺の命を懸けて守るんだが」

「一人ぐらいいるかも。聞いてこようか?」

「いいよ別に」

 

 鉄郎はページをめくる。そんな鉄郎の背後に回り、後ろから体重を掛けて本を覗く燕。

 

(重い)

 

 勿論口にはしない。

 

「……俺さ、昔本屋に住むってのが夢だったんだ」

「そうなの?どうして?」

「そんなの本がたくさん読めるからに決まってる」

「それはそっか。夢がかなった気分はどう?」

「最高だよ。本棚の端から端まで全部読んでいいんだ。予算を気にせず時間を気にすることもない」

 

 鉄郎がページをめくろうとすると、「まだ読めてない」と止められる。

 二人はそれ以上何か会話するでもなく、二人の時間を楽しんだ。

 そして丁度一冊を読み終わったところで、外から「きゃっきゃ」と声がする。

 見ると、生存者の子供たちがはしゃぎながら駆けて行く。それから少し遅れて、のぞみがよたよたと駆けて行く。鬼ごっこでもしているのだろう。

 

「おい、そっちは……」

 

 中庭に通じてある意味外だから、危ない。そう言おうとして、のぞみがいるなら大丈夫だろうと思いなおす。

 

(いや、のぞみも一緒なら悪魔を感じても知らせる奴がいないんじゃないか?)

 

「仕方ない……」

 

 鉄郎はのそりと立ち上がる。

 人が増えたせいか最近は日に四回以上のお客さんも珍しくなくなった。

 

「燕……重い」

 

 結局重いと口にしてしまう鉄郎。けれど燕は気にした様子も無く、

 

「このままおんぶー」

「重いっつてんだろ」

 

 背中にしがみついたままの燕を振り落とす。

 

「ビスケットを見ててくれ。ちょっと様子を見てくる」

「あーい」

 

 眠いのだろうか、妙に気だるげな燕を放って、鉄郎は子供たちの後を追った。

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