主役になれないモブが使い魔作成でラスボス討伐後の崩壊世界を生き延びるようです   作:きんたろう

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十三、別れの準備

 生存者たちのグループがショッピングモールを離れるのは明日の朝と決まった。

 妥当なところだろう。鉄郎はそう思った。

 明け方と言うのは大抵の生き物の気が抜ける時間帯である。悪魔もその例外ではない。

 木ノ実たちのグループに、ここに自分が居たことは離さないようにと言い含めることも忘れない。

 ようやく肩の荷が下りる、と言った心境の鉄郎だったが、この話を聞いたのぞみがやってきて、

 

「あなたは一緒には、来ないのですか」

 

 鉄郎が「そうだ」と言うと、

 

「そうですか」

 

 と言って去ってしまう。

 このことが、若干のしこりとなって鉄郎の胸にわだかまっていた。

 

「ご主人、いいの?」

「なにが」

「あんなに仲良くなってたのに」

「お前……見てたろ」

「そんなことはともかく!ご主人が、ロリとは言え、あんなに人と仲良くなることなんて滅多にないんだから」

「ロリ言うな……ともかく、分かったよ。お別れぐらいは言いに行くつもりだ」

 

 お前は俺の母親か、と鉄郎は愚痴る。

 

「ママじゃなくて使い魔だよ!けどママがいいって言うならそれに応えるのも使い魔だよ!」

 

 燕は胸を張った。

 

「って!ご主人どこ行くの!?」

「ちょっとな」

「もう!ご主人最近わたしの扱い雑だよ!ボケにもツッコんでくれないし」

「のぞみたちが来るまでずっと二人きりだったし、そろそろ飽きた」

「あ、飽きた!?」

 

 のぞみたちがモールに来て一週間。鉄郎たちがモールに居たのはさらに一週間前。世界が崩壊してから計六週間の計算だ。

 崩壊以前は鉄郎含めて四人で、その後鉄郎と燕は確かにいつも二人でいたのだが……

 

「ご主人……女の子に飽きた、なんて言ったら、刺されても文句言えないんだよ?」

「おおう……悪かった、悪かったからそんな低い声だすな」

 

 据わった目と片方だけ吊り上がった口角で言われるものだから、鉄郎は慌てて謝るのだった。

 そして、一晩明けて、次の日。

 

「のぞみ、ちょっといいか?」

「はい」

 

 荷造りする大人たちを横目に、鉄郎はのぞみに声を掛ける。

 

「いや、大したことは無いんだが、今までずっと夜中に移動してたんだろう?」

「はい」

 

 生存者グループは今まで視界の無い夜を選んで行動していたらしい。今では街灯も灯ることもないので、夜の街は月明りが唯一の光源であり、雲の厚い日などは完全な暗闇なのだ。

 目的地が無いならばそれで問題なかっただろうが、道に迷う事もあるだろうし、夜は悪魔も活発になる。

 そのため今回は明け方と言う時間を選んだのだ。

 

「見るからに日に弱そうだからな……ほら、これ」

「これは?」

「帽子だよ。セーラーハットって言うらしい」

 

 鉄郎が差し出したのは、全体が薄い黄色、リボンは白で、見た目は完全に麦藁帽の帽子だった。

 

「これを、私に……」

「ああ。外を歩くときに被るといい。ま、もし目立って邪魔だってんなら捨てても」

「いいえ。捨てません。ありがとう、ございます」

 

 のぞみは帽子を受け取ると、胸に抱きしめるように持つ。

 

(喜んでる……よな?)

 

「い、いや。しかしなんでセーラーハットなんて名前なんだろうな?俺は麦わら帽子との違いが全然わかんねえよ」

「ご主人、照れ隠し下手すぎ……」

「うっせ」

 

 背後から鉄郎にダメ出しが入る。

 昨日の鉄郎の飽きた発言から燕はずっと不機嫌であった。

 

「と、とりあえず被ってみてよ。サイズ合わなかったらあれだし」

「はい」

 

 のぞみは恐る恐ると言った風に帽子をかぶった。

 

「お、おお」

「これは……」

 

 鉄郎と燕、二人して絶句する。

 

「どうか、しましたか?」

「ああいや、どうもしない。似合ってるよ、すごく」

 

 似合っている。しかし、似合いすぎている。

 燕が鉄郎に耳打ちする。

 

「これ、完全に小学生とか幼稚園児が被る、安全帽みたいになっちゃってない?」

「俺もそう思ったよ……」

 

 のぞみの白さに合うように、と選んだ薄い黄という色だったが、完全に裏目に出たようだった。

 

「ま、まあ安全祈願ってことで、いいじゃないか。うん」

「はい……?」

 

 おほん、と鉄郎は咳払い。

 

「それじゃあな、のぞみ。こんな時代だからあれだが、どこかでまた会おう」

「……はい」

 

 のぞみは帽子のつばをぎゅっと握った。

 

「私、お別れは、初めてで。プレゼントを貰うのも、初めてで。私は何も用意してなくて」

「気にするなよ。お礼みたいなもんだ」

「お礼?」

「ああ。俺と仲良くしてくれただろ?そのお礼。それに……いや、何でもない」

 

(どうせ金は掛かってないし、なんて雰囲気ぶち壊しなこと、俺は言ったりしないのだ)

 

「ご主人は何も払ってないもんねー。わたしにはプレゼントなんてほとんどないくせに」

「お前は空気を読め!!」

 

 鉄郎は燕を肘で小突いた。

 

「大切に、します」

「うん。ありがとう」

 

 そう言ってのぞみはあご紐を首に掛け、帽子を背負うようにした。

 鉄郎は嬉しかった。誰かのために何を渡すかと考える行為は彼にとって新鮮で、楽しかったのだ。その結果喜んでもらえたのなら、この上なく幸せと言うものである。

 

「……」

 

 しかし、と鉄郎は考えてしまう。

 自分は、こんな仲になった少女を人任せに放り出すばかりか、送ることもしないのだ。と。

 葛藤が、鉄郎の中で一つ生まれる。

 それは、別に送っていくぐらい構わないんじゃないか?と言うものだ。なにも拠点の真ん中まで連れていく必要はない。その少し手前で見送ればよいのではないか?だが、優秀な元塾生ならば、遠くからでも自分の存在を分かるだろう……。いいや、自意識過剰だろうか。

 そんな際限ない問いと言い訳。

 鉄郎にとってのぞみと言う少女はもうそれだけ大事なのだ。少なくとも、なにかの拍子に「あの少女はあの移動の時に死んでいた」なんて知れたら、後悔で首を吊るだろうくらいには。

 

(……)

 

 それは、善への誘惑であるので、なおさら鉄郎は迷う事となる。

 結局鉄郎は、もしのぞみに頼まれたら、送っていこうという消極的極まる思考に落ち着くのだった。

 

(いや、頼まれなくても後を付けようか。うん、見守るって感じで)

 

 あまりにしょうもない葛藤だった。

 

(素直に送ってくって言えりゃなぁ)

 

 鳥本鉄郎。この男。割と小物である。

 

「鳥本さん!ちょっといいですか、大変なんです!!」

 

 そんな叫びが、鉄郎を思考の海から現実へ引き戻した。

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