主役になれないモブが使い魔作成でラスボス討伐後の崩壊世界を生き延びるようです   作:きんたろう

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十八、産みの地獄(2)

 俺は今夢を見ている。

 鉄郎にはすぐそれと分かった。

 

「よし、出来た!!」

 

 一仕事終えて、額の汗をぬぐう少年が見える。

 過去の鉄郎だ。

 

(燕を作った日、か)

 

 つまり今見ている鉄郎は小学生。十年以上前の光景という事になる。

 所は実家の自室だ。

 ベッドを横に倒し、机やらを脇にどけて、床に大きな陣を描いている。その陣は勿論燕を呼び出すための陣だ。

 

「にゃあ」

 

 陣の真ん中には、幼い鉄郎を見つめる猫の霊。それと、塾の保管庫からくすねてきた鳥の悪魔の体の一部が置いてある。

 

「今体を上げるから」

 

 鉄郎は指の腹に針で傷を作ると、にじみ出た血で陣の最後の一角を書き加えた。

 同時に鉄郎は、自身の血で満たされた瓶の蓋を開ける。

 今日の為に抜いてきた血だ。それは意思を持ったかのように瓶から溢れ、猫の霊を包んでいく。

 

「きれいだ……わぷっ!?」

 

 燕の体が完成したのだ。それによって余分な血が弾けてあちこちが血に塗れ、部屋は殺人現場さながらの様相を呈した。

 

「や……やあ」

 

 だが鉄郎にそんな事を気にする余裕は無い。

 目の前に立つ幼い少女に、恐る恐る話しかけた。

 少女は無言。自身の手足を確認すると、鉄郎の顔を見て、コテンと首を傾げた。

 

「わ、分かるか?鉄郎だ。君の主人だ。以前の記憶は、無いだろうけど」

「てつろう?」

「そ、そう!俺の名前は鉄郎。それで、君の名前は燕だ!」

「つばめ?」

 

 鉄郎は胸を撫で下ろした。

 いきなり襲い掛かってくることもないし、言葉も通じる。今回の儀式がおおむね成功に思えたのだ。

 

「わたしは、あなたの使い魔?」

「その通り!これからよろしく!」

「うん」

「よし!じゃあ早速命令!この部屋を片付けてくれ!」

「……どうして?」

「ん?」

 

 固まる鉄郎。

 

「どうしてって。散らかってるから……?」

「てつろう。それよりわたし、お腹がへった」

「え、ええ?いや、命令だってば。部屋を片付けてくれ」

「いや」

 

 先ほどの安心が失望に上書きされた瞬間だった。

 

「嫌、だって?命令が、聞けない……?ちょっと待ってて」

 

 鉄郎は部屋の隅の物の山から一冊の和綴じの本を取り出し、慌てた様子でページをめくりだした。

 それは塾から持ち出した使い魔を作る方法が記された本だ。

 

(この時は焦ったな。作った使い魔が言う事を聞かないんだから)

 

「契約の式も制約の式もちゃんと入れた。書き加えたところとも競合はしてない……はず。魂との契約ができてないのか?体の方は……」

「ねえ、お腹……」

「燕。右足を上げて」

 

 鉄郎に言われて、訝し気に右足を上げる燕。

 

「左足も上げて。座らずに」

「え?転んじゃう……」

「“上げろ”」

「わうっ!?いたた……」

 

 右足を上げていた燕がはじかれたように左足を上げたので、尻もちをついたのだ。

 鉄郎はそんな燕を気にせずぶつぶつと呟く。

 

「もう、なに……?」

「肉体への強制は生きてる……魂への強制が死んでるんだ。けど式は……悪魔……そうか、魂には猫のを使ったから」

 

(そう、悪魔の魂を縛り従わせる術は、燕の材料に猫の魂を使ったことで発動しなかった)

 

「つまり……行為は縛れるけど、行動は縛れないんだ……クソ……」

「てつろう?ね……」

「失敗だ」

「え?」

 

 そう吐き捨てると、立ち上がって、机に先ほどの本とノートを広げた。

 

「くそ、くそ……言う事聞かない使い魔なんて役に立つわけない……鮎にも何て言われるか……」

 

 今鉄郎の頭には陣の修正の事しかない。

 

「てつろう?ご主人?」

「……」

 

 燕はどこか不安そうな表情で鉄郎の袖を引いた。

 

「ね。お腹空い――」

「うるさい!」

「あう!」

 

 鉄郎は強引に燕を引き剥がした。しかし、また尻もちをついた燕を見てみるみる罪悪感が湧き、

 

「わ、悪い……飯なら好きに食っていいぞ。下にいろいろあるから――」

「いいの?」

「え?」

 

 鉄郎が気付いた時には、もう燕に押し倒された後だった。

 

「な、な?」

「いただきまーす」

 

 そんなどこか軽い調子で、燕の牙が鉄郎ののどに突き立てられた。

 

「い……った――!?」

 

 鉄郎はその衝撃に、制止の言葉を上げることができない。

 燕は鉄郎ののどに傷を作ると、そこから流れ出る血をぺろぺろと猫のように舐め取り始めた。

 鉄郎は燕を押し返そうとするがしっかりマウントを取られて抵抗できない。

 

「あ……あ……?」

 

(俺はこの時やっと分かったんだ。俺が作ったのは使い魔で、悪魔で、一つの命だって。そして俺が産んだ、責任があるんだって)

 

 幼い鉄郎は、抵抗を止めて、燕の頭をゆっくりと撫でた。

 

「ごめん……」

「?」

 

 燕はその謝罪の意味が分からず、ただおいしそうに、一心不乱に鉄郎の血を舐めとるばかりだった。

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