主役になれないモブが使い魔作成でラスボス討伐後の崩壊世界を生き延びるようです   作:きんたろう

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二十一、すべて終わった後の、続きの始まり

 日が落ちてきて、午後。

 鉄郎は公園内を散歩していた。

 使い魔の二人は連れていない。

 怪我で満足に動けない自分に代わって労働に駆り出されたのだ。

 部屋で休まなければならない筈の鉄郎はと言えば、単にやる事が無くて出てきただけである。本もなければ食い物も自由でない。鉄郎は早くもショッピングモールでの暮らしが懐かしかった。

 

 杖を突き、腹の傷と相談しながらゆっくりと歩く。

 公園と言っても電波塔を挟む道路の間を数キロに渡って緑化しているという地理であるので、眺めて癒される景色も無いし、すぐ飽きる。

 そろそろ帰るか、と言う所で、鉄郎は以前は花壇だったはずの場所で、土いじりをしている人影を見つける。

 

(何やってんだ?もしかして菜園とか?)

 

 興味を引かれた鉄郎はふらふらとその人影へ近付いていく。

 右わき腹を抑えて少し前掲で進む姿は見た目完全に不審者のそれであったが、指摘する者はいない。

 

「あれ……鳥本さん?」

「あ……猪鹿倉さん……」

 

 土を弄っていたのは木ノ実だった。

 裾長で厚いシャツとズボン、ついでに麦わら帽を被っていたので遠目では分からなかったのだ。

 二人の間に、気まずい空気が流れる。

 鉄郎は木ノ実とも、鮎のように以前と変わらず喋れることを密かに期待していたが、現実はそう甘くない。

 

(むしろ河西みたいにあんな別れ方しても動じてないみたいな、ざっくばらんとした奴の方が珍しいんだ)

 

 なお鉄郎は、鮎があの態度を向けるのが鉄郎だけだという事に全く気付いていない。

 

「……もう動いて大丈夫なんですか?」

「え、ええ。お陰様で」

「良かった……」

 

 心底安心した、と言う表情の木ノ実。

 

(あ、そうだ。お礼……)

 

 鉄郎は言葉の出だしに迷って、

 

「この前はありがとうございました」

 

 直球勝負。このまま言い逃げするつもりである。だがしかし――

 

「え?何のお話ですか?」

 

 全く伝わらず、あえなく撃沈。当然の結果であった。

 

「あ~あのですね、あれです。あれあれ。傷の治療してくれたと聞いたので……」

「ああ!なんだそんなことですか。いえいえ、当然のことをしただけですよ」

 

 鉄郎は優しく笑う木ノ実の顔に何か許された気になって、口が少し軽くなった。

 

「一体何をしていたんです?」

「これですか?見ての通りです。野菜の種を植えてるんです」

「種?」

「はい。ニンジンとか、トウモロコシとか、ジャガイモとか!」

「へえ……でも野菜に上げるほど水に余裕が?」

「ああそれは、ちょっと井戸を引きまして」

「え?井戸?」

「ちょっと力を使って水脈を無理矢理……おかげで飲み水の心配はかなり無くなったんですよ!」

 

 鉄郎は改めて思う。この少女はやはり規格外だ。

 

「それはまた、とんでもないですね。すごいです」

「いえ、それほどでも……」

 

 照れたように頬を掻く木ノ実。

 

「あ、土が……」

「え?あ」

 

 土の付いた軍手であることに気付き、裾で拭う木ノ実。しかしそれは顔に土を塗り広げる結果となってしまう。

 

「あはは、やだ、恥ずかしい。すみません。お見苦しくて……」

 

 二人とも、お互いの距離感を測りかねていた。

 鉄郎には以前かなり酷いことを言った負い目があり、木ノ実も木ノ実で鉄郎に言われたことを真に受けて鉄郎との付き合い方を悩んでいる。

 いわゆるすれ違いであった。

 

「ここに、いましたか」

 

 そんな二人の前に現れたのぞみである。

 木ノ実には、彼女が救世主に見えていたかもしれない。

 のぞみは二人の緩衝材、清涼剤足り得る、かもしれないのだから。

 

「のぞみ……」

「のぞみちゃん!」

 

 すすす、と声も無く鉄郎の裾を握るのぞみ。

 

「目が覚めて、よかった、です」

「心配させたみたいで、悪かったな」

 

 なんだか今日は謝ってばかりだ、と鉄郎。

 

「目が覚めて、姿が無かったので、心配しました」

「悪かったって。それよりいろいろ大変だったんだろ?そっちこそ大丈夫なのか?」

「はい。木ノ実さんが、守ってくれました」

「え?わ、私?やだ、そんな大げさだよ」

 

 木ノ実はまた頬を掻き、また顔に土を付ける。

 

「大げさなどではないです。守ってもらうだけではなく、大切なことも教わりました」

「大切なこと?」

 

 鉄郎は問うた。

 のぞみは相も変わらず表情薄く語る。

 

「はい。私は私が特別である、と教えられた時、その力で皆さんを守るのが、自分の役目と思いました」

 

 鉄郎の脳裏に、あの男性の顔がよぎった。慇懃で知性を感じさせて、静かに狂っていたあの人。

 

「次に天使様に言われました。お前は人類を導くのだ、と。世界の為に生きるのが自分の役目と、思いました」

 

(天使……?急にスケールでかくなったな?そう言えばこの子は救世主なんだっけ。それで天使に会ったと……)

 

 鉄郎と木ノ実は黙ってのぞみの独白を聞く。

 

「けれど私を巡って天使様と悪魔たちが戦い始めて、世界が壊れそうになった時、思ったのです。私のせいで世界がおかしくなるなら、世界の為に、皆さんの為に、私がいなくなるべきなのだと。――ですが」

 

 のぞみは、一呼吸置いて、

 

「木ノ実さんが、のぞみと言う字は、意味は希望だと。きっと、皆さんの希望になること以上に、自らの希望を持って生きて欲しいと願って、お母さんが名付けてくれたんだと。そう言ってくれたのです」

 

 鉄郎には何となくそのシーンが想像できた。

 きっと木ノ実は血まみれで、強大な敵を前に膝を突きながらも、のぞみを抱きしめてそんなことを言った後逆転勝利――そんなんじゃないだろうか、と。

 

「ですから私は、今ここで言いたいこと、があります。私はその時、私の為に生きてくれた人の為に、生きたいと思ったのです。それが私の希望なのです」

 

 のぞみは鉄郎と木ノ実の手を取った。

 

「私は、私の為に命を掛けてくれた、木ノ実さんと、鉄郎さんの為に、これからを生きたいのです」

「うぇ?」

 

 鉄郎の口から変な声が出た。

 木ノ実も目をパチクリして、混乱している様子だ。

 

「ちょ、ちょっと待てのぞみ!いくら何でも過大評価だ!俺はお前に何も教えちゃいないし、まして命なんて――」

「死ぬことが悲しいことだと、私は、鉄郎さんから教わりました」

「う」

 

 黒歴史が間欠泉のように足元から噴き出した。

 

「あの事が無ければ、私は自分の力の使い道何て考えもしなかったでしょう」

「のぞみ、その話は勘弁してくれ……」

「の、のぞみちゃん!私だって、そんな風にしてもらうために助けた訳じゃ――」

「これは私がやりたいからやるのです」

「ううっ!?」

 

 どうやら木ノ実も迂闊な事をのぞみに言ったようである、と鉄郎は分析する。

 察するところ、「どうしてこんなになるまで」「私がやりたいからやってるんだよ」みたいな会話があったのではないだろうか。妄想だが。

 

「ていうか、俺たちの為に生きるって、一体何をするつもりなんだ?」

「……分かりません」

「……分からないのか」

「それを考えることから始めようと思います。差し当たって、鉄郎さんにお願いがあります」

「なんだ?」

「居なくならないで下さい」

「……」

 

 鉄郎は答えられなかった。今後の身の振り方について悩んでいたからだ。

 

(河西に、ここはお前の部屋だ、なんて言われたけど……)

 

 このコミュニティでの居づらさは以前の比ではない。

 そしてそういう感覚に弱いのが鉄郎と言う男であった。

 

(俺が迷ってるのを分かるんだな?鋭い子だ)

 

 のぞみはまだ生まれて一ヵ月の子供、どころか赤ん坊である。知識も経験も全く無い筈であるのにこの言いよう。

 鉄郎はのぞみの末恐ろしさに戦慄した。

 

(だが、その事を木ノ実の前で言っちまうんだから、気遣いとかそういう部分はまだ子供か?ちょっと安心するが……)

 

 鉄郎はちらりと木ノ実を見た。

 すると木ノ実と目が合ってしまう。木ノ実も鉄郎を見ていたのだ。

 

「……」

「……」

 

 気まずい。気まず過ぎた。

 それに耐えきれず、鉄郎が「考える時間をくれ」などと言ってこの場を誤魔化す算段を立て始めた辺りで、木ノ実が口を開いた。

 

「私は……私も、鳥本さんにいなくなってほしく無いです」

「……」

「あ!もちろん無理強いするつもりはなくて……!」

 

 ぶんぶんと手を振る木ノ実。

 

「私、考えてたんです。どうして鳥本さんが出て行ってしまったのか。でも、全然分からなくて……でも!」

 

 立ち上がり、胸に手を当てて、言う。

 

「鳥本さんはのぞみちゃんや子供たちを連れて来てくれました。子供は希望なんです。あの子たちは、笑えるんです」

「笑える……?あんな目にあっても?」

「はい。だからみんなの希望なんです。今日を生きていくための」

 

 木ノ実はそこで一瞬言葉を切って、

 

「人は希望無く頑張ることはできないんです。平和な時だって、週末までとか夏休みまでとか言い合って頑張ってたのに、いきなりこんな世の中になって、希望は無いけどそれでも頑張れなんて無理なんです!!」

「!」

 

 鉄郎にとって、それはいつかどこかで聞いたような話で。

 

「でも、笑ってくれる子供たちがいるのなら。この子たちの未来の為にって頑張れる気がするんです……そしてそれを連れて来てくれた鳥本さんは……私の……」

「うん……?」

「あ、あ、いえ!やっぱり、これはなんでもないです!!とにかく!そんな子供たちを連れて来てくれた鉄郎さんに、何も返せないままなんて私が嫌なんです!」

 

(私が嫌、か……)

 

 木ノ実は結局理解を諦め、自分の気持ちをぶつけることを選んだ。

 一見前と変わっていないようだが、鉄郎にとっては木ノ実の言葉の主体が鉄郎ではなく木ノ実になったことで、一つ変わったことがあった。

 鉄郎は基本的に主体性の少ない男である。流されて流されて生きてきた男である。

 そんな鉄郎に対して『私が嫌』と言うのは“木ノ実のため”と言う逃げ道、言い訳を用意することになる。

 意図せず、木ノ実は正解を引いたのだった。

 

「……わかった」

「え?今、なんて?」

 

 鉄郎は苦虫を嚙み潰したような顔をする。そんなに言わせたいか、と。

 文句の代わりにのぞみの頭を撫でると、木ノ実の方を向いて、言った。

 

「猪鹿倉さん。お願いがあります。俺をまたここに置いてくれませんか?」

 

 不意を突かれて驚く木ノ実。だが硬直は一瞬で、パッと花のように笑うと、

 

「はい!もちろんです!」

 

 手を叩いて喜んだ木ノ実に、鉄郎はのぞみごと抱きしめられる。

 

「みんなで助け合って、生き抜くんです!これからはずっと一緒ですから!」

 

 そんな木ノ実の熱い言葉に、鉄郎はやはり、頬を掻いて、苦笑いを返すのだった。

 








以上で一章は終わりです。
ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。

ここで暫く更新は終わりです。
重ねて、ここまで読んでくれてありがとうございました。
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