主役になれないモブが使い魔作成でラスボス討伐後の崩壊世界を生き延びるようです   作:きんたろう

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二、三週間後(2)

「ふぅー、この部屋はこんなもんか。燕ー、火頼む」

「はーい」

 

 燕が指を向けると、そこから墨で描いた火に見えるものが飛んだ。

 それが壁にぶつかると、そこから部屋を覆うように一気に広がると、またすぐ消えた。しかし壁に貼ってあるカレンダーや、床に敷いたカーペットなどが燃えた様子はない。

 部屋の景観を損なっていた埃や黒い()()だけが燃えて、消えた。

 

「ここで最後か?」

「うん。全部浄化済み」

「じゃあバリケードに使えるものだけ運び出して、今日は終わりだな」

 

 終わり、と聞くと燕はぱっと笑う。

 

「それじゃあ今日の配給貰ってくるから、あと頼むな」

「あ!わたしツナ缶がいい!!」

「あったらな」

 

 鉄郎がビルを出ると、空はもう夕焼けに染まっていた。

 力仕事で肩に凝りを感じていた鉄郎は、そこで大きく伸びをする。

 ――と、そこへ声がかかる。

 

「お疲れ様です、鳥本さん。精が出ますね」

 

 鉄郎は声の主を見て、一瞬、声を失った。

 

「これをどうぞ、今日の分の配給です。――どうかしました?」

「あっ、ああいえ。どうも、わざわざありがとうございます」

 

 缶詰めやら乾パンやらが入ったカバンを差し出すその声の主――彼女の名前を猪鹿倉木ノ実と言った。

 歳は17。栗色の髪をショートボブにし、はねっ毛を一房まとめている。服装は水色を基調にしたセーラー服で、その上に髪と同じ色のカーディガンを羽織っている。顔立ちはよく整っているが、一見して特徴のない、印象に残らない少女であった。しかしその目をよく見ると、瞳孔に鮮やかな赤が一筋混じり、濁っているようにも見える。

 

「ここの瘴気、かなり薄くなってますね。ありがとうございます、これで人が住めますね」

「いえ……、どうも」

「たしか、燕ちゃんはツナ缶がお気に入りでしたよね」

「あぁ……はい。あ、鯖缶でも大丈夫です」

 

 ニコニコと笑顔でカバンをあさる木ノ実と対照的に、鉄郎は居心地が悪そうに腕をさすった。

 

「というか、今日はどうしたんですか?わざわざ配給を配りにくるなんて」

 

 河西に告げ口でもされたのだろうか、と鉄郎。

 

「え?どうして、って言うと。その、大したことはないんですが。あ、ありました」

「どうも。じゃ、失礼します」

「え、あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」

「はい?」

 

 用は済んだ、とばかりにその場を去ろうとする鉄郎。

 それを慌てて引き留めた木ノ実は、どこか照れた様子で続ける。

 

「あ、の。実は生きてる冷凍車が見つかったんです。それで、お肉が沢山手に入ったので腐っちゃう前にみんなでバーベキューをしようって。あっちなんですけど、良かったら――」

「ご主じ~~ん!縦にしても横にしても扉を通らないのがあって――って、主人公ちゃんじゃん。どしたの?」

 

 木ノ実のセリフを遮って、燕が上から降ってくる。どうやら飛び降りたらしい。

 

「主人公……ちゃん?それ、私ですか?」

 

 燕はそこで、しまった、という様な顔をした。鉄郎は内心ため息を吐く。

 主人公ちゃん。それは、鉄郎と燕が二人で話すときの、猪鹿倉木ノ実の代名詞――あだ名だ。

 

(今日の燕はどうも、よく口を滑らせるな)

 

 最近の生活にストレスが溜まっていたのかもしれない。それなら、後でケアが必要だろう……と、鉄郎は現実逃避気味に考える。

 

「や……ほら、三週間前の戦いであなたは俺や河西、みんなを率いて戦い、そして番條(ラスボス)を倒した訳でしょう?世界を救った。物語の主人公みたいだな?と」

 

 もちろんそれだけではない。鉄郎は彼女の行動より、その内面とか、性質を嫌ってこう呼ぶことが多かった。

 

「あ、そういう事……で、でもでも!!主人公なんてそんな、私、そんな立派なものじゃないですよ!?」

「ははは、謙遜ですか?」

「いえいえ、とんでもない――」

「あ!ツナ缶じゃん!!」

 

 言うが早いか、燕は木ノ実の手からツナ缶をあっという間に奪うと、またビルへと入っていった。

 

「あ、おい燕!!すみません、落ち着きがなくって」

「いえ……」

 

 鉄郎は自分の分の食料を取ると、燕の後を追った。

 その背中に、木ノ実は声を掛けるが――

 

「あの、バーベキューは……」

 

 鉄郎は聞こえななかった振りをし、ビルへと消えた。

 後には、呆然と鉄郎を見送った木ノ実が残された。

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