SAOを真面目に攻略しない人々 作:徳明
ところで前話を見直したら非常に読み難く感じるんですけど、私だけですかね?目が滑るというか、句読点のリズムが合わないというか…元々お世辞にも文才があるとは言えぬ身ですが、輪をかけて酷い気がします。
原因をご存知の方はご指導お願いします(治せるとは言ってない)
「さぁさ、鶴君はこっちに! あー、アルゴさんはこちらへどうぞ!」
「……キクサン、どうしたノ?」
「なんか、解決の糸口が見えて上機嫌なんですよ。俺が起きてからずっとあんな調子です」
「それデ、うな重?」
「我々へのご褒美と、これからの景気付けらしいです」
目の前には漆塗りの上等な重箱と汁椀が置かれている。
「昨日まで出前の受け取りも嫌がってたのニ、現金な奴だナ」
「まあ朝から予約していたみたいですし、最悪を想定してのケアという面もあるのでしょう」
写真の少女がアスナでなかったら、お通夜状態になるのは避けられない。そうなったときに慰労という形で美味いモンでも食えば、お茶を濁せるというもの。
彼なりの配慮だろう。
「いやぁ〜、奮発して自分のも注文した甲斐があったよ! こんなウマいメシは人生初かもしれないなぁ」
「……案外何も考えてなかったリ」
「奇遇ですね、俺も今そんな気がしてました」
暫く待っていると最後にTASさんが入ってきて、デブリーフィングが始まった。
「一先ず、皆んなお疲れ様。作戦は大成功だ!」
「鶴が会った人物はアスナで間違いないんですね?」
「うん。ちゃんと応答も確認できたし、何より送られてきた映像を処理に掛けたら、現実の本人の顔と97.88%一致した。これは偶然で済ませない数値だよ」
菊岡さんは首肯した。
これで彼ら国家権力も、大手を振って動くことができる。
「そういえば、スクショって結局どうなりました? なんかバグってましたけど」
俺が念の為に撮った写真だが、拠点で確認してみると、黒地に白文字のエラーコードが表示されるだけだった。
裏目に出ていなければ幸いだが。
「残念ながら復元は無理だったよ。うちのチームが言うには、アスナの顔を認識して自動で削除するプログラムが働いたんじゃないかってさ」
「GMに察知された可能性は?」
「今のところは何とも。動き無し」
取り敢えず、即詰みではなかったようで安心した。
ただし、早期に決着させる必要があるのは依然として変わらない。
「あと、鶴君がアスナから受け取った謎の銀板だけどね、システム管理用のカードキーだったらしい。それと……これ」
菊岡さんはこちらに見えるように、ノートPCのモニターを向けた。画面には、俺がシステムにキルされる数秒前の映像が映っている。
「ここでカードを差し出すアスナが何か喋ってるの、分かるかい? 特殊なメッセージかもしれないから、君たちの見解を聞きたいんだけど」
口元がアップになり、0.5倍速で再生される。
『お』『か』『の』『し』
「アーちゃんはそんなコト言わなイ」
「すみません」
アルゴに怒られた。
序でに鰻を一切れ強奪された。
「コホン……一応、こちらの見解としては『他の人も実験に——』だった」
「それって、残りの300人も何かしらの形でサーバーに囚われているということですか」
「おそらくね。文脈からして、カードキーはそれに関係するのかも。だとするとこれはチャンスだ」
思いがけず、残りの未帰還者を救出する光明が差し込んだ。
上手くやれば、まとめて解決できる可能性もある。
「そこで、君たちには
「システム深部に潜り込んで、全員が対応せざるを得ない状況に持って行きたいってことですね」
「そゆこと」
「て言っても、なかなか大変よこれ。生半可なクラッキングが効く相手でもないし、高度制限振り切っても長くは保たないんでしょ?」
「道筋があるとしタラ、世界樹攻略くらいダ」
「ここに来て正攻法ですか……」
ゲームとしては、天空に住む妖精王に謁見して、飛行制限のないアルフに転生するのが本来のシナリオ。そのためには世界樹内部にあるダンジョンを攻略する必要があるのだが、それは未だ誰も為し得ていない。
つまりここをプレイヤーが突破したとなれば、運営にとっては看過できない緊急事態であり、何らかの反応が期待できる。
「尤も、ダンジョンの先が用意されていればの話ですけど」
この先のコンテンツは今後のアップデートで追加されます。
インディーズのゲームではよくあるパターンだ。ステージを進めていくと、それ以上アンロックができなかったり、見えない壁に阻まれたりする。
運営にクリアさせる気がないのなら、攻略後のイベントを用意していない可能性は大いにある。
「それでも構わないよ。君たちの任務は陽動であり、駄目押しだから、成果が出なくとも気に病むことはない」
「了解です」
無論、出せるに越したことはないけど……と菊岡さんが付け足すと、一同は頷いた。
「それじゃあ、これが最後の出撃だ。健闘を祈る!」
☆
『未だ天の高みを——』
「ノー」
TASさんが石像の問いに即答で拒否する。世界樹の扉はピシリと閉じたままだ。
「覚悟は良いか」
「できてるヨ」
「俺もできてます」
是と答えると、彼はトールハンマー:レプリカを抜いた。
俺とアルゴはそれを背に、扉を向いてバク宙の開始姿勢をとる。
「テン、ソウ、メツ!」
揃って跳ぶと、TASさんの槌がタイミングよく振られ、天地がぐちゃぐちゃのまま吹き飛ばされる。
硬い床の上を何メートルか転がって体を起こすと、そこは真っ暗闇だった。
「ハイレタ」
「入れましたね」
壁抜けは成功である。二人して安堵していると、TASさんも前転回避のモーションで滑り込んできた。
内部との座標ズレを修正するため、ウィンドウの開閉を二、三度繰り返す。
その間にシステムは我々を認識したのか、空間を白い眩光で照らした。扉のステータスとクエストのフラグは別々に管理されているらしい。
正常通り、壁からガーディアンがポップする。
コイツらがそこまで強くないということはロケハンで調査済みだ。しかし、量が尋常じゃない。マトモにこれの相手をするのは愚策だろう。
ではどうするか。
実はナーヴギアを使うにあたって、一つバグのような症状が確認されている。どうやらSAO時代の所有物が文字化けしつつも引き継がれているようなのだ。
ストレージを開き、あるアイテムを選択する。
《
嘗て市場を破壊するためだけに購入したそれの在庫を全て放出する。
このゲームに同一のアイテムは存在していないが、取り出すコマンドを実行すれば対応するオブジェクトIDのアイテムが代わりに呼び出される。
——ゴポ……ゴボボ…………
今回の場合、分類が食品かつ低レアという特徴から、《飲料水》が該当した。
1個当たり1リットル程度で、6.375e+9個あるから……東京ドーム5杯分くらいの体積になる。TASさんのと合わせれば、このドームを満たすには十分だろう。
閉塞した空間に、凄まじい速さで水が満ちていく。
数秒で身長より深くなってしまったので、TASさんとアルゴに水中で呼吸と会話ができるようバフを掛ける。
そして俺の方にも種族特性で水中補正が発動したのを確認し、二人を掴んで水面下10メートルまで潜行、水位に合わせて深度を維持する。
浮かんでいれば楽なのにと思うかもしれないが、ガーディアンの攻撃をやり過ごすには、ある程度潜っておいた方が良い。
というのも、コイツらはドームから出ることを想定していない。そのため浮力など特殊な項目が省かれており、当然ながら泳ぎモーションも未実装だ。そんなNPCが水に浸かったらどうなるか。
沈むしかない。
水中で飛ぶことはできないから、馬鹿正直に突っ込んできたガーディアンは我々まで辿り着かずに底へ溜まっていく。
駄酒であれば即座に修正しただろうが、運営はイレギュラーを嫌ったのか、思考ルーチンを固定し物量で押し潰す作戦を採った。つまり最後までこれが続く。
実に楽なビジネスだ。
☆
「——ん?」
行程も9割を超えて天井が見えてきた頃。突如として下に引かれる感覚に襲われた。
水量はまだ余裕があるはずだけど……
「ツルサン、下!!」
「へ……? うわっ!」
遥か下方でガーディアンの群れが飛んで来るのが見えた。
飛んでいる、すなわち水のない領域があるということ。
何故——と口にしかけて思い至る。
薄氷壁のパターンだ。ワールドに存在できる個数に制限を設けて、古い順から消しているらしい。
生まれた数だけ消えていく、これでは滝と同じで下に流されてしまう。かと言って《取り出し》をキャンセルすれば、後に待つのは大軍との戦闘。
どちらを選んでも結構な労力だ。
「TASさん、天井ってまだ遠いですかね」
「黙って泳げ」
「冗談言ってる場合カ!! もっと本気出セッ!!」
ケツを叩かれながら上を目指す。如何な泳ぎに長けたウンディーネといえど、滝登りはかなりキツい。
対流の影響で上まで来ていた古い水が、消滅によって気泡となり密度を下げているのも推進力が出ない要因だろう。
残しておいたスキルポイントを《水中移動》に振って対応する。
「二人とも、飛ぶ準備を」
先に伝えて詠唱を開始する。クラーケン……いや、ここでは不適だ。
最適解は——
「——凍れっ!!!!」
水面から飛び出すのと同時に詠唱を終え、《凍結》を発動する。俺を中心に凝固が始まった。
やがて完成した氷瀑は、下層との隔壁を構築するだけでなく、奴らの『巣穴』を塞ぐ充填材としての役割も果たした。
ふと見遣った頭上には、ゴールと思しき十字の継ぎ目がある。健全な運営なら、ここが開いて次に進めるようになるのだろうが……やはり反応はない。
「TASさん、開けられます?」
「……これがある」
彼はそう言って懐から何かを摘み出した。
その指の間に挟まっているであろうアイテムは、俺の目が悪い所為か見えない。
「何ですか、それ」
「無」
「無ぅ〜〜??」
見えないんじゃなくて、無いのかよ!
困惑する俺を横目に、TASさんは『無』を十字に翳す。
「……もしかして、カードキーのコピーですか?」
「ああ」
「だったら最初からそう言ってくださいよ」
面倒臭い人だなぁ。
原本は俺の所有だが、これを解析する際に複製したデータを、菊岡さんが彼のローカルフォルダに入れておいたらしい。それが何かの拍子にモデル適用されなくなったのだろう。
間もなく、天蓋が青く発光し始めた。
「掴まれ」
指示に従って腕を掴むと、転移結晶を使った時と同じ浮遊感が体を包んだ。
☆
「全員いるか?」
「鶴、います」
「アルゴもいるヨ」
転送先は白い通路のような場所だった。下界とは打って変わって、無機質な空間だ。
道なりに進むと、エレベーターホールに出た。
「先に行け」
「失礼します」
アルゴと二人でカゴに乗り込む。
俺たちはアスナ、TASさんは他の被験者の担当だ。
「ボタンがあるケド……」
「一番上から当たりましょう」
今回の捜索に先立ち、ナーヴギアの設定からコンソールを起動して座標を表示させている。鳥籠の位置は把握済みなので、その数値と比較すれば目指す先が分かる。
まずは
——ポーン
効果音が到着を知らせる。
扉が開く前に腰の短刀を抜き、念のため身を屈める。
敵はいない。
表示に従ってしばらく進むと、通路の終わりでドアに突き当たった。取手を握り、恐る恐る引く。
「開かない!」
「……多分、外開きだと思うゾ」
「北欧式じゃないんかい!」
扉の向こうは夕焼けの空だった。
枝に沿って作られた小道を抜けると、見覚えのある鳥籠に辿り着く。中では少女が俯いて椅子に座っている。
「アーちゃんッ!」
アルゴが呼び掛けると、アスナはさっと顔を上げた。
「……!! もしかして、アルゴさん?」
「そうだヨ、助けに来たんダ」
両者が駆け寄り、格子戸越しに手を握り合う。
速やかに彼女を解放するため、扉のロック部をダブルクリック。ALO側のシステムコンソールが出現したので、カードキーを翳して読み込ませる。
ラッチの落ちる音がして、鍵が開いた。
「ありがとう、アルゴさん。そしてキリト——くん、じゃ……ない…………?」
アスナは檻から出ると俺に歩み寄り、数歩手前で足を止めた。
その表情は混乱といったところか。
「えーと、先程振りですね」
「この人はツルサン。SAOを終わらせたプレイヤーの内の一人デ、アーちゃんを助けるために力を貸してもらってル」
「……どうも」
急に他人行儀になるな、気不味いだろ。
まあいい、ここからはスピード勝負だ。GMが手を打つ前にTASさんと合流しなければ。
「アスナさん、俺の首に腕を回してもらえます?」
「何をするつもり……?」
「飛ぶんですよ、そっちの方が速いので。だから運ばれてください」
「それって、お姫様抱っこ……」
「だったら何だって言うんですか」
焦れってぇな。外面気にしてられる状況かよ。
可能な限り子女に対する配慮はしたかったが、協力が得られないならファイヤーマンズキャリーで——
「ちっ、時間切れか」
腕を取ろうと一歩踏み込んだところで動作の抵抗が大きくなり、景色が暗転する。座標はマイナスの値を示しており、上位権限者に強制転移させられたことを報せた。
オブジェクトIDは英数字によるナンバリングという設定。
流石に《あ漢》ではないと思う。開発者がショトカするためのタグはあるだろうけど、2バイト文字は処理的に…でも実際文字化けしてるしなぁ。
黒パンのIDが飲料水と同一なのはご都合主義かもですが、当時は続編を作るつもりがなかったので…(今思えば水商売の方がセンス的にも良かったかも)
てかそも、ローカルフォルダのアイテム(ユイ)を呼び出せるなら、好き放題(チート)できると思います。
こぼれ話。アスナが須郷の隙を突いて籠から出た時、外と中を繋ぐ扉はスライド式だった。後にユイはそれを"押し開いた"。