SAOを真面目に攻略しない人々   作:徳明

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感想やフィードバックを楽しみにしています。いつもありがとうございます。

絶対ファンに殴られるだろうけど…正直、サクヤとアリシャの中身はポケ12の田西と浅梨だと思ってる。



【番外】ALO編 with Argo (6/11)

 街に着いたので、まずは俺が旅路で溜め込んでいたアイテムの換金を済ませ、継ぎ接ぎの装備から自分のスタイルに合ったものへと更新する。

 慣れ親しんだ回避、防御、回復の耐久ビルドである。

 

「さっきのお返しニ、これあげル」

「おおっ、シュールコーですか。ありがとうございます」

 

 アルゴから鎧の上に羽織るコートを貰った。白を基調として黒と赤が差された、俺の好きなカラーリングだ。

 早速装備する。静音性に補正がかかっており、ステータスも実戦レベルで申し分無い。

 

「入るぞ」

「ういっす」

 

 一段落して、次はTASさんの先導で手頃な食事処の扉をくぐる。

 NPC店員の応対に、個室を選択。

 

「ごゆっくりどうぞー」

「どうもー」

 

 ここでなら人目を気にせず会話ができそうだ。SAOとは異なり盗聴のリスクが低いため、少々込み入った程度の内容ならログアウトする手間が省ける。

 

「ところでどうですか、TASさんとのコミュニケーションは」

 

 今後の活動方針を確認し、ブリーフィングが終わった頃合いでアルゴに話題を振った。

 TASさんの特殊な言動に、振り回されてはいないだろうか。

 

「最初は戸惑ったネ。でもターサンも『あの時』よりは多少配慮してくれてるカラ、ついて行けてるヨ」

「安心しました。まあアルゴさん察しが良いですし、杞憂だったかもですね」

「イヤイヤ……まだ半人前ダナ」

「何か困った事でも?」

「プレイに支障は無いんだけどナ。ターサンのドロップが良い理由を尋ねタラ、『エンタングルメント』としか答えてもらえなかったのが気になっテ」

「……不親切過ぎますよ、TASさん?」

「説明頼む」

 

 アルゴに対する、あまりに雑な扱いに非難の目を向けたら、逆に丸投げされた。

 今から解読しろと……?

 

「人はそれを無茶と呼ぶんですよ……はぁ。えっと、駄酒のシステムが量子論を応用しているのはご存知ですか?」

「聞いたことはアル——」

 

 どんなゲームであっても、サーバーに使われるのは古典コンピューターだ。そして情報の処理が増えるにつれ、要求されるスペックも上がっていく。ところが、その集積回路の密度は既に限界まで迫っており、これ以上の高密度化や格段の性能向上は期待できない。

 そこで茅場は、プログラム上に擬似的な量子ビットを再現し、情報を重ね合わせることでデータ量を圧縮する、という離れ業で以って従来のスペック不足を解消した。

 その末に生み出されたのがカーディナルシステムだ。

 システムに課された擬似量子ビットの演算には、モンスタードロップをはじめとする乱数生成も含まれている。値は量子状態のビットを古典的なプログラムが『観測』することで確定し、出力される仕組みである。

 TASさんは、この観測に至る前の段階で『過去に欲しい値が出た時の量子状態』を持って来て、乱数の()()を担うビットと量子もつれ——エンタングル状態——を構築することにより狙った数値を取り出している……のだと思う。

 

「——この解釈で合ってるかは分からないんですが……仮にこれが正解だとしても、それは理論上の話であって人間には不可能という点は留意しておいてください」

 

 最初から最後まで話すと、部屋のチャージ料が加算されていた。

 これでも専門知識を使わない一般教養レベルの内容なのだから、そんなものを女子中学生に9文字だけ与えて察しろというのは酷である。

 

「……アルゴさん?」

「ニャイッ!?……!?!?」

「大丈夫ですか? 宇宙猫みたいな表情してましたけど」

「だ、だ、大丈夫だヨ? アァ、ナルホド、スベテリカイシタ」

 

 してねぇな。

 

「いっちばん簡潔にまとめると、過去の良かった時の情報をコピーしておいて、適宜ペーストするって感じですね」

「……初めからその説明だと嬉しかったかナ」

「すんません」

 

 でもそれだとエンタングルメントに繋がらないし。

 

「——終わったか」

「TASさん、もしかして寝てました?」

「寝てない」

「いやでもなんか、タイミング変だったし——」

「寝てない。時間だ、出るぞ」

「あっ、ハイ」

 

 納得のいかないまま押し切られ、会計を済ませる。

 店から出ると、南にあった月は西の空で傾いていた。一般に未明と呼ばれる時間帯だが、リアルでは19時なのでこれからが人の増えるゴールデンタイムだ。

 フィールドに出ればさぞ稼げることだろう。

 

「——やっと見つけた!」

 

 通りを抜けて街の門に差し掛かった時、甲高い声とともに金髪のシルフが立ち塞がった。

 

「おや、リーファさん。先程振りですね」

「……あなた達に、うちの者からお話があります。ご同行お願いします」

 

 声のトーンや表情から、只事ではなさそうだ。

 

「TASさん、どうします?」

「構わない」

「だそうです」

 

 返答すると、リーファはぺこりとお辞儀して裏路地に案内する。圏内だから闇討ちは有り得ないが、念のため戦闘前の装備チェックをしておく。

 少し進むと、立ち並ぶ家屋の間にぽっかりと開いた広場が現れた。建物の隙間から月光に照らされて、まるでステージのようだ。

 

「おや?」

 

 誰か待っているのかと思ったが無人だ。

 どういうことか——とリーファに尋ねようと彼女を窺うと、何やらウィンドウを操作していた。

 

「少々お待ちください」

 

 リーファは画面を閉じながらそう言うと、我々の位置を確認して背を向けた。

 彼女の言葉通り暫く待っていると、一条と形容できるほど明らかな光が差し、目の前で金色の円板を形作る。

 

「何ですか、アレ」

「おそらく闇魔法の一種だナ。月を経由して通信ができるのカモ」

「へ〜、便利ですね」

 

 アルゴの解説に感嘆していると、術が構築されたのか向こう側が映る。リーファの肩越しに覗けば、二人の女アバターがこちらを見ていた。

 

「リーファ、ありがとう。彼らと代わってくれるか?」

「分かった」

 

 リーファは頷いて横に捌けた。関係からして、黒髪のように見えるがシルフらしい。

 目が合ったのでお辞儀しておく。

 

「ご足労ありがとう。私はサクヤ、シルフ領主を任されている」

「ケットシー領主のアリシャ・ルーだヨ」

「はあ……?」

 

 疑問の溜め息が漏れた。そんな大物が我々ニュービーに何の用だろう。

 面倒事は勘弁なので、顔が割れないように改めて面頬のポジションを整える。後ろを見たら残りの二人もフードやストールで隠していた。

 

「不躾で済まないが、人喰いセイレーン殿。我らが領地周辺でシルフ族、ケットシー族へのPK及び掠奪行為は控えてもらいたい」

 

 ……ん?

 

「要求を拒否なさるなら、討伐してでも貴殿を止めるつもりだ。こちらは既に臨戦態勢にある。つまり——」

「ストップ、ストップ! ちょっとタンマ」

 

 話が読めん。

 手をTの字にしてタイムを請う。サクヤは眉を顰めつつも口を噤んだ。

 

「TASさん、結界頼みます」

「り」

 

 オーダーすると、彼は風魔法の防音結界を構築する。無詠唱のように見えるが、おそらくシステム的には呪文を唱えた()()()()()()()()のだろう。

 現れた緑色の円の内に入り、車座する。

 

「……あの、『人喰いセイレーン』て何ですのん?」

「ツルサンのことだヨ。冒涜的な歌を口遊むウンディーネが西の海から這い上がって来たっテ、コミュニティで話題になってるゾ」

「もっと先に教えといてくださいよぉ。それに何ですか、『冒涜的な』って」

 

 歌っていたのは認める。呪文の暗誦が煩わしいため、チャンツにして唱えていたのだ。

 戦闘前にはバフを徹底する派だから、俺と出会ったプレイヤーなら漏れなくそれを聞いているはず。そして彼らに問えば、さほど音痴でなかったことも証言してくれるだろう。

 

「自分が何を歌ったか覚えてるカ?」

「もちろん。"Carol of the Bells"、クリスマスソングですよ」

「弁明の余地も無いんだよナー」

 

 まあ確かに、ネットではパロディ楽曲のイメージが先行する所為で、SAN値が削れるだの騒ぐ奴がいるかもしれない。

 だが呪文の文節に近い四〜五字での区切れ、平易な旋律によるループ対応、テンポ調節のしやすさといった点でこの曲は非常に勝手が良いのだ。

 

「ずっと続けていたら《歌唱(狂)》も取れましたし……これ、スキャットするだけで歌声を聴いた敵の防御と敏捷を下げられるんですよ。魔法効果微増も得られるので、専ら詠唱との併用でしたけど」

 

 まあ一先ず、変な異名の謎は解けた。

 

「さて問題はあの領主の要求です」

「アァ、PK禁止令だナ」

 

 俺の悪事が伝わって、自領を荒らされては堪らないと先手を打ったらしい。口調や言葉選びから、(すくな)からぬ焦りが感ぜられる。

 この後の選択はTASさん次第だ。

 我々はゲームクリアや勢力争いに加わる予定はないから、BANに該当する行為以外の制限はない。合目的性だけが行動基準だ。

 

「挑発して相手の出方を見る」

「あっちは手を組んでオイラ達を待ち伏せているみたいだゾ。領主直々の指揮ともなれバ、相当の大軍なハズ」

 

 アルゴは慎重な態度を提案する。

 至極真っ当な意見だ。サクヤの発言がハッタリでなければ、最悪、圏外に出た瞬間に十字砲火を浴びせられるのだから。

 逆に捉えれば、それだけの獲物が目の前にいるという意味でもある。

 

「ツルサンにしては珍しく好戦的だナ。らしくなイ」

「いや実は歌唱スキルの効果って、敵の数が多いほどボーナスが付くんですよね。んで、デバフのかかった奴が脱落すると、その分が生き残りに乗っかっていくもんで、終盤には撤退すらできないくらい敏捷が落ちるんですよ」

 

 それで全滅したのがサラマンダーの一団だ。

 下限値である45%までステータスが落ち込めば、まともな戦闘行動は至難であり、中には原因と結果が逆転して、体が動かないのは恐怖によるものだと錯覚する者も出てくる。

 その波が広がれば本当に恐慌が発生してしまう。

 

「完全に邪神側ダ……」

 

 頭を抱えるアルゴ。何であれ有利に働くシステムなのだから、喜べば良いのに。GMの遊び心を活用するのもゲームにおいて重要なテクニックだ。

 

「とりま、出たトコ勝負で構いませんか?」

「異存無い」

 

 確認して立ち上がり、再度サクヤに向き直る。

 

「えー。お待たせしました」

「ああ、朝まで戻らないのかと思ったぞ」

「はっは、それもアリでしたね。ところで、貴軍の将兵の装備は充実していますか?」

「サラマンダーと同類にされては困る。こちらに油断や慢心は無い、本気だ」

 

 この真剣さを演技で出せるなら、かなりの役者だ。

 どうやら詳しい戦法までは伝わっていないらしい。今回の派兵は、プライドや政治的背景によるところが大きいと推察する。

 

「それを聞いて安心しました」

「……どういう意味か」

「だってねぇ、特攻同然の雑魚を寄越されても、リザルトが労力に見合いませんからね〜」

「なっ……!!」

 

 俺が面頬の奥で口角を吊り上げると、サクヤの表情が初めて崩れた。ここで宣戦布告をするだけでも、戦略的に大きくリードを取れそうだ。

 

「——って言ったら、どうします?」

 

 唐突に茶化しを挟むと、彼女は数瞬呆気にとられた後、続けて冷たい笑みを浮かべた。

 こめかみにはピキピキと立った青筋も拝める。

 

「ふ、ふ、愚弄する相手を見誤ったようだな」

「と仰いますと?」

「後ろの者がシルフとケットシーであることは既に把握している。そしてここには両領主が揃っている……この意味、理解るな?」

 

 ごめん、分からん。

 アルゴさん、分かる?

 

「領主には同じ種族のプレイヤーを『追放』できる固有の権限が与えられてるんだヨ。つまリ、ターサンやオレっちの首根っこを掴んでるってコトを遠回しに伝えてるんだナ」

「へぇー。追放されるとどうなるんです?」

「主な効果ハ、リスポーン地点が種族領からランダムな中立都市に変更されるのト、システム的な入国拒否だったハズ」

「要はキックですか……それ、我々にとって損あります?」

 

 目指す先が中心の世界樹である以上、どこで復活しようが関係がない。寧ろ、領地などという辺境から毎回やり直すより手間が省けるまである。

 その上、TASさんの前でランダムなんて言葉は『よりどりみどり』と同義である。追放なぞ、拠点選択オプションでしかない。

 

「一方で、其方さんにはデメリットが幾つかありますけど」

 

 具体的には、交渉決裂による政治手腕への疑問、種族への継続する危機、嫌がらせの苛烈化、その結果として責を問われ、椅子から引き摺り下ろされる……など。

 SAO時代に培ったレジスタンスとしてのノウハウを駆使すれば、それくらいは容易い。

 

「追放した人間が飛ばされた先で野盗化した、なんて噂が広まったら、困るのは誰なんだろうなあ?」

 

 勿論これは、行動原理の異なる人種であると認識させるための意思表示だ。実際にアクションを起こすほど、我々も暇じゃない。

 これに対し、サクヤは強気な姿勢を堅持する。

 

「できるものなら、やってみろ」

「おやおや、もっとマシな諜報部隊を持っていると期待しましたが……後ろの二人は俺より強いことを忘れるな。フィールド中のシルフを殺し尽くすなど朝飯前だ」

 

 手始めにお宅の軍隊でご覧入れようか、と円板を掴み、顔の触れる距離で囁く。脇に座るアリシャが「狂ってル……」と悍ましいモノを見る目で呟いた。

 こうなると、当初持っていた自信は途端に揺らぎ始める。立てた計画に綻びを見つけてしまう。

 合理的な人間ほど、正面衝突のGOサインを躊躇するはずだ。

 

「……貴殿らは何がしたい」

 

 暫くして持ち直し、先程よりも鋭い眼差しで問う。

 やっと彼我の関係性を理解したらしい。

 

「あなたに教える義理はありません」

「世界樹に行きたいのではないのか?」

「ええまあ。そのためには良質な養分が要る、とだけ答えましょうか」

「では、央都アルンまでシルフが案内すると言ったら、こちらの要求は承諾してくれるか?」

「ふむ……」

 

 アルンは世界樹の根元に形成された中立都市だ。領主とだけあって、効率的なルートも知っているのだろう。そうすれば情報収集の手間が省ける。

 だが。

 

「それ、信用すると思います?」

 

 罠に嵌めると言っているようなものだ。

 残念ながら、餌を垂らされてホイホイついて行くほど、我々は純粋じゃない。

 

「あれだけ豪語していた割には、随分と臆病ではないか」

「生き残るとは、そういうことです」

 

 アインクラッドにおいて寿命を延ばす一番のコツは、挑発に乗らないことだった。この教訓は今でも変わらない。

 

「貶して気が済んだなら、通話を切ってください。こちらも()()()向かいますので」

「そうだな。ならば、私が案内役では如何か」

「な——……」

「サクヤっ!?」

 

 サクヤの提案に真っ先に反応したのはアリシャ、そしてリーファだった。領主自らが人質を買って出たのだから、驚くのも無理はない。

 

「サクヤちゃん、いくら何でもリスク背負い過ぎだヨ」

「彼らの通商破壊で生じる損失と天秤に掛けた末の結論だ。それで私が殺されても、対応方針が決まると思えば良い」

「初代の事件を忘れたの? これも罠かもしれないんだよ」

「無論忘れてなどいない。しかし、相手から信を得るには、まずこちらが信じなければな」

 

 肝の座った人だと思ったら、身内から非難轟々で部外者のこちらが戸惑う。

 どれだけ引き籠もらせたいんだよ。

 

「マァ、領主を討てば国庫の3割を無条件で貰えるからネ」

「3割もですか」

「世界樹攻略のためニ、古代武具を買う資金を相当蓄えてるだろうカラ……首を取られた暁にはリスポしてもう一度断頭台だナ」

「体張ってますねぇ」

 

 そりゃ止めるはずだわ。

 

「……ん? それじゃあ、この二領主が揃ってるのは不自然じゃないですか?」

「シルフとケットシーは比較的仲が良いんだヨ。だから緊急で協定を結ぶために会合を開いたとかじゃないかナ」

「妖精の世界も複雑なんですねぇ……ところで、返事はどうします?」

 

 サクヤの提案に対する反発は、裏を返せば小細工の余地がないという意味でもある。

 TASさんに目配せして判断を仰ぐ。

 

「構わない」

「OK、その条件であればシルフ側の要求を飲みましょう」

「待って! 今の領主の発言は無効よ」

 

 リーファが俺と円板の間に割り込む。

 

「無効? あなたは何か、政治的決定に対する権限があるのですか?」

「それは……」

「退きなさい。既に契約は成った。これで宜しいか、人喰いセイレーン殿」

「仔細ありません。都合が付くのであれば、明日のこの時間に迎えに参ります」

「ああ、準備しておこう。……リーファ、今日はありがとう、もう戻ってくれて構わない。分かっているとは思うが、この件は他言無用だ」

 

 ではな、と言い残してサクヤはアリシャに終話させた。リーファは不機嫌そうにしながらも広場を後にする。

 光源が減り、人が減り、空間には物寂しさが戻った。

 

「さあ、帰りましょうか」

「そうだナ」

 

 今出て行って喧嘩を吹っ掛けられても困るしな。自衛であっても、契約違反だ何だと揉めるのも鬱陶しい。

 予定を繰り上げて宿を取り、横になってログアウト操作を実行した。

 




乱数調整の件は量子テレポーテーションを参考にしました。完全に独自設定です。

追放ってどういうシステムなんでしょうね。他のゲームだと鯖主がIPやIDを参照してBAN/キックしますけど、人気が高いだけの一介のプレイヤーに、そこまで権限を与えてしまうのか…?
実装するなら、より運営に近い元老院のような役職が領主の上に必要かも(でないと、タックスヘイブンにする領主が現れて金や人が偏る)
あと政権交代で恩赦も(BAN者復活祭とか荒れそう)
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