「……急だな。」
「急だね。」
オルクス大迷宮がある宿場町ホルアド。そこから出発し、ハイリヒ王国へと駆ける高速馬車の列。その中の一つに乗っていた光輝と恵里がそう呟いた。
「全く……ヘルシャー帝国からの使者……ねえ。」
しかめっ面で窓の外を眺める光輝の頭の中に、数日前の出来事がよぎった。
大迷宮に再び挑んだ勇者一行。しかしその数は大きく減り、かなりこじんまりとしたものになっている。理由は一つ。あのオリジンとベヒモスネオの戦闘を見て、戦うことがトラウマになってしまった者が戦線を離れたためだ。
ゲームや妄想のような感覚に囚われ、物事の本質を見ることができなかったがゆえ、心が折れるにはほんの少し外側から力を加えてやるだけで良かった。そんな状態だった彼らがあの壮絶な殺し合いを見てしまったのだ。彼らの心は折れるどころか粉々になってしまっているだろう。
そんなことはさておき、勇者一行は何やら見覚えのある石橋の上で、
ベヒモスと対峙していた。
本筋では光輝が色々とやらかしているのだが今作ではそんなものないのでそのシーンに当たる部分はカットする。
そして問題のベヒモス戦であるが、
こちらも割とあっさり終わった。時間にしてほんの1分程度しかかかっていないだろう。
そもそもの話、今ここにいる全員がすでにこの世界の基準から見て超人の域に達しており、それが何人も寄り集まって隊列を組んでいるのだから逆に時間がかかる方がおかしいのだ。最強の冒険者パーティ?知らんな。
しかも最強と謳われるベヒモスを通過点としか考えていないやつが数人。そもそも眼中にないやつもいる。
まあつまり、そういうことだ。
そして、最強と謳われる魔物を倒したという話はまたたくまに王国に広がり、国外、つまりヘルシャー帝国にまで話が広がっていった。
一応説明をしておくと、帝国は三百年前、とある名を馳せた傭兵が建国した国であり、その国政は完全実力主義。強ければ上へ、弱ければ下へ。という感じ。つまり同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせができなかった。とか建前は色々あるが結局の所「勇者?なにそれ強いの?」と、言う感じでそもそも会いに来る気がなかったのだ。
しかし最強(笑)の魔物を倒したとなれば話は別だ。「ベヒモス倒したん?お前ら強いやんけ。よっしゃ会いに行ったるわ。」みたいなノリで帝国から使者が送られてくることになったわけだ。
(クセの強い人が来そうだな……。)
ただの謁見で終わるわけがない。光輝の第六感がそう告げていた。
馬車が王宮へと到着し、全員が降車する。そこにに一目散に駆け寄ってくる人影があった。それは十歳位の金髪碧眼の美少年。ハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒだ。
それが思わず犬耳とブンブンと振られた尻尾を幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄ってくる
「香織!よく帰った!待ちわびたぞ!」
不思議なことに、どうやらランデルは香織以外目に入っていないらしい。
まあいってしまえばランデルは香織に一目惚れしているのだ。何ならハジメ達が召喚された翌日にはアプローチをかけていた。しかし香織からしてみると、7歳以上も年が離れているとなるとそれは異性ではなく、年の離れたかわいい弟のようにしか見えないようでその悉くは玉砕されていた。
それでも諦めないところは素晴らしいのだが、完全に勘違いされているところを見ると、だんだん可愛そうになってくる。まあ仕方ないといえば仕方ないのだが……。
「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行っている間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければ、お前にこんなことをさせないというのに……。」
今日も今日でランデルら精一杯男らしくなろうとするも、香織からして見れば少年の微笑ましい背伸びでしかない。彼女は弟を安心させるようにニコッと微笑む。
「お気づかい有難うございます。ですが私なら大丈夫ですよ。自分で望んでやっていることですから。」
「い、いや、香織に戦いは似合わない。その、ほら、もっとこう、安全な仕事もあるだろう?」
「安全な仕事…ですか?」
「う、うむ。例えば……、そうだ、侍女などどうだ? 今なら余の専属にしてやってもよいぞ!」
どうだ!とばかりに胸を張るランデルだが、香織はキョトンと首を傾げる。
「侍女ですか? いえ、すみません。私は治癒師ですから……………」
「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線に行く必要はないだろう?」
つまるところ、ランデルは香織と離れたくないのである。しかし、鈍感で純粋な香織にその気持ちは届くことはない。
ちなみに医療院とは、国営の病院である。
「いえ、前線でなければ直ぐに癒せませんから。心配して下さり有難うございます」
「うぅ」
押せど押せども香織は全くそれに気が付かない。後ろで見ていた光輝や恵里は、奮闘する彼に向けてなんとも生ぬるい視線を送り、檜山は苦笑いを浮かべた。
ヒソヒソ「どうする?手助けしようか。」
ヒソヒソ「何する気だお前……」
次はどうしようかと首をひねるランデル。と、そこへ凛とした澄んだ声が響いた。
「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう?光輝さんにもご迷惑ですよ」
現れたのはランデルの姉である王女リリアーナだった。彼女はランデルを少しだけ怒気の含まれた視線を向ける。
「あ、姉上!? ……し、しかし……!」
「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所で引き止めて……。皆様はお疲れなのですよ?」
言い訳をしようとしたランデルにピシャリと厳しい言葉を言い放つ。
「うぅっ……で、ですが……!」
「ランデル?」
「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」
己の非を認めたくないため、脱兎の如くこの場を離れるランデル。そのの背中を見送るリリアーナは、呆れながらも憎めないその姿に軽く溜息を吐いた。
「香織、光輝さん。弟が失礼しました。代わってお詫びしますわ」
「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を遣ってくれただけだよ」
「えぇ。王女様がお気になさる必要は御座いません。」
リリアーナは光輝の他人行儀な話し方に残念そうに顔を歪め、頬をふくらませる。
「リリィでいいと申し上げているのですが…。」
「ご冗談を。貴方様はこの国を背負っていかれる大切なお方。そんな呼び捨てなど失礼でとてもとても…。」
もちろん光輝がこういった他人行儀な話し方をするのには理由がある。主に半歩ほど後ろでニコニコしている恵里が要因だ。それに気が付かないリリアーナは、「まあ、良いです。」と言うと、むすっと膨らませていた頬をすぐにもとに戻して光輝達に告げる。
「とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできております。ゆっくりとお寛ぎくださいませ。帝国からの使者が来られるのは未だ数日は掛かります。準備は私どもがおこないますのでお気になさらず。」
リリアーナの言葉に従い迷宮で疲弊した心と身体を癒していくクラスメイト達。
そして3日後、ついに帝国からの使者が光輝達のもとを訪れた。
現在、光輝達迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が、王城の一角、謁見の間に勢揃いしている。そして目の前のレッドカーペットの中央には、帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。
「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」
「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」
「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」
「はい」
一斉に自分の方へと向けられるいくつもの視線。
(慣れないな……。)
自分はそこまで大した人間ではない。そう自分に言い聞かせていただけ。しかし今は完全無欠の完璧超人として振る舞わなければならない。光輝はため息を飲み込んで、クラスメイトたちから一歩前に出た。その時、となりに並んでいた恵里が光輝に耳打ちをした。
(端っこのあいつ。魔法で姿を変えてる。気をつけて。)
誰にもわからないよう軽く手を上げて了解の意をしめす光輝。彼女の言う通り、使者の列を軽く観察する。
(あぁ……。あのひとか。)
軽く視線を流したその先。そこにいたのは、高くも低くもない背に絵に描きにくそうな特徴のない顔。健康そうではあるが特段強そうではない体つき。まあ、普通の人がいた。しかしよく見ると普通すぎて逆に気持ちが悪い。記憶にも残らないようなザ、モブみたいな見た目だ。特徴がなさすぎて逆に浮いているように見える。
(姿を隠す理由は……まあ、そういうことだろうなぁ……)
光輝はヘルシャー帝国の皇帝の噂を思い出し、頭が痛くなった。
と、光輝が頭の痛みに悩まされる中、使者たちはジロジロと光輝の体を舐め回すように観察していた。とても行儀がいいとは思えないが、好きにさせるのが吉だろうと好きにさせることにした。
しばらく好きにさせていると、ザ、モブ男が疑うような声で言った。
「ほぅ…。貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」
疑いの目……というよりハナから馬鹿にしたような目をする使者にカチンときた光輝は、腰に挿してある聖剣、それとは別にもう一本帯刀している騎士団御用達のロングソードを引き抜いてその問に答える。
「……疑われるのならばあなた自身が確かめられれば良いでしょう。」
思ったよりも不機嫌な感情がこもった声を発した光輝は、イシュタルをちらりと伺う。イシュタルは勇者を認めさせるチャンスだと思ったのか快く許可を出した。
「構わんよ。光輝殿、その実力存分に示されよ」
どうだ?と、今度は挑発するように使者を見返す光輝。使者は光輝の行動に、あっけにとられていたが、直に面白いおもちゃでも見つけた様に笑った。
「フフフ…クハハハハハハァ!決まりだ!場所の用意をお願いししよう。」
こうして、勇者と帝国の使者の戦いが膜を上げた。
ヒュウウウ……
西部劇のように修練場の中央で向き合う使者と光輝の2人。西部劇とは違う点を上げるとすれば帽子を被っていないことと、得物が銃ではなく剣であるところだろうか。光輝は刃を潰したロングソードを軽く振り、調子を確かめてから正眼に切先を合わせて構えた。対して使者はというと、特になにかアクションを起こすこともなくただ剣をだらりと下げ、突っ立っているようにも見える。
「師匠。」
「なんですか?ご主人様。」
二人を囲うようにして並んでいるクラスメイトたちの中で、檜山が視線を二人から外すことなく後ろで待機しているノイントに話しかける。
「あいつ、どう見える。」
「そうですね。かなりのツワモノと見ていいでしょう。四方八方どこから見てもスキがありませんね。噂話ではありますが、その情報と魔法で姿を隠しているところからして恐らく正体は……。」
「だろうな。」
檜山はそうつぶやくと、二人の間で膨れ上がる気合が最高潮に高まったのを感じて口を閉じた。決闘の始まりだ。
「ッ……!」
「…………」
ギィィィイイイ……!!
二人の剣が交わった。光輝の繰り出した横薙ぎの一閃を使者が受け止めた形だ。使者は一瞬驚いたような顔をするが、すぐに獰猛な笑みを浮かべ、力任せに剣を振り払った。が、
「フッ」
「チッ!」
その力を利用し、片足を軸に回転斬りを繰り出す光輝。対して使者は、剣は振り切り、体制を崩している。しかし、
「オラアアア!!」
そこから無理やり光輝にむけて剣を振り下ろす。踏み込みも型もないその剣は、光輝の剣を打ち据え、更には後退させる程の力を持っていた。
(まさかあの体制で真正面から対抗してくるなんて……!)
そうでなくては。
光輝もまた、獰猛な笑みを浮かべ、使者を睨みつける。そして互いに獲物を構え直すが、使者は少しばかり面白くなさそうな表情で光輝のことを見ていた。
「おい勇者。お前、なめてるのか?」
「いえ…。ただ、模擬戦で振るうにはこの力は余りに強すぎます。」
「そういうのをなめてるっていうんだよ。なら、俺も本気でヤりにかかる。それでおあいこだ。」
「そうですか…。なら……。」
光輝は一度剣を下ろすと、手首に巻いてあったリストバンドを外して上着を脱ぐと、ついでとばかりに靴を脱ぎ捨てた。
ドスンッ!
おおよそ布が立てていいものではない音を立てながら地面にめり込むそれらは、光輝に蹴り飛ばされてクラスメイトたちの方へところがっていく。それを拾おうとした一人の女子。しかし、
「うわあっ?!」
彼女は情けない声を上げながらひっくり返ってしまった。
「持ち上げようとか考えないほうがいい。それ、合計で100キロあるから。」
光輝が発した言葉に、「「「いっ!?」」」と情けない声を上げる一部を除いたクラスメイトたち。そんな中で、使者はなにか納得したように頷いていた。
「なるほどな。今の回転斬りのネタはそういうことか。」
「ええ。まあ重さに物を言わせての反則みたいな技ですが。」
「妙に重いと思ったんだ。」
「それを弾くあなたも大概ですよ。」
「言ってろ。」
まるで旧知の友人のように話す二人。しかし次の瞬間、
「おらアッ!!」
「デヤアァ!!」
再び交わる二人の剣。それは先程よりも遥かに早く、鋭い。
(まだだ……!この程度じゃあいつには追いつけないっ!)
光輝の脳裏に映るハジメの姿。そして彼が振るう剣。
(もっと速くッ!鋭くッ!)
二人の姿が少しずつブレていく。一部の人間には未だはっきりとその姿を捉えることができているが、元々の天職が剣士である雫ですらその姿をはっきり捉えることはできていなかった。
「オ オ オ オ オ オ!!!」
「ハハハはァ!!いいぞ!もっとだ!」
光輝の剣が少しずつ変化していく。まるで獣ののように、型など存在しない野生のままに。剣のみならず足やもう片方の拳も使い、戦い続ける。黒い風が火花を散らし、数秒の間に何十という凄まじい回数の技と力とがぶつかり合う。
地面が捲れ上がる程の凄まじい死合。永遠に続くかと思われたそれは、唐突な終わりを迎える。
「おおおお!!」
「オラァァア!!」
ビシィッ
「っ?!」
なんと、光輝の力と、連続でかかる多大な負荷に剣が耐えきれず、刀身が粉々に砕けてしまったのだ。いきなりの事態に一瞬気がそれる光輝。それを使者は見逃さない。
「貰ったぁ!!」
しかし、護衛の剣は振り下ろさせることなく、突如二人の間の間にそそり立った光の障壁に阻まれていた。
「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。・・・ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」
「・・・チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」
護衛は舌打ちをしながら耳に付けていたイヤリングを外す。するとどうだろうか。霧がかった様に姿がボヤけ始め晴れる頃には別人が立っているではないか。
「ガ、ガハルド殿!?」
「皇帝陛下!?」
そう。彼こそがヘルシャー帝国の皇帝「ガハルド・ヘルシャー」である。
「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」
「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」
口ではそう言っているが、全く反省などしていないことは丸わかりだ。ふらっと立ち上がった光輝は、それを見て自分の予想と噂話が正しかったことを理解し、苦笑いをしながらため息をついた。
この皇帝。かなりフットワークが軽いらしく、正しく神出鬼没なのだ。この程度のサプライズは日常茶飯事なことらしい。暇なのだろうかこの人。
とにかく模擬戦は終わった。心配そうな恵里の視線を感じた光輝がその場から去ろうとすると、ガハルドがそれを呼び止めた。
「おい勇者。…コウキとか言ったか。」
「なんでしょうか皇帝陛下。」
「お前、ここに来てどれだけ立つ?」
「…半年程度かと。」
光輝のその答えに、ガハルドは少し考える素振りを見せ、しかし直にニヤッと笑う。
「剣を握って半年でこれか。下地があるとはいえ大したもんだ。まあ、来たかいはあったわけだな。」
負けたはずの自分にやけに高い評価をするガハルドに、光輝は怪訝な表情をする。
「皇帝陛下。俺はあなた様との模擬戦に敗北したのですが…?」
「いや、何十年とかけて積み上げてきた俺の剣と現段階で互角にやりあったんだ。手加減はしていたが、それはそれで成長が楽しみだ。またやろうぜコウキ。」
ガハルドは、光輝に激励の言葉を送ると、さっさと訓練場から出ていってしまった。本当にフットワークが軽い。光輝はやれやれと首を振り、
「いつか、追い抜いて見せる……!」
その大きな背中を見つめながら拳を握りしめた。そして未だはるか先にいる男の背中をみて、いま一度決意を新たにしたのだった。
その後に予定されていた晩餐で、帝国からも勇者を認めるとの言質が取れたことで今回訪問の目的は達成された。
次回、仮面ライダーオリジン
「……」
刻みつけられた爪痕
「まだ引きずってるのか?」
語り合う戦士たち
「今度はオレたちの番だ」
新たなる決意
次回「サイドストーリー・道を照らす灯火」
生きろ、最後まで