とにかく見に来てくださりありがとうございます。これにてサイドストーリーは終了。次回より本編に戻ります。
「ウゥア“ア“ア“ア“ア“!!!??」
痛い。苦しい。
いつまで続くのか、いつから続いているのかわからない苦痛。
周りを見れば自分と同じように透明な棺桶に入れられ、苦痛に顔を歪める3人の仲間の姿が見える。しかし手を伸ばそうにも手足につけられた風がそれを阻み、透明な壁に声も遮られる。
「剛……!!みんな……!」
どこで道を間違えたのだろうか。いや、考えるまでもない。力を手に入れたあの日。そう。最初から。気がつく場所はいくらでもあったはずなのに。
(馬鹿だなぁ……。)
もっと彼の言うことに耳を傾けておけば。もっといろんなことに目を向けていれば。
(もう……あとの祭りか……。)
「ァ……アァ……。」
もう、叫ぶ気力も無い。もう……瞼が重たい。意識がなくなる。声が、光が遠くに……。
「……」
「か……!かぎ……!か……や!!」
声が、聞こえる。
「ぅゔ……っ!」
少しずつ、はっきりと……
「鍵谷さんっ!」
「うあっ……?!」
ガタガタッ!
とある高校の教室。その中で派手な音を立てて椅子から転げ落ちる女子生徒……鍵谷里奈。
「うっ……。」
彼女は転げ落ちた拍子にぶつけた腰や肩を抑え、周囲を見渡す。
「かっ鍵谷さん?!大丈夫?!」
居眠りをしていた彼女に声をかけた女性教員が、あまりのリアクションに心配して手を伸ばしてくる。
が、
「いやッ!」
パアンっ!
里奈が振り回した腕にその手は弾かれた。ムッとした女性教員が一言言おうと彼女の方を改めて見る。しかし、
「ハアッ……ハアッ……!」
パニック気味に息を荒らげて、真っ青な顔をして周囲を見回す彼女に、怒りの感情は消え失せ、代わりに目を丸くした。
「ちょっ…!大丈夫鍵谷さん!?」
「ヒッ!?………あ………。」
肩をつかみ、体を揺する女性教員。すると人肌を感じたことでようやく正気を取り戻したのか、里奈の呼吸は少しずつ落ち着き、怯えきっていた瞳も通常の状態へと戻っていく。
「ッ……。ごめん、なさい。」
夢の影響で未だ顔色が悪いが、頭を振って自分自身をなんとか正常へと戻そうとする。しかし、その後立ち上がろうとした瞬間に強烈な目眩が彼女へと襲いかかり、今度は床へと倒れ込んでしまった。
「あぐっ…!」
グワングワンと回る世界。里奈の意識再びそこで途切れた。
「うっ……。」
次に彼女が目を覚ましたのは、白いカーテンに区切られた空間に置かれたベッドの上だった。
「保健室……。」
自分がどうしてここにいるのか、そしてここはどこなのかを思い出した彼女は、まだ少しふらつく足に若干のイラつきを覚えながらもベッドから降り、カーテンを開ける。そこには見慣れてしまった小綺麗な保健室の内装と、白衣を着た黒い長髪の一人の女性の姿があった。
「あ、目が覚めた?鍵谷さん。」
女性はカーテンが開く音に反応し、振り返りながら里奈に話しかける。
「はい。すみません春香さん。お世話かけて……。」
里奈の言葉に、いいのよ、と言いながら座っていた丸椅子から立ち上がる女性、名を四獅島春香。立ち上がってようやくわかったが、この女性の身長はかなり高い。身長が160前半の里奈からすると巨人でも見上げている気分だ。
「かなりひどい症状が出てたから一応鎮静剤を投与しておいたわ。」
そう言って近くのトレーを指差す春香。そこには空の注射器が一つ転がっていた。
ライダーシステム依存症。ただの高校生だった里奈たちを戦いから遠ざけさせないようにかけられた暗示のようなもので、アルコールやタバコなどにもあるそれをライダーシステムで人為的に引き起こしたものだ。
「ココ最近酷くなってきたわね。ちゃんと処方されてる錠剤は飲んでるみたいだし……何が原因なのかしらね。」
困ったわね。そう言いながら部屋の角にある棚からティーカップを取り出し、机の上にあった保温ポットからお茶を注いぐ。
「……多分、夢のせいだと思います。」
それを受け取った里奈は、カップに映る自分の顔を見ながらポツリと呟いた。
「夢?」
「……はい。あのときの……人体実験のときの……。」
首を傾げる春香に対し、里奈は小さくうなずく。
「あのときは、あいつが、ハジメが助けに来てくれました。おかげで私達も今を生きられています。だけど、もし、もしまた同じ目にあったら、もう助からないんじゃないかって……。変身もできない今の私じゃ……。」
もしあのまま、助けなど来ないまま、意識が途切れていたらどうなっていたか。考えたくもない。それで余計に戦うための力、すなわちライダーシステムを欲してしまうのだろう。凍結され、駆けつけてくれないことなどよく知っているのに。
ガチガチッ!
いつの間にか手が震えていた。手に持っていたカップと机がぶつかりあい、嫌な音をたてる。
「今まではハジメがいたから。もしそうなってもなんとかしてくれると思ってました。けど……!」
自分の体を守るように抱きしめる里奈。そんな彼女の頬を両手で挟み込む春香。
「私の弟はそんなに頼りない?」
弟。彼女と同じライダーシステムの適合者「四獅島 剛」のことだ。仲間として、背中を預けて戦ってきた彼がのことを思い浮かべ、里奈は首を横に振った。
「そうじゃ、ないんです。」
「じゃあ、なんで?」
「私だけ……なんです。こんなにひどい症状が出てるのは。だから……」
「だから心配かけたくないって?」
少し怒ったような声色で、被せ気味にそう言う春香。その声にビクッと肩を震わせながら顔を見上げる里奈。すると少しムスッとした顔で里奈のことを見下ろす春香の顔がある。
しかし、
「はぁあ………。」
彼女はすぐに大きな溜め息をついてポリポリと後頭部を掻きながら言う。
「背負い込みすぎよ里奈ちゃん。戦いをあなた達に押し付けた私が言えたことじゃないけど……もっと周りを頼りなさい?」
「でっ、でも……「あ〜〜!もう!」」
優しく諭すようにそう言ってくる春香に、それでも首を横に降る里奈。するととうとう痺れを切らしたのか、ダン!と言う音を立て、椅子をひっくり返しながら立ち上がる春香。突然の自体に目を白黒させる里奈を目尻に後ろを向くと、
「もうでて来ていいわよ!」
と、叫んだ。
すると、里奈が寝ていた方とは反対側のカーテンが開き、よく見慣れた大きな人影が姿を表した。
「ご、剛!?」
四獅島 剛。彼はズカズカと里奈へと詰め寄ると、体と同じく巨大な手でむんずと腰のあたりを掴み、米俵のように脇に抱えた。
「ちょっ、ちょ!?」
ジタバタする里奈だが、剛と春香は向き合うと特に気にした様子もなく話し始める。
「助かった。姉貴。」
「いや?別にいいわよ。弟のためだもの。これくらいはさせて?」
「そうか……。じゃあこいつは連れてくぞ。」
「ごゆっくり〜。」
二人はそれだけいうと、それぞれ机と扉に向かって歩き出した。ところが、そのまま出ていこうと扉に手をかけた剛が、何か思い出したようにふと後ろを振り返る。
「あのさ。いい忘れてたけどズボンのチャック開いてるぞ。」
「……っはぁ?!」
椅子に腰掛けようとしていた春香だが、剛の言葉に自分のズボンを見下ろす。確かにチャックは全開。中身も見えかけている。慌ててそれを閉めると、バッと剛の方へと振り返る。
「いっいつから?!」
「割と最初から。」
「なんで教えてくれないのっ?!」
「いや、白衣で見えないかな〜って。」
ケタケタとおかしそうに笑う剛。そして、
「そんなんだから残念美人とか言われるんだよ。」
と、言うと戸を開け放ち、廊下に出るやいなやダッシュして逃げていってしまった。残された春香は、俯き、プルプルと拳を震わせる。……直後バッと顔を上げ、叫んだ。
「誰が残念美人だコラァァア!!」…コラァ!…コラァ!
さて、怒れる残念美人から逃げおおせた二人は、剛の操るバイクで町を疾走していた。
「……まだ引きずってるのか?」
「……。」
ヘルメットに取り付けられたインカム越しに里奈へと話しかける剛。里奈はうつむいたまま何も答えない。剛は小さくため息をつくとそのままバイクを走らせる。
しばらくすると、少しずつ家やビルがまばらになり、ついには地面がアスファルトから土へと変化していく。
「……ってどこ行くの?」
てっきり家にでも送ってくれるのかと思っていたがどうにも違うようだ。しかし剛は、「行けばわかる。」と言ってそのままバイクを走らせる。
完全に舗装道がなくなったころ、地平線へと沈んでいく太陽を見て里奈はようやくその場所を思い出した。
「あんた、今更ここに連れてきてどうするのよ。」
「あ?別にいいだろ。色々考えるには丁度いい。」
なんだか懐かしい。つい一年前、ここにいない煉や美春をふくめた四人が誓いを立てた場所だ。最もあのとき広がっていた景色は朝日が登ってくる明け方の頃だったが。
「この町を、未来を守る。道に迷わないよう灯火になる。」
剛がぽつりとつぶやく。そう。これがあのとき立てた誓い。何も知らず、綺麗ごとに流され、何も理解しようとしなかったあのとき、四人で朝日を見上げながら誓った。
「そんなこと、できるはずないのにさ……。」
卑屈に笑いながらことばを零す里奈。剛からも、同じようなことばが帰ってくると、そう思っていた。
「南雲……いや、御剣に言われたこと、忘れたのか?」
だが、その答えは考えていたものとは違っていた。
「あのとき、お前もいたはずだろ?」
……忘れるわけがない。数ヶ月前、戦いが終わったあのとき、一本の純白の羽を握りしめ、涙を流しながら彼が行った言葉。
ー俺は、壊すことしかできないから。守ることも、ろくにできない。だからー
「お前たちが守ってくれ。……忘れたわけじゃないだろ?」
バイクを止め、ヘルメットを取って後ろを振り返る剛。里奈はまっすぐに自分を見てくるその瞳から目をそらす。
「忘れるわけ無いでしょ……。でも、私達にだってそんなこと……!「できる。」」
声を震わせながらその言葉を否定しようとする里奈。しかしそれに被せるようにして言葉を遮る剛。
「あいつはいつも一人だった。ずっと一人で戦ってた。そうせざるを得なかった。でも俺たちは違う。」
きっぱり言い切るその言葉に少しだけ顔を上げる里奈。その顔をじっと見つめながら、剛は口を開く。
「一人でできないなら四人でやればいい。俺たちは四人で一つ。そうだろ?」
「何でも一人で背負い込むな。十字架が重たいならオレたちも一緒に背負ってやる。」
「壁があるなら一緒に押してやる。」
剛はそこまで言うとふっと微笑んだ。
「里奈。怖いならオレを、あの二人を頼れ。依存症が辛いなら言え。肩代わりはできないが、半分くらいなら持ってやれる。」
すっ…と夕日を指差す剛。
「今度は、俺達の番だ。」
龍也が切り開いてくれた未来。それを守るのは、自分たちの役目だ。
その言葉は、ストンと里奈の心に落ちた。
額を手のひらで抑え、ため息をつく。
「あーあ。……わかったわ。これからはちゃんと頼らせてもらう。」
こんな簡単に、悩みを解決されるとなんとも言えない脱力感に襲われる。だが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「灯火になれるかどうかはわからないけど、やるだけやってやろうじゃない。」
里奈は剛の横に降り立つと腕を上げる。剛はニヤリと笑うとそこに自分の腕をぶつけた。
「今度はあいつの心も、守って見せる。」
「ああ。」
「う〜ん……。」
研究所の一角で、美希がうなりながらモニターを見つめていた。あの騒動から数日間意識が戻らなかった美希だったが、そのおかげで落ち着き、以前のように、とりつかれたようにハジメもとい龍也の行方を探すことはしなくなった。と言っても毎日のようにモニターとにらめっこしているが。
「前は気が付かなかったけどそもそも何で地球上にいないはずのオリジンから定期信号が送られてくるのかしら……。」
オリジンふくめ、すべてのライダーシステムには定期信号を研究所に送るシステムが組み込まれているのだが、そのためには、一度専用の人工衛星を介す必要がある。しかしその受信範囲はせいぜい地球の直径程度。装着者であるハジメが生きておりなおかつオリジンがそのことを認知している……。そんな環境が受信範囲の内にあるとは考えられなかった。
「何かの要因で地球とはかけ離れた場所と繋がりができてる……?それを辿って信号を送っているの?」
いずれにせよわからないことだらけだ。それでも必ず見つけ出して見せる。
もう、後悔しないように。
「それまでに、母親として迎えてあげられるようにしなくちゃね。」
美希は、美春が用意してくれたコーヒーをぐいっと喉に流し込むと、またキーボードを叩き始めた。
「ティアさん。」
「なに?」
「いや、第一章的な部分も終わったし、ちょっと予告の仕方を変えようかと思って。」
「いいけど、どうするの?」
「俺らが喋ってる風で行こうと思うんだ。」
「ふーん……。じゃあさっそくやってみよう。」
ティア「次回の、仮面ライダーオリジン。
ヒュドラを倒し終わって、迷宮を立てた反逆者の住居で休んでいたんだけど……そういえばハジメの家族ってどんな人たちなんだろう。落ち着いたらゆっくり聞いてみようかな。
次回、『出会いは喪失のカウントダウン』
生きて。最後まで。」