仮面ライダーオリジン   作:御剣龍也

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勢いで書いた。反省もないし後悔もないっ!多分最後らへんはもうありふれの皮を被った別物になるかもしれない……。それでもいいというのなら!最後までお付き合いください。

ではどうぞ。


跳んで火にいるうさぎの群れ

 キンッ!キンッ!ガキンッ!

 

朝の陽気に包まれ、川の水は輝き草は歓喜に踊る。

 

 ヒュン!ビュン!ビュアァッ!

 

小鳥のさえずりこそ聞こえないが、その代わりに激しい衝突音や風斬音が聞こえてくる。見れば、一軒の家を背景に一組の男女が剣をぶつけ合っている。

 

 「ッ……シッ!」

 

女性は美しい黄金の長髪を後ろで束ね、紅く、刃物のように研ぎ澄まされた眼光で相手を睨みながら、直剣を振るい、鋭い斬撃を繰り出している。

 

 「……」

 

青年はその斬撃をひょいひょいと危なげなく躱し、ときにその手に持った龍の甲殻を模した刀でいなしている。

 

 「おとうさん、ティアおねえちゃん、がんばれ……!」

 

ベランダでは小さな少女が二人の剣技に目を輝かせ、小さな声援を送る。

 

そして、

 

 「あぅっ!?」

 

女性が袈裟懸けに切り込んできた剣を、青年は一旦受け止め、弧を描くように刀を振ることで女性の手首の可動範囲を超えて直剣が回転。手が離れたところで弾き飛ばし、バランスを崩したところで眼前に刀を突きつけた。

 

 「はい。俺の勝ち。」

 「う……。」

 

刀を下ろし、尻餅をついた女性に手を差し伸べる。

 

 「だいぶ良くなってきたよ。ティアさん。」

 「また負けた……。ハジメ強すぎ。」

 

女性……いやアレーティアはハジメの手を掴んで起き上がる。そして服についた土を払い落とし、吹き飛んでいった剣を拾いにいく。

 

 なぜアレーティアが剣の練習をしているのか。それは数ヶ月前、オスカー・オルクスの話を聞いたあたりまで遡る。

 

あれから封印が解けた部屋を片っ端から調査した三人。あの遺体が指にはめていた指輪が迷宮攻略の証であることが分かったり、そもそも宝物庫というすごく便利な収納用アーティファクトであることを知ったり、生成魔法でできることを調べたり、その他諸々のことを数日かけてようやく調べることができた。

 

エヒトバンザイだのエヒトすごいだのとろくな情報がなかった王城の書庫とは違い、有益な情報をがいくつも判明した。

 

 

…のだが、一つ困ったことも判明した。このオルクス大迷宮の出口についてだ。3階にある巨大魔法陣がそのまま転移魔法陣になっているらしいのだが、何でもその行き先が亜人族達が暮らすハルツィナ樹海を始めとしたライセン峡谷だというのだ。

 

このライセン峡谷、特に魔法を攻撃の主体とする者にとってはかなり厄介な環境で、魔力が体から放出されるたびに霧散していき、結果魔法一発辺りに消費される魔力がおよそ10倍程度にまで跳ね上がるらしいのだ。

 

アレーティアの魔力量を100として、十八番の緋槍の消費魔力を1とすると、いつもなら100発連射できるそれもたった10発しか打てなくなってしまう、というわけである。

 

 

 さて困った。これではアレーティアがいらない子になってしまう。ハルツィナ樹海とライセン峡谷にも迷宮が存在しているというのにその道中で魔法が使えなくなってしまう。しばしかんがえた結果、「じゃあ体も鍛えたらいいのでは?」という結論に至った。銃をもたせるという選択肢もあったが、今のアレーティアの筋力では魔力によるアシストがなければろくに扱えない。そして最後の後押しとしてサヤの声援もあり、アレーティアの魔改造計画(仮)が始まった。

 

見てわかるが、アレーティア自体の運動神経はあまりよろしくない。最初はほんの数メートル走るので精一杯だった。が、ここでアレーティアの再生能力が火を吹くこととなる。そもそも筋トレをして体が鍛えられるのは、運動することで壊れた筋繊維がより強固に再生する、言わば「超再生」が起こるからだ。本来これは一日ほど時間をあけることで効果が出てくるのだが、アレーティアは持ち前の再生能力により、これを瞬間的に行うことができた。いや、できてしまった。普通の人間が本来数ヶ月かけて行うはずのトレーニングをものの数日で終わらせてしまったのだ。

 

ハジメとオリジン指導のトレーニングにより、細く、頼りなかった肢体にはしなやかな筋肉がついた。一見まだまだ細いように見えるが、その見た目に反してその体からは超人的パワーを発揮する。現に今彼女は、ハジメの目の前で百キロの重りをいくつか背中に乗せた上で更にその上にサヤを座らせ、涼しい顔で腕立て伏せをしている。

 

 このトレーニングは、アレーティアが魔法以外の攻撃手段を得た以外にもうれしい副産物がついてきた。

 

まず1つ、アレーティアの最大魔力が増えた。数字にして約1.5倍ほどに。そもそも魔力は体の内側に溜め込まれている。故にアレーティア自体を強化することで、魔力を溜め込む器がより強固になり、溜め込むことができる魔力の最大量が増えたのだ。これまで魔法に頼ってきた彼女からしてみればまさかこんな方法で自分の十八番を強化できるとは思っても見なかっただろう。元々ポテンシャルが高かったためもはや化け物クラスである。

 

更に、トレーニングや剣の稽古など、なれないことをしたことにより忍耐力や精神力も備わり、魔力を操る精密さも増した。それに伴い魔法発動時の魔力の消費量も減っているため、実質魔力量2倍と言って差し支えないだろう。

 

そして何より、背が伸びた。もともと小学生程度の身長しかなかった彼女だが、筋肉がついてくるとともに背が伸び始めたのだ。ハジメは、おそらく肉体が能力に見合った最適なものへと変化したのではないかと考えている。魔法ってすごい。

 

そんなこんなで色々と魔改造が施されたアレーティアは、顔つきも大人び、サヤと並んで歩くその姿は母と娘そのものだ。勘違いする読者いるかもしれないため言っておくが、ハジメとアレーティア。二人の間に恋愛感情とかはない。全く、完膚なきまでにない。

 

 

 

 「ふー……。いい湯だった。」

 「んにゅー……。」

 

ハジメがリビングで待っていると、朝風呂に行っていた二人が戻ってきた。

 

アレーティアは、黒いインナーの上に胸元の空いたブラウスを着て、厚手のタイツ、ニーハイブーツを履き、手には指穴の空いたガントレット、腰にクロスするようにベルトが巻いてある。そして首には紫の短剣がネックレスのようにぶら下がっている。剣を扱うことも考えて動きやすい服装だ。

 

サヤはフリルのついたワンピース……でも着せてやりたかったのだが、旅の危険性を考慮してベージュのジャケットにジーンズに似せたズボンというシンプルなものになった。とりあえず頭にベレー帽を被せて花形のブローチを取り付けなんとか可愛い要素を作っているが、欲を言うならもっと可愛い服装をさせてやりたいと言うのがハジメの本音だ。

 

そして二人を待っていたハジメは上下黒いシャツとズボン。その上に白いジャケットを羽織っており、手には指穴付きのガントレット。足にはブーツ。そして首には羽の入った小瓶がネックレスのようにぶら下がっている。そして右手の中指にはオスカーがはめていた指輪をはめている。

 

ちなみにこれらすべてメイドインオルクス大迷宮である。

 

 

 ハジメは椅子から立ち上がり二人の方を向くと、机においてあったとあるものをアレーティアに差し出す。

 

 「はい。これが武器。」

 

それは、鞘に収められた近未来的なデザインの一本の剣だった。特徴的なのは鞘に収められた刃とほぼ同じ長さの長大なグリップ、そして中央にはめ込まれた宝石のようなもの。

 

 「……ん。ありがと。」

 

アレーティアが鞘から剣を抜き取ると、黒光りする刀身が姿を表した。何度かその場で軽く振り、鞘に納める。

 

 「気に入った。」

 

そう言うとアレーティアは鞘をベルトの左側に固定する。その言葉を聞いたハジメといつの間にか隣に浮かんでいたオリジンは顔を見合わせ、ニヤッと笑った。

 

 「作りは要望通り。設計はオリジンがしてくれた。素材はアダマンチウム鉱石をはじめとした数種類の金属をかけ合わせた合金だ。魔力の伝導率もかなりいいからそれ自体を魔法の杖として使える。あと中央の宝石は神結晶を元に開発した、魔結晶……とでも呼ぼうか。そいつは周囲の魔力を吸収、圧縮して蓄積させることができる。魔法の補助にも使えるからよく覚えておいてくれ。銘は『マクロス』だ。」

 

一気にそこまで説明すると、アレーティアはぽかんと口をあけていた。急に饒舌になったハジメについて行けていないらしい。と、そこでハジメは自分の服がくいくいと引っ張られていることに気がつく。下を見ると、サヤが不満げな顔できないコートの裾を引っ張っていた。

 

 「……(じー)。」

 

「私にはなにもないのか。」そう暗に言いながらハジメのことを見上げるサヤ。随分感情が豊かになった気がする。ハジメはそんなことを考えながら、まってましたとばかりにテーブルにおいてあったもう一つをサヤへと差し出す。

 

 「……?」

 「魔法の杖。」

 

差し出されたのはよくファンタジーなゲームに出てきそうな一本の杖だった。それを持ったサヤは、上機嫌で杖をつきだし、魔法を打つ真似をする。と、

 

 ぽんっ。

 

 「!」

 

目の前でクラッカー程度のほんの小さな爆発が起きる。マジマジと杖を見たサヤは、もう一度杖を突き出す。

 

 ぽんっ。

 

 「(きらきら)」

 

瞳を輝かせ、何度かそれを繰り返してはキャッキャとはしゃぐ。

 

 「……あれは?」

 

アレーティアの疑問に、ハジメははしゃぐサヤを眺めながら答えた。

 

 「ほんとに簡単な術式を仕込んだだけのおもちゃだよ。魔結晶の試作品が勿体無かったから組み込んで魔法が発動するようにしてある。」

 

まあ最も戦闘能力はないが。と話し終える頃にサヤが小走りで帰ってくる。そして、

 

 「おとーさん!ありがとう!」

 

パァァァ……

 

 (眩しい……。)

 (妹でよかつた。)

 

裏表のない純粋な笑顔で二人の心を浄化していく。その後もしばらく浄化された影響でポワポワしていた二人だったが、サヤの「おそとは?」と言う言葉で我に返り、今日は何をするだったのかをようやく思い出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて……。準備はいいな?」

 

3階の巨大魔法陣の上に立ったハジメは二人にそう問いかける。

 

 「ん。私自身の居場所を見つけるまでついていく。」

 

アレーティアはハジメに拳を突き出し、ハジメもそれに答えるようにして拳をぶつける。

 

 「おとうさん、ずっと、いっしょ。」

 

サヤの言葉を聞いたハジメは、柔らかい表情でその頭を撫でる。

 

 

 「よし。行くか。」

 

ハジメは魔法陣と指輪を連動させ、組み込まれていたもう一つの魔法を作動させる。陣が光り輝き、数ヶ月の間過ごしてきた空間が見えなくなっていく。

 

 

不意に、ハジメが呟く。

 

 「アー・ユー・レディ?」

 

覚悟はいいか。

 

答えは、決まっている。

 

 「できてるさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が止むとそこには、

 

 「まあ、そうなるよな。」

 

どこかでよく見慣れた岩の壁が目の前にあった。開放者たちからしてみれば、世間から反逆者呼ばわりされているのに自分の住んでいる家をおっぴろげておくのは自殺行為に等しいため、出入り口はしっかり隠されているだろうと予想はしていた。ただ、一つ文句を言うなら薄暗くて仕方がない。ハジメ達は作っておいたライトで周囲を照らす。

 

 「あっちか。」

 

ハジメが先頭に立ち、次にサヤ。最後にアレーティアが一列に並んで洞窟の中を進む。所々にトラップの類がしこまれていたが、ハジメがはめている指輪によってすべて機能を停止していた。

 

拍子抜けするほど簡単に洞窟を抜けた一行。最後に立ちはだかった巨大な扉も指輪が光ったなー……、と呑気に成り行きを見ていたらいつの間にか空いていた。

 

 そして、

 

 

 

 

 「っ………。」

 

快晴。青く澄み渡った空は、丸い地平線をくっきりと映し出している。

 

 「戻ってきた……か。」

 

踏みしめているのは硬い岩ではなく適度に弾力のある大地。岩から出る光に照らされた無機質な壁はどこにもなく、紛れもなく太陽に照らされた美しく輝く景色が広がっている。

 

アレーティアは数百年ぶりに見た青い空と太陽に感激し、サヤを抱き上げてくるくるとコマのように回っている。

 

そんな二人を尻目に、ハジメは空を見上げた。

 

 「……やっぱり嫌いだ。」

 

目に映る限り真っ青なその光景に、ハジメは誰にも聞き取ることができないような小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ん?」

 

しばらくそんな時間が続いたが、不意にハジメは自身を囲うようにしてこちらの様子を伺っている無数の気配に気がついた。はしゃしでいたアレーティアもいつの間にか目を光らせ戦闘モードへと入っている。

 

 「魔物……数はそこまで多くないか。強くもない。」

 

相変わらず懐かしい嫌な匂いがするけどな。心のなかで一言付け加えると、ハジメはアレーティアの前に出る。

 

 「下がっていろ。」

 「……?」

 

アレーティアは複数でかかったほうが早く片付くと考えていたため、自身を戦線から退かすハジメに疑問符を浮かべる。しかし有無を言わさないハジメの態度にサヤを足元に寄せると成り行きを見守ることにした。

 

 ハジメが口を開く。

 

 「こいよ。」

 

飛び出してきた魔物の群れ。その数およそ20前後。ハジメはその中で最も先に飛び出してきた一体に向けて拳を突き立てた。

 

 「グゲェッ!?」

 

ボト。

 

頭に直撃した拳は脳を揺らし、魔物の体が力なく地面へと落ちる。

 

 「なあ……。」

 

ハジメがぐるりと首を回し、最初の一頭がやられた時点で不味いと判断したのかこちらの様子を伺っている多種多様な魔物達を縦に割れた深紅の瞳で睨みつける。

 

 

 

             ゾクッ…!

 

 

 

魔物たちの動きが止まる。いや、動けない。自分たちよりもはるか上にいる圧倒的な、絶対的な捕食者の殺気に怯え、足がすくむ。

 

ハジメは更に言葉を紡ぐ。

 

 「死にたくないだろ……?まだ生きてたいだろ……?なら……」

 

 

 

 

 

            失せろ。

 

 

 

 

 

 

言葉の意味を理解したのか、それとも本能的にまずいと感じたのか、

 

 「ギャアオオオオ!?!?」

 「ギュオオオ!?」

 「ぐおおお!??!」

 

奇声を上げながらあるものは飛び、あるものは走り、あるものは飛び方を忘れ地を這い、無様にもその場から姿を消していった。

 

 

 「……殺さないの?」

 

アレーティアの最もな言葉に、ハジメはまだ気絶している魔物を一瞥して口を開く。

 

 「無駄に殺すつもりは、ない。俺が殺すのは喰らう時。それか、」

 

 

 

 

 

 

 「それ以外どうしょうもないときだけだ」

 

 

 

 

 

 

ハジメはそう言うと、指輪の中からの入った水筒を取り出すと気絶している魔物に振りかける。目が冷めた魔物はあたりをキョロキョロと見渡し、仲間がいないことに気がつくと一目散に逃げていった。

 

 「命は奪うものじゃない。貰うものであるべきなんだ。」

 

ハジメの顔には、なんとも言えない表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バオウウウウウウウン……!

 

ライセン峡谷を颯爽と駆け抜ける一筋の青い光。それはこの剣と魔法のファンタジーに似つかわしくない金属光沢を放つ流線型のボディ、前方には龍の頭部を模したヘッドライトを持ち、駆動音を立てながら爆進している。

 

 「すごい……。」

 

ヘルメットの下でそうつぶやくのはアレーティアだ。3人は今、ハジメのもう一つの相棒で、仮面ライダーオリジンの専用マシンである『マシンオリジナル』に跨がり、ハルツィナ樹海を目指して移動していた。

 

樹海に向かう理由は唯一つ。元いた場所から一番近い迷宮があるから。ライセン峡谷にも迷宮は存在しているのだが、いかんせん迷宮の場所に関する情報が「峡谷のどこかあるよ」程度のものしかないため探す場所が広すぎる。ならいっそ先にはっきりと場所がわかってるところから攻略したほうが手っ取り早いんじゃないか、という考えのもと、樹海へと向かっているわけだ。

 

 (久しぶりだな……。)

 

ハジメはふとそんなことを考える。このオリジナルもほかのライダーシステムとともに凍結処分されていたため、こうして運転するのは久しぶりだ。

 

 (しっかしオリジンと一緒にこいつも来てるとはなぁ。呼んだら普通に来たし……。まあオリジンと連動してるからある程度予想はしてたけどさ。)

 

まあ、いいか。ハジメはヘルメットの中でため息をつくと、ポンポンとオリジナルの車体を叩き、呟いた。

 

 「また頼む。相棒。」

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにサヤはハジメの胸辺りに抱っこ紐らしきもので固定されている。

 

 

 

 

 

 

 さて、そろそろ樹海の入り口に差し掛かるか、というところでハジメ達ははオリジナルから降り、歩いて移動していた。ハジメが言うには、「他人の家にお邪魔するときに馬に乗ったまま入っていったりしないだろ。」らしい。それに階段状になった上り坂もあるし、まあ仕方がない。

 

しばらく歩いていた3人だったが、不意にハジメの耳が誰かの話し声を捉えた。

 

 (亜人か?)

 

最初はそう思ったが、近づいていくにつれて明瞭に聞こえる「愛玩奴隷がどうのこうの」だの「子供は高く売れるぜヒャッハー」という会話に会話にそれは無いと結論づける。どこかの奴隷商人か何かだろう。ハジメはアレーティアと目配せをすると、それぞれ武器を手に取り、サヤに危険が行かないように抱き寄せ、近づいていく。

 

 

 「……。」

 

そっと岩陰から声のする方を覗くと、そこには別の岩を背に涙目に潤んだ瞳で前方を睨みつけるうさぎの耳を頭から生やした少年。そしてその逃げ道を塞ぐように剣や弓を構え、ジリジリと距離を詰めている三人の男。

 

 「(どっちにつく?)」

 「(子供だろそりゃあ……。)」

 「(だよね。)」

 

ギャグのような会話を済ませたハジメは男たちの前に立ちはだかろうとする。が、

 

 「(どうした?)」

 

今度はアレーティアに手をつかまれ、立ち止まった。

 

 「(私にやらせて。)」

 

ハジメの問にアレーティアはそう返す。ハジメは一瞬考えたあと、了解した。と首を縦に振った。

 

 「(ありがとう。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ?誰だテメェ。」

 

一人の男が突然目の前に現れたアレーティアをぎろっと睨みつける。それに対してアレーティアは指を顎に添え、数秒考える。そしてーー

 

 「通りすがりの……正義の味方、かな?」

 

そう、不敵な笑みを浮かべながら答えた。

 

それに対して、もう一人の男がバカにされていると思ったのか、鼻息を荒く怒鳴る。

 

 「てめぇ……ふざけてんのか!?」

 

しかしアレーティアはそんな男の様子など気も止めずにうさぎの耳を持った少年を自身の背後に庇い、マクロスのグリップに手をかけた。

 

 「オイオイオイ!3対1だぜ?わかってんのか?」

 

アレーティアのことをただのひ弱な女性だと思っている三人の男は、先程とは打って変わり、卑下な笑みを浮かべながら自分たちの武器を手に取った。

 

 「今なら怪我させずに連れてってやるぜ?まあ行き先は奴隷市場だけどなぁ!?」

 

ギャハハハハ! 

 

そんな男たちの様子に呆れたアレーティアは、ハァ、と小さくため息をつく。そして庇っている少年に「ここから動かないで。」と言うと、男たちに言い放った。

 

 「断る。」

 「はあ?」

 

 「断ると言った。」

 

 

 

 

 「このアマ!」

 

アレーティアのその言葉に激高した男たちがそれぞれ自分の適性魔法を詠唱し、放つ。

 

 

が、

 

 

 「いねえ!?」

 

彼女の姿は既にそこにはない。ではどこにいるか。答えは、

 

 「フッ。」

 

後ろ。首に微小な電気をまとわせた手刀を、3人のうち一番うしろにいた一人にスタンガンのごとく突き立て気絶させる。

 

 「ウスノロ。」

 

ニヤッ。

 

 「このぉ……!」

 

アレーティアの挑発的な笑みに完全に冷静さを失った男は、懐から取り出した投げナイフを投げつける。不意打ち気味に放たれたそれは風を切り、アレーティアの体に傷を……

 

 「……返す。」

 

つける前にキャッチされ、元の数倍の速度で投げ返され、額に直撃した。ちなみにナイフはキャッチした瞬間に魔法を発動させてただの鉄塊と化している。

 

 「んな……?!」

 「気絶させただけ。ほら。最後だよ。」

 

アレーティアの言葉にはっとした男は、もう一度詠唱を行い連射型の土属性魔法を放つ。それはナイフとは比較にならないほどの速度で飛翔する。しかし、それらは全てアレーティアの手の中に収まっていく。

 

 バラバラバラ……。

 

握っていた手を開くことで地面に落ちる土塊。男にとって今はなった魔法は切り札だった。それが全く通じないときた。男は完全に錯乱した様子でまた同じ魔法を放ってくる。

 

 「ふう…。」

 

やれやれといった顔で今度は全てを紙一重で躱しながら男へと接近。あと少しでぶつかりそうなところで男の側面へと回り込み、人差し指を親指で固定した俗に言うデコピンの構えを取るとこめかみ辺りに人差し指を炸裂させる。

 

 「よっ……と。」

 「ぶべらっ!?」

 

吹っ飛んだ男はちょうどハジメたちが隠れていた岩に直撃し、意識を失った。

 

 「全く……。バカなことしてないで真っ当に働いたら?……私も人のこと言えないけど。」

 

アレーティアは心底馬鹿にしたようにそう吐き捨てると、結局抜くことはなかったマクロスのグリップから手を放した。

 

 

 

 

 

 後ろを向くと、男の子の側にはすでにハジメとサヤがついており、アレーティアに拍手を送っている。男の子もまだ少し疑惑の念は残っているようだが、目をキラキラさせている。

 

それに対してアレーティアはサムズアップを返すと、三人の方へと歩いていった。

 

 

いや、歩いていこうとした。

 

 「!?」

 

突然周囲に現れた無数の気配。今の男たちとは比べ物にならないほどに研ぎ澄まされたそれはさっきとも呼べる程に鋭利なものだ。アレーティアははっと立ち止まり周囲を警戒する。

 

 「ハジメッ!」

 「わかってる!」

 

アレーティアの呼びかけよりも早く行動を開始する。このままではサヤと少年が危ない。ハジメは二人を有無を言わさず錬成により即席で作り上げた金属のシェルターに押し込めると、オリジンから剣を受け取り、構える。

 

 「さっきの奴らのお仲間か?随分人情に厚いな。」

 

ハジメがそう言うと、岩や木の影という影から大量の人影が姿を表した。その様相は老若男女様々だが、全員に言える特徴は、怒りに燃える表情とつり上がった目。人間離れした身のこなし。そして、

 

 「うさぎ……?」

 

頭から映えるうさぎの耳。それは先程の少年にも言える特徴だ。そしてこのタイミングで現れたとなるともしや、

 

 「さっきの奴らとか意味分かんないですよぉ!それよりバルくんを帰すですぅ!この人でなしども!」

 

バル、と言うのはあの少年の名前だろう。おそらくいまの白髪の独特な喋り方をする女性。そしてその他のうさ耳集団は、バルと呼ばれた少年の親族かなにかだと推測できる。そして今の言葉とこの気迫。よく考えなくてもどういう状況なのかわかる。

 

 (……さっきの子供、もしかして俺等がさらったと思われてる?)

 

しかもさっき慌ててシェルターにおしこめてしまった。これでは完全に誘拐の現行犯ではないか。

 

 「やっちまった……。」

 

とっさに取った行動が完全に裏目に出ている。ハジメの顔が、珍しく引きつった。




 「次回、仮面ライダーオリジン。

やっほー。恵理だよ。あーあ。面倒くさいことになったね。しかも妙に強いじゃん。一筋縄じゃいかないみたいだけど……どうするのかな?まあ、ここはお手並み拝見と行こうか。せいぜい僕を楽しませて見せてよ。

次回、『ラビットVSドラゴン』

生きてよ。最後まで。」

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