ではどうぞ。
「あー、勘違いしてると思うから話を……」
ハジメは目の前の女性に対話を持ちかけようとする。しかし、
「問答無用っ!」
完全に頭に血が上っている彼女らは知ったことかと一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「だよなっ!」
「面倒くさいことになった……!」
アレーティアと背中合わせになり、攻撃をいなしながら考察する。彼女たちの連携は、主に奇襲。四方八方に身を隠しながら息をつくまもない波状攻撃。さらに、
「オゥリャアアですぅ!」
「ぐ……っ」
時折仕掛けてくる白髪の女性のあまりに重たい攻撃。アレーティアがフルに身体強化をかけることでなんとか渡り合えるレベルの攻撃だ。その身体強化も魔力を大量に消費するため多用はできない。
「ちっ…。分断するぞっ!」
「わかった!」
変身してしまえば瞬時にかたがつくだろうが、それは最終手段。そもそもネオ以外には使うつもりはない。それに個々であればそれほど脅威というわけではないのだが、この連携の力はは正直このままだと不味い。一瞬攻撃が止んだスキにハジメが叫ぶ。その声にうなずいたアレーティア。もう一度仕掛けてきた彼女たちの攻撃を掻い潜り、剣をしまったハジメはアレーティアの目の前に躍り出る。
「んな……?!」
そしてアレーティアに飛びかかってきた白髪の女性の拳を、正面から受け止めた。ハジメは、今の彼女らの動きからこの連携の要は彼女だと確信していた。故に、その要を外す。
自身の拳を受け止められたことに驚く女性に、ハジメはニヤッと笑いかけ、口を開いた。
「おい。ドライブしようぜ。」
「はあ?……ですぅ!?!」
トータスでは聞き慣れない言葉に困惑する女性。しかし次の瞬間派手にエンジン音を鳴らしながら背後の岩を砕き、自動運転で突っ込んできたオリジナルを見て目を見開く。ハジメは青いへッドにそのまま女性を叩きつけると、自身はそのシートに跨る。そしてそのまま波状攻撃の波を突っ切り、木々をなぎ倒しながら森の中へと突っ込んでいった。
「シアー!?」
突然の事態に目を丸くするうさ耳の集団。そのスキを見逃すアレーティアではない。
「よそ見してるなっ……!」
一瞬のスキに発動させた探知系の魔法で、うさ耳集団一人ひとりの細かな位置を把握したアレーティア。すぐさま切り札となる魔法を行使する。
(私の余力的に全員を捕縛するならこれが最初で最後のチャンス。)
先の女性の攻撃のせいでかなり魔力を消費している。それ故に慎重に、正確に、そして確実に決める。生成魔法を継承したことでアレーティアの土や金属、無機物を操る技能は大幅に上昇している。今から行うのはそれをフルに活用した捕縛用の魔法だ。
「一匹残らず捕まえてやる。」
うさ耳集団一人ひとりの足元の土が盛り上がり、まるで口のようにパックリと割れた。
「ウオッ!?」
「きゃあっ!?」
「大人しく……しろっ……!」
バクンッ!
アレーティアが剣を握るのとは逆の掌を握り込むと、その動きに呼応して土の口は頭だけを出した状態でうさみみ集団を飲み込む。それは蛇のようにうねりながらアレーティアの目の前へと集結し、とぐろを巻くようにして積み重なっていく。
「“山獄”」
周囲の岩や木を巻き込みながら小高い山となった土塊。その麓に当たるところでうさ耳集団は拘束されていた。
「く……そ……。」
「離せ……っ!」
もがくうさ耳集団。アレーティアはその一人の目の前の地面にマクロスを突き刺すと、目線を合わせるためにしゃがむ。そしてニコッと笑い、それはとてもとても友好的な笑顔を浮かべながら口を開いた。
「とりあえず人の話を聞こうか残念うさぎ共。」
「ふんっ!」
「ですぅッ!?」
若干開けた場所に出たハジメは、急ブレーキをかけシアと呼ばれた女性をふっとばす。かなりの速度で森を駆け抜けていたため、慣性でそのまま突き進んでいき……向かいに生えていた木にふわっと着地した。
「……あ?」
目の前で起きた不可思議な現象に、頭に疑問符を浮かべるハジメ。着地した衝撃を体のバネで外に逃した訳ではなさそうだ。着地する以前から軌道がおかしかった。なんというか突然シアの肉体にかかる空気抵抗が大きくなったような、重力の向きが変わったような、そんな感じの動きだった。
「はあっ!」
「おっと。考え事してる暇はないか……なっ!」
しかし木の幹を蹴り抜き、尋常ではない速度の飛び蹴りを放ってきたシアに思考を切り替える。オリジナルには悪いが車体を蹴って地面に降りる。そしてまず目の前に迫ってきた攻撃を上体を傾けることで回避……
「逃げるなあ!」
「チッ!」
突然シアの動きが変わった。空中で体をよじると、一直線に突き進んでいた飛び蹴りの軌道が歪み、避けようとしたハジメの頭に向けて進路が変更される。それをなんとか地面を転がり回避。
(風を操ってる?いや、気流の乱れは見えない。)
いまのが外的要因によるものでないとすると、この物理法則を完全に無視した動きを説明できるのは、
「重さ……いや、重力か?」
「だったらぁ……どうするんですかぁ!」
ボソッと呟いたハジメの言葉に反応し、もう一度木に飛び移ってからを蹴って拳を突き出してくるシア。ハジメはそれを、腕をクロスし真正面から受け止めた。
次の瞬間、
ズンッ!
「う、おっ……。」
その拳に秘められた力に、地面には小規模なクレーターを作り出され、ハジメの足が地面にめり込む。明らかに飛び出した速度と拳の威力が見合っていない。やはり、そうか。
「移動、そして攻撃の瞬間に自分の体にかかる重力の強さを変えているのか。」
移動時に必要なエネルギー量や、衝突するときに発生する力、空気抵抗による軌道の変化。それら全て引き起こしていたのは彼女自身の重さの変化。重さが変わるということはそれすなわち物体にかかる重力が変化しているということ。そしてハジメはその現象を引き起こすことができる魔法の存在を知っている。
「オスカー・オルクスの書斎で見たことがある。ライセン迷宮の神代魔法、重力魔法だな?」
「なぜ、それを!?……まさかあなたも攻略者?」
ハジメが読んだ書物には、具体的に魔法の名や効果が示されていたわけではなかった。だが、ライセン峡谷の名の由来となった「ミレディ・ライセン」なる女性の名前、そして彼女に関する日記や神代魔法について書き記された書物から、「ライセン迷宮で継承できるは魔法は重力に関する魔法なのではないか?」という予想は立てていた。それが今、彼女の動きと言葉で裏付けされたわけだ。
「だったら?」
驚きをあらわにするシアを、そうおどけるように言い放ってから弾き飛ばす。自身と同じ存在であることを知った彼女は一度体制をたてなおすためわざと大きくのけぞり、距離を取った。
「なら、解放者の方の話も聞いたはずですよね?そんなあなたがなんで人ざらいなんかをしてるですか?」
更に敵意のました目でハジメを睨みつけるシア。相変わらずあのバルとか言う少年を拐おうとした犯人だと勘違いされたままだが、このまま戦い続けていると亜人族全員から敵として認識されそうだ。それに今、彼女は自分を警戒し、すぐには飛びかかってこない。そう思ったハジメは軽くため息を付き、頭を掻きながら答える。
「いや、違うけど。」
「………へ?」
随分魔をおいてからすっとんきょんな声を上げるシア。
「だから、あの子を誘拐したのは俺達じゃないと言っているんだ。」
「え?……えぇ?!」
ハジメの言葉にいっそう目を丸くし、わかりやすく狼狽える。そこにハジメがまた口を開く。
「さっきも話を聞けって言っただろ?……いきなり襲いかかってきたが。」
「………。」
自分の早とちりに気が付き、ダラダラダラとまるで漫画のように大量の冷や汗を流すシア。さっきまでの殺気や敵意は雲散霧消し、代わりに「やっべぇやっべぇやっべぇわ」と顔に書いてある。ハジメは戦闘態勢を解き、腰に手をやる。その顔はなんというか、「呆れた」という感情が全面に出ていた。
「話、聞く気になったか?」
シュン、と体の動きに連動してうなだれたうさ耳を眺めながら、ハジメは小さなため息をついた。
「あの……。ほんとに申し訳ないですぅ……。」
あれから数分。ハジメの話を聞いたシアはさらにシュンとしながらハジメに謝った。勘違いで仲間の恩人をギッタギタのけちょんけちょん似する気満々だった。
ドヨンとしたオーラを体全体からから溢れさせるシアにハジメは気にしていないと伝え、乗り捨てた後勢いで岩に突き刺さっていた愛車を引っこ抜く。岩がヘッドの形にえぐれているが、ライダーシステムにも使われている特殊合金で作られているとは言え当然のように車体には傷一つない。一度高層ビルの屋上から飛行できるネオに向けてだいたい時速500キロくらいのスピードでふっとばしたときも、その時ついた傷という傷と言えばタイヤがネオの攻撃でパンクしていたくらいなので、この現状も当たり前といえば当たり前か。ちなみにその後オリジナルはネオに無事直撃し、地面に叩き落とすことに成功している。
相変わらずでたらめな強度の相棒にまたがり、ヘルメットをかぶろうといつもの収納場所へと手を伸ばす。が、自動走行やら木や岩をなぎ倒したときにどこかへ吹っ飛んでいったらしくその手は空を切った。ハジメは目だけでちらっとシアの方を見る。そしてしばらく考えたあと、バイクから振り落とされた程度じゃあ怪我一つしないだろうと思い直し、自分の後ろを軽く叩いた。
「ほら。乗れ。」
今までシュンと下を向いていたうさみみをぴょこんとはねさせ、オリジナルをまじまじと観察するシア。一度叩きつけられた上木やらなんやらをへし折りまくっていた未知なる存在に警戒しているのだろう。
(しなびたり立ったり、忙しいやつだな。)
感情に連動して動くシアの耳を興味深い顔で眺めるハジメ。すると、その視線をなにか別の、まあ……つまりそういう感情を込めているものだと勘違いしたシアが若干顔を赤らめる。
「あのー……、ハジメさんもこういうのが好きなんですか?」
「好き?なにが?」
「あっはい。」
ハジメが首を傾げる。その反応に完全に自分の勘違いであったことに気がついたシアはごまかすように苦笑いをしながらハジメが叩いた場所にまたがる。
「ちゃんとつかまってろよ。」
「掴まれって……どこに?」
「俺に。バランス取れないからなるだけくっついてろ。」
「え?!」
ハジメの言葉に目を白黒させるシア。文中では触れていなかったが彼女、かなり胸が大きい。つまりハジメは、自身にその胸を押し付けろと言っているのである。シアは突然そういったことを言ってきたハジメに驚いていたのだが、当の本人はシアがワタワタしている理由がわからずに首を傾げる。
「どうした?」
「あ、あのですね。ハジメさんにくっつくということはその……む、胸が背中に当たるじゃないですか!」
「?そりゃあそうだろ。」
「で、ですからその……」
「???」
(変なやつだな。)
その後、ハジメとシアのやり取りはしばらく続き、結局シアはハジメが運転するオリジナルに乗って、自分の胸のことなど微塵も意識していないその姿に謎の敗北感を覚えながら元いた場所へと戻っていった。
元の場所に戻ると、アレーティアは捕縛から開放されたうさ耳たちと輪になって座り何やら話し込んでいる。そしてバルとサヤは、例の魔法の杖で遊んでいた。
ハジメとシアの二人が帰ってきたのを見つけたサヤとバルは、それぞれバイクから降りたハジメとシアの方へと駆け寄ってくる。
「おとうさん。おかえり。」
「ただいま。」
「シア姉ちゃん!なんでみんな揃って急に襲いかかったりしたんだよ!」
「うぐっ。面目ないですぅ。」
四人がやいのやいのと騒いでいると、うさみみを引き連れたアレーティアが歩いてきた。
「ん。無事でなにより。」
「まあな。ところで何を話してたんだ?」
ハジメの疑問に、アレーティアがハルツィナ樹海の中央の方角を指さしながら答える。
「ハルツィナの中央。大樹に行くためにどうすればいいのか聞いてた。迷宮はそこにある。」
「で、結果は?」
「長老たちに聞かないとなんとも言えないって。」
肩をすくめるアレーティア。確認のためうさみみ達に視線を向けると、見事にシンクロした動きで首を縦に振る。あの攻撃のコンビネーションにも納得のシンクロ率だ。たぶん400%くらいはいっている。
「なるほど。で、その長老たちを俺らはお目にかかることはできるのか?」
ハジメがそう言うと、後ろでバルからの説教が終わったシアが答える。
「それなら問題ないですよ。私からお父様に緊急で会合を開いてくださるようにお願いします。攻略者がやってきたとなればすぐに対応してくれるはずです。」
そこまで言ったシアだったが、不意に何か思い出したらしく、考えるような素振りを見せる。
「どうした?」
「いえ。その〜。たぶん今のハジメさんたちではハルツィナの迷宮には入れないはずです。」
「どういうことだ?」
ハジメの疑問に、シアは眉間のあたりをトントンと指で叩き、「え〜っと、」と記憶を絞り出すように口を開く。
「私もライセンの迷宮を攻略したあとに行ってみたんですよ。大樹に。そしたら石碑がありまして……。
〝四つの証〟〝再生の力〟〝紡がれた絆の道標〟〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
確かそう書かれていたんです。」
一瞬の思考の後ハジメが口を開く。
「あー。つまり、あと3つ迷宮を攻略して、再生に関する神代魔法を手に入れる必要がある、と。」
シアは「おそらく。」と頷き、若干申し訳無さそうな顔をする。
ハジメは顎に手をやり、しばし沈黙する。そういえば真のオルクス大迷宮(百層目より下の階層のこと)は鉄砲水に流されて入りこんだが、真正面から入ろうとしたらどうなっていただろうか。もしかすると他の迷宮にも同じような成約があるかもしれない。そうなってくると、とりあえず場所がわかってるところから攻略していこうとしていた自分たちの計画にかなり大きな支障が出てくる。隣では同じことに気がついたアレーティアが「むむむ。」と首をひねっている。
しばらく考えたあと、神代魔法を集めるならそのうちまたここへやってくることになるため、顔合わせも兼ねて一度長老たちに合うことにした。ついでに大樹も一度この目で見ておこう。そうシアに伝えると、彼女は
「承知です。ではお二方。あとバルくん。私についてきてください。」
と、早速案内をしてくれるらしい。残ったうさ耳達は、樹海のパトロールの途中だったらしく、忍者のような動きでまたたく間に姿を消していった。相変わらず素晴らしい身のこなしだ。間違いなく一部を除いたクラスメート達よりも強い。
それを見送ったハジメが一言。
「んじゃ行きますか。ハルツィナ樹海。」
「「おー」」
サヤとアレーティアの若干気の抜ける掛け声とともに、三人はシアの案内の元ハルツィナ樹海へと足を踏み入れた。
「次回、仮面ライダーオリジン。
よお。大輔…、あー。檜山って言ったほうがいいか?まあいい。それにしてもすげえ戦いだったな。ちょっと前の俺じゃあ目で追うこともできなかったろうぜ。にしても長老ねえ。どんな堅物が出てくんのやら。ま、せいぜい頑張れよ。……ん?あれは……?
次回、『龍は樹海に降臨す』
生きてろ。最後まで。」