正式名称、対特殊生命体駆除センター。ネオの出現とともに、政府の援助を受け設立された民間組織。現在はテロ対策や警備といった活動を行っており、それなりに評判はいい。
・Unknown
地球における魔物の名称。文字通り正体不明の生物として扱われている。
「あ”〜。休みが〜。」
目の前の机に突っ伏して唸り声を上げる一人の青年。顔立ちは人気モデルやアイドルなどに引けを取らぬ美形だが、言動の節々から感じられるやる気のなさやそもそも机に突っ伏すという行為で色々台無しである。
青年は何気なしに顔を上げ、視線の先にある相変わらず無機質なコンクリート製の壁に、更に大きな溜め息が漏れた。
「局長もなんでこんな休日の真っ昼間に収集かけるんだよちくしょう。」
顎を机の上に預け、唇を尖らせる青年の肩を後ろから伸びてきた手が叩く。
「まあそう言ってやるな。」
青年が後ろを見ると、そこにはがっしりとした大きな手が乗せられている。更にその腕を辿って上に視線を向けると、壮年の男性がこちらを見下しているのが見えた。
「前は休日返上なんて当たり前だっただろ?」
苦笑いを浮かべる男性。ガッチリとした腕に違わず顔つきも戦士のそれであり、ところどころ皺が刻まれて入るもののそこから老いを感じることはなく、むしろ強者の風格を醸し出している。
しかしそんな男性の言葉に、青年の表情は更にムスッとしたものになった。
「その頃がおかしかったんですよ。平和ボケした僕にはとぉ〜〜い世界ですね。」
平和ボケバンザイ、と諸手を掲げる青年。しかし、次の瞬間スパンっ!という音とともに掲げた両手もろとも再び青年は机に突っ伏す。
「うごっ」
「階段の目の前を塞がないでください。」
今さっきまで青年の頭があったところには煙が立ち上っているボードがある。同じく後頭部にできたコブから煙を立ち上らせながら、星を目に浮かべた青年が絞り出すように言う。
「ひ、久しぶりのこの感じ……。」
「どけと言っているんです。」
ゲシッ。今度は机に突っ伏すために必要以上に引いていた椅子を蹴り飛ばされ、青年はとうとう潰れたカエルのような悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。
「相変わらずキッツいなお前……。」
机の反対側へと避難していた男性が頬を引きつらせながら目の前にいる女性の顔を見る。
「邪魔だったので。」
冷ややかな目で地面を転がる青年を一瞥し、指先で眼鏡をくいっと上げる女性。その仕草は彼女の美貌と相まって言いしれぬ色気を醸し出すが、そのあんまりな物言いにこちらも色々台無しである。
(相変わらずだな……こいつら。)
男性はそんな二人を見て、自分の頬がゆるむのを感じる。長い戦いの末、自分に最後の最後までついてきてくれたのはこの二人だけだった。だから、その二人がこうして平和な世界に生きているのを見るとどうしょうもなく嬉しい。アクがかなり強いが、それでも大切な仲間なのだ。
椅子から落ちた青年を女性がまたぐこともせずそのまま踏みつけている光景からすっと目をそらし、部屋の入口へと目を向ける。すると不意にドアノブがガチャリと音を立て、ショートカットの女性が呆れたような顔をしながら姿を表した
「おう、棚橋……あーっと、局長。全員いるぜ。」
「長田。外まで聞こえてるわよ。……相変わらずのようね。」
「はっはっは。まあな。」
女性、棚橋玲奈(タナハシ レイナ)は眉間に指を当て、軽くため息をつくと手に持っていた書類を机に並べた。
「おいカナタ。いい加減にしとけよ。」
「了解」
青年を足蹴にしていた女性、曙カナタ(アケボノ カナタ)は男性、長田明夫(オサダ アキオ)の声に返事をすると、何もなかったかのようにすっと席に付く。
「蓮。お前も起きろ。」
「うごご……。」
俺の扱いひどくないっすか?とぼやきながら青年、飯田蓮(イイダ レン)も転げ落ちた椅子に座り直し、カナタを一瞬恨めしそうな目で睨むもそんな視線を意にも止めない彼女に一つ、舌打ちをして視線を前に向ける。
「で、なんの用なんすか。局長さん。」
蓮が少し不貞腐れたような声で、今しがた書類を配り終えた玲奈にたずねた。
「ちょっと待っててちょうだい、まだ役者が揃ってないの。」
もう少しで来る思うのだけど…。時間を確認しようと彼女がポケットからスマホを取り出そうとした丁度そのとき、ドアノブがガチャリと音を立てた。
「遅れてすみませ〜ん!迷っちゃって……。」
部屋の中に入ってきたのは、よほど慌てていたのか息を切らして額から汗を流し、メガネがずり落ちかけている美紀であった。
「御剣博士?」
「ハアッ、ハアッ……な、長田さん。皆さんも、お久しぶりです……フゥ。」
どこぞの会社員宜しくペコペコと頭を下げながら4人が座っている机へと歩みを進める美紀。が、
「あぅっ。」
慌てていたせいか疲れていたせいか、なにもないところで躓き顔面から床へと突っ込む。その拍子で肩にかかっていたカバンが吹き飛び、あろうことが中身が床へと散らばってしまった。
「あぁっ!ご、ごめんなさい!」
額にできたたんこぶの痛みか、それとも自分の情けなさからくるものか、彼女は目を潤ませながらせっせと飛び散った中身を拾ってカバンに詰め直していく。他の四人もやれやれ、といった様子で飛び散った物を拾い集める。
「……ん?」
そんな中、蓮は拾い上げた一枚の書類を見て首を傾げる。
「これは……。」
「今回の話の目玉よ。」
声のした方を見ると、隣でハンドクリームらしき容器を拾い上げた玲奈が横目で書類を覗いていた。
「何なんすか?これ。」
「後でわかるわ。」
それだけ言うと、彼女は美紀の方へと歩いていってしまう。蓮はもう一度書類を見直す。
『Unknown』
未確認。その単語の下には一枚の写真がある。まるでネズミのような姿をしながら異様に筋肉質であり、胸部から腹部にかけてまるで見せつけるかのように毛が生えていない。更には目安として置かれているメジャーからして全長1mを超える、そんな異様な生物の姿を捉えた写真が。
パチッ。パチッ。
机の目の前へと運んできたホワイトボードにいくつかの書類をマグネットで固定する美紀。その書類にはそれぞれなにかの生物の写真が貼り付けられているが、それを見た面々は顔をしかめた。
「これ、何かのコラ画像じゃ……?」
先程蓮が見つけたネズミに始まりゴツゴツした岩のような体表のゴリラのような生物、異様に巨大で筋肉質な熊、果てはティラノサウルスやプテラノドンといった恐竜のような見た目をしたものまでいる。
「CGか何かで作られた、と言われたほうが信じられそうです。」
無理やり別々の何かを合成したような現実味のないそれに、普段あまり感情を表に出さないカナタさえもが疑わしい目つきで写真を見つめている。
そこへすかさず玲奈が口を挟む。
「撮影には調査班が同行している上一部サンプルはこちらで保管されているわ。信憑性は保証します。」
続きを。そう促す里奈に、美紀は頷いてからメガネを指先で整えレーザーポインターのスイッチを入れた。
「これらの写真は全て太平洋日本近海にて発見された水死体、仮称Unknownのものです。」
「なに?海のど真ん中に落っこちてたって?どれもこれも、どう見ても陸上動物じゃねえか。」
「ええ。しかも近海とはいえ陸上動物が泳いでたどり着けるような場所ではありません。徐々に本土へと近づいて来てはいますが……。ああ、生態は後々。さらにもう一つ気になる点がありまして。」
そう言うと美紀はレーザーポインターで書類の下部を指す。
「いくつかのサンプルを検死した結果、これらのUnknownが発見された時間と死亡推定時刻の差が僅か数分から数時間程度しかないことがわかっています。いくら近海とはいえ大海原のまっ灘中ではまずありえないでしょう。そもそも見つかった位置まで流されるだけでも数日はかかりますから。」
「そしてこれらの水死体を発見した人物の証言によると、発見する少し前に海上が一瞬激しく発光したように見えたそうです。更に、その光はまるで幾何学模様のようにも見えたとの証言もあります。」
「幾何学模様の光……か。」
明夫が顎を指で撫でながらポツリとこぼす。数ヶ月前に似たような話を聞いた。
「まるで、集団神隠し事件のようですね。」
カナタの言葉に美紀が頷く。
「はい。最も今回起きている現象はその全くの逆ですが。」
「じゃあ、その光の出どころを探れば隊長たちも見つかるかもってわけか。」
「おそらくは。」
美紀は新たに書類を一枚ホワイトボードに貼り付け、レーザーポインターを起動させる。
「これは?」
「オリジンガジェットから一時間間隔で送られてくる使用者生存を示す定期信号です。姿が見えなくなってからも常に受信し続けていたのですが、最近その信号に変化が見られます。」
数枚の書類にポインターを向け、グラフのある一点を指し示す。
「信号が強く感知できるタイミングが現れたんです。そしてそのタイミングは……」
先程のUnknownとグラフを隣り合わせて並べ、ついでに落ちてきた眼鏡を整える。
「Unknownの死亡推定時刻の前後三十分以内。おそらくは光が発生したタイミングでたまたま送られてきた信号が強く感知できたのだと考えます。ただ……。」
そこで美紀が一瞬止まる。ちらりと3人に目をやれば期待を宿した目でこちらを見ていた。それを見た彼女は非常に言いづらそうに「残念ながら……」と前置きを置いて言葉を繋ぐ。
「今現在の情報ではこれ以上の調査は不可能でした。」
「Unknownが現れる時間や場所にこれといった規則性はありませんし、予測することもできません。」
「オリジンへのアクセスも以前から試みてはいますが依然成果は著しくなく、正直手詰まりです。」
「その……上げてから下げるようで申し訳ないのですが、もうしばらく時間をいただきたいなぁ……と。」
気まずい表情で3人の表情を伺う美紀。玲奈には事前に話が通っていたため特に反応はないが、他のメンバーは見るからに肩を落としている。しばらくするといち早く立ち直った明夫がポリポリと額を掻きながら口を開く。
「……ま、そんなうまい話はない……か。」
少しばかり期待していたがために若干のダメージこそあるが、無理が通ればなんとやら。ため息を一つこぼすと美紀に視線を向けた。
「いや、別にあんたが謝る必要はねえよ。むしろゼロから1に進んだだけでもありがたいこった。」
まるで自分が全て悪いですとでも言うように落ち込む美紀に、少しばかり困ったような笑みを顔に浮かべながらそう言う。
事実自分たちでは手がかり一つ見つけられなかった事件の真相に美紀は一歩先に踏み込んでいた。それを攻めるというのはいくらなんでもお門違いもいいところだろう。カナタと蓮もその言葉に頷き、美紀の顔はいくらか明るくなった。
「続きをお願い。」
4人が立ち直ったところを見計らい、玲奈が先を促す。
「はい。えっと……まずはこれを。」
ボードへ新しく書類を貼り付け、美紀は口を開いた。
「検査の結果、Unknownの根本的な身体構造は現存の生物とほぼほぼ変わりはありませんでした。」
息を吸い、血がめぐり、子を作り、命が巡る。いくらか奇抜な外見はしているが、その根底にあるのものは自分たちと何ら変わりはない。
「しかし、地球上の生物には見られないものが一つ。」
美紀が取り出したのは一枚の写真。そこに写っているのは怪しい光を放つ宝石のようなナニか。
「これは。」
カナタが怪訝な表情で美紀を見やる。「何こんな時に宝石の写真なんて見せるんだよ。」と顔に書いてあるのがわかった。しかし美紀の真剣な顔を見て一旦それを引っ込め、話を聞く体勢に戻る。
美紀が続ける。
「これは、全てのUnknownの体内より摘出されたモノの内の一つです。」
「「「!」」」
こんなものが?三人は美紀の顔を見てから写真をもう一度見る。とてもではないが、こんな磨き上げられた宝石のようなものが生物の体内から出てくるとは到底考えられない。
「この物体、おそらくUnknownの本来の生息場所では当たり前に存在する臓器の一種だと思われます。それこそ心臓や肺のようななくてはならないものではないかと。」
「そもそも、なにしてる内蔵なんスか?」
「簡単に言えば第二の心臓のようなものでしょうか。Unknownの肉体には血管とは別に体中に張り巡らされている管状の器官が確認されています。その中を通り、ここで生成されたものが体中へと運搬されているようです。」
そして、そう言いながら美紀は見ていた書類から目を離し、一同へと視線を向ける。
「検査の結果、この器官よりネオの生体エネルギーに限りなく近い性質を持つエネルギーが検出されました。」
「……。」
美紀の言葉を聞き、手で顔を覆う明夫。
しばらくそのまま固まった後、大きく息を吐くと空いている方の手で続きを促す。
「……しかし、私はUnknownたちがネオである可能性は限りなく低いと考えています。」
「そうなんスか?」
美紀は頷く。
「はい。そもそもネオには生殖能力がありませんから生態系が出来上がっているのがまずおかしな話です。それにこの器官はネオには見られません。」
「第一、生態系を築き上げられるほどの数のネオが同時に存在できる星があるかどうか……。」
その話を聞き、幾らかその場の空気がマシになる。すると、明夫が顔からようやく手を離して玲奈の方に視線を向けた。
「ネオではないとはいえ未知の生物。それも妙な力を持ってると上にそのうちに此処らへやってくると。更にはこんなメンツまで揃えて、俺たちを呼んだのはそういうことだな?」
「ええ。」
里奈は頷くと、かばんの中からファイルを取り出した。
「政府から連絡が来たわ。『REGISTER』を再結成せよとのお達しよ。これまでのUnknown出現場所のデータから来週あたりにはこのあたりに出現すると考えられているわ。」
期限はそれまでね。ピンッ。机においた書類を指で弾き、明夫の方に飛ばす。明夫はそれを少し乱雑に受け取ると、そこに書いてある文章に睨みつけるような目つきでして目を通した。
「再結成ってのはいいが、メンバーはどうするつもりだ。政府側から助力してもらえるのか。」
「まあ、最悪そうするわ。」
「あん?」
煮えきらない里奈の態度に明夫は顔から手を話し、目を釣り上げた。玲奈は片手でそれを制すと大きくため息を付きながら言う。
「あんまり貸しを作りたくないのよ。」
明夫はその言葉に舌打ちを一つすると、頭をガリガリと掻いた。
「じゃあメンバーの宛はあるのか。流石に今残ってる奴らだけじゃ難しいぞ。」
「元隊員達に声をかけたわ。」
「彼らに?」
カナタが少し目を見開き、玲奈に視線を向ける。
「ええ。あの子のためならって、殆どが戻ってくるそうよ。」
それと、と前置きをし、更にそこへ一言。
「ライダーシステムの運用も再開する予定よ。」
「「「?!」」」
3人は愕然とした表情になり、固まる。
「どういうことだ…。ソレも政府の指示か!?」
暫くして再起動した蓮が玲奈に詰め寄ろうとするが、それを美紀の声が遮った。
「彼らの!」
一度息を整え、今度は静かに、
「彼らの……意思です。」
そう、言った。
「……あいわかった。」
暫しの沈黙の後、明夫はパン、と自身の膝を叩いて立ち上がった。
「集まれるやつから集まるよう通達しろ。装備は?」
「用意してあるわ。」
「坊主たちには学業を疎かにするようなら叩き出すと伝えておけ。」
「は、はい!」
「お前ら。カンを取り戻すぞ。アイツらが戻ってきたとき戦えないんじゃ話にならねえからな。暫く帰れると思うなよ。」
「うわ。ブラックだ。」
「了解。」
手早く指示を出し、気合を入れるように自身のげんこつ同士を胸のあたりでぶつけた明夫は、口角を釣り上げ笑った。
「さーて、忙しくなるぞ。」
「次回、仮面ライダーオリジン
皆様ご機嫌麗しゅう。ノイントです♪。エヒトの気まぐれのせいで地球にも迷惑をおかけしているようですねぇ……。もしくは博士の研究か。どちらにせよやはり気に食わないですね。次顔を合わせるようなことがあればすぐさま殺す。それはそうと、彼らのフューレンへの道のりもあと僅か。次は何を見せていただけるのか、実に興味深いですねぇ。フフッ。
次回、『商業都市での一幕』
生きてくださいな。最後まで♪。」