『GYAOOOOOO!!』
突如として現れたベヒモスネオ。それは先のベビモスよりも、一回りも二回りも小さい。しかしその見た目に反し、それからは元のベヒモスとは一線を越えた、凄まじい威圧感と迫力が溢れ出している。
それは辺りをギョロギョロと赤い目で見回し、ふととある一点を見てその動きを止めた。その視線を追った光輝は、サッと顔色を変えて叫ぶ。
「香織!逃げろ!」
「え?」
ベビモスネオは香織をその赤い目で捉えると、ゴクリと喉を鳴らし、
ニタリ
「ッッー!?」
首元まで裂けた口を吊り上げ、笑った。その笑顔はまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のような、純粋で美しく、見るものすべてに恐怖を植え付けるような、そんな笑顔だ。
現にその笑みを正面から直視してしまった香織は、あまりの恐怖に腰を抜かし、その他のクラスメイト達、そして騎士達でさえも、まるで足がその場に糊付けされたかのように動くことができない。
ザリっ
魔獣の足が、獲物に向かって一歩踏み出した。
「どうする……?」
ハジメはその様子を見て、ふと自分の手のひらに目をやる。
そこにあるのは、傷一つない不自然なほどにきれいな肌色。だが、ハジメの目には、血にまみれ、ボロボロにくずれかけているドス黒い色に見えた。
「サヤさんなら……なんて言うかな……。」
ハジメは自分の胸元にある小瓶を握りしめ、力なくそう呟く。いつの間にか足は止まり、ただ俯く。
「ただの南雲ハジメに、何ができる……?」
ハジメの表情からは、先程までの肉食獣のような鋭い眼光は消え失せ、たった一匹で暗い森の中を、迷い、彷徨う羊のようにか細く震えて見える。
「『僕』に、何ができる…
『キュイイイ!!』
「?!」
突然ハジメの目の前に、まるでショートした機械のような、バチバチとスパークを放つ拳程度の大きさの球状の何かが、空間を歪めるようにして出現する。
「こ、れは……ッ!」
その何かは、一気にソフトボール大まで巨大化すると、その中から一つの小さな影が飛び出した。
『キュララアアア!!』
その影は、電子音のような、何か動物の鳴き声のような、そんな音を響かせながら飛び回り、たった今香織に襲いかかろうとしていたベヒモスネオへと突っ込んでいく。
『GYAOOOOOO!?』
『キュアアア!!』
それは、圧倒的な強者として君臨していたベヒモスネオに、明らかに体の大きさに見合わない威力の炎の塊を口と思われる場所から吐き出してぶつける。
その威力にベヒモスネオはたじろぎ、しかしそこまでダメージは入っていないのか、うっとおしそうにはたき落とそうと腕を振り回す。しかしそれは悉くを俊敏に躱し、最後に顔面に向けてタックルを決めるとハジメの元へと舞い戻った。
「お前は……」
ハジメはそれの姿を見て、目を大きく見開いた。
「オリ……ジン……?」
『キュー』
オリジン。そう呼ばれた機械じかけの龍は、嬉しいという感情を表すようにくるりと1回転し、ハジメの顔の前でピタリと停止した。
「なんで、お前が……。凍結してた筈じゃ……」
ハジメの顔は、ありえないものでも見たかのように今だに目を見開いたままで固まっている。しかし次の瞬間、
ピピー、ジャコンッ!
「っ!」
ハジメの腰に、電子音とともに一本のベルトが浮かび上がり、自動的に装着される。銀色のベルトに、何かを差し込むためのスロットのようなものが付いているバックル。それが自分の腰に巻き付いたことを理解したハジメの目つきが変わる。
「……また君を使えっていうのか……?」
問いかけるハジメに、オリジンは無言で答える。
「今の『僕』に?」
オリジンは答えない。しかしその無機質なレンズのような目からは、まるでハジメを信じているような、そんな確かな強い意思が見えている。
ハジメの脳裏を記憶が駆け巡る。大切なモノ、救いたかった人、守りたかったもの、そして、死んでいった人たち。
ハジメが顔を上げる。その顔には、今までのハジメとは似ても似つかぬ、まるで別人のような表情が浮かんでいる。
「……いいだろう。」
元の声より数段低い、唸るような声で彼はそう言う。
「こい。オリジン。」
「キュオオオオオ!!!」
ハジメのその様子に、呼応するように雄叫びを上げ、ハジメの周囲を飛び回るオリジン。ハジメは右腕を天へと伸ばし、
ガシッ
その手の中へ飛び込んできたオリジンを掴み取る。いつの間にかオリジンの身体は折りたたまれ、ちょうどバックルのスロットに収まりそうな大きさの、カードのような形状に変化している。
ハジメは右手を自身の真横へ突き出すように構え、それを迎え入れるように傾いているバックルへと突き刺し、がチャリと真横に倒した。
『Alteration』
地球
研究所の一角で、メガネがずり落ちそうになるのも気に留めず、目の前のモニターに映し出された表示を食い入るように見つめる女性の姿があった。
「この反応……変身シークエンス!?」
モニターに掴みかからんばかりの勢いでそう叫ぶ女性。なにかの見間違いかとモニターを操作したりしてみるものの、その画面に映る文字列に変化はない。
女性は力なく顔を俯かせ、拳を握りしめる。
「やめて……。もう、やめて………。」
届かない。この声は、あの子には届かない。そうわかっていながらも言わずにいられない。あの鳴き声を、心の叫びを知っているから。
「やめてぇぇえええ!!!」
その悲痛な叫び声は、研究所の中に木霊し、儚く消え去った。
「……」
バチバチィ……!!
ベルトを基調に、ハジメの体を青白い稲妻が奔る。ハジメ自身は目を閉じ、微動だにせずそこに立っている。
『GUUUUUU……』
ベヒモスネオは、先程のオリジンの行動に腹を立てたのか、それとも稲妻の光やエネルギーの奔流に魅せられたのか、視線を香織からハジメのいる方へと向け、ギロリと睨みつけた。
「……」
そうしている間にも、ハジメが纏う稲妻は大きく、激しくなり、それと同時にブワリとハジメの髪や服が舞い上がる。
『GUU……GYAOOOOOO!!!』
ズガァンッ!!
石橋に巨大な亀裂を生み出し、ベヒモスネオは数十メーターの高さへと跳ぶ。そして、目にも止まらぬ速度でハジメへと突っ込んでいく。
「……、」
ベヒモスネオは、その額から生える一対の巨大な角についてエネルギーを貯め、流星のように、赤く燃えながら一直線にハジメへと突き進み、ハジメに直撃
「……変身」
ハジメが目を開く。その瞳は縦に割れ、真紅に輝く。
爆発。
いや、爆発と言うには生ぬるい。ハジメを中心に放たれた凄まじい熱と衝撃波。それはベヒモスネオの一撃をたやすく跳ね飛ばし、石橋の端の方にいるはずのクラスメイト達も、その衝撃に思わずよろけてしまう。
『upload』
続けざまに幾度となく放たれる衝撃波。それは青白い稲妻をまとい土煙を舞いあげ、ハジメの姿を隠していく。
『model dragon』
電子音とともに、土煙の外側に球状に展開された無数の装甲。それは光の帯、「ドッキングライナー」に沿って一斉にその中へと飛び込み、装着されていく。
「フウゥゥ……」
その衝撃のと風圧で晴れた土煙の中から現れたのは、白いアンダースーツを身にまとい、その上から青を基調にした銀の鎧を装着した龍を模した戦士。
「ヴゥォォオオオオオオオオオオオ!!!!!」
大気を震わせる大咆哮を上げる一体の龍、「仮面ライダーオリジン」がいま、異世界トータスに爆現した。
「あれは……」
その様子を見ていた光輝が目を見開く。幾度かニュースや新聞でも取り上げられていたことがある。謎の戦士。化け物の前に立ちはだかり人を守るために戦った正義の戦士。
「お前、だったのか。」
光輝の頭に鮮明に思い出される一年前の出来事。自分という存在を今一度考えるきっかけとなった事件。
「頼むぞ。」
光輝はぐっと拳を握り、うなずいた。彼なら大丈夫だとそう確信しているかのように。
「オオオオオ!!!ハァァァ……。」
オリジンは天へと向けていた上体を戻し、ベヒモスネオへと向き直る。
『UUUUUU……!』
ベヒモスネオは、自身の最大の攻撃を防がれたことで、怒り心頭といった様子でオリジンを睨みつけ、いらだちを顕にした唸り声で威嚇する。
「……討伐開始。」
ヴォン………
何かを押し殺すような低い呟き。それとともにオリジンの顔面を覆う半透明のバイザー、「ドラグアイ」が不気味な音を立てながら青白く光る。
『GYAOOOOOO!!』
しびれを切らしたベヒモスネオが、咆哮を上げながらオリジンへと突貫を仕掛ける。角を灼熱と為し、地をかけ、さながら暴走列車という表現が一番似合うだろうか。その身を砲弾とし、凄まじい速度でオリジンへと突っ込んでいく。
対するオリジンは、それを見て拳を構える。足を踏み出し腰を捻じり、右の拳をギリリとしなる弓のように引絞る。
互いの距離は狭まり、とうとう2つの影が重なり合った。
衝突、は、しない。オリジンが突き出した右拳にベヒモスネオの角がなぞるように突き進み、その運動エネルギーの向きを変える。本命は拳ではなくその後から放たれる右膝蹴り。攻撃をそらされ、バランスを崩したベヒモスネオは、なす術なく鳩尾に強靭な装甲と圧倒的筋力から放たれる膝蹴りを受ける。
『?!』
体がくの字に折れ曲がり、吹き飛ぶベヒモスネオ。しかしそこへさらに追撃が入る。ベヒモスネオの視界を覆い隠す揺らめく蒼。それは炎。オリジンの腕部装甲の隙間にある排熱期間、「フレア」から放たれる超高温の息吹。それは石橋をバターのように刳り、ベヒモスネオの体表を黒く焦がし、炭化させていく。
もともとベヒモスは熱に強い。自身の角を灼熱させることができるのだから当たり前なのだが、それを軽々と焼き焦がしていくオリジンの炎の威力は言うまでもないだろう。
『GOOOO!?』
全身を舐め回す激痛に、ジタバタと地面にはいつくばり藻掻くベヒモスネオ。しかし、ネオ特有の異常な生命力と代謝能力で、モノの数秒で傷を修復させると何事もなかったかのように立ち上がる。
「……辛いだけだろうに……。」
まるで呪いのように再生し続ける肉体。それを見てポツリとそう零すハジメ。しかしすぐに自虐気味に笑うと、自分の右腕を見て言う。
「って、俺も同類か。」
ベヒモスネオの突進を受け流すときに受けたダメージを、蒸気を上げながら再生していく自身の体。あとに残るのは痛みだけ。
「……終わらせる。」
ハジメが気を取り直すように言った。その声に反応するようにベヒモスネオが、またオリジンへと駆け出す。これしか知らぬとばかりにまたもや角を灼熱させるベヒモス。しかし、攻撃をそらされたことを覚えているのか、バカ正直に真っ直ぐ突っ込んでいっていた先程とは違い、下から掬い上げるように姿勢を低くしている。下からの蹴りに対応できるよう、攻撃をそらされれば直ぐに飛び退けられるようにしたのだろう。
だが、
「その程度か?」
確かに攻撃をそらされたあとの対処はしやすいだろうがそれよりも前にねじ伏せてしまえば問題ない。確かに学習はしているがそれだけ。オリジンはその場から駆け出すと、今度こそ右の拳を振りかざし、跳躍。ベヒモスネオの剥き出しの後頭部へ向けてそれを放った。
ズドォ……!!
頭部が地面に叩きつけられ、クレーターを作りながら地に伏せるベヒモスネオ。声すら上げる間もなく顔面が地面にめり込み、激痛と肩の骨が折れたのか動かない腕。再生はしているものの立ち上がることができない。
「チェックメイトだ。」
オリジンはバックル上部に取り付けられている「エクシードリミッター」を押し込み、居合の構えのように腰を落とす。そして半身になって開いた右手を眼前へと構える。
『Charge Up』
無機質な電子音声。それとともに額に生える一本の角、「ゼノホーン」にエネルギーが収束され、各部の排熱機関から青い炎が漏れ出す。
「フッ!」
跳躍。後ろ向きに飛び上がったオリジンは空中で回転し、ぐっと体を丸める。
『Burning Bunkr』
再び響く電子音。それとともにオリジンに変化が訪れる。背中の装甲「リストレントメイル」が展開し、中に格納されていた一対の巨大な翼が姿を表した。
「喰らえ。」
翼の羽ばたき、そして放出される青い炎。さらにゼノホーンから供給される凄まじい量のエネルギー。それらが全て、突き出された右足へと収束する。
「ハァァアッ……!!」
着弾。
『GYUOOOOOOO!?!?』
ようやく立ち上がったベヒモスネオの胸に叩き込まれる必殺の一撃。薬数百トンの威力の蹴りに加えて多量のエネルギーがその肉体へと流れ込み、ベヒモスネオの体はその負荷に耐えきれず、内側から爆発四散する。
「………」
あとに残ったのは、あと一発魔法でも打ち込めば壊れてしまうのではないかというほどにボロボロになった石橋。そしてその上に佇む、血塗れの青い龍だけだった。
次回、仮面ライダーオリジン
「異端者南雲ハジメ」
異端者認定されるハジメ
「すまないな……」
やりきれない思い。
「俺はな、南雲ハジメじゃないんだ。」
ハジメの正体とは。
次回、「体と心とそれから俺と」
生きろ、最後まで
オリジンに強化フォームは必要か否か。
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必要
-
不必要