否定する僕と肯定する君と奇跡狩る 作:ハーバード明夫
目が覚める。
周りを見回すと酷い有様だった。
焼けて螺子くれた黒い炭のような死体が何体も転がっている。
自分の服を見れば、燃えて見れた物ではない。
この様子では財布もやられてるだろう。
最悪だ。
見回せば多くの人の亡骸。
事前に防ぐことが出来なかった。
俺は携帯を取り出す。
火には強い仕様だからか普通に動いた。
不幸中の幸いだ。
俺はあるところに電話を掛ける。
「逆縞か?すまない、逃した。...あぁ、タイミングや能力の起点は一度食らって理解したから大丈夫だ。次は仕留められる。居場所を予言してくれ....ありがとう。」
電話の相手の言葉をずっと待ち続ける。
それは世界を救う為。
世界の脅威となり得る分子を潰す為。
そして、犠牲に報いる為に。
世界を救うには少数の犠牲が付き物。
奇跡狩りの間での標語。
しかし、それはその脅威を処分出来た時の話だ。
出来なければ、徒に犠牲が増え続けるだけ。
それは.....避けなければ。
そう思っていると、電話先の彼女が居場所を教えてくれる。
....さて、向かうとしよう。
◇
寂れた礼拝堂。
今にも倒壊しそうな焼け跡の中で、一人の少女が息を切らしながら蹲る。
左耳は化膿しており、痛みで唸り声を上げる。
「ず...っ、ぐぅあぁぁぁ。あの男、あの男ぉぉぉ。私から耳を....綺麗だった耳を........。」
彼女は自分の耳を撃ったあの男を思い出し、忌々し気に声を漏らす。
奇跡狩り。
自分のやろうとしていたことを事前に察知してたとでも言うのだろうか?
私は、確かにあそこの人達を全員焼き殺そうとした。
多くの人に顔を見てもらう為に名所であるポポロ広場に居たのだ。
そして邪魔はあったが、成功した。
「ま、まぁいいや...耳撃った男も....ひひっ、あんなに偉そうに、私を...見下してたアイツも....みんなも、焼けて....螺子くれて...ふふっ、ひひっ.....ざまぁみろ。私を笑う奴はみんな死ぬんだ...幸せそうな奴、みんな、私と同じに!!!」
卑屈に、卑小に笑う女。
そんな笑い声は礼拝堂を響く。
そして段々と響いた声は小さくなり、誰の耳にも届かない。
....はずだった。
「いいや、死んでねぇよ。」
その声にびくりと肩を震わせる。
その声は間違いじゃなければ、あの時聞いたいけ好かない声。
自分に銃を向けた....。
声の方を見てみると、そこには焼け焦げたボロボロになった服に身を通したなんの焼け跡も残ってない綺麗な身体と顔をした男が立っていた。
あの時、焼いたはずの....殺したはずの男が立っていたのだ。
「...は?な、なんで.....なんで生きて...こんなことあるわけ......」
戸惑うさまを見て、男は笑う。
それは口元だけが笑っているような張り付いた笑み。
気持ちの悪い笑顔。
「足はちゃんとあるし、額に頭巾を巻いちゃいないだろ?...って外国人にはこのネタ通じねぇか?まぁいいや。そんなことどうでもいいし。てか俺は服焼かれたことを怒ってるだけだしな。」
冗談を言って笑う男。
何がおかしい....
確かに死にざまを見た相手、それが生きている。
そして意味の分からないことを言ってソイツが笑っているのだ。
わからないわからないわからないわからないわからない....。
「なんで...お前は死んでなきゃ....私の顔を笑った奴は死んでなきゃいけないのに!?....なんで!!!」
怒りに任せて叫ぶ女。
それを見て、今度こそ男は彼女を嘲笑した。
「さっきから人に聞いてばっかり....自分で考えろよ。その燃えカスみてぇな頭でさ。」
コイツ、私のことを燃えカス.....
燃えカスって言った?
....こいつ。
「....殺す!!」
「やっすい悪役みてぇにんな言葉すぐ吐いてんじゃねぇよ。さっさとやれよ。ほれ、包帯取ってみろ。俺をもう一度殺してみろ。」
男はにやけて笑みを浮かべる。
殺してやる。
甦るのならば、簡単な話だ。
何度も何度も、殺してやる。
心が折れるまで火だるまにして、殺してと懇願するまで。
包帯に手を掛ける。
その瞬間、笑みが漏れる。
顔に火傷があると私を虐めた学校の連中、道で見下したような目で見てくる通行人。
そして、私とは違って無傷だったにも関わらず、私を嘲った妹。
全部、全部焼いてきた。
これは私のルーティン、私の嫌な奴が消えてなくなる絶対のルーティーン。
それが崩れるなんて、あってはならない。
そうじゃないと、私は....。
「見たければ.....見せてやるッッ!!!」
包帯を取った瞬間。そいつは何かを口走った。
「いや、見ないよ。俺は見ていない。」
そう口にした直後に、炎に飲まれる。
女の笑みが深くなった。
やった....とにかく燃えた。
また起き上がったらもういちど燃やしてやれば.....
苦しめてやる。
殺して欲しいと泣いてせがむまで絶対に...っ....?
相手の行く末を決定した。
その瞬間、空気が...いや空間が脈動した。
まるで生きているかのように蠢くような感覚。
悪寒が走ると共に、目の前で信じられないことが起きる。
『。いないて見は俺。よいな見、やい』
奴の、言葉が逆再生する。
そして彼の身体から噴き出していた炎は収まっていくように見える。
いや、これは収まっているんじゃない。
言葉と同じで、巻き戻っている...。
それと同時に赤い線のような物が奴からこちらに向かってくる。
なに....なんなの?
私は、今.....何を見ているの?
光景に理解が追いつかない。
しかし、迫っている赤線は得たいが知れない。
眼前に迫るそれを避けようとするも。
「ッ!?」
直ぐに、元の位置に戻される。
な、なんでっ!なんでなんでなんで!!
「なんで、逃げられないの!!?」
『!!!ッッるやてせ見.....ばれけた見』
何を....言っているの私は?
私は、なんで逃げられない....。
赤線が顔に、火傷した側面の顔に当たった瞬間。
空間の脈動が、悪寒が収まった。
それと同時に、左目が見えなくなる。
違う。
感覚が鈍くなってるが、確かに顔が燃えている。
私の、既に焼けたはずの顔が.....
「い...嫌ぁぁぁぁぁ!!!ひっ、消さないと...早く、早く消さないと....。」
手をしきりに動かして消そうとするも絶えず顔から炎が噴き出し、消すことが出来ない。
あの日、焼けた時の感覚がトラウマとしてよみがえってくる。
パニックから過呼吸になり、その場をのたうち回る。
「実は、俺にも能力があってな。....説明すると、今俺はお前を見ていることを否定した。つまり自分を否定したんだ。俺にとっての世界は、今俺が見ている主観の世界だ。だからこそ、視点主である俺を否定することで、目の前の異能力はただでさえ朧気なのに更に存在が不明確になる。そして、存在を確立する為に、まるで逆算するようにお前の能力の起点に帰って来るってわけだ。....って難しくて分かんねぇか?」
彼は冷静に彼女を眺めながら自分の能力について話す。
「まぁ、簡単に言うと俺が自己否定するとそっくりそのままお前に帰って来るってわけだな。そして....」
ポケットから拳銃を出した。
「起点を破壊されれば、能力は使えない。自分の顔を焼いちまえば、そのままお前は焼けて死ぬだけだ。」
火の手は既に顔から身体に移りつつある。
それを感じて彼女は言葉をひねり出した。
「どうし...て.....わ、たし...は.....」
「初見殺しで悪いと思うし、その憎悪を考えれば君の過去には何かあったのかもしれない。だけどな、個人的な悪感情で沢山の人を犠牲にするわけにはいかない。それを許すわけには...いかないんだよ。」
そう言って彼は近くに歩み寄る。
手を伸ばそうとする彼女の手を避けると、銃口を頭に向けた。
「....みんなの為に、この世界に生きる生きとし生ける人々の為に、死んでくれ。」
彼はそう一言述べる。
直後、響き渡る発砲音。
彼女の遺体はゆっくりと動けなくなる。
彼女の遺体は最後まで自分の顔を覆っていた。
火を払う為か、それとも見られないようにする為か。
火が全身に回る前に、焼け死ぬ前に銃で殺した。
全身に火が回る感覚を味わった。
とても苦しく、熱く、痛かった。
だからこそ、彼女には味わせないように介錯した....最小限の苦痛にした....
なんて。
「言い訳だよな。そんなの.....。」
彼女の姿は一歩間違えた俺やメアリーだ。
俺は、同族を....自分と同じ人間を殺している。
彼女を生かす為に、彼女に報いる為に。
それなのに、綺麗言を吐く資格はあるか?
だから俺は.....
「死んだ方が....良いよな。」
でも、死ねない。
◇
「みーくん、おかえり~どう、イタリア旅行は楽しかった?」
俺が帰ると彼女はぴょこぴょこと椅子の上から飛び降りながらもこちらに駆け寄ってくる。
俺はまるで寄る辺をなくしたかのようにぐったりとした様子で彼女のタックルを受けた。
「クソみたいだったよ。....やっぱり外国なんか行きたくなかった。あんな思いするくらいなら....。」
溜息を吐く。
ただでさえ、あんな神経使ったし、一遍死んだのに飛行機を挟んだのだ。
飛行機は苦手だ。
気圧が変わる。
機体が揺れる。
あんな鉄の塊が空を飛んでいる事実が信じられない。
あれこそ異能だろ異能。
「ふ~ん、今回はどんな子だったの?私聞きたいなぁ....?」
上目遣いで聞いてくるメアリー。
正直、凄くきついが吐き出すのも良いだろう。
ここで流せば後で質問攻めに合う。
「別に....ただ、焼けた顔への劣等感と周囲への憎悪と羨望から周りを妬いて焼いた女だよ。別に、そう大した奴じゃない.....。」
それを聞いて、彼女は笑った。
「ふ~ん、じゃあ、その子を見て私と重ねちゃったとか?」
「...そんなわけないだろ。何もかも違うよ。」
俺は否定する。
しかし彼女は首を振った。
「嘘だね。みーくんはいつも自分を責めるんだ。私や自分と同じな子達を態々探し出して殺してるんだって罪悪感を感じてるんだよ。知ってるんだ。」
「俺は.....」
そんなことはない。
お前の勘違いだ。
その簡単な言葉が出てこない。
すると、そんな俺を見て彼女は腕を広げた。
恐る恐る近づくと抱き締められる。
耳元で彼女が口を開いた。
「良いんだよ...そのおかげで生きている。私が、今....奇跡狩りに殺されずにこうして悠々自適に暮らしているのはみーくんのおかげなの。だから私の為に沢山私と同じ子を殺してきてくれるのがとても嬉しいよ...。」
「メアリー....。」
俺の行いを嬉しいと言うメアリー。
だが。
「だけど,,,お前が不死じゃなくなったのは...俺のせいだろ。お前は俺のせいで殺そうと思えば死ぬ。簡単に死んでしまう。俺が生きているからこそ....。」
俺がそう言うと、彼女は愉快そうに笑う。
「でも、逆に言えば....みーくんは私が生きてるからどうしても死ねないんだよね。私のせいで死ねないの。私が死なないと死ねなくて、みーくんが居るから私は死なずに済んでる。つまり、みーくんは死にたくないってことなんだよ?」
「俺は....死にたくないのか?まだ....この期に及んで終わりたくないって言うのか?」
訥々と言葉が漏れる。
それに彼女は力強く頷く。
「うん。終わりたくないし、終わらない。私とみーくんの世界は終わらないよ。私は、今がとっても楽しい。私を死ねるようにしてくれて....私の為に私と同じ子を沢山殺してきてくれて....ありがとう。愛してる。」
メアリーは笑って言った。
本気で感謝の言葉を吐いたのだ。
これで本気の感謝なのだ。
俺は....メアリーが苦手だ。
だが、それと同時に.....。
「あ、あぁ。俺も、愛してるよ。」
俺は彼女が好きだ。
俺が死んだときには同じ痛みを感じてくれて、俺を肯定してくれるこの子が好きだった。
俺はこの子のお陰で生きている、この子のせいで生きている。
自分を否定しか出来ない俺に、彼女が俺に生きているという実感をくれる。
俺を世界に縛り付けてくれる。
だから、俺は態々外国までくんだり下って殺しているのだから。
「ふふ....みーくんに愛してるって言ってもらえたぁ~。えへへへぇ...」
幸せそうに笑うメアリー。
俺も笑う。
ただ、彼女の言葉が俺の心に重くのしかかっていた。
死ねるようにしてくれてありがとう。
コイツは、そんなつもりはないだろう。
しかし、俺にとってはこれは一種の皮肉のように聞こえて....。
自分と同じ異能力を持っている人を殺してきて、好きな事笑いあう。
それがどうしても許されることには思えなかった。
そして、それを聞いて堂々とそうお礼を言える彼女が少し怖くもあり、...そう思う自分に対して怒りもある。
俺がころした。
彼女は俺が死なないという要素で手助けはしてくれているが、それでも手を下していないのだ。
伝聞だけの人の死なんてリアリティなど欠片もない。
しかし、それを良しとして良いのか....俺は。
俺が思考の渦に飲み込まれそうになった時、彼女は口を開いた。
「あっ、そうだ!帰ってきたら来るようにってキリちゃん言ってたよ!」
キリちゃん。
その言葉でとある人物の顔を思い浮かべる。
そして同時にげんなりとした。
その人物は今の自分には少し重かったのだ。
「それ、後じゃなきゃダメか?」
俺がそう言うと、彼女は首を振る。
「駄目だよ!キリちゃん、終わったらすぐ来るようにって言ってたもん!来なかったら八つ裂きだよ!八・つ・裂・き!!」
「そりゃ滅茶苦茶だな....はぁ。」
溜息を吐くと、部屋の出口へと向かう。
すると彼女はこちらに手を振ってきた。
「それじゃ、早く戻って来てね!私、ご飯食べたいし!!」
「そうだな....少し、待っててくれ。」
彼女は自分の手で栄養を取ることが出来ない。
だからこそ、キリちゃん....桐谷のお世話になったのだろう。
俺達を....自分を殺そうとした相手を愛称で呼べるなんて俺には出来ない。
俺はやはりまだ警戒してしまう。
俺は....多分、心が狭いんだろうな。
◇
「やぁショタ。今日も暗い顔をしているな!」
とある一室。
同じ建物の3階に彼女が居る。
容姿端麗という四字熟語を体現したような女。
背が高く、足が引き締まっていて、あたかも絵物語の理想のヒロインかよテメェはよぉと言いたくなるようなプロポーションの女。
桐谷漸夜。
「俺はもうショタという歳じゃねぇ。」
俺は顰め面で答えると、桐谷は笑顔を浮かべた。
「おいおい、私の範囲ではお前はまだショタだ。というより変態ショタコンおばさんの私からしたら年下の男はみんなショタだな。」
「見境ねぇだけじゃねぇか。」
俺がそう言うと、あまりつれない態度を取るな。私はそっちも行けるなど訳の分からないことを言い始めるソイツ。
コイツが奇跡狩りの責任者であるとは到底信じられない。
だが事実だ。
俺とメアリーを殺そうとしたのもコイツだった。
酒は飲むし、たばこは吸う。
昼夜逆転したかと思えば急に規則正しい生活をし始める。
意味の分からない女。
それが俺の彼女への印象だ。
こんな意味の分からない女が<完璧超人>などと呼ばれているのが理解に苦しむ。
まぁ、だが言葉の通り対峙すれば成す術もなく殺される。
俺とメアリーの能力が人類への損害に早々なりえないと判断したからこそ殺されずに済んだのだ。
あの時の事は思い出したくない。
しかし、それでも一定の成果を示し続けないと反意を抱いていると見なして、メアリーを殺して俺を殺すと言った。
もう滅茶苦茶。
「そりゃ、私は結果至上主義だからな。成果を上げなければ、世界は守れないのだから。」
「確かにそうですね。」
偶にぐうの音も出ない正論言うのやめろ。
被せるように言うと、彼女はただ笑っている。
「なんでこんなのが世界を守ってるんだよ.....」
聞こえないように小声で呟いた。
すると彼女は口を開く。
「おいおい、少年。私はクソ安いゴミから高級食材まで食べきり、好きな時間に寝て好きな事して好きな人と喋って、世界中を巡って縦断横断なんのそのな女だぞ。私以上に世界を愛している女はいない。つまり、私以上に適任はいない!!」
「聞こえてんのかよ。」
地獄耳かよコイツ。
俺が言うと、自慢げに胸を張る。
「ふふっ、いつも男性更衣室の衣擦れの音をここから聞いているぞ。」
「すげぇな、でも死んでくれ。」
「私が死んだら世界が死ぬぞ。」
そうかも。
そう自信満々に言われたらそんな気がしてきた。
自信満々に言うのって大事だな。
そうコイツと話していると思わせられる。
まぁ、それ以上に疲れるんだけど。
「....それで、俺に何の用ですか?」
俺が聞くと、彼女は書類を出してくる。
「実は、戻ってきたところで悪いが君にはここに行ってもらう。」
書類を見ると、それはどうやら学園のようであった。
彼女は俺が書類を見ると口を開く。
「君にはこの女子高、聖カリーナ学園に調査に行ってもらうわ。」
「は?女子高?は?しかもこれ二日後!?」
戸惑う俺。
そりゃ俺は男だからな。
女子高だなんてそんな無茶な....。
それも二日後とか....。
戸惑う俺を見て、彼女はこう言葉を残した。
「女子高がどうとか、二日後がどうとか....世界は常に危機に瀕しているんだ。気にしてられないぞ。....守らないと、お前は生きられないのだろう?」
それを言われると弱い。
「詳細は....今日はひとまず休みたいだろうし、明日告げよう。いいな?」
「あい。」
俺はただ言われるがままに頷くと部屋を出る。
そして大きく肩を落とすと、メアリーの下へととぼとぼと歩いていくのだった。
彼女の能力は顔を見た相手を発火させるという能力です。
動機はなんであれ、彼女は各国の名所に出向いて似たような犯行を繰り返す予定でした。