灰色や薄緑に染めた改造巫女服を普段着兼戦闘服にしている。
その上に紫の羽織を着るのがいつものスタイル。
ロドスの人間は大体の人間が勤勉である。
もちろん例外もいるが、それを補う程の能力や技量を持っている。
まぁ不真面目な医者とか恐ろしいものだが……いや、
とにかく、勤勉で、真面目で、勤労者が多い中では言いにくいことも多い。
『休みが欲しい』とか『一日中寝ていたい』とか『布団から出たく無い』とか。
言いたいのだが、言ったところで何か変わるわけでもなし。あと誰かに聞かれたら『頼りになるお姉さん』というキャラが崩れてしまう。
そういった愚痴は溜息に変換してしまうのが日課になっていた。
今日は特に大変な一日だった。
朝はソーンズの爆発騒ぎ
昼は対ケオべ・ルナカブの厨房防衛戦
夕方はドクターの緊急招集票を30枚使った一斉求人
よくもまぁこんなにイベントが目白押しなものだ。しかもこれらは私が処理したものに限っている。
ロドス全体ではどれほどの事件が毎日起きているのか……考えることも面倒になる。
しかし、今日に仕事は終わったのだ。疲労困憊になりながらでも、やり遂げたことには変わらないのだ。
とはいえ、疲れによって正常に頭が働いていなかったのかもしれない。疲れのあまりに
「休みがもっと欲しい。
とぼやくのも無理は無いことだろう。
……ところで、私の部屋の事情を説明しよう。
少なくない額をクロージャに払って自室を極東仕様に改装しており、畳を敷いたり箪笥を置いたりと結構好き勝手にいじっている。
当然土足厳禁なので、入口付近に何足も靴があるのが常態化している。普段使いの靴や、任務用の仕込み装甲ブーツ、手慰みに編んだ草鞋など、乱雑では無いが整理されているとは言い難い有様である。
更に、冬になってコタツを設置してからというもの、ヘイズが勝手に潜り込んでいることも多いため、1足くらい靴が多くても気に留めないようになってしまっていた。
……もっとも、今回は1足どころでは無かったのだが。
「あぁ、戻ってきたんだ」
「えっと、お邪魔してます」
自分の部屋に帰ってきたら、既に先客がいた。
……勝手に部屋に入ってコタツでくつろいでいるヘイズに関しては特に言うことはない。何を言っても今更な話だし、別に文句も無いからだ。
何故か、本当に何故かゴールデングローが私の部屋のコタツでくつろいでいるのだ。今は少し気まずそうな顔をしているが。
ちなみにゴールデングローとは知らない仲ではない。美容師と客として、髪を整えてもらったことは何度もあるし、軽い師と弟子としてアーツの扱いを教えたこともある(自慢にはなるが、ロドスでもアーツコントロールの腕前はかなり上の方らしい)
ゴールデングローが上がり込んでいることは特に問題無いのだが、もしも『休みが
面の皮の厚さにも自信はある。内心の憂慮を外に出さずに振る舞おう。
もしかしたら何も聞いてないかもしれないし。
「こんばんは、ゴールデングロー。貴女から訪ねてくるなんて珍しいわね」
「えっと、そうですね」
あ、ダメだこれ。
まるで聞いてはいけない何かを聞いてしまったような気まずさをゴールデングローの口調から感じてしまった。
口は災いの元だ、と後悔するのであった。
コタツにミカン、というのが
代わりにオレンジを置いておいた年もあるが、イマイチしっくり来ないので、今では少々の茶請けを置く程度にとどまっている。
……まぁヘイズが結構な量を食べたらしく、記憶の半分も無くなっているが。
ちなみにゴールデングローがいる理由だが、ヘイズに用があったゴールデングローがここに呼ばれて来たのだとか。
そしてコタツの魔力によって出ることができなくなり、今に至ると。
まぁ分からない話ではない。
コタツの魔力は抗い難いものだ。
そして見たところ、フェリーンだと誘惑に抗うのは殊更に難しいらしい。
それにしてもヘイズは私の部屋をなんだと思っているのか。
来るなら連絡の一本でもあればもてなしの準備もできるのだが、そうはならないのだろう。
フラッと来て、フラッといなくなるのが好きみたいだし。
「あぁ、そうだ。せっかくだからコレを渡しておきましょう」
「……これは?」
「アミュレット、タリスマン……まぁ要は御守りよ」
渡したものは極東の神道の御守りで健康祈願と刺繍されている。
新年になって既に何人かには配っていたのだが、ゴールデングローにはまだ配ってなかったので、いい機会だと渡した訳だ。
「一応、医療神の側面もある神社のものだけど……まぁ御守りは御守り程度の物よ」
「んにゃ? コレってイトザクラが作ったんじゃないの?」
コタツでゴロゴロしていたヘイズが御守りを見ながら言う。
「だってその棚の下の方にこの布の切れ端とかあったし」
「こんなに綺麗なものを作ったんですか?結び目とかも綺麗ですし……」
「作ったものを評価されるのは悪い気はしないわね。作り方は知ってれば簡単よ。まぁ本職でもなければ知ってる人はいないと思うけど」
「……本職?」
しまった。褒められたことに気を良くして口が滑った。
改造巫女服を普段着にしている割には、あまり巫女であった時はいい思い出がないのだ。
隠しているというわけではないが、あまり知られたくはない事の1つではある。
どうにも『休みたい』とか昔の話とか少し発言が軽率が過ぎる。
どうにか発言を無かったことにできないだろうか。
……かくなる上は。
コタツの魔力に抗い、小型冷蔵庫から一升瓶を取り出す。
「いいかしら? 今日の私の発言は酔っ払いの妄言だと思うように」
そう言い、酒を一気飲みした。
結局のところ、酒を一気飲みしようが酔い潰れることもなく、特に酔うことも無かった。
しかし、酒の力によって天啓が降ってきたのである。
これを機に少々腹を割って、本音で話しても良いのではないのか、と。
「ホント、ゴールデングローちゃんはいつも頑張っているし、良い子だし、それに……」
「えっと、その辺でもう……」
「えぇー? まだ言い足りないのよ?」
コタツで暖まるゴールデングローを後ろから抱きしめて、片手で頭を撫でている状態である。
コタツで脚は暖まるが、背中はどうしても寒くなるので、全身を寒さから守れる合理的な判断である。
それにしても、どういうわけかゴールデングローは褒められるたびに恥ずかしそうにしている。
前に聞いた話では大家族だったらしいし、あまり褒められる機会も無かったのかもしれない。
それは良くない。非常に良くない。
冷静に考えて、努力する者は、相応に認められるべきだ。
そして思ったことは言葉にしなければ伝わるわけもないので、口にしているわけだ。
「皆を元気にしてくれるような明るさもあるし、家族思いの良い子だし……」
「そうだよぉ。子猫ちゃんはいっつも、頑張ってるもんねー」
「へ、ヘイズさん……」
やっぱりヘイズも同じ事を思ってたらしく、私の言葉に同調してくる。
当のゴールデングローはどういう訳か顔を真っ赤にしている。
酒は一滴も飲んでいないはずだが。
「そ、そういうヘイズさんはどうなんですか?」
「え?」
「そうね。ヘイズも面倒見が良いから他の子の事をちゃんと見ているし、良い子よね」
今度はヘイズを抱きしめて、帽子の上から頭を撫でる。
……抱きしめた感触が少し骨張っていて、健康面が少し心配である。
「ムースとかメランサとかも貴女に助けられたって言うし、それを恩に着せる事もないし……」
「そうですよ。私もヘイズさんに救われたんですから」
ヘイズも褒められる度に恥ずかしそうにしているが、ヘイズも褒められた経験が少ないのだろうか。
良い機会だから、思っている事を言っていくことにしよう。
酷い頭痛と共に目を覚ましたが、昨日は何をしていたのだったか。
……何も思い出せない。
何か思い出せないか、周りを見てみると、何か置き書きが残されていた
『お酒はダメです!』
……多分、字を見る以上ではゴールデングローの筆跡に思える。
一体何をやらかしたのだろうか。
……頭を下げるのは早い方が良い。そうでないと謝るタイミングを失ってしまう。
二日酔いの薬を飲み、一応の白徳利を肩に掛ける。
迎え酒は二日酔いに対する良い手段だ。
そう思いながらゴールデングローを探しに出かけるのだった。
程なくして、目的の人物を見つけることができたのだが。
「昨日はごめんなさい」
「いいですよそんな。迷惑だったわけじゃないですし」
まずは速攻で頭を下げる。
しかし、見た限りでは致命的に嫌われているわけではないらしく、少し胸を撫で下ろす。
「……ところで、昨日の私は何か口走ってなかったかしら?」
「えーっと、あ。御守りを自分で作った、っていうのは黙っておきますから」
だからあれだけ褒めちぎるのはやめてください……とか聞こえたが、脈絡が無い。何の話だろうか。
とはいえ、御守りの件か。
確かにあまり吹聴はして欲しくない話題ではある
「ありがとう。重ねて言うのだけど、この話が広まると材料をくれた友人にも不都合があるかもしれないから、話さないでくれると助かるわ」
そう、あの御守りは結構な地位にいる巫女の友人から横流し……もとい素材の一部が紛失し、何故か私の手元にあるという状態である。
そんなわけで、特にツキノギに見つかったら非常に面倒なことになるかもしれない。
……改造巫女服を普段着にしている自分が見逃されているので、何もない可能性もあるが。
「え、それって……」
ゴールデングローは、『何それそんな話聞いてない』みたいな表情をしている。
……もしかして話さなくてもいい事を喋ったか?
……かくなる上は。
肩から白徳利を外し、
「いいかしら? 今日の私の発言は酔っ払いの妄言だと思うように」
「お酒はダメです!」
徳利を取られた。
イトザクラ「頼りになるカッコいいお姉さん像が……」
ドゥリン「誰のこと?」
ヘイズ「居心地はいいよ?」
ゴールデングロー「えっと、頼りになると私は思ってますよ!」