彼女のアーツに殺傷能力は基本的にないが、敵の行動阻害、弱体化、足止めを行うことができる。
言うまでもない話ではあるが、ロドスは製薬会社であり、鉱石病を何とかしようと奮闘している組織である。
しかし、鉱石病感染者が全員素直に話を聞いてくれるわけでもないし、逆に非感染者が迫害したりと、問題は中々に根深い。
それらの問題から自衛、もしくは解決するために、ロドスは一定の武力を保持している。
繰り返しになるが、ロドスは製薬会社なのだ。
例え、バカみたいに戦力を保持していたとしても、製薬会社を名乗っているのだ。
「あ!イトザクラさん。探しましたよ。」
「あら、フェン。任務のブリーフィングへの招集かしら?」
「はい。詳しいことは会議室で話しましょう。さぁ!」
そういいながら、私の手をグイグイ引いて歩くのはフェン。
行動予備隊A1の隊長であり、チームを引っ張っていく行動力のあるリーダーだ。
今は物理的に引っ張られているが。
というより……
「ねぇ、フェン。私の記憶が確かならブリーフィングは30分後のはずなんだけど?」
「イトザクラはそう言って、毎回最後に来るじゃないですか。しかもギリギリに!」
「時間を計画的に使っていると行ってほしいわね。え、ということはもう皆揃ってるの?」
「いえ。ただ、早く始めるために、いつも遅い人を先に呼んでおこうかと。」
なんだその理由は。少なくとも(覚えている限りでは)一度も遅刻してないのだが、許してはくれないだろうか。
フェンはグイグイと私を早足で引っ張り、歩く速さの違いで時々転びそうになりながら会議室にたどり着く。
当然、会議室には誰もおらず、寒々しい空間が広がっていた。
「では、他の皆も呼んでくるので、待っててくださいね。」
「あー、うん。頑張って。」
フェンは言い終わる前にさっさと出て行ってしまった。
行動が早いのは美徳だとは思うが、せっかちなのはどうなのだろうか。
まぁ、大人しく待つことにしよう。
「―――というのが、今作戦の概要です。大丈夫ですか?」
予定より15分早く始まったブリーフィングであるが、いつも通り、としか言えない内容だった。
というのも、私は度々、行動予備隊A1の増強として任務を割り当てられることが多いからだ。
このチームは補助オペレーターがいないので、穴埋めのような形で私が入るのだ。
作戦も、フェンが先陣を切り、ハイビスカスが防衛線を強化し、私が足止めした敵をラヴァとクルースが殲滅し、ビーグルが不動の一線として立つ。
まぁ、いつも通りである。
「そういうことで、今日はこれから演習を行います。」
「え、いまから?」
「はい。ドクターに演習チケットを発行してもらいましたし、ドーベルマン教官も見てくれるとのことです。」
聞いてないんだが。そんなこと。
というより、やけに気合が入っていたり、わざわざ探して呼びつけたりしたのはこういうことか。
さて、向こう数時間のキツイ演習が決まってしまって気分はどん底だ。
やる気は出ないが、本気で取り組まねばならない。
重く、深くため息をついた。
~数時間後~
「はぁ……疲れた。」
地獄とも思える演習を終え、全員宿舎にてぐったりとしている。(ちなみに、今日はヘルシーフード店のインテリアだ)
それもそうだ。演習施設の使用許可……1日30枚しか発行できない演習チケットを20枚も取ってくるとは思わなかった。
となると、作戦20回分の演習をするわけで……
『イトザクラ!もっと速く動け!』
『クルース!当たればいいというものではないぞ!しっかり狙え!』
『フェン!自分だけでなくチーム全体を見ろ!』
『ラヴァ!他者との連携を密にしろ!』
『ハイビスカス!優先順位を誤るな!』
『ビーグル!姿勢を保ち続けろ!』
矢継ぎ早に出される指示、厳しい指導、少しずつ改善されていく連携。
そして加速度的に蓄積される疲労。疲労によって普段の動きができなくなり、指摘される。
文字通り、体に覚えさせる、叩き込むような訓練だ。
流石はロドスの教官の中で一番厳しいと言われるドーベルマン教官だ。
容赦も、妥協も、甘えも、一切ない。
……いや、一応理解はしているのだ。
教官の厳しさは、作戦の失敗――つまり私たちが危険な状況に陥ることを防ぐためのものであることは。
ただそれでも、私は楽に、甘く生きていたいのだ。
クルースはソファに座り、隣のビーグルの肩に頭をのっけて寝ており、ビーグルはクルースの頭を撫でている。
フェンも、そんな二人のことを微笑みながら見ており、三人の仲の良さが見て取れる。
せっかちなフェンと、のんびり屋のクルース、素直なビーグル。誰が欠けても成り立たず、全員がお互いに深く信頼している。
実に微笑ましく、少し羨ましく、私には眩しい光景だ。
ラヴァは一人で目を閉じてじっとしており、ハイビスカスは……あれ?
辺りを見回してもハイビスカスの姿が見えない。
「ラヴァ。ハイビスカスがどこにいるか知らない?」
「ん?ハイビスは……あー、マズイな……」
「あぁ、なるほど。うん。大体分かっちゃったわ。」
ハイビスカスは時々、料理を振舞ってくれる。彼女曰く、『癒しの料理』だったか。
彼女の料理は健康に良い。
健康に
健康に良く、心に悪い。
正直に言えば、ものすごく不味い。地獄の料理と形容されるのも致し方なしである。
しかし、ハイビスカスは
そして、彼女の善意は断りづらい。そうして犠牲者が増えるわけだ。
「はぁ……ハイビスは
「いいじゃない。面倒見のいいお姉さんじゃない。」
「他人事だと思って……」
「いえ、私にも姐さんがいた……いえ、姐さんが
「初耳だな。」
「血は繋がってないけど、長い時間を一緒に過ごしたのよ。私とは違って、一人で何でもできる、すごい人よ。」
「自慢の姐って奴なんだな。」
「えぇ。……まぁそんなわけで、姉なり友なり、縁は大事にしなさい。」
言われなくても分かっているだろうけど、言葉にすることを止められなかった。
どうにも、自分自身が出来た人でもないのに説教臭くて嫌になる。
少々の自己嫌悪をしていると……
「みなさん!特製のヘルシージュースですよ!」
ハイビスカスがトレーの上に人数分の飲み物を持って現れる。
ラヴァは露骨に嫌そうな顔をし、フェンとビーグルの顔は青ざめ、クルースもビクッと肩を震わせた。
……いや、クルースは狸寝入りしているな?私もそうすればよかった。
「はい!イトザクラさん!ラヴァちゃんもどうぞ!」
その飲み物は緑……緑茶のような緑ではなく、ドロッとしていそうな濃い緑色だった。
……しかし、
意を決して一口飲む。
「……!?」
まず感じたのは、生の野菜にある辛み。そしてエグみと苦味が口内を蹂躙し、青臭さが鼻から直撃する。
一体どうやってこんなものを作ったのか。そこらの雑草をミキサーに放り込んでもここまでひどい味にはならないと思うのだが。
食材を無駄にするべきではない、と思って飲んだが、それは間違いだ。
この飲み物を作ったこと自体が食材の無駄だと言えるのではないか。
「イトザクラさん!どうですか?」
「……そうね。少し苦いかもしれないわ。あと、かなり熱ければ味も
「良薬は口に苦し!ですよ!あと、猫舌だといけないので、ぬるくしてるんです。」
熱ければ苦味を感じにくくなるからマシになるとは思うのだけど、あえなく却下される。
あと、良薬は口に苦しとは言うが、糖衣錠という素晴らしいものがあるので、ぜひ参考にしていただきたい。
というかアレなのだろうか?ヴィクトリア出身だと料理が壊滅的になるのが必然なのだろうか?
「ささっ、健康にいいので、グイっと飲んじゃってください!」
笑顔で勧めてくるハイビスカス。
ただし、言っていることは概ね死刑宣告と変わりがないのを理解しているのだろうか?
しばらく緑色のグラスを睨みつけ、意を決して口をつけ、一気に傾けた。
ハイビスカス「健康にいい野菜クッキーですよ!」
イトザクラ「健康にいいお菓子なんてあるわけないでしょ。」(砂糖をどんどん入れながら)