狸とロドスとオペレーター   作:cod fish

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イトザクラ:狸の特徴を持つ女性の先人で、極東出身。
オペレーターとしての制服は小袖と裳袴を基本に、各所を改造したもの。
目が良くないので、眼鏡も忘れずに。


料理と天災と尻尾

見た目というのは言うまでもなく重要だ。

人間関係において見た目という第一印象は覆しがたい。

また、服装から身分、所属を推測することは困難ではない。

そういったものとは別に、やはり自分の容姿は良く見せたいものだ。

髪は女の命というが、まったくもってその通りだ。

肩甲骨辺りまで伸ばした焦げ茶色の髪の手入れは面倒だと思っても欠かしたことは無い。……あんまり無い。

木の葉をかたどった髪飾り兼アーツユニットを着けると、焦げ茶に緑色が良く映える。

丸みを帯びた耳も毛並みをしっかり整える。

後は尻尾。毛量が多く、そこそこ大きいので目につく。そして、目につくならしっかり手入れしなければならない。

ブラシで少しずつ毛並みを整えていく。横着すると逆効果だったり、毛が絡んで痛い思いをするので慎重に。

 

 

「……こんな感じかしらね。」

 

 

鏡を見れば、身なりを整えた自身と目が合う。

細められた目は、不機嫌そうだの、目つきが悪いだのと言われるが、目が悪いからついてしまった悪癖だ。許してほしい。

それにしても、ロドスには見た目が良い人しか集まっていない気がする。

採用条件に見た目も含まれているのだろうか。

そんな益体もないことを考えながら身支度を進めた。

 

 

 

 

「手伝ってくれると助かるよ。」

 

「こういう食材を使う料理は興味があったしね。」

 

 

場所は調理室。テーブルの上に広げられるのは野外で採集した食材。

プロヴァンスが料理をすると聞いたので、手伝いを申し出たのだ。

当然ながら、普段は口にすることのない食材ばかり。

しかし、これでもハイビスカスの健康食よりは確実にマシになるという安心感(感覚の麻痺)がある。

 

 

「それにしても、色々食べられるものってあるのね。」

 

「加熱処理しないと危ないものもあるけどね。」

 

「へぇ。……あぁ、この茸は故郷の森で見たことがあるわね。」

 

「たしか極東だっけ?」

 

 

そんなことを話しながらプロヴァンスのレシピに沿って手を動かす。

とはいえ、野外で調理することを考えているのか、単純な工程が多く、ほどなくして調理は終わる。

 

 

「こんなに早く調理できるなんて。手伝ってくれてありがとうね。」

 

「ただの軽い手伝いよ。大して変わらないわ。」

 

「それでもだよ。あ、イトザクラも食べる?」

 

「いいのかしら?じゃあ、少し頂こうかしら。」

 

 

正直、野草や名前も知らない果実や木の実などが使われているので、見た目はあまりよくない。

ただ、せっかく作ったのだ。味が気になる。

というわけで、2人で取り分け、実食。

……美味しいか、否かで言えば、正直美味しくない。

しかし、使われている食材を考えれば、味は非常に良いと言えそうだ。

 

 

「あんな食材からここまでの物ができるのね。」

 

「気に入ってくれたかな?」

 

「野宿するときに食べるなら最高ね。」

 

 

野外活動するとき、現地調達でこれだけの質の料理を作れるなら十二分と言えるだろう。

逆に言えば、ロドスにいる時に食べる理由は無いということでもあるのだが、それを口に出すのは失礼が過ぎる。

というより、限られた食材でそこそこ良いものを作れるなら、普通の食材でのレシピを考えればもっと良いものになるのではないだろうか。

まぁ、その辺りはプロヴァンスの活動場所やら必要性の話になるだろうけど。

 

 

 

 

「そういえば、プロヴァンスに訊きたいことがあるのよね。」

 

「僕もイトザクラに訊きたいことあるんだ。」

 

「あら?まぁ私の訊きたいことに関しては長くなりそうだし後にしましょう。んで、何かしら?」

 

「やけに食べられる茸や野草について知ってたよね。極東じゃあ普通に出回ってるの?」

 

 

料理は片付けまでが料理。なので、皿やら調理器具を洗ったりしているときにプロヴァンスから訊かれる。

あまり話していない事情だが、別に隠すようなことでもないのであっさりと白状する。

 

 

「移動都市とかでは多分出回ってはいないわよ。ただ、私は移動都市出身じゃないから。」

 

「え、そうだったの?」

 

「そうよ。それで、食糧事情が厳しい時に、凌ぐために必要な知識ってわけね。」

 

 

食べたいものでもないが、寒い時期に空腹だと本当に辛い。

そういう時に取ってきた普段は食べない山菜や茸を焼いたり茹でたりして食べるのだ。

姐さんがいたときは、そんな食材でもマシな味の料理を作ってくれたのだが、自分だけで調理となるとマトモな味になった記憶が無い。

 

 

「なるほどね。それで、イトザクラの訊きたいことって?」

 

「天災の予兆ってどういったものがあるの?」

 

「ロドスにいる限りは心配する必要はないと思うけど……」

 

 

疑問を口にした瞬間、彼女の穏やかな目が、鋭い専門家の目となる。

それと同時に剣呑な雰囲気が漂う。

それもそうだ。彼女は天災を間近で見続け、その恐ろしさ、それが多くの人の命を奪うのも見てきたはずだ。

であれば、安全地帯にいる素人が興味本位で訊くようなことがあれば怒りをあらわにするのは不思議ではない。

ただ、私にも訊かなければいけない理由(言い訳)はある。

 

 

「私は移動都市の出ではないって言ったわね?」

 

「……そうだね。」

 

「今では、私の故郷の場所は源石が転がってるでしょうね。」

 

「!……それって。」

 

「いいのよ。移動都市でもなければ、いつかはそうなってた。ただ『少しでも早く知れていれば』そう思ったことは何度もある。」

 

「……天災の予兆だったね。大体は自然現象の変化。風向きや気温などに予兆が隠れているんだけど―――」

 

 

プロヴァンスの話をメモ帳に書き留める。

専門家の、生きた知識だ。無駄にする理由は無い。

 

 

「―――といったのが判断しやすい兆候だけど、結局は専門家の言うことを聞いたほうがいいね。」

 

「ありがとう。ところで、与太話だと思って聞いて欲しいんだけど、()()()()()()()()()()()はあると思う?」

 

「そんなことは無いよ。それで止まるようなものじゃない。天災は。」

 

 

仲間に嘘を言うのは、あまり気分が良くない。

そもそも私は天災が起きた時は故郷から離れていた、とか。

天災の予兆にはあまり興味は無かった、とか。

最後の与太話が一番の質問だった、とか。

 

……故郷が天災で壊滅してよかったと思っているなんて。

天災トランスポーターの彼女に言えるわけがないじゃない。

 

 

 

 

ロクでもない話題から別の話題にしようとするのは自然なことだっただろう。

話題は互いの容姿に関しての話となっていった。

 

 

「プロヴァンスの薄紫の髪、綺麗でいいわね。まるで朝焼けの空みたい。」

 

「イトザクラも綺麗な髪だよ?」

 

「それなりには気を使ってるしね。……このつげ櫛とかね。」

 

「へぇ!綺麗な櫛だね。」

 

 

絶対に無くしたくないものや、常に持っておきたい小物は懐や袖に入れて身に着けてある。

例えば、つげ櫛、煙管、鉄扇、匕首、アーツユニットなどだ。

 

 

「手入れといえば、その尻尾の手入れは大変そうね。」

 

「そう。そうなんだよ!これだけ大きいとね~。」

 

 

十分に手入れされているプロヴァンスの巨大な尻尾はフワフワとしており、手触りが良さそうだ。

……そんなことを考えていたら、ついつい目線が尻尾にずっと向いていたらしい。

 

 

「えっと、しっぽ触ってみる?」

 

「えぇ。触ってみたいわ。」

 

 

そういい、最初は尻尾を撫でるように手を滑らせる。

手入れされている毛並みは素晴らしく、この感触は絹織物や上等な絨毯と比べても引けを取らない。

軽く手で押すと、柔らかな毛が手を包み、やんわりと押し返す。これが至上のモフモフというものだろう。

両腕を回して、尻尾を抱きしめる。この柔らかさと肌触り、暖かさと至上のモフモフが組み合わさり、言葉にし難い安心感が生まれる。

どれほどの艱難辛苦を経たとしても、この尻尾にかかれば一瞬で忘れ去り、心を癒してくれるだろうと断言できる。

 

 

「……あのー?」

 

「…………(モフモフモフモフ)」

 

「えーっと、イトザクラ?(トントン)」

 

「!!……あ、その、ちょっと我を忘れてたわ。」

 

 

名残惜し気に尻尾を手放すと、言いようもない寂寥感が襲ってくる。

とは言え、肩を叩かれるまで夢中になっていたのだ。多分、その前に声を掛けられていて無視したのだろうから、反省はしないといけない。

 

 

「その……あそこまでやられると、少し恥ずかしいかな。」

 

「あー、そうね。ごめんなさい。」

 

 

少しバツが悪く、先ほど出したつげ櫛を手で弄ぶ。

そういえば、そろそろこの櫛も手入れするべきだろうか、などと関係ないことが頭に浮かぶ。

 

 

「そういえば、イトザクラは髪型を弄らないの?」

 

「髪型ねぇ……あまり考えたこともなかったわ。あまり想像できないし。」

 

 

実際は面倒だからストレートにしているだけなのだが。

ただ、髪を纏めたり括ったりすれば印象も違うのだろうか、とは思わないでもない。

 

 

「うーん、ちょっと弄ってもいいかな?」

 

「いいけど。」

 

 

そういうとプロヴァンスは私の後ろに回って私の髪を弄り始める。

多分、編んでるような感じだろう。

どうにも、他人に気安く髪を触られるのは少々くすぐったいが、結構心地が良い。

 

 

「よし! でもやっぱり少し短かったかな。」

 

「えーと?」

 

「はい、鏡。」

 

 

渡された手鏡を見ると、プロヴァンスと同じ髪型にされていた。

なるほど。いつもの飾り気のない髪型とは違ってアクセントがある。

こういったおしゃれも悪くないかもしれない。

 

 

「少し印象が変わって見えるわね。ちょっと可愛らしく見えるかしら?」

 

「うん。いいと思うよ。」

 

 

やはり、手間をかければお洒落に幅が出るものかと思う。

髪型、装飾品、服装……変えられるものはいくらでもある。

楽に綺麗に見えるのはどんな格好だろうかと想像を膨らませた。




イトザクラ「あの尻尾、また触りたいわね。」
プロヴァンス「もしかして、反省してないね?」
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